第222話 天を仰ぐ氷雪地獄
<ふぅ……。やれやれ、私に勝てるなら来るが良い>
「んじゃそうさせてもらうよ!」
目で追い付けない速さでイリスが骸の懐に入ると、腹に強烈な蹴り上げをするのと同時にBが頭を狙う。
<遅いなぁ>
「「?!」」
一瞬だった。
一瞬で2人の動きが止まって動かなくなったから、どうしてだと思ってよく見ると、2人の周りをうっすらと氷が張っていた。
<"霜柱">
透明な氷の柱がどんどん白くなりながら、2人の体を上へ上へって持ち上げていく。
「ちっ!」
「体が! 動かない!」
<……"氷雪華">
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「うぎい゛ぃ゛ぃ゛ぃぃッ!!」
氷が爆発するとまるで花みたいに凍りつつ、2人を閉じ込めた。
<馬鹿共が、私はNo.Ⅴだぞ? どうして私がそのナンバーとなったか解らんとは言わせんぞ?>
いたって冷静に、尚且つ冷酷な目で2人を見てそんな事を骸は言った。
冗談キツいって……、なんでイリスが……。
<動けまい? では死んでもらうとしよう>
<ガウッ!>
<ギュエェェェッ!>
骸がまた何かしようとした時、クロとノワールが2人を助ける為に氷の花を砕く。
<ほう? 私の氷を破壊するとは。だがどうしてお前はまだ動ける?>
それはノワールの事だ。
ノワールは本来ならハイブリッド恐竜だけど爬虫類。
だから寒さとかには弱い筈なのに、どうして普段どうりに動けるのか不思議だった。
<カロロロロロロロロッ>
<そうだったな。お前は爬虫類と言ってもハイブリッド恐竜だったな>
いや答えになってねえし。
<ふっ、面白い、実に面白い。だが私の体を傷付ける事が出来るか? それでもなお、私に挑むなら挑み続けるが良い。お前達が私の体を傷付ける事が出来ればこの場を去ると言った約束を守る。もしくはベヘモスかイリスが私にそれなりのダメージを与える事が出来れるのであれば、刹那を連れて帰るとしよう。もしくはここで死ぬかだ>
ちょっと待て……、んじゃ、クロ達が骸に傷を付ける事が出来なきゃどっち道、俺達が敗ける事と一緒じゃねえか!
しかも本気を出したBがあっさり負けて気絶してるし、イリスはよろめきながらだけど、やっと立ててるって感じだ。
まさかここまでレベルが違って、あのイリスですら手も足も出せずにいるのが納得出来ない。
だって、イリスはミルクと一緒でカズの次に強い筈だろ? ゼストやパンドラって奴は別として、凶星十三星座ですら勝てない筈なんだろ?
なのにどうしてだ? って。
<ガルルルルルルルッ、ガウガウッ!>
<ギエッ! ギエッ! ギエッ!>
<ほう、挑み続けるか。では応えよう。氷雪地獄ノ獄ノ門、氷華ノ花弁舞散ル氷ノ刻>
<ギュエェェェ!>
<ガアァァァ!>
骸がなんだか難しそうな事を言い始めてる間。クロとノワールが力を溜めて何かしようとしていた。
<魔氷ノ鏡二睡蓮花、八寒地獄ノ華ヲ咲カシテ静寂ナル時ノ調ベ二激昂無情ノ静寂ヲ>
<アオォーーン!>
<ギュエェェェッ!>
ノワールが土を砂に変えて巨大な槍を作り、その周りをクロが何時から使えるようになったのか炎を纏わせると骸に放った。
<氷雪月光無情華、"嘆きの華">
静か過ぎて何も聞こえない。
誰かが呼吸する音、心臓の音、何かが動く音、どんな音も全然聞こえない静寂で白い世界になると、骸の周りに綺麗で大きな氷の花が咲いてあらゆる物全てを氷漬けにして爆発して散った。
「か……」
<どうだ? 動けまい?>
レベルとかの……問題じゃ……ねぇ……。
寒さっは寒さなんだけど、凍えて体の感覚が無い。むしろ全身が痛い。
必殺って言える"氷河期"に比べたらまだましだと思うけど、その全体攻撃は反則だと思う。
<まだ誰も死んでいないな? では次だ>
骸が俺達を弄ぶ。
きっと次の攻撃も死なない程度でしてくる。
それに50%の力を解放したって言うのに俺達はまだ死なないでいるし、きっとどれだけの力なら死なないか、死ぬのかを実験してるのかも知れなかった。
<意識はあるか? あるなら教えてやろう。今の攻撃は"嘆きの華"。全体攻撃を主にした魔法攻撃となる。憲明、お前も知る"氷河期"に比べたら弱い分類だ。だがお前が弱ければ今ので体が粉砕して死んでいただろうな>
めちゃくちゃだな……!
<"氷河期"は全体攻撃だが避けられてしまえば意味が無い、だが"嘆きの華"は追跡する事が出来る>
追跡可能だから……か……。
そこで俺は覚えた"鑑定"を思い出して、骸を見てみた。
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名前 バラン (雄)
種族名 グラキエスザウラー
Lv.2500 ZZ ランク
体力56236 魔力53802
攻撃60325 防御54800
耐性52000 敏捷55870
運180
スキル
気配探知 魔力探知 魔力操作 身体能力強化 危険感知
ユニークスキル
心眼 凶爪
アルティメットスキル
氷雪地獄乃王
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化け物……。
そりゃ勝てる訳が無いし、クロやノワールがどれだけ頑張ってもかすり傷一つ付けられねえよ。
スキルはすくねえけど全体的にバランスの取れたステータス。
でもアルティメットスキルに"氷雪地獄乃王"って、流石氷雪系最強だよ。
あまりの化け物っぷりに俺は何故か、笑いが込み上げたから笑った。
<どうした?>
「い……や、化け物過ぎて……笑いが……込み上げてきてよ……」
骸のステータスがあれだけなら、復活したカズのステータスはそれ以上。
Sランクのモンスターが1体でも暴れれば国を滅ぼしかねないって言うし、SSランクなら確実。
じゃぁ……、それ以上のランクだって言うSSSランクやZランク、初めて見る骸のZZランクだとどうなる? って想像すると、はっきり言ってどれだけ強い連中が集まっても勝てる見込みが見えてこねえって。
<憲明……、お前はあの方が好きか?>
「あ? ……カズの……事か……よ? んなもん……当たり前……じゃ……ねえか」
<……それが聞けてよかった>
どこか悲しげな、暗い目で見つめる骸が何を考えてるのか全然解らねえけど、骸が次の攻撃をしようとしてるのか、そんな気配を感じた。
<もしこれで生きていたら私は帰ろう>
なんなんだよいったい、さっきから言ってることをコロコロ変えやがって!
殺すとか、生きてたら帰るとか。それにクロとノワールとの決闘に傷を付けられたらおとなしく帰るや、イリスとBが傷を付けれたらセッチを連れて帰るとか、言ってることがめちゃくちゃで本当はどっちなのか全然解らなくて頭が混乱した。
<それにしても50%も力を解放する程でも無かったな>
「なぁ骸……、お前、何してえんだよ?」
<……何がだ?>
「さっきから……、言ってることがめちゃくちゃなんだよお前!」
俺は氷を溶かすために炎をどうにか出し、吠えながら破壊して脱出。
そしてまだ氷漬けになってるイリスやBを炎で溶かして助けに動いた。
「あ~クソッ! さっみ~! クロ! ノワール! 大丈夫か?!」
2匹を助けようと炎で氷を溶かそうとした時、凍らされた2匹の攻撃が氷を砕いてまた骸に突っ込んでいく。
<ほう? だが無駄だ>
4本の凶悪な触手が2匹の攻撃を破壊。
だけどその中から2匹が飛び出し、クロが骸の右目を潰し、ノワールは触手の凶悪な爪を噛み砕いてクロを守った。
<グアアアァァァァァァ?!>
マジかよ?!
流石の骸でも目を潰されたことで天を仰ぐ様にして暴れ、クロを引き離すと地響きを立てながら倒れた。
「へっ、流石のアンタでも目をやられたらいてえかよ? やったなクロ、ノワール、お前らの勝ちだぜ?」
そうイリスがよろめきながら2匹を褒めると、クロとノワールが喜びながら俺のところに走って戻って来た。




