第182話 アンデッドの群れ
カズがエルピスの羽で強化してくれた俺の新しい武器、"炎剣・レーヴァテイン"の切れ味は凄まじいの一言しか出てこない。
「おるあぁ!」
11月2日
13:00
俺はその日。イリス、美羽、志穂ちゃん、御子神のおっさんの5人パーティーを組んで、とある討伐クエストに出ていた。
ちなみに、その日の朝にはエルピスは戻らないといけないって事で帰っている。
【 アンデッド討伐 】
数百を越えるアンデッドの討伐。
"ゾンビ"、"スケルトン"、"スケルトンナイト"の討伐なんだけど、なんでまたこんなアンデッド系の奴らが現れたのか解らない。
ただ、コイツらが現れたことで通行に支障が出てるって言うし、近くの村が占領されたって話しもあって、その調査とアンデッド達を殲滅しつつ、村の奪還依頼を請け負った。
「それにしてもこのレーヴァテイン、めちゃくちゃ凄すぎるって!」
「羨ましいな~」
俺の感想に美羽が羨ましがるけど、それには理由があった。
カズはたった一夜で美羽達の武器まで完成させた。
だけど、完成させたのは良いけどまったく扱えることが出来ないでいたんだ。
それが何故なのかって言うと、竜になったカズの鱗や甲殻、牙や爪で出来た武器が余りにも常識外れで、めちゃくちゃ重いし持つ勇気が出ないくらいのオーラを放っている。はっきり言って呪われた武器って言いたくなる様な、異様なオーラだ。
かと言って別にそれを受け取った本人達が持てないってことはなくて、普通に持つことは出来るんだけど、さっき言ったようにめちゃくちゃ重いから普通に扱えないでいる。
普通に扱える事が出来るようになるには、まだまだレベルが足りないってことなんだろうな。
「てやぁあっ!」
それにしてもこのレーヴァテインの切れ味が怖すぎる。
でも切れ味が物凄いって言うより、焼き切るって例えたほうが正しい。
ゾンビとか体が腐敗してるから、臭いが酷くなるんだけどな……。
「うるぁっ!」
それに、焼き切った箇所から炎が噴き出すし、ある程度の炎を操っての攻撃まで可能だったりする。
ホント、マジで凄過ぎだろ。
そんな中、もっと凄かったのが御子神のおっさんだったりする。
「頭をガンガン狙え!」
解ってるっちゅーに。
おっさんは"F-2000"って言うお気に入りの銃を使って、アンデッド達の頭を狙って撃っていた。
やっぱさすが刑事だからなのか射撃が上手い。
しかも丁寧に撃ってるからなのか外したりしていない。
でも。
「なんで頭を撃ってるのに起き上がってくるんだコイツら!」
ゾンビはまだ良いとして、スケルトンとか、骸骨系のモンスターには効果が無かった。
「スケルトンみてえな連中の胸に、赤いコアがあるだろ。それを破壊しねえ限り、バラバラになっても何度でも起き上がってくるぞ」
「それを早く教えてくれねえかな?!」
イリスがそう教えてくれると、おっさんは苦虫を咬んだみてえな顔で睨んだ。
「あ? 聞かれなかったから言ってねえんだけど?」
……ごもっともです。
「くそっ、今まで撃ってた弾が無駄になっちまったじゃねえか」
「でも聞かなかった俺達が悪いんだからさ、そう怒んないでくれよ」
「まぁ確かにな。ちっ、ゲームだったら頭を潰しゃぁそれで倒せるのによ」
いやいやいや、ゲームから情報を持ってくんなよおっさん!
それを聞いて苦笑いを浮かべつつ、俺はゾンビの他にスケルトン達のコアを切って破壊。
でも見た限り周りにはまだまだいる。
「美羽! コイツらアンデッドの弱点って光魔法だろ?! 数が多すぎるからステラの攻撃でまとめて殲滅出来ねえか?!」
「やってみる!」
俺がそう聞くと、美羽はステラに光魔法を使わせて、周囲にいるアンデッド達を一掃し始めた。
使った光魔法は"聖なる雨"。
神聖な光の雨を周囲に降らせて、アンデッド達を次々とその光で浄化していく広範囲魔法。
その魔法のお陰でスケルトン達のコアを破壊すること無く倒せたから、コアを回収する事が出来た。
「取りあえず何体倒せた?」
「ゾンビで56体、スケルトンで……コアの数とかを考えて約50体近く、スケルトンナイトだと16体ってとこかな」
美羽に数えて貰ったけど、まだ村に入ってもいないのにそれだけの数がいるなんて驚きだ。
はぁ……、村を占領してる数を考えると、どれだけの数を相手しなきゃなんねえんだよ……。
ギルドから数百体とは聞いてたけど、しょっぱなから百を越えるアンデッド達の相手をしたから、皆かなり疲れていた。
「おい憲明、ひとまずここで休憩をしておかねえか?」
「そっすね、そうしますか」
おっさんに休もうと言われて、俺はそれに賛成してひとまず休むことを選んだ。
「おっさん、弾薬ってあとどれだけ?」
「弾薬はまだまだあるから心配いらねえが、アンデッドの相手をしてるとなんだか気が滅入ってくる。要は元人間だろ? 人間の死体を相手にしてんだからよぉ、そりゃ疲れるってもんだろ?」
「確かにそりゃそうか……」
そんな会話をしつつ、俺は村まであとどれくらいの距離があるのか美羽と一緒に地図を広げて見た。
「今、私達がいるのはここだから、村まで残り2キロってとこかな?」
「後2キロ?」
マジかよ、んじゃアンデッドの群れはあとどれだけいるんだよ……。
「森の中とかも考えたら、相当な数がいるってことになるね」
「アンデッドが大量発生する理由って解らねえか?」
「カズから聞いた話だと、無念な死を遂げた魂が成仏出来ず、死体に宿ったことでアンデッドとして動き出すって事は聞いたけど」
確か……カズは前に"創造"の力で、"死霊術師"ってスキルを使った事があったよな……。
もし一緒に来てたら喜んでその魂を何かに利用しようと考えたかもしんねえな。
「ここは"邪竜教"の連中が実験をしてたっていう場所だからな、連中がなんらかの方法でアンデッド達を生み出したんだろ」
そう言ったのはイリスだ。
聞けば、イリスは元陸将の稲垣さんに頼まれて、邪竜教を調べたり追いかけたりしてたんだとか。
やっかいな事をしてくれるぜ。
「その邪竜教ってのはどんな連中なんだ?」
「邪竜教ってのは、兄様を冥竜王として復活させようとしてる連中だ。その為ならなんだってするぞアイツら」
つまり、向こうの世界で言うならテロリストみたいな連中ってことかな?
「イリスはそいつらを調べてどうしたんだ?」
「殆ど壊滅させてやったよ」
「そ、そうですか」
だから居ないことが多かったんだな。
「ちなみに、どのぐらいの規模の組織なんだ?」
「正確な数が解るかよ。連中は皆、邪竜を象った首飾りを身に付けてるからそれを確認した瞬間に殺してるからよ、どれだけ殺したかもわかんねえし」
「んじゃそいつらは向こうの世界にもいたりするのか?」
「……いる。確実にいる」
いると聞いた俺は、一瞬寒くなった。
理由は3つ。
1つ、正体を隠されたら誰が邪竜教なのか解らない。
2つ、何時どこでカズを狙ってくるか解らない。
3つ、カズをわざと怒らせる為に誰彼構わず殺すかもしれない。
それを考えたら、迂闊に信用出来なくなる。
「確認なんだけどよ……。そいつら、カズを狙ってくるか?」
「間違いなく狙ってくるな。凶星十三星座とはまた違う思想だけど、危険な連中に変わりねえ」
「だったら俺達でカズを守らねえと」
その為にはもっと力が欲しい。
カズを守れるだけの力が。
それが例え稲垣さんでも、俺はカズを守る為なら躊躇わず剣を振るってやる。
そう思ってると草むらの中からガサガサって音がしたから、俺達は身構えた。




