第207話 出会う好敵手
親父さん達が久しぶりに再会を喜んでる時。
アイツがまた突然顔を出した。
「本当、久しぶりに顔を見れて嬉しいですよタカさん」
カズのその口調だけでもう、何時ものカズじゃねえからその場にいる全員が警戒体制に入った。
「テメェ、またいきなり顔を出しやがって……」
「酷いな憲明君。僕だってこうして顔を出すぐらい良いじゃん」
「テメェは駄目だ。テメェだけは俺の本能が危険だって言ってんだよ」
「でも君はそんな僕と仲良くなりたいとかって言ってたんじゃないの? それは嘘だったの?」
嘘じゃねえよ……、仲良くしてえのはそりゃあくまでもカズみたいだって思えたからだ。
でもコイツは違う。
復活したとしても、それは何時ものカズであって、今のお前じゃねえんだよ。
そう思ってでもなんとなく口に出したくなかったから、俺は黙って今のカズを睨み続けた。
「黙りか。それじゃあイリスはどうしてるの? せっかく僕の手で殺したのに、生き返っちゃったんだ。ちゃんと元気にしてるのかな?」
「テッ……メェ……、ふざけたこと言いやがってぇ……」
イリスは生き返った後直ぐ、エルピスが天界に連れていっちまっていたからいない。
その時のカズはもう1人のカズをしっかり抑え込むために寝ていたから、イリスがどこに行ったのかを知らないでいる。
本当ならカズにちゃんと教えたい。
でも教えれば、それをもう1人のカズも知ることになる。
エルピスは出来ればその情報を伏せておいてほしいって言うから、俺達は黙る事を決めたけど。それをカズが気づくのは時間の問題とも思えた。
「なぁカズ……、なんであの時、何時ものカズに"創造"と"変換"の力を使わせなかった……?」
そう、何時ものカズがイリスを助けるのに、何も出来ないって言った答えがそれだ。
それはエルピスも言っていた。
それでイリスを助ける事が出来た理由だけど。俺の剣、"炎剣・レーヴァテイン"はエルピスの羽を使って強化されている。
エルピスは不死鳥、"フェニックス"とも呼ばれている存在。つまりゲームで例えるなら復活アイテムって言っても良い代物で、だからこそイリスを助ける事が出来る剣になっていたからなんだ。
カズがレーヴァテインを作ってくれてなきゃって思うと……、背筋が寒くなる。
そして俺の質問にもう1人のカズは。
「助けたくなんてなかったからだよ」
平然と、満面の笑みでそう答えやがったから俺はキレて殴りに走った。
……でも。
「馬鹿だね憲明君は。僕の側にはこの子がいるのに」
カズが"闇の衣"をコートみたいに出した瞬間、背中の闇からゴジュラスが出てきた。
ゴジュラス?!
<すまんな憲明>
そう言ってゴジュラスが俺を掴もうと手を伸ばすと。
「さ~がってろ~ぅ」
捕まるすんでのところでタカさんが俺の襟首を掴んで後ろに引っ張り。俺を掴まえようとしていたゴジュラスの手を蹴るのと同時に懐から"コルトパイソン 357 マグナム"を出してゴジュラスの顔に向けて突き出した。
「は~じめましてだな~おいぃ」
<グルルルルッ……>
正直……、まさかゴジュラスがそれで止まるだなんて思ってもいなかった。
だってゴジュラスはカズにとって最高最強のパートナーの筈だ、そのゴジュラスを真正面から止めれる人間なんて、俺は知らない。
「よ~しよ~し、そ~のまま動くなよ~?」
<(……出来る)>
ホント、マジかって思う。
見るからにゴジュラスがタカさんに対して警戒を強めてるのが目で解る。
<……我が名はゴジュラス。名は?>
「こ~りゃ失敬ぃ、俺は太一。高峰太一だ~」
これが後に、お互い好敵手になる2人の出会いだった。
「若ぁ、と~んでもねえパートナーを側にいさせてますな~」
「褒めてもらえてなによりだよタカさん」
「でもねぇ若ぁ。イリスって家族に手を出すのは流石の俺でも許せやせんぜ~!」
タカさん!
俺の代わりにイリスの事で怒ったタカさんがカズを睨むのと同時に、今度は"闇の衣"の中からミルクが飛び出すとタカさんに向けて真っ赤な日本刀を抜刀して襲い掛かった。
「ミルクゥ……」
「……」
俺のレーヴァテイン同様、ミルクの真っ赤な日本刀から炎を噴き上げながら振り下ろされた瞬間、今度は真っ白な軍服を来た誰かがそれを防いでくれた。
「……おめぇさん」
「……なんのつもりですか? イリス」
それはイリスだった。
凶星十三星座達が着てるような真っ黒な軍服とは真逆で、真っ白な軍服と軍帽を着たイリスが、ミルクの刀を二丁拳銃で防いでいる。
「イリス!」
「ただいま憲明」
「……私を、無視ですかイリス」
「ようミル姉、別に無視したつもりはねえぜ? 俺はよミル姉、自由になったんだ。それはもう1人の兄様だって許してくれた事なんだぜ? それは知ってるよな? ってことはだミル姉……。俺が誰の味方につこうが、俺の自由だよなあ!」
正直その言葉は嬉しくて、思わず涙が出そうになったけど、俺は今のカズを睨んだ。
「残念だよイリス、残念だ。やっぱり君には大人しく死んでいてほしかったな」
「ホント残念だったな兄様、俺を殺せなくってよう」
「戻ってきてくれていれば、君に凶星十三星座の席を用意する予定だったんだけどね」
イリスに凶星十三星座の席を? って事はミルクにもか。
「へっ、そりゃ残念。でも俺はそんな席、ひとっつも興味ねえけどな?」
ん?
イリスがちらっとこっちに目を向けると微笑み、もう1人のカズに自分の想いをそのまま伝えた。
「今の俺にはもったいねえくれえの席がもう用意されてんだよ兄様。だから、凶星十三星座の席なんていらねえんだよ」
「黙って聞いていればにぃにに対して好きなことを」
「そりゃこっちのセリフだぜミル姉ぇ? 兄様は一度俺を殺してるんだぜ? 今の俺は前までの俺じゃねえんだよ。だからよミル姉ぇ……、今の俺はアンタの敵だよ」
そう言ってイリスは不適な笑みを見せながらミルクに言いはなつと、ミルクの顔がどんどん怒りに染められた。
「イィリィスゥ……」
「あ? なんだよ? 怒ったのか? はっ! アンタだって何時か今の兄様に捨てられる日が来たら解ることになるぜ俺の気持ちがよ!」
「クッ……」
そうだ、もう1人のカズは平気で裏切る。
人の話をまったく聞かない、只の独裁者になろうとしてる存在だ。
何時ものカズとは全然違う。
何時ものカズなら家族を裏切らねえし、例え裏切られてもイリスみたいに許そうとする筈だ。
悪意を向けない限りは。
「嬢~ちゃんがイリスかぁ、話は聞いてるぜ~?」
「ハッ、自己紹介は後にして取りあえず宜しく頼むぜおっさん。しっかし、まさかゴジュラスを睨みひとつで止めるなんてな」
「嬢ちゃんもな~かなかどうしてやるじゃ~ないの~」
正直言ってマジで凄いと思う。
ミルクとイリスはカズの次にもっとも強いとされていて、凶星十三星座よりも厄介な存在だった。
でも今は違う。ミルクとイリスは敵対して、カズにとって最強の双璧が崩れた。
これでミルクに対してイリスが抑止力になる。
それにあのゴジュラスを、タカさんが余裕の笑みを見せながら止められるって事はいずれ来るゴジュラスとの戦いでもタカさんが止めてくれると思う。
そう思うと、冥竜になったカズを止めるためのピースが揃いつつあるとも思えた。
「それとよぅ兄様、ミル姉。ここは、不可侵条約の場になった場所だぜ? そう決めた筈だぜ? ここでの戦闘行為は禁止だ、それを破るってことは、今の兄様にとってもそれは困るんじゃねえのかよ?」
まさかここでカズを脅すなんてな。
でもそれが良かったのか、カズは首を何度か振りながら溜め息を吐くと、ミルクとゴジュラスに下がるよう命じた。
「宜しいのですかにぃに」
「構わないよ。今回は僕もタカさんに挨拶したくて顔を出したに過ぎないのだからね。だからゴジュラスも下がって」
<……はっ>
「取りあえず僕はまた寝るとするよ。ふふっ、いずれ僕が主導権を握ることになるんだからね」
絶対させねぇ。
「ずっと寝てろよ。俺はお前を絶対に認めねえ」
「ふふっ、怖い怖い。んじゃ、そろそろもう1人の僕を起こすとしようか」
それで目をつむり、数秒すると凶悪な目付きをしたカズが目を覚ました。
良かった、何時ものカズだ。
「ちっ、油断した隙に出てきやがって」
「にぃに……」
「フンッ、別に怒っちゃいねえさ。だがよミルク。ここで武器を抜くな」
「……はい」
<主様……>
「もう1人の俺に呼ばれて止めようとしたんだろお前は。止めるだけなら良い、止めるだけならな。だがよゴジュラス、ここで下手に戦闘すんじゃねえぞ? ここは俺の部屋であり、お前達の部屋でもあるんだ。帰るべき場所が無くなるのは嫌だろ」
<はい……>
そう言われてゴジュラスとミルクがシュンとした顔になって大人しくなった。
帰るべき場所。
それは、カズが2人と一緒にここへ帰ってきたいって想いがあるから出た言葉なんだと思う。




