第206話 夜城組の真打ち
場所を変えて外に出た俺達は、もっと詳しい事情をタカさんに話すことにした。
カズが冥竜王の生まれ変わりで、その復活を阻止しようとカズ本人が頑張っていること。
そんなカズを凶星十三星座や他の組織から守るために、色々な人達が動いてくれていること。
でもついこの間、もう1人のカズが出てきて酷い事態になりかけたこと。
そう言ったこと全部を話した。
「……信じられねえかもしんねえけど、今話したのは事実なんすよ」
「ん~……まぁ、信じていないってわけじゃ~ねぇ……。わ~かは昔からぁ、不思議な力を持った人だってこ~とを知っちゃぁい~たからよぅ」
「……そっか」
この人は知っていたのか。
それにしても話し方が独特だから聞き取りにくい……。
「よっしゃ! こ~こはいっちょ、久しぶりに会いに行くとしますか~ねっと。ん? うぉいそこぅ! こ~のおたんこナス! エコバッグを持ってるなら袋を買うバカちんが~っ! どぅ~こにいやがるんでぃ! ちゃ~んと活用しなさい活用を~!」
「ゴメン店長~! ついつい買いすぎて入りきらなくって!」
「バッカちんっ! お~菓子の買いすぎには気を付けんしゃい! 食べ過ぎにも気を付けないとブクブクぶ~くの分福茶釜見たいに肥えるこ~とになちゃうんだからね?!」
「うん! 気を付ける~!」
だから解りにくいって……。
それに分福茶釜って何?
同じ学園の制服を着た女子にそう声をかけて注意するけど、結局内容的には優しいんだよなこの人。
たまに訳わかんねえこと言うけど。
「まったくぅ。それで~? 何時行こうか?」
12月10日
ーー 日本 ーー
「ひ~さしぶりに帰ってきたぜ~」
東京湾海上ゲートを潜り。その日、タカさんは5年ぶりに日本に帰ってきた。
「お帰りタカさん」
「なんだなんだ~? 出~迎えてくれちゃってたのか~よ?」
「勿論っすよ。んで、高峰って人が今日帰ってくるからここで待つって言ったらさ」
「御無沙汰しております! 高峰さん!」
「おん?」
俺達の他に、フードで顔を隠した特殊作戦群の皆さんが敬礼をして、一緒に出迎えていた。
その中心にいる人は。
「はっ、その目、"羽瀬"か~」
"羽瀬幹久"さん。特殊作戦群、白虎隊の隊長を務めてる人だ。
羽瀬さんとは何かって時によく会う。
初めて会ったのは、"ルーナ・ファーレ"って月光華に似た花の群生地から帰る時だった。
バルメイアが攻めて来た、ゼオルク防衛戦の時とか。それから何かと顔を合わせる事が多かったけど、羽瀬さんは何かと忙しいからなかなかゆっくりと話す事が無かった。
「羽瀬ぇ、ちゃ~んと元気にやってそうでよかったぜぇ」
「その節は本当に御世話になり、お陰で今では白虎隊を率いております」
「お前が~? はっ、あのやんちゃ坊主が今じゃ~白虎隊の隊長をね~? 何かとピーピー泣いてたあの ーー」
「た、高峰さん! 恥ずかしいから止めてください!」
「ハーーッ! やっかまし~は! はははっ、まぁ立ち話もなんだ~、そ~ろそろ移動しようや~」
「宜しければお着替えをご用意させて頂きましたので、中に入ってお着替え下さい」
「気がきくじゃね~か、んじゃ~お言葉に甘えさせて貰うとするか~ねっと」
「ささっ、こちらです」
「お~ぅ」
なんか、スゲー仲が良いんだな。
羽瀬さんと部下の人達に案内されたタカさんは停泊してる軍艦に乗船して、そこで身支度を整えることにした。
やっぱり、タカさん自信久しぶりにカズや親父さんに会うってなると緊張してるのか、体が強張ってる気がしたな。
「会うからにゃ~みすぼらしい格好をしたくなかったんだぁ、正直助かったぜ羽瀬~」
「やはり高峰さんにはあの頃と同じ姿になってほしいですからね」
あの頃? ……あぁ、なるほどね。
羽瀬さん達が用意したスーツを着て、髪をビシッとセット。
その姿を間近で見ていた俺達は、昔のタカさんが戻ってきた事に実感を感じていた。
「よっしゃ~! こ~れで髪もバッチリってもんだぜ~」
「お帰り、タカさん」
「おう! た~だいま~!」
その姿は超ハードボイルドって言葉が良く似合っていて、めちゃくちゃ渋い。コンビニの店長してるより、よっぽどスーツ姿が似合ってるってもんだ。
まぁしみじみとしてる訳にもいかねえから、取りあえず支度を済ませたタカさんと一緒に俺達は車に乗って目的地、夜城邸に向かうことにした。
11:00
ーー 夜城邸 ーー
「なんじゃっこりゃ~!!」
うん、その反応は何時ものことだな~。
「何時からここはジャングルになったんだ~?!」
もう何時からなのか忘れたぜ、ははっ。
「あっ10年くらい前からか」
この落差よ……。
「し~っかしぃ、ま~えに見た時より見事にジャングルにな~っちゃってるよ~」
「カズが一生懸命作ってますからね」
俺の代わりにそう話したのは美羽だ。
この部屋に数種類の爬虫類達が放し飼いされてる事や、アリス達ヴェロキラプトルがいる事も話した。
「ヴェ~ロキラプトルといやぁ恐竜な~んじゃね~のか~? まぁ、あ~の世界にいりゃ~いろんなモンスターを目~にする事もあるからよ~、恐竜が生き残っていても、不思議じゃね~わなぁ」
意外と驚かねえんだな。
「だ~からヴェロキラ~プトルと言ってもよぅ、俺はそこまで驚きゃしね~さ~」
すると呼ばれたと思ったのか、アリスがスッとタカさんの真後ろに現れて、気配に気づいたタカさんが後ろを振り返ると目が合った。
「……」
<……>
「はァ~っはっはっ! こぅ~りゃ確かにヴェ~ロキラプトルじゃねぇか! 綺麗だな~おい~!」
俺の見間違いか? タカさんの足がガクガクと震えている様に見える。
「はァ~はっはっ! ず~いぶんと美人さんじゃねぇかぁ。えぇ? 若のパートナーに、相応しいじゃね~かま~ったくよ~!」
そう威勢良く言うけど……、足だけが震えているように見えるのはやっぱり見間違いか?
「とぅお~ころで憲明ぃ、組長と若はどこにいるんだ? 早いとこ挨拶してぇんだがよぅ」
「あっ、それなら多分、この先にいると思う」
「この先~?」
この先に何があるんだ? って言うから、取りあえずプールを改造した大水槽前ホールにいると思うって言って、案内することにしたら。案の定「なんじゃこりゃ~?!」って驚いた。
「……太一か?」
「組長! 御無沙汰しておりやす!」
驚くタカさんに親父さんが声をかけると、流石のタカさんも畏縮して頭を下げて挨拶をする。
ちなみに親父さんとカズにはその日、タカさんが帰ってくる事は伝えず、ただ待っててくれって言っただけだから流石の2人もタカさんを見て驚いていた。
「若も、元気そうでなによりです」
「……タカさん、マジであのタカさんなのか?」
「漢高峰太一、5年ぶりに帰って参りました」
「太一!」
よっぽど嬉しいのか、親父さんは満面の笑みでタカさんに近づくと肩を叩いて握手を交わし。「向こうでも元気にしてたようでなによりだ」って声もかけた。
「しかし、今日はどうしたんだ? 組を辞めた後、向こうでコンビニ開いて毎日忙しくしてるって聞いてたんだが?」
「へい。実を申しやすと、そこにいる憲明達やレイナに、若が大変な事にになっていると聞きやして」
「それでわざわざ来てくれたのか?」
「へい、若達が大変な時に、テメェだけのほほんとしていられやせんよ」
……なんで親父さんに対しては普通に喋れるのこの人は?
「そうか……、でもお前はもうウチの事を気にしねえで、普通に生きりゃあいいじゃねえか」
「な~に言ってんですかい組長! こう言う時こそ! 皆で乗り越えねえでどうするって言うですか! 同じ釜の飯を食って! 同じ屋根の下で寝てりゃんなもん家族でしょ! 例え俺が組を抜けて平凡に暮らしたいから辞めたと言っても! 家族の危機に駆け付けねえようでじゃ漢と言えますかい?! んな野郎は野良犬に噛まれて死んじまえですよ~! 俺はそんな野郎になりたくねえから来たんですですぜ?! 例え道は違えど! 目指すべき未来に向けてひた走る! そう約束したから来たんだ! だったら助け合う時に助け合わねえでどうしろっちゅ~話ですよ組長!」
「太一……!」
「アンタは俺の兄貴だ! だったら若は俺にとって甥も同然! 苦しんでるなら何時でも言ってくれって言った筈だぜ?! 兄貴!」
「お前……」
「それで死のうがテメェの勝手よ! 家族の為にこの命を張れるなら! 漢冥利ってもんですぜ! だから言ってくれ! 家族なんだから手を貸してくれって! 言ってくれよ兄貴~!」
「……っ!」
熱いぜタカさん! やっぱそうだよな?!
親父さんもそこまで言われて嬉しくねえ筈が無い。
「すまない太一。倅の為にもう一度力を貸してくれるか?」
「ハーッハッー! そうこなくっちゃ! 漢高峰太一! たった今からコンビニ店長は休業し! 夜城組の真打ちとして思う存分働かせて頂きやすぜ!」
こうしてまた1人、強力なメンバーが増えた。
それでこれは後から知ったことなんだけど。タカさんは夜城組の元本部長をしている傍ら、自衛隊の特殊作戦群の教育係りもしていたらしく、その実力は折り紙付き。
親父さんの懐刀として、相当周りから恐れられてる鬼神の1人なんだってさ。




