第205話 Yマート
カズを理解してくれたのはレイナと他数人のクラスメイト達だけ。
レイナ達数人が知る切っ掛けになったのは、ハロウィンの時にカズが竜の姿になってくれたからだ。
その時は皆、カズを受け入れてくれたのに。他の連中はカズを受け入れないってのが、俺はどうしても納得することが出来ない。
だからカズは、その日から学園都市に行かなくなった。
12月5日
思えばその人と出会ったのがその日で、俺達は幸運だったのかもしれない。
ー 学園都市 ー
その日、俺達はレイナに連れられて学園都市の北側に位置する、門の近くに行く事になった。
「レイナ、どこまで行くんだよ?」
「もう少しですわ」
もう少しって、もう門の目の前まで来たんだけど?
「……あの後、和也の様子は?」
「……正直言って良いか?」
「えぇ……」
カズの様子が気になるのか、レイナが聞いてきたから俺は答えた。
「レイナとかカズが冥竜王の生まれ変わりだって事を知っても、受け入れてくれたよな? でも、他の連中はカズを受けいてくれなかった……。俺はさ……、カズが世界の敵って言われた時、思わずイラついた。だってそうだろ? カズは今まで誰かのために頑張ってたんだぜ? 誰かのために怒るし、悲しむことだって出来る。それなのに、なんでそこまで言うんだよって」
「(うん、ノリちゃんの言う通りだよ)」
「(俺達はそれでもカズを信じて側にいるんだもんな)」
「(僕はカズを信じる!)」
「カズは俺達を何度も何度も守ってくれた。だから今度は俺達の番なんだ。誰がなんて言おうと、俺はカズを守る」
それは皆に対しての決意表明であり、それを口にすることで俺の気持ちをより強くしたかった。
でも美羽達は微笑むんで頷いてくれる。
皆、俺と一緒な気持ちでいてくれることが嬉しくて、なんだか泣きそうになったけどこらえた。
「そうですわね、私も和也を信じたい」
「ありがとな……」
「それで、イリスの方はもう大丈夫なんですの?」
「うん、イリスはもう大丈夫」
イリスは最初、カズと一緒で皆受け入れられそうに無かったんだけど。カズが「イリスは自由になったんだ、お前らの敵にはならねえから安心してくれ頼むから!」って説得して、どうにかイリスだけは受け入れられそうになった。
俺達はって言うと、それを知ってて黙ってのかって怒られて、距離を取られてるのが現状だ。
「問題は……」
「でもカズはカズで、もう1人のカズと戦ってるんだ。レイナも知ってるんだろ? カズがどんな奴か」
「勿論。だから私は和也と親しくさせてもらってるんですのよ?」
「……ありがと」
「さっ、話してたら着きましたわ」
ここは?
案内されたのは看板に"Yマート"って書いてある、結構デカいコンビニだった。
「なんでコンビニが?」
「さっ、入りますわよ」
レイナに言われて店内に入った瞬間。
「うぉ~いコノヤロゥ! テメェ~はな~んべん言わせりゃ分~かるんだ~?!」
なんか厳ついおっさんがいる!
「あ~れ程無駄な銭をぅ、使うな~って言ったのによぅ、な~んで使~っちまうんだバッカヤロ~が~!」
その人は黒いサングラスに口髭をはやした、いかにもカタギじゃねえだろって感じで、独特な言い方をする怖いおっさん。
そのおっさんに怒られているのは、俺達とは別のクラスの男子だ。でもそいつは苦笑いを浮かべながら、あははって笑っていた。
「聞~てんのかコルァ~!」
「いやだって、ここに来たら思わず買いすぎちゃんですもん」
「どぅあ~から気をつけてぇ、考えて買え~って言~ってるだろぅ~!」
「あははっ、ごめんなさい」
「ご~めんなさいじゃね~んだよ~クソガキ~!」
なんなんだこのおっさん。
すると今度はメガホンを取り出し、カウンターの上に登るとジャンプしてもっと高い位置にある足場に立った。
「おいそこぅ! こ~のおたんこナス~! 買~い物したけりゃちゃ~んと並べっちゅ~の!」
怒られてる先に目を向けて見てみると、そこには普通にいろんなモンスター達がレジ? の前に並んでいる。
「うぉい! こ~のバカちんが~! 釣り銭忘れてるぞ~! ほらそこぅ! 割り込みしちゃいかんでしょ~! おん? こ~ちら"高峰"~、商品がど~こにあるかぁ、わ~からねっちゅうお客様がFコーナーにお~られる~、だ~れか応援ヨロシク~」
"高峰"って名乗る人がインカムか何かで、困ってるお客がいるって伝える。
俺達はこの人は一体何者なんだ? って思ってると、その答えをレイナが教えてくれた。
「"高峰太一"さん。このコンビニの店長さんですわ」
あぁ、店長さんなのね。
「お~ん? レイナ~?」
「ごきげんよう、高峰さん」
「ご~きげんよぅ、レイナ。ん~?」
レイナの近くに俺達が目に入ったのか、その高峰さんって人がジャンプして降りてくる。
いやいやいや、つーか天井は?
天井が無い。無いからこそ、高いところまで登って周りを確認する事が出来るんだなって思えた。
つーか、コンビニって言うよりスーパーだろ。
「うぉいうぉい、の~りあきとみ~う達じゃね~か」
ん? 俺達を知ってる?
「ねぇ、もしかして……"タツさん"?!」
「そ~の通り! オ~レだよオ~レ~!」
タツさん? っ誰だっけ?
いち早く気づいたのは美羽で、気づいてくれたことが嬉しいのか高峰さんがスゲー喜んでいる。
「久しぶり~タツさん! 何時からここにいるの?!」
「か~れこれ5年にな~るなぁ」
え? 誰?
「カズに辞めたって聞いた時は寂しかったんだよ?!」
「そ~いつぁも~しわけねぇ。ヤ~クザから足を洗ってぇ、コンビニのて~んちょうになろぅと思って、ぃよ~」
あれ? ちょっと待て……、そう言えばなんか昔、似た人がいたなぁ。
そう思うと、昔の記憶が徐々に甦ってきた。
話し方は昔のほうがまだ柔らかくって、もっと太っていた人がいるなって。
タツさん……、タツ……、タ……。
「あっ! もしかしてタカさん?!」
「お~ぅ! よ~やく思い出~してくれたか~!」
「美羽! タツじゃなくてタカだよ!」
「あっ、そうだったゴメン」
俺がそう指摘すると、高峰ことタカさんは「ど~っちも一緒だ~から気~にしね~よぅ」って笑って許した。
「ハ~ハッハッハッ! そ~れにしてもひ~さしぶりじゃね~かガキド~モ!」
高峰さん。通称"タカさん"は元夜城組の本部長をしていた人で、今本部長をしている犬神司さんですら怖がっていた人でもあるんだ。
そんな人を、昔の俺達はよくタカさんって呼んでいたから怖いもの知らずだったなって思うよ。
「タカさん! 僕の事覚えてます?!」
「玲~司だろぅ! はっはっ~! デカくなったな~!」
「はいは~い! 私は?!」
「沙耶~! 可愛くな~りがってこの~!」
「俺は俺は?!」
「一樹~! も~ちろん覚えてるさ~!」
俺達の事、ちゃんと覚えていてくれたんだ。
懐かしくて、それにちゃんと覚えていてくれていることが本当に嬉しかった。
「若は? わ~かは一緒じゃね~のか?」
「あっその……、実はさ……」
カズもタカさんの事を慕っていたし、カズの事を何時も見守っていた人だから俺は何があったのか、全部話した。
「なんじゃそりゃ~~?!!」
話すと、当然タカさんは激昂。
頭の血管が破裂するんじゃねえかってくらい、青筋を浮かべた。
「こともあろうに若をぅ……、そんなぁ……、絶対許せんぞぅ……」
久しぶりに見るとやっぱ怖ぇーな。
タカさんは怒ると親父さんみたいに、まるで鬼神って顔になるから怖えぇ。
けど、それよりもっと怖いのがカズなんだけど。
「お知り合いだったのなら都合が良いですわ。高峰さん、宜しければ貴方のお力をお貸し願えませんか?」
「オ~レのぅ?」
「えぇ。和也や彼らと知り合いであるならば、貴方の力で和也を助けて頂きたいんですの」
「……」
そう言われたタカさんはレイナと暫くの間黙ったまま目を合わせた。
 




