第18話 動き出す非道な男
「しかし、おめえはえげつないなカズ」
「あ? なにが?」
「無自覚?!」
おっさん、それ言っても無駄だと思うぞ?
するとおっさんは右手で両目を抑え、空を仰ぐ。
「村中、短い付き合いだったな……」
「どしたぁ? ミコさん?」
「いや、なんでもない……」
俺達にしてみれば、カズのそのやり方に慣れているから苦笑いするしか無い。
すると一樹は何かを思い出したのか、急に顔が青ざめると、体が震えていた。
「おい、大丈夫か一樹?!」
気づいた俺は声をかけた。
「へ、平気だ。昔、カズと口喧嘩した時のことを思い出しちまった……」
「そ、それは?!」
もしかしてあの時か?!
俺はその時の事を思い出し、俺も思わず体を小刻みに震わせた。
「は、はは……、あの刑事さんの方が、まだマシに思える……な」
俺の言葉に、美羽、ヤッさん、沙耶の3人もその時の事を思い出したのか、同じ様に体が震え出した。
するとそれを聞いていたカズが頭をグルリと一樹に向けると、そこには身の毛もよだつ恐ろしい笑顔になって一樹に声をかけた。
や! やめろそれ! 怖ぇーからやめてくれ!
「なんだぁ? なにか言ったかぁ?」
「ひっ! 言ってない言ってない! まだ俺は何も言ってない!」
「言おうとしてたんじゃねえかこの"ばかずき"が」
馬鹿と一樹の名前を合わせ、ばかずき、と言い。今度は眉を八の字にさせて睨む。
「ったく。さて……、馬鹿やってねえでそろそろ準備するとしようぜ。なぁ……、骸」
〈ハアァァルルルルルル……〉
お! 遂に出んのか?!
ようやく出番かと言う感じで、骸の体から殺気がほとばしる。
ヤベェ、メッチャカッコいいぜ骸!
「ついに骸を投入か?」
おっさんはついに骸を動かすのかと言い、体が緊張して強張っているのが伝わってくる。
「そのようですね」
「柳さんはアレが出るとこを見たことあんだろ? どんな感じなんだ? 実際」
「集まった時に鬼頭さんから軽く説明を聞いてますよね? 骸はまるで、狼の形をしたワニの様なモンスターです。その為その動きは我々が思っているよりも俊敏。そしてその牙や爪はあらゆるモノを破壊し、切り裂く。最大の特徴はその体内で超低温の冷気を生成し、それを口や体から放出させ、あらゆる物を凍結。さっきも見たでしょ。何もしていないのに、ネズミの死体ごとワームの幼体を瞬時に凍らせて粉砕したのを。骸はその目に写る物全てを氷像にする力を持っています。だがそれだけでなく、周囲にすらそれは影響を及ぼします。……骸はこの辺一帯を瞬時に氷の世界に変え、自分のバトルフィールドを形成させる事も出来ます。その範囲は我々が知ってるだけで、半径300メートル。我々はそのバトルフィールドを"氷河期"と呼んでいます。それだけその造られたバトルフィールドの効果は凄まじいのひと言。下手に近づけば一瞬で氷像になりますし、なにより骸の攻撃力が跳ね上がります。そしてそれだけの力を持っているんですから、ありとあらゆる氷を操る術を持っているのは必然。つまり、ありとあらゆる氷雪系攻撃が出来ると言う事です。ここまで言って何か質問は?」
マジか?! 色々と質問したいけどここは我慢しろ! 俺!
「い、いや」
「結構。骸が操れる超低温がいったいどれだけなのか、我々は調べました。調べた結果、−280度以下。つまり、あの骸は絶対零度の支配者なんですよ。−280度以下なんて数値を出せるのはあの骸だけしかいません。故に、我々は骸を"氷帝竜"と呼んでいます」
誰だよ氷帝竜って呼び始めた奴! メッチャカッコいいじゃねえかオイッ!
「なあおい、その−280度以下って何だよ以下って」
「絶対零度と言われれば、−273度を主に意味します。しかし、アレは別格だ。調子がいい時は−300度近くにまで達する、まさに規格外の化け物。だから−280度以下と言うんです」
柳さんは口の隅をヒクヒクと引き攣らせ、眼鏡をクイッと指で押し上げながら話をし続けてくれた。
眼鏡をクイッて指で押し上げるの癖? 癖なのか?
「あんなのが敵に回ったら、終わりですよ、終・わ・り。通常兵器なんて瞬時に造られる分厚い氷の壁で阻まれ、戦車の大砲すら凍らされてしまう。しかもミサイルですら全く意味を成さなくなる程の、氷による絶対防御壁。まさに災害級の化け物、怪獣と言っても過言じゃ無い無類の強さを持ってます。そのランクは現在確認されてるどのモンスターよりも遥か上。ランクSS」
「まさか、そこまでとはな……」
やっぱ怪獣なんじゃねーか!
……それとランクSSってどんぐらいの強さか今一解んねえな……。
おっさんはそこまで話を聞くと、その余りに馬鹿げた存在に音が聞こえる程の唾を飲み込むのが聞こえた。
けど、そんな骸よりもっと恐ろしいのを俺は知っている……。
「でも、骸は骸だよね〜?」
そこに、満面の笑みで沙耶が口を出した。
やめろ沙耶、流石の俺でも空気を読めるぞ?
「メッチャ機嫌が悪い時もあるけど、昔からなんだかんだで私達とよく遊んでくれるし、怪我とかしたら心配そうな目で見てくれたりとかさ。背中に乗ってよくカズの庭を走ってくれたりしたな〜。お腹が空いたって言えば、カズが育ててる果物を黙って取って来て私達にそれをくれたり、一緒に寝たりしてくれたりしてさ。私にとってはお兄ちゃんみたいなんだよね、骸は」
それを聞き、おっさんや柳さん達は軽くビックリした顔になり、次第に我慢できずに笑い出した。
「ぷっ、ふっ、……くっははははははは!」
「ふふふ……っ、ふっ」
「あ〜! なんで笑うの〜?!」
沙耶は片方の頬を膨らませ、おっさんと柳さんに怒る。
悪い沙耶。俺も笑いそうになった。
「いや、すまん。はは、そ、そうだよな。ぷっふっ……。お前らも、骸との付き合い長いもんな。だからお前達は知ってる訳だ、骸の優しさをよ。よお柳さん、こりゃやられたな」
「え、えぇ……、やられてしまいましたね。骸は敵に回すととても危険な存在です。しかし、それ以上に骸は優しいってこと知りましたよ」
それでも沙耶は納得出来ていないのか、骸の側に行くと、その首を抱きしめた。
「行ってらっしゃい」
〈グ、グルルゥゥ……〉
「何だよ骸、沙耶には形無しか?」
そこへ、笑顔のカズが近寄る。
でもその笑顔がなんとも恐ろしい雰囲気をかもし出していやがる。
「それにしても、時折実ってる筈のバナナとか果物が無くなってんの、あれ、お前らの仕業だったのか」
その瞬間、沙耶と骸はビクッと体を震わせて固まった。
あぁ……、だから恐ろしい雰囲気を感じたのか……。
「お前ら後で説教だからな?」
「は、はは、あはは……、御免なさい」
〈グ、グゥゥ……〉
よかったー! 何時だったか俺も食いそうになったけど食わなくて正解だったぜ!
おっさんや柳さん達にとって、沙耶と骸のその関係がなんとも微笑ましそうに見ていた。
「さてと。こちら和也。そっちの状況はどうなってる?」
すると先生から無線連絡が入った。
『こちら鬼頭。刑事さんが中で泣き喚くからそれに反応して出てきたわ』
「寄生タイプか?」
すぐさまカズは無線を手に取り、先生に寄生タイプなのか確かめる。
俺は手に汗を握り、その会話に耳を傾ける。
『えぇ、間違いなく寄生タイプのワームね」
ようやく親玉が出てきやがったか。
「どんな形態の寄生タイプか分かるか?」
『そうねぇ……。口には2つのハサミみたいな顎があって、カマキリみたいな小さい鎌が2つ確認出来るわ』
「了解。それは刹那からの報告でも聞いた寄生タイプだな。形態を考えるに、恐らく寄生タイプの中でもレアモンスターの"マティフィルキルス"って奴だろう。寄生タイプなんて滅多に見る事がないモンスターだが、その中でもマティフィルキルスはもっと見る事が無い奴等だ。そいつの鎌には気をつけろ、なんでも切っちまうらしいからな」
『なにそれ、とにかく分かったわ、十分警戒しながら殲滅を始めるわ』
「了解」
「カズ……」
その時、骸に抱きついている沙耶が上目遣いで和也を見つめて声をかけた。
「なんだ?」
「……先生達、大丈夫だよね?」
その声は若干震えていた。
カズは沙耶の頭にポンと手を乗せて大丈夫だと伝え、沙耶の不安を出来るだけ取り除こうと頭を撫でる。
「えへへ」
嬉しそうな顔しやがってコイツは。
そして、廃工場内から銃撃音が鳴り始めた。
「始まったな。そろそろ俺も装備を整えるとしよう」
そう言ってカズは超大型トラックの荷台の中へと入って行き。その数分後に、カズは今まで着ていた服装から戦闘用の服装に着替え、銀色のアタッシュケースを持って出て来た。
組員の人達が着てる様な、黒々とした服に似ている。でも他とは違っていた。
上は黒い蛇柄のシャツに赤いネクタイと、その上からグレーのベスト。
そして上下は黒いスーツ姿。
でも、両太腿に2箇所ずつベルトループが存在し、そのベルトループには10メートルはある帯状の黒い蛇柄の紐がベルトの様に付けられている。
カズが好んで履いてる、V系ベルト式カーゴパンツに似てるけど違うな。
その先には紫色の石が付いた凶々しい形をした鎌。それを引きずってじゃなく、紐自体がまるで蛇の様に動き、宙をヒラヒラと舞っている。
更に、その両太腿のベルトループの上にはホルスターがあり、そこには独特の形をした銃が装備されていた。
次に銀色のアタッシュケースから何かを取り出し始めると、中から出されたのは指先が鋭く長い、銀色に光る爪が付いた黒い手袋、手の甲にも爪の様な刃物が幾つも付いていやがる。
手袋と言うより一種の武器だな、ありゃ。
それを左手にだけ装備し、右手には装備せずに腰ベルトに引っ掛ける。
そして懐からタバコを出して吸い始めた。
「だから俺達の前で吸うなよ……。俺達……、刑事なんだぞ?」
でもカズはおっさんの言葉をカチ無視する。
ちょっとぐらい聞いてやったらどうなんだよ?
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