第20話 最強パーティー
「よし、我々はバックアップするぞ! 若達の邪魔にならない様に動け!」
「「応っ!」」
犬神さんの呼び掛けに、今まで前線で戦っていた組員や自衛隊の人達が一斉に応え、崩れ行く廃工場を取り囲む様にして散開した。
その数分後。
「ん?」
カズが何かを感じたのか反応する。
「やっと出てくる気になったか?」
目を細めて冷酷な目つきに変わり、うっすらと笑みを浮かべる。
あっ、ヤバい。マジモードになった時の目だ。
それは先生も一緒だった。
そして、それは遂に姿を表した。
〈ギイイィィィィィィィィィィィィ!!〉
廃工場の天井を突き破り、薄い水色で半透明の巨大な怪物、カズ達が言っていたワームの変異個体が出てきた。
するとその瞬間、巨大なワームに向かってある物が投げられ、頭に直撃すると爆発、……周囲を軽く吹き飛ばした。
投げたのは先生だ。
「……」
先生はまさかそこまで爆発しないと思ったんだろ。でも、結果的には廃工場の中心は吹き飛び、次々と周りが崩れて行く。
「え……っと……」
投げたのは機雷と呼ばれる爆弾で、本来なら水中で使用する為の爆弾が、何故、どうしてそこにあるのかと言うと。
「だっ、だって七海ちゃんが持って来たんだから? せっかくだし使わないといけないじゃない? あは、あは、あははははは……」
そう、ナッチが乗って来た黒いバンの中に積まれていたとんでもない物とはその機雷の事だったりする。
でも先生……、だからと言ってそれを平気で投げるなよ。ほらぁ……見てみろよカズの目。
俺ですらそう思ったんだから他の連中だってそう思ってる筈だ。
ほら、全員がジト目で見てる。
「だってぇ……」
いやだってもくそも無いって……。
先生は目を潤ませ、まだ言い訳をしようとしていた。
機雷を運んでくる時、本当に生きた心地がしなかったと思う。運んで来た組員の人には後で何か形にして労おうと、カズがボソッと言っていたのが聞こえる。
そしてその頃、骸はそんな事を気にせず。骸が作り出した巨大な氷の塊を容赦無く次々と巨大ワームに放っていた。
その一撃は簡単に廃工場の壁を破壊し、周辺に強烈な衝撃波を生み出すと、軽く地震が発生する。
でも巨大ワームは直ぐに、傷が無かったかの様に即再生する。
それが合図になった。
「撃てえぇぇぇぇぇ!!」
犬神さんの号令により、四方八方からアサルトライフルによる銃弾の雨が巨大ワーム目掛けて放たれる。
でも巨大ワームにその攻撃は余り効果が無い。そして、何人かがグレネードランチャーを数発当てる。巨大ワームの体が爆発により、肉片があちこちに飛び散ると、それは寄生タイプのワームに変化し、組員や自衛隊の人達に襲い掛かる。
でもそれを予想していたのか、火炎放射器を持った人達により、寄生タイプのワームが次々に撃破されていく。
「ん〜だいたい体長30メートルあるかないかってところかな」
カズは顔を変えずに暫く見たまま、巨大ワームを分析し始めていた。
「体の模様を考えるに、ありゃ湿地地帯に棲む"タイラント・ワーム"か」
巨大ワームにはうっすらとだが毒々しい、なんと言って良いか解らない様な独特の模様があった。
「よく分かるわね……」
ほんとスゲーなお前。
見ただけで判別出来るくらい、モンスターを研究しているんだな。
先生はそんなカズに、苦笑いを浮かべた。
「だってあのタイラント・ワームを始めて発見して、それが新種だってことが分かったのは俺が捕まえたからだぜ?」
「そ、そうだったわね……」
いやお前、アレを捕まえたことあんのかよ?!
タイラント・ワームを始めて見つけたのがカズだったからか、その模様がタイラント・ワームだと気付けたみたいだった。
それ以前にどこで捕まえたんだよ?
「しっかしあんな馬鹿デケェのは初めてだな。俺が捕まえたの、確か15メートルだっけ?」
「違う、21メートル」
はァ?!
カズ自身が捕まえたワームの大きさをセッチが即座に否定し、正しい大きさを伝えるけど。はっ? 21メートル? お前そんなバカでけえのを捕まえたのかよ?!
「あぁ? 15じゃなかったか?」
「21」
「マジ?」
お前が捕まえた時の大きさを覚えてろよ!
「気をつけろよ〜。そいつ、口の中にデッカいハサミみたいな顎を四つ持ってるからよ」
言ってるそばからタイラント・ワームの口の中から四つの長い顎が顔を覗かさる。
うげぇ……、気持ち悪!
「まるでオニイソメみてぇで気持ち悪いな相変わらず。……んでそいつ、顎で持てるもんはなんでも持って、それを投げつけたりするからな」
カズが再度そう言ってる内にまた、言ったそばからそれをしてくる。
タイラント・ワームはまだ火の付いた瓦礫を顎で持ち上げると、組員の人達に向かって投げ始めた。
「あとそいつの顎にだけは捕まるなよ? 簡単にバラバラにされちまうから」
今度はそうならない。タイラント・ワームが組員の1人に突進しようとした時、頭に巨大な氷の塊がぶつかり、軽く吹き飛ばされたからだ。
「ナイス、骸」
〈グルッ〉
骸が巨大な氷塊を作り、タイラント・ワームの頭を狙って放ったのか。
「あと何だっけかなぁ、なんかあったような?」
すると、タイラント・ワームは体中から触手みたいな物をウネウネと伸ばし、攻撃してくる。
「それは知らねえぞ……オイ」
どうやら変異する時、それを身につけたみたいでカズは知らなかったみたいだ。
触手攻撃は瞬時に動いたセッチが斬り落とす。
「刹那、そのままそいつを撹乱させろ」
「御意」
カズの指示でセッチはタイラント・ワームの攻撃をかわしながら触手を斬り落とし、撹乱させるためにあちこちに動き回る。
「目は見えてる? 視力が弱いから音で反応してる訳では無いのか?」
四方八方からの攻撃を煩わしそうにしながら反撃してくるタイラント・ワームは、音で反応しているんだと思っていた。それなのにほぼ音を立てず動き回るセッチに反応している。
「……振動か? 刹那悪い、もう少し音を立てず、振動も極力抑えて一回止まってくれるか?」
そんなカズからの頼みに。
「それは自殺行為」
と言われ、拒否された。
でしょうねぇ……。
「まぁ仕方ねえよな」
「俺達も手を貸すぜ!」
御子神のおっさん達が武器を手に、組員や自衛隊の人達と共にタイラント・ワームに攻撃を仕掛ける。
「ん〜恐らく中型ワーム、ギルと同じ性質と見た」
いやカズ! 今はそんな呑気に観察すんなよ!
「そりゃそうでしょ、ギルはアレの子供なのだから」
そう言って今度は先生が攻撃に出た。
「朱莉さんが前に出た! 全員撃つのを止めろ!」
犬神さんの命令に全員が撃つのを止めると、先生は空高くジャンプし、翼を変形させて拳に纏わせた渾身の一撃がタイラント・ワームの頭上から振り下ろされた。
〈ギイイィィィィィィィィィ?!!〉
瓦礫等を吹き飛ばし、大きなクレーターの様に地面が抉れる。
「凄え……」
俺はその力に圧倒されていた。いや、魅了されてしまった。
渾身の一撃を放った先生はその場からジャンプし、カズの直ぐ横に着地すると、土埃が舞う、最早廃工場跡地と言っていい場所を見つめる。
その瞬間、タイラント・ワームが土埃の中から現れ、カズ目掛けて大きな顎を開いて突進してきた。
「カズ!!」
俺は思わず叫んだ。
タイラント・ワームにとって、それが最悪の握手だとは知らずに。
「なんだ?」
カズは平気な顔でタイラント・ワームの突進を、4本のヘビの様な紐で簡単に止めた。
「なっ?! えっ?!」
俺はなんでそんな事で突進を止める事が出来たのか、理解する事が出来なかった。
「あぁ? なにもねえなら今は黙ってそこで見てろ馬鹿憲明」
馬鹿って言うな! 心配してやったのにこのヤロー……。
するとカズはタイラント・ワームの頭を蹴り上げた。
蹴り上げられたタイラント・ワームはそのまま後ろへ倒れ込み、なんとか体制を整えてから頭を持ち上げ、またカズの方へ頭を向ける。
でも、もうその時には遅かった。
「這いつくばれ」
カズは両手をポケットに入れたまま両足を屈伸しているかの様に畳んだ状態で、タイラント・ワームの後ろにジャンプして移動し、そのまま太腿に付いた4本の長いヘビの様な紐がタイラント・ワームの首を絞め、カズが着地した後に紐が引っ張っり、地響きと共に再び地面に叩き付けられる。
うそぉん……。
そして、蛇の様に動く紐の先にある鎌で、タイラント・ワームの体を斬っていく。
同時にカズは銃を抜き、目を狙って何発も撃つ。
〈ギイイィィィィィィ?!!〉
「おぉ痛いか? 目は痛いかやっぱり?」
その顔は氷の微笑みより冷酷な微笑みを浮かべている。
怒ったタイラント・ワームはまたカズに噛みつこうとするけど。
「遅い」
カズの回し蹴りが頭を蹴り飛ばす。
「いやいやいや……、えっ、えぇ?」
俺達は驚きのあまり、何も言葉が出てこない。
その人間離れした力はなんだと言いたいが、出てこない。最早化け物かとも言いたくなっていた。
いや、昔からカズは化け物と呼ばれ、周りから怖がられていたけど。
<ギギ、ギイィィィィ!>
触手攻撃をしようとしたところ、セッチのナイフ攻撃と、翼を剣の様に変形させ、触手を斬る先生がカズの元に降り立つ。
そして、蹴り飛ばされたタイラント・ワーム目掛け、鋭利な爪を伸ばし、今度は骸が飛びかかる。
「やり過ぎるなよぉ、周りを考えてな」
カズの言葉に骸は。
〈グルアッ!〉
軽く返事をすると、タイラント・ワームをその爪で鷲掴みにした瞬間、周り一帯が一瞬にして氷の世界となる。
カズ達にはなんの被害も無く。悲鳴をあげる間も無くタイラント・ワームは超低温の世界に閉じ込められた。
これが……、骸の実力……。
「あっけねえな」
カズが力強く地面を踏み付けると、タイラント・ワーム諸共、氷の世界が粉々に粉砕されていく。
後に残ったのは、タイラント・ワームの赤いコアだけだった。
「まっ、カズと骸が出たらこんなもんでしょ」
「理不尽」
理不尽にも程があるだろ!
先生とセッチにそう言わられるカズだけど、そんなカズの要望を出来るだけ応えるセッチや、変身した先生も人の事を言えないだろ……。
「んじゃ、後のことはお願いしますね、柳さん」
柳さんは柳さんで、これをどう説明すれば良いのかと頭を悩ませているみたいだ。
なんか、柳さんが可哀想になってきた……。
でも、スゲェ……。
「お疲れさんカズ」
「おぉ。どうだった、俺達の戦いぶりは」
いや戦いって言うより、お前だと虐殺にしか見えねえよ……。
それでも俺はカズの元に行き、右手を軽く上げた。カズはそれを見て軽く鼻で笑い、同じく右手を上げてお互いハイタッチした。
「正直、余計化け物って感じた」
「クククッ、まぁそうだろうよ」
「でも俺はそんなお前に憧れる!」
「はぁ?」
そう、俺はカズの強さに憧れちまった。
当然カズは思わず変な声を出し、困惑した顔になっちまったけど。
「頼むカズ! 俺もお前みたいになれる様になるにはどうしたらいい?!」
「えぇ……」
しばらく黙っちまったけど、まぁ良いかとその時カズは思ってくれたのか、何度も頷きながら微笑んだ。
遂に特殊個体のワーム戦が終わりを迎えることになりました。
ここまで如何だったでしょうか?
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それらは僕にとって最高の瞬間であり、今後の励みとして頑張りますので、どうか宜しくお願いいたします♪