第218話 再びペロミア大湿原へ
ゼストが帰ろうとした時に一波乱があったものの、それ以降はなんの問題も無かった。
まぁ、去り際にゼストがセッチから何か渡された瞬間、驚いた顔をしていたものの、「分かった」って言うだけで帰っていったけど。
セッチが渡した物がなんなのか俺達には解らない。だけど、影でカズを必死に守ろうとしていたセッチの事だから、自分の首を絞めるような物じゃないのは確かだろ。
そんな事があってから1週間経った日、俺はカズに呼ばれてイリスと一緒に大水槽前ホールに行くと、そこにサーちゃんと志穂ちゃんの2人と一緒にセッチの姿があった。
「悪いな呼び出して」
「どうしたんだ?」
「イリスが一緒なら丁度良い、この3人と組んで今から出掛けて欲しいんだ」
ん? サーちゃん達と?
なんでだろうと思っていると、どうやら今のサーちゃんでも扱える専用の武器が完成したらしく、今からそれをきちんと扱えるかテストする為にカズが用意したクエストをクリアしてきてくれって事らしい。
「別に良いけど、なんでそこにセッチもなんだ?」
「リハビリを兼ねてお前と行動させようと思ってな。刹那、文句は言わせねえからな?」
「……はい」
まぁ、サーちゃんと志穂ちゃんもそこまでレベルが高くないし、大丈夫だろ。
14:30
ーー ペロミア大湿原 ーー
俺達が行かされたのはペロミア大湿原の中でも危険度Aに指定されているエリア。
それより奥に行けば、俺達でじゃ絶対に生きて出られないって言われているレベルのモンスター達がいるらしい。
そんな俺達がカズに頼まれたクエストは。
【大湿原の影】
どゆこと? って思うけど、大湿原に生息するとあるモンスターの討伐依頼だ。
対象となるモンスターはここ、ペロミア大湿原の生態系のトップに君臨するモンスターの一種。
"ベムルフローガー"の討伐。
元はカエルと魚を合体させた様な小型モンスターのペルトフログだけど、それが最終進化したモンスターが今回のターゲットになる。
そのモンスターに進化するとランクが一気にBランクになるから、最初の頃は出会いたくないなって思えたのが懐かしいよ。
「しかしジメジメするな」
「気を付けろよ? もう危険地帯に入ってるからよ」
「解った」
イリスに注意されつつ進んでいくと、開けた場所に出て、そこに草食モンスター数体が群れになって草を頬張っていた。
「ありゃ"ヌプソス"だな」
"ヌプソス"。
まだ資料イラストとかでしか見たことが無かったモンスターで、薄緑色の体色をした、中型のアパトサウルスっぽいモンスターなんだけど。背中一面にベリー系の小さい果物が実っている。
それに見た目がなんか可愛い。
「あれ、あの果物って結構旨いんだぜ?」
「へ~、ベリー系みたいに見えるけど、どんな味なんだ?」
「確かにベリー系に見えるけどかなり甘い。赤色のベリーが食べ頃だな。他に黒とか紫ってあるけど、それは黒から紫に変わって最後に赤になるんだ。紫色は甘酸っぱくて、黒は渋いから食べるのはオススメしないな」
なるほどなるほど、んじゃ赤を取って食べてみようかな? でも暴れねえかな?
「取ってきてやろうか?」
「ん~……、近づいたら危険か?」
「いや、比較的大人しいから大丈夫だ。でもアイツらを狙って他の肉食モンスターが来たりするから要注意だな」
資料でしか知り得ない情報だから勉強になるな。
「それにあの果物は市場にはあまり出回らないから結構レアだ」
「そうなのか?」
「だってここは危険度Aクラスの危険域だからな。だからそれなりの冒険者かハンターしか取れない場所にしか生息しないからレアなんだ。んであれは結構レアだけど、人気が高いからいろんな店が欲しがるぞ?」
んじゃあれを取って売ればそれなりの収入源になりそうだ。
そう思って近づくと、ヌプソスを狙って人だか猿なんだか、よく解らない肉食モンスターっぽい群れが出てきた。
「"ヒトマネ"か。気を付けろよ? ああ見えて厄介なモンスターだからよ」
資料イラストではもっと猿っぽく描かれていたと思ったけど、実際に見るのとでじゃいくらか違うんだな。
ヒトマネって名前字体の通り、人の行動を真似たりするモンスターで、一度見た行動を覚える事が出来る。
だからと言ってコピー能力がある訳じゃねえんだけど、かなり頭が良いから厄介らしい。
つまり、俺が剣を振って攻撃すれば、それを直ぐ真似して攻撃してくるってことだよな。
だから。
「倒すなら一撃でって事だよな!」
一撃って言っても、その一撃で全部を倒せるなんて難しいけどな!
「食らえ! "炎の弾丸"!」
俺はヒトマネ達に得意の炎魔法をこれでもかってくらい撃ち込んだ。
「どうだよ俺の炎は!」
「憲明、悪役っぽい顔になってるぞ?」
え? マジで?
「だけど憲明のお陰であらかた片付けることが出来たな」
爆炎が晴れるとそこに、生き残ってるヒトマネが2体。
でも生き残ってるヒトマネは俺の行動を見ていたからか、俺と同じように"炎の弾丸"を撃つ構えをしていた。
「おいおいマジか?! アイツらも炎魔法が使えるのかよ?!」
そう思ってガードしようとすると。
「…………」
<…………>
……全然撃てずにそのまま固まっていた。
行動を学習して真似る事が出来ても魔法は使えないのかよ?!
「だったら真似る必要ねえだろ! 馬鹿なんじゃねえのか?!」
そう叫んで俺は"炎剣・レーヴァテイン"で1体を斬りに走り出した。
「憲明ク~ン! 邪魔だからそこで止まって~!」
え?
俺の真後ろにいるサーちゃんが、指からなにやら糸? らしき物を出して、ヒトマネの頭上を通り過ぎた所にある、大木の太い枝に引っ掻けてからヒトマネの首に糸で締めると。
「"絞首刑"」
そのまま引っ張ってヒトマネが吊るされる……。
「さよなら」
からの斬首……。
……糸を更に強く引っ張った事で首が切断されたんだ、見てて寒気がするぜ……。
「はい終わり」
「終わり。じゃねえよ! なんちゅうエグい攻撃すんだよサーちゃん! 怖ぇえって!」
「あはは! 憲明君にツッコまれちゃった~」
マジで怖すぎだから勘弁してくれ……。
「桜……、アンタやり過ぎよ」
「え~? だって早く倒さなきゃ直ぐに人の真似するからなるべく早く倒した方が良いんでしょ? だから倒したのに」
「だからって……、なんで"絞首刑"って物騒な技の名前にすんのよ……」
「格好いいと思って?」
なんで疑問系なのかな?!
志穂ちゃんもその答えに呆れて溜め息を吐き、イリスは俺と一緒で引いていた。
セッチは……、無表情。
なんか、さい先から不安しか無いんだけど?
「ヌプソスは……」
ヒトマネが襲ってきたからなのか、その場にはもう1体もいなくなっちまっていた……。
せめて1個だけでも食べてみたかった……。
「まっ、安全だと思える場所を見つけたら、警戒を解いてまたのんびりと生活すると思うから探せばどっかにいるだろ」
ならちょっと探してみようかな?
「ヌプソスの生息圏内でもあるから、このまま奥に進めばまた出会えるだろ。んじゃ、進むとするか」
「そうだな、そうしますか」
そこで俺はペロミア大湿原の地図を広げ、今どこにいるのかを確認してみた。
ん~、地形からしてここかな?
んじゃここを危険度Aランク指定のエリアAとして、ここは問題無しっと。
こういった地図があると便利だよな。
そう思いつつ、俺達は次のエリアに向かうことにした。
 




