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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第6章 成長と進化
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第200話 この想い、届け


 その日、俺はカズに顔面を鷲掴みされたまま振り回された後にボコボコにされ。イリスからも、恥ずかしそうな顔をしながら長い尻尾で俺の首を締めると振り回されて怒られた。

 結局俺達は財宝を見つけることが出来なかったし、そろそろ帰らないとならないから荷物をまとめて帰る事にしたんだけど。車の中や休む時、イリスは終始黙ったままで、結局カズの部屋に到着したするまで話すことが無かった。

 帰ると御子神のおっさんと一樹、ダークスがグッタリとしていたけど。その中に俺も混ざってグッタリしたから何も聞かないことにした。


 ……おっさん達もなんだか疲れてるみてえだな。


「……どうしたの? 2人とも」


「あぁいや……その……」


 そこへ美羽が心配して声をかけてきてくれたんだけど、……どう言えば良いか解らないでいた。


「今はそっとしておいたほうが良いよ」


「なんで?」


 ヤッさんがそう言って美羽を俺から離す。

 けどそこでまたカズがギロッと俺を睨むと、怒った口調で皆がいる前で爆弾を投下した。


「おい憲明、テメェのせいで空気がおもてえじゃねえか。テメェがイリスに告るのは別にかまいやしねえけどよぉ、いきなり抱きつくのは流石にそれゃねえんじゃねえか? えぇ?」


「お前それは……」

 「無いわ~……」

「さいてえぇ……」

「クズが!」

   「恥さらし!」


「憲明君、一回死んでみる?」


 皆、口々に俺を罵倒するから心のパラメーターはもはや風前の灯状態……。

 それにしても最後のサーちゃんの言葉は酷くねえか? って思ったけど、何も言い返せない。


「テメェ男ならきちんとケリをつけろや」


「そ、そう言われてもよ……」


 経験が無い俺にとって、どうしたら一番良いのか答えが見つからない。


「それにお前がかたをつけろってジェスチャーで言うから」


「あ? 俺のせいか? 確かに言ったが何も抱き締めろなんて言ってねえだろぅが。男らしくきちんと伝える方法なんざいくらでもあるだろうが」


「だからそれがわかんねえんだって」


 それからまた色々とカズに言われて俺の心が完全に折れそうになっていると。


「今からイリスを呼ぶ。そしたらもう一度アイツと話し合ってお前の気持ちを伝えろ」


 カズはスマホを取り出してイリスに電話をし始めた。


「今何処にいる? …………分かった。…………いや、たいしたことじゃねえよ。とにかく30分後だな? ……ん」


 電話はそこで切り。俺に30分後に戻ってくるからちゃんと考えとけって言うと、俺だけ大水槽前ホールに残して皆を連れて部屋に向かって行った。


「はぁ……」


 ため息しか出ない。

 俺としてはちゃんとしたアドバイスをくれよって話だけど、カズは男らしくって言っていたんだからド直球でもう一度伝えて、イリスの気持ちを聞こうと思った。


 それから30分後。


「はぁ……」


 緊張してため息しか出てこない。

 何気なく横を見た瞬間、そこに顔を真っ赤にしたイリスが水槽を眺めていて、俺はビックリして固まった。


「い、いつの間に」


「……2、2分くらい前から」


 ボソッとそう言われてつつ、相変わらず足音も無く動くから心臓に悪い。


「そ、それで? 俺に話があるってなんだよ……」


 カズが俺から話があるって言われて来たんだろうな……。


「あっその……」


 それにしてもやっぱ緊張する……。


「……その」


 水槽の中を泳ぐアクアが視界に入り、俺はそっちに目を向けて軽く深呼吸した。


「はぁ……」


「なんだよいきなりため息しやがって」


「……なあイリス」


「あ?」


「俺、この間も言ったけどさ。ほとんど一目惚れしてたんだ……」


 スゲー緊張するけど、とにかく落ち着いて、慌てないようにして気持ちを伝えようと思った。


「最初、この気持ちがなんなのか全然解らなかったけどよ。気づいた時にはお前の事が好きになってたんだ……。ははっ、笑えるだろ? なんでまた敵になるかもしんねえ俺を好きになるんだよって、そう思うだろ? でも好きになっちまってたんだ。本当はこの気持ちをずっと隠していたかった……。この間お前にこっちに来てくれよって言われた時に俺、スゲー嬉しくってさ……。俺……、こんな気持ちになるの初めてだからどうしたら良いのか解んなくなってて、あんな事をしちまったんだ。本当にゴメン」


 イリスは黙って俺の話を聞いてくれていた。

 イリスは元々普通の動物だったんだし、恋愛感情が解るのかどうかなんて知らねえ。

 けど俺は、そんなイリスに気持ちが伝われば良いなって思えた。


「俺、別にフラれても良いんだ。でもさ……、この間お前からの誘いを受けたり、お前の優しい気持ちを改めて知って、悲しそうな顔を見ちまったら自然と口にしちまってさ……。なんで言っちまったんだろって俺自身ビックリした。だからその……、俺……、……いきなり抱きついてマジでゴメン」


「……」


 うわぁ……、本当は嫌われたくねえからなに言われるかめちゃくちゃ怖い……。


 そう思うと緊張が込み上げてきて、今の時間が早く過ぎてくれって思えた。


「憲明」


「ん、ん?」


「お前の気持ち、……正直嬉しいよ」


「ん、うん……」


「俺は兄様(にいさま)が好きだ。めちゃくちゃ怖いけど、本当に好きなんだ」


「うん、知ってる」


「……だから、ゴメンな」


「……ん」


 結局フラれちまったか……。

 まっ、正直に想いを伝えたんだし、なんだかスッキリした感じがするな。


 こうして想いを伝える事が出来たんだし、俺はそれでもイリスの事が好きな限り、どこかのタイミングでチャンスがあればまた告白しようかなとも考えていた。

 すると。


「……悪い、俺も自分の気持ちに素直になる」


「ん?」


 俺の袖を掴んだと思うと、イリスは俺を抱き締めてくれる。


 ……ん? どういうこと?


「俺もお前の事好きだよ」


「……ふえ?」


「俺もその……、気づいたらお前のこと好きになってた……。でも俺はさ、その時が来たら兄様(にいさま)の所に行かなきゃなんねえし……。だからそうなったらお前とも戦うことになるって思うと、俺も嫌だったんだ……。お前に死んでほしくないから……。だからこっちに来てほしいって思ったんだ。俺自身、どうしたら良いのか解んなくってさ……」


 泣きそうな顔で下から眺めてくるイリスが可愛いのは当たり前なんだけど、俺は物凄くイリスをどうにかして守りたいって思えた。

 それに俺はイリスの気持ちが本当に嬉しかったからもう一度、今度は優しく、……抱き締めた。


「……ありがとうイリス。でも俺はそっちに行けない」


「……うん、知ってる」


「出会わなきゃよかったな……、俺達……」


 そう言って苦笑いを浮かべると。


「……決めた」


「ん? 何を?」


 何を決めたのか、イリスは俺から離れると走り出したから俺は思わず追いかけると、行き先はカズの所にだった。


兄様(にいさま)!」


「ん? どうしたイリス?」


「申し訳ありません兄様(にいさま)!」


 謝ると突然その場で土下座して、イリスはカズにあるお願いを言った。


「俺! 兄様(にいさま)と一緒に行けません!」


 ちょっ?! イリス?!


「憲明が好きなんです! 勿論兄様(にいさま)も好きです! でも! 俺は憲明と一緒にいたい! 憲明と一緒にもう一人の兄様(にいさま)を止めて! 滅びよりも皆が共存する世界を俺は選びたいんです!」


 俺は物凄く嬉しかった。

 まさかイリスがそんな事を言ってくれるなんて思いもしなかったから。


「勝手なことだとは重々承知しております! ですが! どうかお許し願いたく!」


「……イリス」


「はい!」


「……俺は嬉しいよ」


「え?」


 え? なんでだ?


「自分で答えを見つけたんだろ? 自分の居場所を。勝手? 別に勝手なことなんかじゃねえさ。好きって感情はどうしようも無いくらいの強さを秘めてる。でもそれは諸刃(もろは)(つるぎ)だ。好きって感情は人を狂わせる、一種の呪いだ。お前は憲明の気持ちが理解出来るからそっち側に立って、いずれ来る俺との戦いで俺を止めたいって思ったからなんだろ? それの何が間違ってる?」


兄様(にいさま)……」


「よかったなイリス。お前は"愛"って強さで俺からの呪縛を振りほどく事が出来た。これからは自分の為に生きろ」


「……はい」


 凄く優しい微笑みでカズはイリスを許した。

 そう言ってもらえて嬉しいからか、イリスは泣いていたけど、心の底からホッとした表情で喜んだ。


「憲明、イリスを頼むぞ?」


「……分かってる」


「イリスは口調こそ俺に似てるけど、それだけじゃなくスゲー優しい妹なんだ」


「……知ってるよんなこと」


「ククッ、宜しく頼む」


 そうして、俺とイリスは付き合うことになった。

 周りにいる皆が、「よかったな」、「オメデトー!」、「今度はお前かよ……」、「パチパチパチ~」、とか言ってくれてなんだか照れ臭かったけど。

 俺はイリスに手を差し出して立ち上がらせ、そのまま手を握った。


「宜しくな、憲明」


「俺の方こそ、宜しく」


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