第226話 もう隠さない
6月20日
ーー 学園都市 ーー
「それは笑われても仕方ないな」
「うん、仕方ない」
「グフッ……」
後日、俺は仲の良い同級生達に笑われていた。
1人は"グレイ・アーゼン"、もう1人は"フィリップ・ログス"。
学園都市にいる時はこの2人とよくつるんでる事が多くなって、俺はその2人と教室に向かっていた。
ちなみにヤッさんは佐渡と2人でつるんでるし、一樹はレイナと一緒によくどこかへ出掛ける事が多くなっていた。
美羽はイリスがデビューすることになったから芸能界に復帰してなかなか忙しそうにしてるし、沙耶はサーちゃんと志穂ちゃんの3人でよくつるむようになっている。
他の2人は早く俺達に追い付きたいって事で、時間があれば御子神のおっさんやセッチ達と一緒に討伐クエストに出ていた。
「あっ、なあノリアキ」
「ん?」
「あれからカズヤはどうなった? 大丈夫なのか?」
「ん~……、だいぶ宜しく無いな」
あれからもう1人のカズはおとなしくしてるのか、変わった事が無い。
カズは寝てるって言うけど、それはきっと復活する為に今は力を貯めてると思えた。
それにゼスト達凶星十三星座が、近いうちに動くって情報をBが教えてくれたから警戒を強めている。
情報は全世界に共有されたけど、こっちに存在するそれぞれの国々はどうなんだろ。
何かしらの方法があるのかも知れない、だけどその方法が無いなら知らない国々は滅ぼされるかも知れない。
そうなるとどれだけの犠牲者が出るのか解らない。
「あんな事があってから学園に顔を出さないし、心配だな」
「そうだよね。でも高峰さんが皆を一喝してから、ちょっとずつだけど空気が変わってきたよね」
レイナがタカさんに頼んで、カズの秘密を知った他の皆を説得してもらおうとした。
まぁ……、説得って言えば説得だけど、あれはどっちかって言うと説得って建前の脅しに近かったな……。
「でもやっぱ高峰さんだよな、全員青ざめてたし、反論しようもんなら、そ~れがどぅ~した~? って睨んでたし」
「そうだね」
誰だって言えない事情があるのと一緒で、カズにはカズの事情がある。
実は借金まみれだったり、貴族だけど実は妾の子だったりあるけど、中には呪われていてもうじき死ぬけど言えないって事情を抱えてる奴だっている。
カズはその中でも特殊だっただけだ。
カズを受け入れられないなら、秘密を知ってる俺達だって特殊に入るんだろうさ。だけど俺達はカズの秘密を知ってでも、それをどうにか止めたいって同じ想いの連中が手を取り合って頑張ってる。それをタカさんは受け入れられないってクラスメイト達に。
『抗おうともしねえで、他人だよりな連中に何が分かる。文句を言いたいなら少しは抗ってから言ったら、どぅ~うなんだ~?』
って本気で怒って言うからその場が凍った。
でもタカさんの言ってることは正しいと俺は思う。
だってただ怯えるだけでどうしようなんて話し合いも無かったし、カズを出来るだけ遠ざけようとするだけ。
それっておかしくねえか?
遠ざけておきながらテメェらは学園に通い、復活したらどうしよう? 戦争になったらどうしよう? 怖い?
そう思っても何もしようとしないし話し合わない。
「でもノリアキは凄いよな」
「なにが?」
「カズヤを止める為に皆で相談して、頑張ってるじゃん。それにカズヤ本人から色々と特訓とか見てもらってるし、マジで勇気があるよな」
「んなことねえよ。俺達はただ友達が苦しんでるのにただ見てるだけなんて嫌なだけだ」
「だからそこが凄いんじゃん」
俺は何が凄いのか解らないまま、取りあえずグレイに「ありがとな」って言って教室の中に入ろうとした。
「おいアレ……」
「嘘……」
ん?
周りの連中がなんだか怯えた顔で廊下の隅に移動するから、なんだと思って視線の先を見ると。
「なんだ、今日は出てきたのかカズ」
「あぁ、たまには出ねえとな」
「でも今日は美羽休みだろ?」
「ふっ、知ってるよんなもん」
久しぶりにカズが顔を出したことで、カズの秘密を知ってる奴らは勿論、カズがどれだけ凶悪な性格なのかって事しか知らない連中も怯えていた。
「ウッス! カズヤ! 今日は体調良いのか?」
「よぅグレイ、相変わらずお前は明るいな」
「おはよう」
「フィリップ、お前はちゃんと飯食ってんのかよ?」
「ちゃんと食べてるよ」
「なあなあそれよりさ! 美羽ちゃん復帰したじゃん! その復帰でノリアキの彼女とユニットを組むことになったんだろ?!」
「あ? 誰に聞いたんだよ?」
「その話題でもちきりなんだよ。いや~それにしてもまさかあの子とノリアキが付き合ってるなんてビックリだけどな!」
ふっふっふっ、さぞ羨ましかろうて。
「良いよな~、2人ともボーイッシュでカッコいいけどめちゃくちゃ可愛いし。美羽ちゃんは優しい性格で、イリスちゃんは冷たそうな性格なんだけどそこがまた良いよな!」
分かってくれるかグレイ。
「僕はどちらかと言うと、性格がキツそうなイリスちゃんよりやっぱり美羽ちゃん派かな」
フィリップ貴様、分かっちゃいねえな~。
「分かってるじゃねえか、俺としてもやっぱ美羽だな」
カズ、お前は美羽と付き合ってるからだろ。
「お~い、そろそろ朝礼の時間だぞ~」
と、そんな話をしてると担任のフューガル先生が、めんどくさそうな顔で立っていた。
「ん~? 今日は出てきたのか」
「美羽にたまには出ろって言われたし、仕方無く」
「アホめ、お前がなんだろうと俺の生徒に変わりねえんだから毎日出てこい」
「いてっ」
フューガル先生が出席簿の角でカズの頭をこずくと、笑いながらそんな事を言ってくれたから俺はなんだか嬉しかったし、カズもどこか嬉しそうだった。
「ほら、さっさと入れ」
「はいはい分かりましたよ」
「返事は一回で良いんだよ」
カズとフューガル先生がそんな会話をしつつ教室に入ってから朝礼、そして1限目が始まった。
「よ~し、今日は久しぶりにカズヤが来たからな、"魔獣合成"についての授業をしたいと思う。本来この授業はお前らが三年になってからなんだが、んじゃどうして今回するか解る奴はいるか?」
そりゃあれだ、俺がノワールを連れて歩いているし、カズには"魔獣合成"のスキルがあるからだろ。
「はい先生、それはやっぱり俺のノワールとカズが関係してるからだと思いま~す」
「ん、その通りだ。ノワールはカズヤが産み出した【合成魔獣】に分類されるからだ。ノリアキ達の世界には昔、それも太古の昔にだが、【恐竜】と呼ばれる小型から大型の古代生物達が存在していたんだが、それら全ては絶滅したとされている。だがそれは全部じゃなく、こちらの世界にその生き残りがどういうわけか存在し、あちらの世界にも少数だが生き残りがいた。それがお前らも知ってるカズヤのゴジュラスとアリス達だ、そして美羽のアクアも【古代生物】に分類される。さてここからが本題だ、ノワールはカズヤが産み出した存在であり、古代生物のゴジュラスとアリスとの間に出来た子なわけだ。ではお前らは他に【合成魔獣】に分類されるモンスターを知ってるか?」
「はい」
「レイナ、答えてみろ」
「はい。まず【合成魔獣】に分類されるモンスターで代表的なのが"キマイラ"。続いて"マンティコア"、"コカトリス"、"ヒッポグリフ"かと」
「うん、まあ模範的解答すぎて面白味が無いな」
おいおい先生?!
「カズヤ的にはどうだ? 今の解答は」
「まぁ、学園側が5種類を述べよってテストを出すなら80点じゃないですか? でも俺からしたら40点止まりだけどな」
お前からしたらそうだろうよ。
「俺は前に1度言った事があるけどよ、世の中にはそこまで知られていないのが存在している。ヒッポグリフが【合成魔獣】に分類されるなら"グリフォン"はどうだ? 俺は"魔獣合成"ってスキルを持っている。つまりそのスキルを持っていれば好きなモンスター同士を合成させる事が出来るって事だ。ノワールは確かに合成魔獣さ。ゴジュラスとアリスとの間に出来た命に、俺は向こう側にいる数種類の生物のDNAを組み込み、更にこちら側にいる生物のDNAも組み込んだ事で【合成魔獣】に分類されるハイブリッドを産み出した。合成魔獣ってのは互いに種類の違うもの同士を合体させた存在だ。そして、"セイレーン"、"ケンタウロス"、これらをレイナが答えていればまだ100点だったろうさ。でも世の中には本当にまだ知られてないのが存在しているし、まさかってのもいる。例えば"ヘカトンケイル"とかな」
確かにヘカトンケイルは人間を材料にして合成されて作られたって言う存在だ。
だけど違う種類を合成した奴を合成魔獣って呼ぶんじゃねえのか? ヘカトンケイルは人間しか使ってないんだよな?
「神話は勿論、去年の戦争も知ってると思う。ヘカトンケイルは人間を材料にした、対俺用の生体兵器として作られた存在だ」
……もう、隠す必要ねえってか。
「神々にとって罪のひとつだな。その神話の時代から様々な【合成魔獣】が各地で産み出されるようになり、それが野生化して増え、又は人間社会に溶け込んで共に手を取り合って生活するようになった。だから元を辿ればケンタウロスやセイレーン同様に合成魔獣に分類される。ここまで答えればまぁ、80点か90点ってとこじゃねえか?」




