第212話 戦艦
俺達は出来る限りの準備をしつつ、特訓に明け暮れた。
とは言っても学園にもきちんと通いながらだ。
なんせ行ってなかった分、単位が足りねえってことで留年ギリギリだったからな。
俺達の実力は学園でもトップクラスなんだけど、出席日数が足りない分、先生達は俺達の事を考えてくれていて、救済処置としてテスト受ける事になった。
テストと言っても俺達にしてみれば楽勝だったけどな。
クリスマスイベントをしつつ、カズの誕生日が29日と近いから一緒に祝い、正月も皆で集まった。
この半年は色々とありすぎて大変だったけど、その分、楽しさもあった。
辛く悲しい思いもした。新しい出会いもあった。楽しい時間も過ごせた。そして、俺は人生で初めての彼女が出来た。
あーすれば良かった、こうしなきゃ良かったって考えもしたけど、俺は良い経験をすることが出来たと思える。
だからこそ、その経験を生かして俺はもっと強くなり。カズが冥竜王として復活した時に備えなきゃならない。
カズを守らなきゃ……。
どうにかしてカズを守って、終焉を阻止しなきゃな。
その想いを胸に、俺はカズの為に出来ることを増やして、守れるだけの力を本気で望んだ。
凶星十三星座が動くとしたら年末、もしくは稲垣さんと一緒な時期に動くかもって言っていたけど、全然動きが無い。
そんな中、日本近海に色んな国の軍艦が集まり、ニュースで何故ここまで集結するのかって話題で持ちきりなっていた。
そして春。
稲垣さんが春には動くと宣言した通り、……残酷な運命が動き出しちまったんだ。
3月12日 春
ーー 東京上空 ーー
「これより作戦を開始する」
その日、東京の空に巨大な戦艦が姿を表した。
戦艦と言っても、まるでアニメとかに出てきそうな宇宙戦艦の形をしている。
道行く人々は何が始まったのか解らず、ただ怯えることしか出来ない中。政府は自衛隊に出撃命令を出し、同時にアメリカ軍も動き出すと中国、ロシア、オーストラリアって色んな国から軍隊が送り込まれ。巨大戦艦に対して警戒準備を整えた。
後から知った話によると、エルピスが動いてくれていて、何時来ても良いように準備をしていたらしい。
だから日本近海に色んな軍隊が集まってたのかって俺は自然と納得した。
『所属不明の戦艦に告ぐ。貴公は日本の領空を侵犯している。繰り返す。貴公は日本の領空を侵犯している』
自衛隊としても、どう対処すれば正解なのか解らず、ただただ海に降りて立ち去れって伝えたらしいけど。
「攻撃開始」
巨大戦艦は突然攻撃を始めた。
それを俺はイリスと2人でニュースを見ていた。
「おいこれって!」
「ガッキー……、ついに来たのか」
その光景をニュースで見ていると、イリスがそう言った瞬間に俺達は悟った。
あそこに稲垣さんがいんのか!
「イリス、あの船に稲垣さんがいるんだな?」
「あぁ、あの船はもう1人の兄様が設計したものだからな」
やっぱもう1人のカズが……。
「"戦艦イクシオン"。宇宙空間でも航行出来るように兄様が設計し、竜国で建造していた戦艦だ」
マジか、いきなりSFになりやがった。
なんて呑気に思っちまったけど、事態は深刻だ。
「んじゃイリスはあれがどんな戦艦か知ってるんだな?」
「勿論だ。でもまさかいきなりアレを出してくるなんてな。俺はてっきり、最初は軽い軍事行動をすると思ってたんだけど、アレを出してきたって事は、ガッキーは本気で日本を潰しに出たってことになる」
日本を、潰しに……。
「"戦艦イクシオン"。現代の科学技術でじゃ追い付けねえ程の性能を持っていやがる。主砲は大口径の"超重力破壊兵器"。それに歴代最大口径の50センチ砲を3門まとめた砲塔が前甲板に3基、横に2門まとめたのが2基ずつ配置。後甲板に3門まとめたのが2基。計23門。他にミサイル、重機関銃って備わっていやがる。全長332メートル。ステルス戦闘機みたいな形にした戦艦にし、突貫攻撃で相手を撃破出来る構造になっている。最大乗員数は3300人以上。最大船速45ノット。時速約80キロってとこだ。状況次第では成層圏外からの攻撃も可能としていやがるから、お前らにしてみりゃ化け物級の戦艦だな」
めちゃくちゃなもん造りやがって……。
「まっ、国落としの為に建造されたガッキー達の最終兵器だからな」
つまりアレさえ落とせば稲垣さん達を止められるって事だな。
そうしてる間にその戦艦イクシオンに対して、自衛隊と各国の軍隊が反撃に出ている場面になっている。
出撃した自衛隊の戦闘機や各国の戦闘機が戦艦イクシオンにミサイル攻撃をするけど、傷一つ付かない。
まさに最強の空中要塞って感じがした。
「あの戦艦は何で出来てるんだ?!」
「ミスリルや魔鉱石、他になんだか知らねえ物を使ってる」
「クソッ! どうやったらアレを止められるんだよ?!」
「……内部に入ってエンジンを破壊するか、あの装甲を破壊出来るだけの力が必要だな」
「……核兵器とかか?」
「いや無理だ。破壊することが出来る力って言っても、もう1人の兄様がミサイル攻撃とかのダメージを無効化する魔方陣を施してる。かと言って生半可な攻撃だと反射されちまう」
んだよそれ! 反則じゃねーか!
するとイリスの肩に、黒くて丸い毛玉が降りてきた。
なんだアレ? どっから落ちてきたんだ?
<御主人様、稲垣様より通信連絡です>
なっ! 喋った?!
しかも黒い毛玉は稲垣さんから連絡が来たとも言った。
このタイミングでなんなんだって思っていると、外に出掛けていたカズや美羽達が慌てて戻ってきて、イリスが稲垣さんから通信連絡が来てることを話すとカズは出ろと伝えた。
「繋げてくれ」
<かしこまりました>
『……やぁイリス、元気にしてるかい?』
「随分と急な連絡じゃねえかガッキー」
『ははは、すまないね。君がそちら側についたと言う話しは聞いているよ』
「んじゃわざわざなんの為に連絡してきやがったんだ? あ?」
『そこに、憲明君はいるかい?』
俺?! 俺がいたらなんだって言うんだよ?!
「いたらなんだよ?」
『いやなに、君の呪縛を解放した憲明君と一緒に、お茶をしたいと思ってね』
お茶?! なにふざけた事言ってんだこのおっさん!
『そこにいるんでしょ? どうだい? 今からゲートを開くからこっちに来てお茶しないかい?』
「なめたこと言ってんじゃねえぞガッキー。罠だと知っててそっちに行く馬鹿がどこにいるよ?」
『ははは、でも君がいればそんな状況は打破出来るんじゃないのかい?』
ってことはイリスにも来いって言ってんのか……。
「んじゃそのままその船を落としてやろうか? あ?」
『それは不可能と言うものだよ』
「あ?」
『こちらにはミルクとゴジュラスもいるのだからね』
ちっ! そう来たか!
この間の一件で、ミルクとゴジュラスを全然見ていない。
つまり2人はもう1人のカズの指示で竜国って所に行って、稲垣さん達と合流したんだろ。
んでその2人が戦艦イクシオンに乗っている。
罠が無いとしても、その2人ともし戦闘にでもなればイリスはまだ大丈夫だとしても、俺はまず間違いなく死ぬ。
『僕はね、ただ君達2人とお茶を飲みながらゆっくり話をしたいだけだよ』
「だったら戦闘をやめて大人しく竜国に戻れよ。そしたら行ってやっても良いんだぜ?」
『……そうだね。2人を招くとしても少々煩いね。では今回はこれで失礼して、後程迎えに行かせてもらうよ。それで良いね?』
おいおい、マジかよこの人……。
するとテレビから戦艦イクシオンが攻撃をやめて、ゲートの中を潜って消えていく中継で流れてきた。
本気かよ?!
『約束通り、今回はこれで引き上げたよ。それじゃまた後程連絡するから2人共待っててね』
そこで通信が終わると、黒い毛玉がフッと消えた。
「……どうしよぅ、兄様」
考え無しですかイリスさん?!
大人しく聞いていたカズはカズで、手で顔を隠すと盛大な溜め息を吐いた。




