第210話 人から竜へ
「稲垣さんが動くのは春。凶星十三星座が動くとすれば……、稲垣さんと合わせて動く可能性が高い。だがもしかしたら年末に動きを見せるかもしんねえ」
「んじゃもう時間がそんなにねえじゃねえか!」
「無い。だからお前らにはもっと強くなってもらわねえと俺的に困るんだ。だからこれは俺からお前らへの最後のプレゼントだ」
そう言ってカズはロゼリアにあるものを持ってこさせた。
「かき集めるだけかき集めたスキルのスクロールに魔道書だ。これで自分達に合ったスキルを身に付け、今よりもっと強くなってもらう」
美羽が欲しがっていた"空中歩行"のスキルや"心眼"、"錬金術"とか俺が欲しかった"合成魔法操作"ってスキルまである。
"合成魔法操作"のスキルを手に入れる事が出来れば、カズから教えてもらった"豪雷爆炎龍"を使えるようになれるかもと思うと、喉から手が出るほど俺はそのスキルが欲しかった。
「だが勘違いするなよ? これらスキルを手に入れたところですぐ使えると思うな。それに手に入れても素質が無ければなんの価値にもなんねぇ。持ってるだけ宝の持ち腐れってやつだ」
それを言われるとなかなか……。
「ましてや使えるようになったところでそう簡単に凶星十三星座は勿論、俺を止められると思うな。俺が復活するってことは終焉が訪れるって事だ。終焉に勝つって本気で思ってるならそれは捨てろ。勝つんじゃなく止めるんだ」
いや止めるのも勝つのと一緒じゃねえのかよ?
「俺は終焉を告げし者。あらゆる者に死を与える永遠の闇。死を倒せると思うか? 永遠の闇を晴らせると思うか? んなもん、絶対にあり得ねえんだよ」
確かにその通りだ……。
死ってやつは等しく平等であり絶対不変。闇を晴らそうとしても、どこかに必ず闇が存在している。
闇があるからこそ光が存在し、光があるからこそ闇が存在している。
そんなのに勝てる訳が無い。
だからこそカズは勝つんじゃなく、止めろって言った。
「俺がいなくなったら工房を好きなように使えば良い。だからこそここに"鍛冶師"や"錬金術"と言ったスキルもある。俺の感だと岩美、お前なら出来る筈だ」
「私ですか?!」
「あくまでも俺の感だ。だからこの後、俺の工房に来い。直接見て確かめたい」
「は、はい!」
カズがそう言うならきっと岩美には素質があるんだろうな。
「それとだ、これはスキルの中でもかなり希少なもんだ。"変更"スキル。本来レベルが上がった時に各ステータスが自動的に割り振られるが、コイツを覚える事が出来れば好きなようにポイントを割り振れる事が出来る。例えば体力が10増えたとしよう。だが"変更"スキルでその分のポイントを別の場所に割り振ることが出来るって事だ」
「それは……」
「うん、かなり大きいね……」
俺と美羽はそれを聞いて、どれだけそのスキルが凄いのか気づけた。
「このスキル、実はここに三つある」
「三つもか?!」
「同時に"鑑定"スキルが二つある。つまり、"鑑定"をしようしてレベルが上がり、ポイントがあると解れば"変更"スキルで割り振れる。ただし、割り振れるのは3日前までのレベルまでだ」
ってことは3日以内であれば、手に入れたステータスポイントをいじれるってことだろ? それでもかなり良いスキルじゃねえか。
「手に入れたポイントをいじれるのは一度きり。割り振るなら慎重に考えて割り振れ。んじゃ、"鑑定"と"変更"のスキルを誰が覚えるか話し合って決めてくれ」
これはマジで慎重に話し合う必要があるな。
まず"変更"のスキルを覚えるのは美羽だなっめ俺は考えた。
美羽は前に、ネイガルさんから"鑑定"のスキルを貰って覚えた。だから"変更"スキルを覚えてもいいんじゃねえかなって思ったんだ。
でもそれは俺だけじゃなく他の皆も同じことを考えていて、まずは美羽が"変更"スキルを覚えろって言った。
「んじゃ1人は美羽として、他の2人はどうするよ?」
「お前も覚えたらいいじゃん」
「俺?」
一樹は美羽の他に俺も覚えろって言うと、周りの皆もそうだなって口々に言い始めたから2人目は俺に決定した。
俺なんかが覚えていいのか~?
正直言って俺は不安を感じた。
だって、俺なんかが上手くスキルを使えるなんて思っちゃいねえんだから。
でもこれで残り1人。
俺はもう1人は誰が良いか悩んだ。
一樹にするかヤッさんにするか。それとも、御子神のおっさんかミランダさん。
俺としてはやっぱりこの中で強い奴で、皆を引っ張れる奴が覚えるべきだと思った。
「もう1人は取り敢えず保留にしとこうぜ。今3人目を決めても良いが、いざって時にもう1人が覚えても遅くはねえだろ」
御子神のおっさんの言う通りだ。いざって時に覚えてもらっても遅くねえな。
「んじゃ次だ。俺とまともに戦える奴が実はもう1人いる」
もう1人?! 誰だ?!
「厳密に言えば、そいつはこれからの成長次第でって事だ。そうだよな? 美羽?」
美羽?! そうか! 美羽には"竜種之種"ってスキルがあるんだった!
"竜種之種"スキル。そのスキルを使えば、自分が望んだ力を持った竜になれるかって言う最強スキル。
その力をちゃんと扱えるかは美羽次第。
でもそれで本当にカズを止めれるのか、俺はなんだか不安になっていた。
「美羽、どんな力にするか考えたか?」
「うん、考えたよ」
どんな力にするんだ?
「どうすればカズを止められるのかずっと考えてた。でも、どれだけ考えてもさ、結局竜の力を手に入れたところでカズを止められる自信が無くなっていった……。それでも考えに考えて。私なりにどうすれば良いのかもう一度初めから考え直してみたの」
目を閉じて、ギュッと握った右手を胸に当てながら美羽は自分なりに導き出した答えを口にした。
「"絶竜王之寵愛"を代償に手に入れた"竜種之種"で私は……。私は私なりに考えた竜になる事を望む!」
すると黒い光りと一緒に青白い電気が美羽を包み込んだ。
「私の属性は"闇"と"雷"。だったら、その二つの属性を持つ竜になってその力で抗う! その二つの属性を持つ"黒雷竜"に!」
"黒雷竜"?!
すると美羽は苦しそうな呻き声を上げながら、その姿が徐々に変わっていく。
「美羽!」
「ウッ……アッ! アァッ!」
青白い雷から黒くなった雷を身に纏い、美羽が黒い竜に変身する。
これが……、この姿が望んだ姿だって言うのかよ?
スマートな体つきの黒い体に大きな赤い角。
背中から生える大きな翼の皮膜は赤黒く、頭から尻尾まで赤い背ビレが1列に並ぶ。
本来のって言うか全然知らねえけど。黒雷竜って名前より、その姿はどちらかと言うと悪魔寄りのドラゴン。
<……どうかなカズ>
「……お前らしい答えだ。でも、竜になってもお前は可愛いな」
<エヘヘッ、そう言って貰えると嬉しいな>
おい、今はイチャつく時間じゃねえぞコラ。
そう思ったから2人にイチャつくなら後にしろって怒った。
「今はそれよりも復活したお前をどう止めるか話し合ってるって言うのに、なにしてんだよ2人してよ? ったく、それで美羽。その姿になってどんな感じがするんだ?」
<そうだなぁ……、カズは無理でも、どうにか頑張れば凶星十三星座とならまともに戦えるかも>
「そうか」
カズは可愛らしいって言うけどよ。俺としてはそれでも凶悪そうに見えるのは勘違いかな?
「しかし竜になることを選んだか。ちなみに竜になることを選んだんだ、なにか新しいスキルを手に入れてないか?」
マジか?! 竜になると新しいスキルが手に入るのかよ?!
<解んない>
「んじゃステータスプレートを出してみろ」
カズの指示で美羽がステータスプレートを出すと、そこにはヒューマンじゃなくなっているし、新しいスキルもあれば進化したスキルもあった。
でもその代わりに。
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夜明 美羽 16歳(女)
種族名 黒雷竜
Lv.100 ランクA
体力850 魔力1000
攻撃980 防御450
耐性500 敏捷1500
運95
スキル
魅了 鑑定 双剣術 銃術 蹴術 思考加速 並列思考 雷耐性 闇耐性
ユニークスキル
未来視 歌姫
アルティメットスキル
歌魔法
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美羽のアルティメットスキルが一つだけになっていた。
<なんで?!>
「"竜種之種"を発芽させ、お前は人間から竜になった。だからお前はそれだけの力を得た代わりにそうなったんだろ」
<そんなぁ……>
「でもその分、頑張れば最強クラスの竜になれる筈だ。だってお前は俺から"竜種之種"を貰い、竜になったんだ。お前だって言ってたじゃねえか。頑張り次第でお前は王の一角になれるから頑張れ」
<うん>
そうだよな、一気に最強クラスにはなれねえのは当然だよな。
でもこれでまたカズを止める為の戦力がアップしたけど。それでもまだ全然足らないって俺は感じていた。
もう1人のカズが竜になった時の恐怖は、あの八岐大蛇なんかよりよっぽどヤバい。
それでもまだまだ抑えていた方なんだろ。
だって、カズがわざわざ俺達に竜の姿を見せてくれた時、カズはゴジュラスと先生で結界を張って貰って瘴気とかから俺達を守ってくれていた。
けど、もう1人のカズが竜になった時は瘴気とか全然出ていなかった。
だから全然抑えていたんだろうって思えたんだ。




