第196話 新種?
11月13日
11:00
「イリス、お前的にどう判断する?」
「……難しいな。反応が微弱だし、なによりこの反応がそうなのか解らねぇ」
その日、カズとイリスの"索敵"スキルで何か変なのが引っ掛かったみたいだった。
「微妙過ぎてなんとも言えないぜ兄様」
「だな。……俺の"索敵"だとランク的にもかなり弱い」
「俺の"索敵"でも同じ判断だ」
マジで2人の"索敵"能力って凄いな。相手のランクとか、ほぼまる解りなんだからよ。
でも教えてくれるのは良いんだけど、その情報をちゃんと教えてくれよって話だ。
「とりあえず兄様、"索敵"に引っ掛かった場所に行ってみねえか?」
「そうだな、行って確かめてみるか」
11:40
っと言う訳で俺達は気配をなるべく消し、2人の"索敵"に引っ掛かった場所に行ってみると。
「……アレか?」
「アレっぽいな」
アレですか?
2人が岩場の影からそうっと見るから俺も見てみると、そこには1匹のモンスターがいた。
アレってもしかして……。
「ありゃどう見てもアレだな……」
「うん、アレだね」
「確かにアレですな」
「「ハリネズミ」」
そこにはまさかの"ハリネズミ"がいた。
でもハリネズミにしてはトゲが長いし、体も結構デカい。
大きさは約2メートルあるかないか。
トゲはどっちかって言うと"ヤマアラシ"って動物にかなり近いけど、全然違う。
……バウみたいに向こうから紛れ込んだのか?
バウだって元は日本固有のオオサンショウウオで、それが生き残る為にモンスターに変化したんだ。だからハリネズミが何らかの理由で紛れ込んで、それが変化してモンスターになったんじゃないかって思えた。
「お前的にバウと一緒なパターンだと思うか?」
そうカズに聞いてみると、カズは悩んだ顔を浮かべながら首を捻って唸るばかり。
カズの"鑑定"スキルで調べられないか聞いても、種族名が"???"でまったく解らないらしい。
もしかして新種か?
「……バウの時は普通にオオサンショウウオだったんだが、今回に関してはまったく解らねえ」
「んじゃお前が色々な新種を発見した時はどうなんだ?」
「う~ん、種族名は"???"だった」
「んじゃ新種のモンスターってことになるのか?!」
「まだ断言は出来ねえよ。新種って確定させるにはDNAサンプルが必要だし、これまでの生態系の中から類似する生物がいたのかどうかって、過去の文献とかを読んで調べなきゃならない。もしかしたら既存する生物の変異種って事もある。万が一、ハリネズミが紛れ込んでモンスターになったなら、種族名にはハリネズミって出てなきゃおかしいんだが……」
そう言って判断するのが難しいって顔でまだ悩む。
でもさ、俺の"カノン"だって太古から生き残ったモンスターで、その種族名が知られていたから初めて見る美羽だって解る事が出来たんだ。
なのにカズが"鑑定"スキルを使っても解らないってことはつまり、そのモンスターが新種かも知れないって事が濃厚になるよな?
それをカズに言ってみると、「……まぁ確かに」って言ってまた悩んだ。
「……どうする?」
「……ここは捕獲1択しかないでしょ」
「しかないな……」
俺とカズはお互い頷き合い、ハリネズミに似たモンスター捕獲作戦を相談することにして、ノワールには"隠密"スキルで動向を監視して貰うことにした。
「生きたまま捕獲したいところだな」
「でもあのトゲが厄介だ」
「そうだな、下手に折って無力化したとして、それがどんな悪影響になるか解らないからな」
「……網を使うのはどうだ?」
「網か……、だが網から逃げようとして逆に体を傷つける恐れもある」
「……まさかの手で捕まえるか?」
「んなことしてみろ、あのトゲだと簡単に体を貫通しかねない鋭さだぞ。現実的じゃねえよ」
「んじゃどうするよ?」
「「う~ん……」」
厄介だ……。傷つけないように捕獲するにはどうしたら一番良いのか思い付かねえ……。
そう2人でどうするか悩んでいると。
「いっそのこと、テイムしたら?」
「「?!」」
ヤッさんの言葉に俺達はその手があったかと絶句した。
「んじゃ誰がテイムする?」
俺はクロ、カノン、ソラ、ノワールっている。
家族が増えるのは良いことだけど、正直これ以上増えたらちゃんと面倒が見れるのかって悩んだから、俺は俺の代わりに誰がテイムするのか聞いてみた。
「……んじゃ僕がテイムしようかな」
自信は無い、だけど挑戦してみたいって事でヤッさんが名乗り出た。
「良いのか? お前は今、トッカーを進化させるのに手一杯じゃねえか?」
「うぅん……、カズの言う通り確かに大変だけどさ、トッカーと良いコンビになれたらそれに越したことは無いし、別に僕1人って訳でもないから大丈夫だよ。ね?」
「うん」
佐渡と目を合わせると、佐渡は顔を赤くして頷いた。
あぁ……、確かにその通りだな。ヤッさんが忙しい時は佐渡が面倒を見たりして、2人で協力すれば可能だな。
2人で協力し合って、何かを育てるってのがなんだか無性に羨ましく感じるけど。
「よし、んじゃヤッさんと佐渡の2人にあのモンスターは任せる事にするから頼む」
「「うん!」」
クソッ、ラブラブかよ。
その後、次にどう追い込むかについて話し合う事になった。
<カッロロロロロッ~>
その頃、ノワールは暇過ぎるからかあくびをしていた。
12:00
「作戦を決行する」
カズの号令に合わせ、ヤッさんは新種モンスターの退路を塞ぐため、"岩石壁"を使った。
<ピッ?!>
「俺達は別の退路を塞ぐ。佐渡、ちゃんとヤッさんのサポートしろよ?」
「うん!」
ヤッさんと佐渡意外の俺達は別の退路を封鎖。
と言っても、カズとイリスだけいれば十分なんだけど、そこにゴジュラスまでいるからその威圧感だけでどんなモンスターでも近づきたくない気分になるって。
「ゴジュラス、念のためにバトルフィールドを展開しておけ」
<畏まりました>
そこまでするか?!
カズとしては万が一って事を考え、ゴジュラスがバトルフィールドを展開しておけば更に逃げられなくなるだろって事らしい。
それでも俺がモンスターならカズ方面に向かって逃げたくないから、きっと同じ気持ちになる筈だと思う。
だって……、禍々しいオーラを放ってるんだぜ? 仮に逃げる隙があっても、恐怖でそっちに行きたくなくなるよ……。
そして、もし岩場を登って逃げるにしても、カズ達のスピードなら普通に退路を塞ぐことが出来る。
モンスターにとって難攻不落過ぎるってもんだ……。
「んじゃヤッさん、後は任せたぞ?」
「うん、頑張るよ」
退路を塞がれ、怯えて逃げようとしてももう逃げられない。
ヤッさんにとって、野生のモンスターをテイムするのは初めての事だから緊張した顔をしてるけど、そこは出来るだけ緊張しないで普段通りにしていて欲しいってのが本音だ。
だって自然体でいる方がテイムする成功率が上がるだろうし、モンスターだって緊張しないですむから。
「だ……いじょうぶ、何もしないから……」
固い、固すぎるぞヤッさん。
「だから、仲良くしよ?」
<ピィィ……>
完全に警戒しちまってるじゃねぇか……。
「はぁ……、なにしてんだよヤッさん、警戒させちまったらテイムする事が難しくなるぞ。一旦深呼吸しろ」
「あっ、ご、ごめん」
カズに何度か深呼吸しろって言われ、どうにか何時もの穏やかな顔で微笑むと、もう一度近づいていった。
「……大丈夫、敵じゃないよ。別に僕達は君に危害を加えるつもりは無いから、安心して」
<ピィ……>
それでもまだ警戒を解きはしないけど、ヤッさんと佐渡はその場に座り、トッカーとブチを呼ぶと2人はその場で撫で始めた。
「ほら、トッカーから何か言ってあげてよ」
「ブチも一緒に、お願い」
<フォウ>
<シュウ~>
なるほど、トッカーとブチを使って説得に出たか。
それなら少しは警戒を解いてくれるかな。
トッカーとブチは優しげな目でモンスターに出来るだけ近づき、説得してくれてるのかなにやら話してる雰囲気に見えた。
モンスターにしてみればブチの姿は恐怖でしか無いけど、そこにトッカーもいて、一緒に仲良さそうにしている。
ブチってあんな目もするんだな。
ディラルボアを知ってる俺としては、その目つきが悪いことを知ってる。ディラルボアだけじゃない、ヘビ系モンスターの目ってどいつもコイツも目つきが悪いってイメージを持ってる。
それはモンスターに限らず、ヘビ系全部に言える。
カズが飼育してるパイソン。ニシキヘビ達も全部。
だけど中には人に馴れて、結構優しそうな目をする奴らがいることも知ってるけど、それがヘビ系モンスターも一緒とは思ってもいなかった。
それが良かったからなのか、今まで怯えていたモンスターが少しずつだけど警戒を解き始め、トッカーやブチの匂いを嗅ぎ始めていた。




