第214話 ふざけんな
「ふ、ふふっ、ふはは、はっははははは! 意地悪なことをして申し訳ない。僕なりにイリスの事を想ってね。いや、でも試すような形をしてしまい申し訳ない」
試す? 何をだ? 俺の気持ちをか?
それこそふざけんなよこのクソヤローが!
愛ってさ、色んな形があるだろ?
だから俺はそんなことで試された事に、物凄くイラついた。
だって人には人の恋愛価値があるけどよ、それをお互い了承して付き合ったり、結婚とかするんだろ? それをさ、関係ねえ奴に色々と言われたり、
試されることをされたらムカつくよな?
だから俺は稲垣さんの顔面を殴ろうとしたんだけど。
「おいガッキー……、テメェふざけた事すんじゃねえぞおい。俺は本気で憲明に惚れたんだよ。俺は惚れていたし、憲明の気持ちが嬉しかったんだよ。それなのになんだよおい。試した? おい、テメェマジで殺すぞ?」
イリスが全身からとんでもない殺気を放つから、俺は動くに動けなくなった。
あぁ……、これはマズイ、非常にマズイ。
イリスの殺気を当てられて、ミルクとゴジュラスが何時でも動くぞって言いたそうな顔でこっちを見ていやがる。
ここは俺がイリスを止めるべきだな。
そこで俺はこうも思った。
まてよ? もしかしたら稲垣さん達は……。
「そこまでにしておけよイリス」
「あ? なんでだよ? コイツは俺達を馬鹿にしてのと一緒なんだぞ?」
「だからだイリス。お前がぶちギレてここで暴れてみろ。今の俺でじゃ太刀打ち出来ねえからお前はミルクやゴジュラス、Bを1人で相手することになる。そうなってみろ。俺はここで死ぬかもしんねえんだぞ?」
「そうならねえように今は俺がお前を守るって言ったろっ」
だからそれが稲垣さんの狙いだって事を気づいてくれ。
稲垣さん達の狙いはイリスだ。
きっとわざと怒らせて、ここで暴れるように仕組んで隙を狙って俺を殺す。
それからあーでもないこーでもないって言って、イリスを戻そうとしてるに違いないと考えた。
んなこと、俺がさせるかよ。
「取りあえずお前も落ち着けよ。お前は稲垣さんのやり方を知ってるんだろ? だったらこれが何かの作戦だったらどうする」
「うっ……、た、確かに……」
小声でイリスに伝えたことでどうにか落ち着いてくれたけど。今度はどんな手で来るか解ったもんじゃないから不安を感じる。
相手は元陸将。
そういったことに関してはプロだからな。
するとゴジュラスの顔が若干、残念そうに見えた。
残念だったな、そう簡単にイリスは返さねえよ。
BはBでどこかホッとしたような、そんな顔をしている。
だからきっとBは、俺達が早まった行動をしないでよかったって想ってくれてるに違いない。
だって俺はBが俺達を裏切ったと言うより、向こうにちゃんと戻ったって思ったし、それでも俺達の事を密かに想ってるように感じたから。
でもやっぱり……、Bが向こう側にいると寂しく感じられた。
「なぁ稲垣さん」
「ん? なんだい?」
「この"戦艦イクシオン"ってのはどうやって動いてんだ?」
「あぁ、そのことか。……うん、まぁ、話しても良いかな」
稲垣さんは教えてくれた。
"戦艦イクシオン"のエンジン、それは"重力波動エンジン"。
"重力波動エンジン"は、核反応をはるかに超えるエネルギー増幅装置らしく、構成は水力発電に似ているんだとか。
でもそれだけでじゃ空を飛べることなんて出来やしねえ。
だからこそ、そこにもう1人のカズは"変換"と"創造"を使い、空を飛べる事が出来る"戦艦イクシオン"にする為にとある魔方陣を作ってそれを利用してるらしい。
それが"重力支配"の魔方陣。
それはゴジュラスも持ってる最強クラスのスキルだ。
カズはそういったのを利用して、"戦艦イクシオン"を完成させた。
正直天才どころかそんなもん作っちまうなんて化け物だからさ、一度カズの頭の中を見てえよって思っちまう。
それにしてもよくそんな化け物戦艦を作れたなって感心する。
「……はぁ、まぁアイツらしいかな」
「そうだね。だからこそあらゆる世界が彼の力を恐れているのさ。彼がその二つの力を本気で使えば、世界は一瞬で終わるからね」
たまったもんじゃねえな。
「んで? アンタはそのもう1人のカズの手下になったって訳か」
「違う、厳密に言えば協力関係になったのさ」
「協力関係? んじゃ手を組んだって事かよ?」
「その通り」
「……いったいアンタ達の目的ってなんだよ。ただ自分達の存在を知ってもらう為だけじゃねえだろ。世界を返すとかなんとか言ってたらしいけど、彼らってのは冥竜王であるカズ達の事かよ? それになんで親父さんに対して酷いことを言った? アンタは親父さんと友達じゃねえのかよ?」
「それは答えにくい質問だね。知ってるかい? あまり質問が多いとね、人に嫌われるよ?」
アンタに嫌われても別に良いんだけどなこっちは。
俺は稲垣さんに会うまで考えていた事がある。
稲垣さんは自分達の存在を知ってもらう為とかって言っていたけど、それが真実とは到底思えない。ただそれだけで動くとは思えねえからな。って事は、そこには何らかの意図があるに違いない筈だって。
でも親父さんに対する酷いことはきっと本当だからこそ、絶対に許せねえけどな。
「でもこれは教えてあげよう。確かに彼らと呼ぶのは冥竜王であり、その冥竜王が率いる凶星十三星座達やその配下。そして彼らの眷属達皆にさ」
「つまりそれは竜族全てにって事か?」
「そうだけど違う」
「違う?」
「竜国に住む、生き残った民の皆にさ」
竜国に住む民?
「ちょっとまて、その言い方だと竜族以外の種族がそこにいるのか?!」
「その通り。竜族だけじゃなく、そこには魔族、妖精族、人間族とあらゆる種族が共存している。彼らは皆、冥竜王を崇拝し、冥竜王に住むことを許してもらった者達。だから彼らもまた神を恨み、冥竜王の為に世界を取り戻したいって想っている」
そんな国が……。
まさかそんな国があるなんて思ってなかったから、衝撃を受けた。
だって俺は、竜族絶対主義ってイメージがあったから。
でもよく考えれば当然だ、だって凶星十三星座の中にはルシファーとかBだっている。
そいつらがいるって事は、竜国に他にも堕天した元天使や魔族がいても不思議じゃねえ。
「……だからアンタらも許して貰えたってか?」
「ふふっ、そうだよ? 案外話してみたら話が通じてくれたよ」
話が通じた? は? なに言ってんだこのおっさん……。アレに……、アレに話が通じる訳ねえだろ。
アレは心の底から殺しを楽しむタイプだぞ!
ましてや俺を殺そうとしていたし、裏切り者だからって平気でイリスを……ッ!
「いったいどうやって……、アイツと仲良くなれたんだよ?」
「契約を交わしたのさ」
「は?」
なに言ってんだよマジで。
「なに言ってんだって顔だね」
あぁ、なに言ってるのかさっぱりだよ。
「僕達全員、全面協力をするって言ったのさ。そして彼と僕は取引をした。君達の敵は僕達の敵。だからそれに対抗出来る力を用意して欲しいってね。そして彼はこの"戦艦イクシオン"の建造を約束してくれて、遂に完成した訳さ。陸海空を統べる最強の戦艦をね」
「おい、契約した答えになってねえぞ」
「これから特別に話してあげようとしてたんじゃないか。まったく、君はせっかちだね」
クソッ、なんかいちいち腹立つんだよなこのおっさんの言い方。
「契約。"戦艦イクシオン"と引き換えに、時が来たら僕達の魂を捧げるってね」
「……そんなのまるで」
「うん、悪魔との契約だよね」
馬鹿なんじゃねえのか?! 魂を捧げる?! んな事したら永遠にカズの中で苦しむことになるんじゃねえのかよ?!




