第187話 手を組め
"異界"に入って直ぐ、俺達はカズとゴジュラスが作った結界に守られると竜の姿になった。
「おっ、おぉっ……、お懐かしい……本当にお懐かしい……、うっ……うぅっ……」
シャノンは崩れるようにして座り込んで、顔を岩に擦り付けて泣き出した。
「あ、ありがとぅ……御……座います……」
<……礼を言われることじゃねえよ>
「それでも! ……また、竜になられた貴方様のお姿を見れて……、感……無量に……御座います……」
<なぁ、最後にこれだけは教えてくれ……。どうして生き残った凶星十三星座達が目覚めるまで待てなかった……。今の今まで生きてきたんだろ。だったら待てた筈だ。違うか?>
そう聞かれても、それにシャノンが答える事は無かった。
<俺はお前を信じていた。お前だって俺を信じてくれていた。それなのに、……どうして裏切った?>
よっぽど信用することが出来る奴だったんだろ。だからこそカズは本当に、苦しそうな、悔しそうな顔でシャノンを見つめていた。
「申し訳……御座いません……」
カズがどんな気持ちでいるのか理解出来るから、シャノンは本当に心の底からの謝罪の言葉しか出てこないんだと思う。
<……覚悟はいいな?>
そう言われて、シャノンがゆっくりと頭を上げるとカズを真っ直ぐ見て一言。「はい」って答えた……。
「陛下……」
<……あ?>
「…………ありがとう御座いました」
<……ッ!>
瞬間、シャノンの首が飛んだ……。
俺は思わず、カズは優しいなって思えた。だってカズが苦しむ原因を作った張本人の1人なんだぜ? だったらもっと苦しませてから殺しても良いんじゃねえのかって思う。それなのに、出来るだけ苦しませない為なのか、一瞬で首をはねたんだ。
<この、馬鹿が……>
俺としては、シャノンは満足して死ねたと思う。
<……そう簡単に許すと思うなよ?>
まぁ……、カズはずっと許さねえだろうな。
<お前には償いをしてもらうからな?>
…………ん?
すると、斬り飛ばされたシャノンの頭が、いつの間にか元に戻っていた。
「?!」
<お前は確かに死んだ。だがそう簡単に俺がそのまま死なせると思ったか? お前みたいな有能な奴をそのまま死なせる訳がねえだろ馬鹿が。……お前にチャンスをやる。これからは俺の為に生きろ。いいな?>
ホント、マジで優しいよお前。
「へ……、陛下……」
<それから、今日から"ロゼリア"って名乗れ。それがお前の新しい名前だ>
「陛下……」
でも、カズが許してもそれを許せないって美羽が怒り出した。
「どうして許せるの?! カズは憎くないの?!」
<……お前の気持ちはありがたいよ美羽。でもこの件に関しては口出ししないでくれ>
「どうしてよ?! 元部下だから?! 元々仲間だったから許せるの?!」
<コイツは別に、俺の部下じゃねえよ>
「は? 部下じゃないのになんで?」
「美羽……」
そこで沙耶が美羽を止めに入った。
「カズだって辛いんだよ……。それに、理由があるから許したいんだと思う」
俺もそう思う。
じゃなきゃもっとエグい殺しかたをしてた筈だし。
「美羽、少し冷静になれ」
「おじさんまで……、どうして?」
御子神のおっさんも美羽を止めようとしてくれるけど、美羽は全然納得出来ないでいる。
「これでまたカズを狙ったらどうすんの? カズに冥竜王として復活して欲しがってるのに、どうして側に居させようとするの?!」
確かにそうかもしんねえけど、カズにはカズなりに考えてのことなんだろうよ。
じゃなきゃ狙ってる奴を平気で居させる訳ねえもん。
それに、ただそれだけじゃ無さそうなのは確かだ。
シャノン改めロゼリアを見るカズの目が、かなり悲しそうで辛そうな目をしてる。
それにカズの部下じゃ無いってことが引っ掛かった。
ロゼリアも過去に何があったのか知ってる。だからこそ、カズを冥竜王として復活して欲しいし、その、「奴ら」ってのを根絶やしにしたいんだと思う。
「あの方の無念を晴らすため」って言ってたけど、そのあの方ってのがきっと鍵なんだろ。
「……陛下。どうしてですか……」
<それがお前への罰だ。これから先、どんな未来になるのかその目で確かめろ>
「……はい」
<今の俺は戦争を望んじゃいねえ。でももう1人の俺は滅ぼすことを望んでいる。だから、最後まで生きて見届けろ>
「……畏まりました」
ロゼリアにとって、かなりキッツい罰になるだろうな。
死を覚悟して今までこそこそと動いていたのに。結局死ぬ事を許されないで、これからはカズの為に生きることになる。
それにいつになれば許してくれるのかも解らねえ。
……カズが敵になれば勿論、俺達はまたロゼリアと戦うことになりかねないんだけどな。
<んじゃロゼリア、お前に最初の命令だ>
「……はっ」
<今から俺の執事として、ヒスイ達に執事のなんたるかを教えてやってくれ>
「……え?」
うん、マジで、え? だよ。
<ヒスイ達の情報もあるんだろ?>
「あっ、いえ、その……。申し訳御座いません……。実は」
するとロゼリアはヒスイ達の情報は持っていなかったらしい。
勿論ゴジュラスの情報も。
ロゼリアが知ってる情報は、あくまでもカズが冥竜王の生まれ変わりって事ぐらいだった。
ただロゼリアは水面下で、どうすればカズを冥竜王として復活して貰えるのかを考えていて、その方法をずっと探っていた。
俺達の事とかは知っていたらしいけど、それはバウの時に出会った時までで、それ以降は別行動をしろって言う命令が来たからカズの監視をやめて、他の場所に移動したからそれ以降の事は特に情報が入らずに逆に困っていたんだとか。
それを知って俺達はどこか納得することができた。
<……良いように使われたな、お前>
カズの言葉に俺達は思った。
ロゼリアは、ノーフェイスって奴に上手く利用されて動くことになったんじゃないのかって。
「カズ」
<あ? ……お前が何言いてえのか解るさ。ノーフェイスって奴は相当頭がキレる奴に違いねえだろ。イリス、お前どれだけ情報掴んでる?>
「ゴメン兄様、実はそのノーフェイスって名前を聞くのすら今日が初めてだから何も……」
<流石のお前でもまだそこまでの情報を掴んでねえか。……危険だな、下手すりゃこっちの情報が漏れてる可能性だってある>
いや、それに凶星十三星座の情報も漏れてるかも知れない。
そう思うと、そのノーフェイスって奴がどれだけヤバい奴なのか徐々に実感しつつあった。
「おいカズ、ここは情報戦が得意な連中を集めてさ、そのノーフェイスって奴を見つけたほうが良いんじゃねえのか?」
「駄目だ。それが通用する相手だと思えん。それに相手が向こうにいるのか、日本にいるのかすら解らねえのに、どんな情報戦をするって言うんだ」
俺が言うと、御子神のおっさんにそう言われた。
「お前は情報戦がどんなもんか知ってんのか? 下手すりゃこっちの情報が漏れる危険性だってあるんだぞ?」
「うっ……」
「まずは奴らの情報を集めるだけ集め、地道にアジトを潰して着実に近付く方が堅実だ。イリス、邪竜教の情報を全部こっちに回してくれ。カズ、向こうの世界の地図があるなら用意してくれると助かる。そこから先は自衛隊と連携して、1つずつ減らしていく方向でどうだ?」
<ミコさんに任せる>
「よし、んじゃそう言うことだから邪竜教の情報に関してはこっちで引き受けた」
なんか、おっさんがカッコよく見えるんだけど。
「イリス。お前さんが元陸将に何を頼まれたのかなんざどうでも良い。邪竜教がカズにとって敵ならば、俺達と手を組んでも良い筈だ。違うか?」
「……兄様」
<お前が良いと思ったほうを選べ>
「……。……あぁわかったよ、んじゃ俺が持ってる情報全部教えてやるよ」
「よし」
そうして御子神のおっさんとイリス、そして自衛隊が協力して邪竜教を追い込む為に手を結んで動き出した。
 




