第180話 アナザーワールド
<さて、そろそろ人間の姿に戻るか>
カズがそう言うと。
「お待ちくださいにぃに」
ミルクが止めた。
「宜しければ、私とイリスの2人でにぃにに御手合わせ願いたいのですが……」
なに馬鹿なこと言ってんだよ?! 普通に危険過ぎるだろ!
そう思った。
だって、訓練施設でカズとミルクとイリスが本気で手合わせしようもんなら、絶対にブッ壊れるどころか辺り一面が無くなっちまうって思えたからだ。
そうなってみろ……、またマークのおっさんがぶちギレるって。
「にぃにの"次元空間"なら大丈夫ではありませんか?」
"次元空間"?
<……そうだな、それもいいな。んじゃ、俺のバトルフィールドにお前ら全員招待してやるとするか>
するとカズを中心に、黒い球体が広がって俺達全員は飲み込まれた……。
「……ここは? ……ッ?!」
<ようこそ。ここが俺のバトルフィールドだ>
周りを見た瞬間、そこがいかにヤバイ空間なのか解った……。
カズの後ろに巨大で禍々しい、ブラックホールみたいな穴、または皆既日食状態の太陽みたいなバカデカイのがある暗黒世界……。
そしてその空間には大小様々な岩とかが宙に浮いていて、上下逆さまになってその岩に立ってる奴や普通に立ってる奴がいて、重力がバラバラになっていた。
正直平衡感覚が狂わされる。
<ここが俺のバトルフィールド。"異界"。……さて、それじゃぁ参戦しない奴は憲明達を守ってやってくれ>
すると先生とゴジュラスが急いで俺達の周りに結界を張ってくれた。
<準備はいいか? ……来い>
瞬間。
ミルクとイリスは物凄い速さでカズを両サイドから挟む形で攻撃を始める。
ミルクの拳とイリスの蹴りがぶつかり合って、強烈な衝撃波が発生するけど、そこにはカズの姿は無かった。
<遅いな>
「「?!」」
カズは2人の直ぐ真上からニヤッとした顔で笑っている。
<ハアァァァァ……>
瞬間、2人は強烈な爆炎に包み込まれた。
"瞬炎"。カズの得意としている、"魔眼"による爆炎攻撃。
でもその威力は今まで見てきたよりも桁が違う。
「ちっ!」
イリスは爆炎に包み込まれながらも、長い尻尾でカズを捕まえ、ミルクはいつの間に持っていたのか真っ赤な日本刀でカズの首を狙って抜刀。
それでもそこにはもう、カズはいなかった。
なんだあれ……、異常だろ……。
俺はカズの異常な動きに圧倒された。
カズは確かにそこにいた。なのに次の瞬間には何故かいなくなっている。
まるで初めからそこにいなかったっておもっちまう……。
「くっ! 速すぎる!」
「ミル姉!」
「分かってます!」
今度はいつの間にか、紫色の日本刀もミルクは持っていた。
右の腰に紫色の鞘、左の腰には赤色の鞘なんだけど、それぞれが鎖で固定されている。そんな2本の日本刀を改めて鞘に戻すと。
「抜刀……、"柴炎"」
双剣技か!
2本の日本刀を腰に装備してる時点で、ミルクが双剣使いなんじゃないかとは思ったけど、案の定そうみたいだった。
赤色の日本刀は炎を纏っていて、紫色の日本刀は……、その時は全然なんなのか解らなかった……。
でも、両方同時に抜刀したことで炎の勢いが強くなり。紫色に変化した炎の斬撃がカズに直撃したんだ。
「これで少しはにぃにに ーー」
<今、何かしたか?>
「!!」
殆ど表情を変えないミルクがその瞬間、酷く怯えた。
するとカズの周りに青い球体が幾つも現れて。
「"反射光線"!」
イリスが拳銃2丁にエネルギーを溜めると、青い光線を発射。
2つの光線はカズの周りに浮遊している球体に次々にぶつかると、更に威力が増していってカズに当たって青色の大爆発が引き起こされた。
「これでどうだよ兄様!」
でも……。
<まだまだだなイリス>
「うっ?!」
カズがイリスの真後ろで、腕を組ながら背中を見せた状態で浮遊していた。
<どうした? もっと本気を出しても良いんだぞ?>
そう言って、真っ赤に燃えるような瞳を向けながら笑っていた。
<まずお前らのスピードが遅すぎる。そこに実体があると思ってるから攻撃が届かない。実体を確認する前にきちんと気配を読んだか?>
俺はカズが何を言ってるのかさっぱり解らないでいた。
実体がそこにあるって認識してるし、気配だってそこにあるじゃねえか。
何言ってんだよアイツ?
でも、それが大きな間違いだったんだ。
<憲明達が解らないと言うならまだ分かる。だがお前らはどうだ? 俺はお前達に血を与えたんだぞ? 何故理解出来ない?>
ど、どう言う意味だ……?
<どうして俺がまだ、攻撃しないのか、その理由が解らないのかよ? 解らないなら……、その体に叩き込んでやろうか?>
攻撃していない? さっき"瞬炎"で2人を攻撃したじゃねえか。
そう思っていたら次の瞬間、ミルクとイリスの2人が一瞬でボコボコにされる光景が目に飛び込んできた。
「ガハァッ!」
「うっ……グッ!」
<……まだまだ弱いな>
まてまて……。俺の認識がバグってるのか?!
今、まだまだ弱いって言ったか?!
それに……、今……、なにしたんだよ?
カズの力は明らかに人間の姿よりも強すぎる……。
それに、カズがただ腕を組んだままで動いていないのに、2人がどうしてボコボコになったのか理解出来なかった。
「力はあれど、まだお兄様の本質を見抜けないでいるのですね」
「エルピス?」
エルピスが言ったカズの本質。
それがなんなのかミルクとイリスはまだ理解出来ていないらしい。
それでも2人はカズにボコボコにされながらもまだ挑み続けた。
<"百鬼夜行">
バニラの時に見たカズの技、"百鬼夜行"。
竜の姿になったカズがいくつもの残像を作り出し、ミルクとイリスを更に追い込む。
竜になったカズの大きさは、約5メートル。
だいたいゴジュラスと同じぐらいだって言うのに、そのゴジュラスとは違ってめちゃくちゃ動きが速いし、その存在に恐怖を感じる。
<"引力">
「うっ!」
「あっ!」
カズの引力で引き寄せられた2人は顔を鷲掴みされ、そのまま巨大な岩に叩きつけられると、強力な振動波を顔面に何度も受け続けたことで岩もろとも吹き飛ばされた。
<"鵺">
更にカズは"鵺"って言う、獣みたいな強力な雷攻撃で2人に攻撃した。
<美羽、よく見たか?>
「……うん」
<ならいい>
まてまてまて、美羽に覚えさせるために"鵺"って技を放ったのかよ?!
でもその"鵺"って言うのが強力だからなのか、ミルクとイリスは動けなくなっていて、気絶していた。
<……なんだ、もう終わりか?>
冗談キツ過ぎる。
ミルクとイリスがどれだけ強いのか、俺達はこの数日で思い知ったんだぞ? なのに……、そんな2人を簡単に動けなくしちまうって……。
「……第二形態でありながらそこまでの力を取り戻されているのですね、お兄様」
<あぁ……>
「これで最終形態である完全体に戻れば……、恐らく過去よりも……」
<そうだな。俺は、生まれ変わる度に強くなっていくからな>
「!! 成る程……、だから凶星十三星座はこれまで動かなかったのですね……!」
ん? どう言うことだ?
エルピスはそれで辻妻が合ったって顔で固まると、急に怖い顔でカズを睨んだ。
<そうだ。だからこそ、また俺を復活させるために殺そうとしているのさ>
「そして……、再び1つになった魂と魂によって……。ッ……正に絶望的ですね……」
<その情報を手に入れただけでも収穫だったろ。……ミルクとイリスに後でお礼を言っとくんだな>
ミルクとイリスに? つまり……、2人はワザとその情報をエルピスに教えるために、カズに挑んだのか?
「そうですね、後でお礼をしなくてはなりませんね」
その後。
人の姿に戻ったカズはミルクとイリスをゼイラムで持ち運んで、この空間から出ようとした。
「おい憲明」
「ん?」
カズに呼ばれた俺は、なんだろ? って思ってると。
「お前がイリスを運んでやれ」
「え?!」
「え、じゃねえよ。良いから黙って運べ。せっかくのチャンスを捨てるなら構わねえけど?」
「うッ! す、捨てませんとも!」
俺はイリスを、お姫様抱っこで受け取って顔を見た。
手合わせとは言え戦闘訓練だ。カズの攻撃で出来た傷が、徐々に再生し始めている。
よかった……、コイツの可愛い顔に傷が残らなくて……。
イリスを思えば思うほど、もっと好きになっていく……。
……イリスは、人間じゃない。カズの話からすると、限りなく亜人に近い。
だけど、元々イリスは爬虫類。オオトカゲだ。
俺のこの気持ちが届くのかなんて解らない。
そもそも、種族が違いすぎる……。
でも…………。
俺は完全に惚れちまっていた。
「なにしてる、行くぞ」
「んっ、悪い」
カズに言われた俺は、イリスを抱き抱えながらカズが作った空間から出ることにした。
尻尾……、引きずってるけどそのぐらいたいしたことねえよな?




