第190話 スジ煮込み
「おつかれさん」
カズにおつかれさんって言われても、基本的に殆どノースを倒したのはノワールなんだけど。
「剥ぎ取りとかちゃんと出来るか?」
「俺よりヤッさんのほうが上手いからやって貰おうかなって」
「だったらちゃんと出来るようにしねえと駄目じゃねえか。まっ、剥ぎ取りした革や爪、牙はギルドに買い取って貰うか、素材として持ってるか好きなほうを選べばいいし」
そうだな、防具とか作るのに必要だろうし。
「でもノワールって本当に強いよね。まぁお父さんがお父さんだからなのかな?」
佐渡の言う通り、マジでノワールが強い。
"隠密"スキルで気配を完全に消しての奇襲攻撃。"砂粒操作"スキルで砂を操っての攻撃。その"砂粒操作"がまた凄い。
……ほんと、どこぞのアニメに出てくる我○羅かクロ○○イルですかって言いてえぐらいだった。
<カロロロロロッ>
それなのに今は俺に遊んで欲しいのか、めちゃくちゃ甘えているし。
<カロッ?>
見た目と裏腹に可愛いから許す。
「でもノワールってどのくらい強くなってるんだ?」
俺はノワールの喉をこちょこちょしたり、ボールを投げたりして一緒に遊んでると、カズが羊皮紙を出して教えてくれた。
「お前……、"鑑定"のスキル持ってたのか……」
「持ってたけど普通に忘れてた」
……コイツなら普通に忘れてそう。
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ノワール (雄)
種族名 メトゥスラプトル
Lv.22 ランクC
体力200 魔力100
攻撃180 防御60
耐性30 俊敏250
運50
スキル
感覚強化 熱感知 瞬足 隠密 探索 危険察知 伸爪 砂粒操作 闇魔法 炎魔法
ユニークスキル
殺戮者 闘争本能
アルティメットスキル
進化
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ゴジュラスとアリスの子供なのにランクCってのが気に入らねえけど、まぁまだ生まれてそんなに経ってないから仕方ねえか。
「早くもっと強くなれるといいな、ノワール」
<カロロロッ>
「ノワールならあと1ヶ月位したらランクB相当になるだろうな」
マジか。
「恐竜だって本来なら弱肉強食の世界で生き残る為に親が子供を守ったりしていた。その子供も生き残る為に早く成長しただろうし、強くなろうと必死になったと思う。だがノワールはハイブリッド恐竜だ。そこいらの恐竜なんかと一緒な感覚だと、直ぐに手が負えねえくらい強くなるだろうよ」
そうしたのはお前だけどな。
「けどノワールはお前を親だと思ってるし家族だと認識してる。だからお前の育て方次第で、予想より遥かに強く育つだろうな」
……責任重大な気がしてきた。
でも"バーゲスト"のクロだって上手く育てることが出来てるんだから、頑張ればなんとかなるんじゃねえかとも思えた。
クロはすくすくと育って今じゃ中型犬くらいになってるから、成長が早いなあって感じたし。
きっとノワールもクロみたいに、半年後にはもっと大きくなってんだろうなとも考えた。
「半年後が楽しみだな」
「ん?」
「あっ、こっちの話だ」
そう言って俺はまたノワールの遊び相手をした。
「さて諸君。今夜の飯の話をしたいんだが」
カズのその言葉に俺達は目を煌めかせた。
「なににしようか迷ってるんだが」
「ノースの肉とかって食べれないの?」
佐渡さん? なんで君はそんな恐ろしい事を聞くんですか? いくらカズが料理上手でもそんな、そこら辺にいるモンスターを食っても美味しくないでしょうに。
「ノースの肉はまぁ、不味くはねえんだけどスジが多いし固いんだよな」
ほらね? ソラと同類の"デーモンズ・ベアー"とは訳が違うんですよ訳が。
「でもモンスターって食材になるって山本君から聞いたよ? 食べれるのと食べれないのっているのは解るけど」
「なあ佐渡、お前……、興味があんの?」
「うんちょっと」
なんで平然とした顔で言えるんだお前。
「だって私の家って定食屋だし。だから興味があって」
なんですと?
「へぇ? んじゃもしかしたら俺と話が合うかもしれねえな?」
なんか……、カズの顔が怖い!
「んふふ、だからさ、ノースのお肉がスジ張ってて固いならさ……」
すると佐渡がカズになにやらゴニョゴニョと内緒話をすると、カズは余計怖い顔で微笑み始めた。
「クククッ、佐渡、お前もなかなか面白い発想をするじゃねえか」
「いえいえ、夜城君ほどじゃないですよ」
「「クックックックックッ」」
やめてくれ2人とも、どっかの悪大官とかに見えてくる。
そんなこんなでカズと佐渡の2人が調理を始めた。
用意する食材レシピだけど。
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・ノースの肉 ・トマト(荒野に自生する野生のお野菜) ・玉ねぎ ・ニンニク ・ネギ ・ブラックペッパー ・クレイジーソルト
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それで何を作るんだろ? って思ってると、2人は手際よく次々と調理を進めていく。
先ずは一口大にカットしたトマトを鍋で煮始め、ノースの肉も一口大に切ると叩いたり軽く切り込みを入れると別の鍋で軽く煮始めた。
その間に玉ねぎとニンニクをスライス。
煮ているノースの肉から灰汁が出ると、それを取ったりしてから数分後に、トマトの中にぶちこんで一緒に煮る。
するとそこにスライスした玉ねぎとニンニク。
それからもう暫く煮てから出来上がったのは。
「ノース肉のトマト煮込みだ」
なんと言うことでしょう! なんとも言えない旨そうな匂いが辺りを支配するじゃありませんか!
「夜城君とも話したんだけど、ノースのお肉ってどこか牛スジっぽかったから、それの代用になるんじゃないかなって」
「クククッ、佐渡、お前もなかなか良いセンスしてるじゃねえか。今度俺のレシピをお前にくれてやるよ」
「ホントに?!」
……いや、なんかカズは分かるけど、まさか佐渡にそんな才能があったなんて。
そう思いつつ、カズが味見と言って一口食べた後。
「……ご飯が欲しいなこりゃ」
そんなに旨いのか?!
最早我慢の限界に達しつつあった俺達は、カズに続けとばかりに食べた。
こ! これは!
一口食べて俺はサバンナに生きる1頭のハイエナになっていた。
食えるもんは全部食う!
それが骨だろうとなんだろうとお構いなしに食べ、草原を駆け回っているとハイエナになったヤッさんと佐渡を見つけ、一緒に走った。
「おい! あそこにトマトがあるぞ!」
「ホントだ! それじゃトマトをデザートにしようよ!」
俺とヤッさんがそう話して近寄ると、トマトの実は2つしかなっていなかった。
「なんだ、2つしかなってねえじゃん。どうする?」
するとヤッさんが、佐渡に自分は良いからってトマトを諦めた。
ホントに優しいなヤッさんはよ。
だから俺は2つのトマトを爪で切り分けたことで、3人でなんとか美味しくトマトを食べることが出来た。
自由にサバンナを走って生きるのも楽しいな~。
そう思っていると。
「おい憲明」
「ん?」
イリスが俺達の目の前に立ちはだかり、俺は簡単にブチのめされた。
「……はっ!」
「やっと起きたかボケ」
カズの辛辣な言葉で、どうやら俺達全員、脳内世界に入っちまっていたことに気がついた。
「なんで毎度毎度、お前らはなんか食うと変な夢を見るんだか」
「そりゃお前が作った飯が旨いからだろ!」
「お、おぉぅ、そうか、そりゃよかった」
しっかしなんつぅ旨さだ、マジで危なすぎるぜコイツの飯は。
「まっ、喜んで貰えて何よりだ。」
「兄様の飯は世界一だからな」
「ククッ、イリスもありがとな」
俺達だけじゃない。ゴジュラス、ノワール、トッカー、ブチ、ララ達も幸せそうな顔をしている。
でもなんでイリスが立ちはだかったのか訳が解らねえんだよな。
「おいイリス。お前もちゃんとこれだけの飯を作れるようになったら、好きな男の胃袋を簡単に掴めるのにな?」
「な! なに言い出すんだよ兄様?!」
「ブフーーーーッ?! ゲホッ! ゲホッ!」
カズが突然そんな事を言うもんだからイリスは顔を真っ赤にして怒り、俺は思わず口に入れてた物が変な所に入ってむせた。
「お前はなにむせてんだよ」
「だ、だってよ……」
「どうなんだイリス? 最近好きな男でも出来たんじゃ ーー」
「んなわけねえだろ! 兄様と言えど変なこと言ったら怒るぞ!」
「はいはい、悪かった悪かった、クククッ」
クソッ! マジでなに考えてんだよコイツ!
イ、イリスにす、好きな男なんて……。
と思いつつ、それが俺だったら嬉しいなと思った俺は本当に恥ずかしくなって、まともにイリスの顔を見れなくなっていると。
カズ、ヤッさん、佐渡、ゴジュラスがなんだかニヤニヤした顔で俺を見ていた。
クソッ! 俺をそんな目で見るなよ!




