第219話 再会する氷雪地獄
AからDのエリアは比較的何も無かった。
あったとしても、ようやくまたヌプソスの群れに出会えたから、俺達はヌプソスの背中に生えてる果物を幾つか取って持って帰ることにした。
見た目はベリー系だけど、レモンくらいある大きさで名前が"カウルベリー"って名前らしい。
それにしてもセッチが全然喋らねえから、俺達はかなり不安を感じていた。
「ねえ刹那ちゃん、刹那ちゃんはここに来たことあるの?」
「……」
サーちゃんが喋りかけても無反応。
どうしたら喋るかなぁ……。
そんな事を思いながらエリアEって付けた場所に移動しようとした時だ。
なんか、寒い?
殺気とは別の、冷気に似た空気。
進めば進む程、その空気が徐々に強くなっていって、俺達は目的のモンスターである"ベムルフローガー"に近づいたのかなって思い警戒した。
「気を付けろ。どうやら厄介なのが来てるみてえだ」
厄介なのが?
それって"ヒトマネ"みたいなモンスターか?
この時俺は、イリスが険しい表情をしてたのを見たけど、そこまで深刻なモンスターじゃねえだろって頭になっていた。
だってイリスがいるんだぜ?
……でもその考えは甘かった。
進んでいくと冷気が強くなっていくし、霧みたいな靄が視界を遮って何も見えなくなっていく。
そんな中、ようやくエリアに入ったかなって思うと突然、大型のモンスターが半狂乱の状態で暴れていた。
なんだアレ?
「アレがベムルフローガーだ」
口の中にびっしりと牙が並んだ、まるでワームみたいな頭に長い首がついた四足歩行のモンスター。
頭や背中、尻尾には魚みたいなヒレ。
コイツがベムルフローガーか。
体長約20メートルってところの青緑色の巨体が暴れている。
よく見ると口の所に長い紐状のヒゲがあるけど、そんな事よりなんでそこまでベムルフローガーが暴れてるのか解らなかった。
それに入った時よりも冷気が益々強くなっていってかなり寒い。
「寒いから暴れてるのか?」
「違う……、ここに、化け物がいるから恐怖で暴れてるんだ……」
化け物? それってまさか……。
そう思ってイリスを見たら軽く怒られながらビンタされた……。
痛い……。
「馬鹿な事言ってないで警戒しろ。……出てくるぞ」
その言葉の後、大きな水飛沫を上げながら何か巨大なモンスターが川から出てくると、目の前にいたベムルフローガーの首に噛み付いて簡単に振り回しながら地面に何度も叩き付ける。
おいまさか……。
俺はその姿を忘れられる筈が無かった……。
確認されているモンスターの中でも最強と呼ばれる存在で、絶対零度の支配者と呼ばれているモンスター。いや、怪獣だな。
そしてランクは軽くSSランクに指定されている、カズの相棒。
ここに……、ここにいたのか……。
「……骸!」
<グルッ?!>
骸……。
久し振りに顔を見れて、俺は嬉しくて飛び出そうとすると。
<……久しいな、憲明。それに桜、志穂、……刹那もいるのか>
そう言われて嬉しかったけど、俺はある情報を思い出した。
骸はカズが率いる凶星十三星座のメンバーだって事を。
そうだ……、骸は確か、凶星十三星座の1人で……。
<グルウゥゥッ……、丁度よい。聞きたい事があるので話してもらいたい事があるのだ>
No.Ⅴ。
<"サマエル"を何処に隠した?>
サマエル?
「サマエルってなんだ?」
なんかどっかで聞いた事があるけど、全然解らねぇ……。
<あぁすまん、お前に聞いているのではなく、そこにいる刹那に聞いているのだ>
セッチに?
するとセッチが酷く怯えた表情で体が震えている。
なんだ? なんでセッチに聞くんだ?
<"サマエル"を探しにここまで来たが、一向に見つからなくてな。さぁ、知っている事を話してはくれないか? 話してくれるのであれば手荒な事をしなくて済むのだが>
「ちょっと待てよ骸。久し振りなのにいきなりなんだよ?」
<……すまんな。ところで、私が喋っているのに驚かないのだな>
話を聞いてるからな。
「全然驚かねえよそんなの、喋るモンスターなんか他にも知ってるからよ」
<そうか。……私の事を聞いているのか?>
「全部じゃねえけど知ってるよ、お前が凶星十三星座のNo.Ⅴだってことを」
<……そうか、それなら話しが早い。私は凶星十三星座のNo.Ⅴ、真の名はバラン>
「バランだかバガンだか知らねえけど、……だとしても俺にしてみりゃ骸だよ」
そう、んなもん関係ねえんだよ。
本当の名前がバランだとしても、骸には変わりねえんだから。
<まぁどう呼ばれようとどうでも良いがな。さて、とりあえず話してくれる気にはなったか?>
「それなんだけどよ骸。さっき言ってたサマエル? ってなんだよ? それになんでそれをセッチに聞くんだ?」
<知らないのであれば教えることが出来ぬな>
「んじゃセッチが答えないって言ったら?」
<それこそ申し訳無いが、力付くでも吐いてもらう必要がある。それが例え刹那、お前だとしてもだ>
ここまでの話の流れで俺は、そのサマエルが重要な鍵になってるんじゃって考えた。
そして骸の全身から殺気が出始めると、俺は骸が俺達を殺す気で来るって悟り、臨戦態勢を整えようとした。
<無駄だ。悪いことは言わん、大人しく話してくれ。でなければ……、解るだろう?>
「どうせカズを復活させる為の道具かなんかだろ? はいそうですか、分かりましたって、俺達が言うとでも思ってんのかよ?」
<……そうだな、では分かってもらうとするか>
俺はこの時、全然分かっちゃいなかった。
確かに骸がとんでもない力を持ってるのは間近で見ていたから知ってる。
でも、そんなのは序の口でしかなかったし、骸の本当の姿を見て絶句する事になる。
<グオッ……アッ……アアァァ……>
低い唸り声を出しながら骸の体が変わっていく。
四足歩行から二足歩行に変わり、背中と両肩にある背ビレが細長くなる。
その見た目を表現するなら、恐竜"スピノサウルス"の死神。
どうして死神かって言うと、まるでドクロの様な、全身が骨みたいな甲殻に覆われたからなんだ。
肉はあるさ勿論。だけど今まで綺麗だった体が真っ黒に変わり、その体の上に真っ白な骨みたいな甲殻の鎧で覆われるから、そこに大鎌を持たせたらマジで恐竜の死神にしか見えねえんだからそう表現するしか無い。
それにそこから漏れ出る殺気と魔力が、やっぱり尋常じゃないレベルだったから一瞬で冷や汗が全身から溢れ出てくる……。
正直怖い……。
<ハァルルルルルッ……、この姿を見てもまだ強がれるか?>
はっきり言って強がれません。
<これが私の真の姿だ>
しかも両肩と両腰から、骨みたいな凶悪で長い触手が一本ずつ出てきたかと思うと、その先端には凶悪な鎌みたいな鉤爪が三本ある。
真ん中の爪はデカくて、他の二本はその爪の半分あるか無いかってぐらいの大きさの、鷲掴みする為に見える形状をしていた。
あんなのに掴まれたらひとたまりもねえぞ?!
それ以前に、骸の全身が凶器にすら感じる。
……ん? いやちょっとまて……、骸?
俺はその時になってあることに気づいた。
本当の姿が骸骨みたいだからカズは骸って名前にしたんだな。
って事はアイツ、あの時から記憶が甦ってたんじゃねえのか?
<どうした? 抵抗するなら抵抗するが良い>
「へっ、こっちにはイリスがいるんだぞ? イリスはお前らより強いって言うじゃねえか。逆に警戒しなくても良いのかよ?」
と、俺は思いきって強がってみた訳なんだけど、イリスがいるなら平気だよな?
そう思ってイリスを見ると、イリスは青ざめた顔をしながら震えていた。
「どうしたんだ?」
「すまん……、俺、変温動物だから寒さには弱いんだ……」
「あぁ…………」
こりゃまずい、非常にまずいって思いながらゆっくりと骸を見ると、その骸がニタァって笑みを浮かべていた。
うん、マジでこりゃまずい状況ですな。




