第179話 竜の姿
それから俺達は、改めてハロウィンを楽しむ事にした。
レイナ達は初めて見るパレードを見たりして踊り。御子神のおっさん達刑事は周りを警戒しようとすると街の人達に捕まって、いつの間にか酒を飲んで楽しみ始めた。柳さん達公安は、そんな御子神のおっさん達に捕まると最終的に一緒に飲んで、柳さんは酒が弱いのか即効で潰れてるし。
皆、思い思いに楽しむことが出来ている。
「ここにいたのかお前ら」
そこにゼオルクのギルド支部長、ウルガさんがめちゃくちゃデカいビールジョッキを持って現れた。
「お前らも楽しんでるか?」
「ここに来て初めての祭りだから楽しいっす」
「そうかそうか。ゆっくりしていけ」
俺とウルガさんがそんな会話をしてると、そこでカズが呼び止めた。
「頼みがあるんだけどさ」
「なんだ? 言ってみろ」
「後で時間が出来たらギルドに行かせるから、あそこにいる人達とコイツらにギルドカードを作ってやって欲しいんだ」
「分かった。んじゃ後で来させてくれ」
それは澤崎と佐渡、岩美、そして御子神のおっさん達のギルドカードを作る話だった。
澤崎達は分かるけど、どうして御子神のおっさん達のも作るんだ?
御子神のおっさん達は刑事だ。だから別に作る必要が無い筈だろって俺は思った。
それで話が終わると、ウルガさんはビールジョッキを持って、パレードに参加した。
「ところでエルピス。お前に1つ頼みがあるんだ」
「なんです?」
「お前の羽を1つくれないか?」
「別に構いませんが、何に仕様するおつもりか聞いても?」
「コイツが持ってる剣を強化したい」
そう言って親指を立てて指したのは俺だった。
「コイツが持ってる剣は俺が作った剣だ。その剣にお前の羽を材料にして、強化してやりてえんだ」
「そう言う事でしたらお使いください。いずれ来る、お兄様との戦いに向けて強化する必要がありますからね」
そんな会話をしてて、マジで味方なのか敵になるのか訳が解らなくなってくる……。
でも今はお互い仲良くして、休戦的な関係なのかも知れないとも思った。
そして、エルピスはテーブルの上に綺麗に光輝く1枚の羽を置いて、カズはそれを受け取るとお礼にって何かのデカい牙をテーブルに置いた。
「俺の牙だ、何かに使えそうなら使ってくれて構わねぇ」
は?! 何時そんな牙生えてたんだよ?!
「……宜しいのですか?」
「俺の人格がどうなるかまだ解らねぇ。その時が来たら、俺は死んでもう一人の俺に吸収されて消えるかも解らねぇ。だが俺って人格はもう一人の俺とは違って、そんな戦争はしたくねえんだ。だからよ……、お前達でその時は俺を止めてくれ」
「……はい」
「それならカズ、私にもカズの牙、出来れば3つ貰えない?」
美羽がまた訳の解らない悪巧みでも思い付いたのか、真剣な顔でカズに牙を3つ欲しいって言い出した。
「まず、何に使うのかによるな」
「"彼岸花"の強化に使いたいの。スキルだけでじゃまだ心許ないし、武器もちゃんとした物を用意出来れば対抗することがもっと出来る筈だし」
「……分かった」
「カズってドラゴンの姿になれるから牙を渡せたの?」
すると今度はヤッさんが食いついた。
「まぁ……な。ただ怖がられると思って美羽ですら見せたことがねえが」
つまり、冥竜の姿って事だよな……。それは見たいぞ!
それから皆でカズを説得して、地下訓練所でその姿を見せて貰えることになった。
21:00
ー 地下訓練所 ー
「んじゃ、出来るだけ周囲に結界を張ってくれ」
カズに言われ、先生、ゴジュラス、エルピスで強力な結界を張る。
するとカズから尋常じゃない魔力が溢れ出した。
「お前ら絶対に近づくなよ? 今のお前らが近付けば、八岐大蛇の瘴気なんかより危険だからな?」
そしてその時……、周りからまず音が消えた。次に、自分の身体の感覚。
何も感じない……。ただ、目の前に禍々しい魔力が俺達を取り囲むようにして広がってるぐらいしか解らなかった。
「何が、どうなってんだ?」
俺達が周りを見ると、後ろにいる先生やゴジュラスが身体を震わせながら、今まで見たことが無い位に酷く怯えた顔で固まっていて、エルピスは緊張した顔でジッと見ている。
ど、どうしたんだよ……いったい?
<ハアァァァァ……>
二重三重って幾つもの声が重なった、不気味な溜め息が聞こえた瞬間、俺達は理解した、いや理解させられた。
今の俺達じゃ、到底受け止めきれない程の、圧倒的過ぎる重圧だから逆に感覚が解らなくなってるんだって事を。
先生やゴジュラスは、カズがどれだけの存在なのか解るからこそ、その重圧で顔を歪めているんだ。
もしかして俺達……、もう死んでる……?
そう表現する他、思い付かない……。そこにいるだけで俺達はもう、死んでいるのと同じだったとしか言えねえんだ……。
<どうだ? これが俺の姿だ。感想を聞かせてくれ>
そこにいたのは、まるで夜の様な漆黒のデカい竜。
甲殻に覆われてるからそう見えるのか、サメみたいな頭に、額には一本角。4つの凶悪な目が煌々と光ってて、光の軌跡を棚引かせている。
全身に凶器みたいな逆鱗に、胸にはデカくて禍々しい目が光り、それを守るようにして肋骨みたいなので守ってた。
<人の姿が第一形態なら、この姿が俺の第二形態。この姿の俺とまともに戦えるのは、そこにいるエルピスと、ゼストとパンドラ、そしてミルクとイリスだけだな>
ってことは……、凶星十三星座すら話にならねえくらい……、強いってことだよな……。
そりゃ俺達なんかがどれだけ挑んでも勝てるわけねえよ。
だって、存在が間違ってる以前に次元が違いすぎるんだからよ。もう別次元の存在だよ別次元の。
そりゃ先生とゴジュラスが怯えても仕方ねえよ。
<クククククッ、まぁそんなにビビる必要はねえよ。取りあえず今、牙を抜くから待ってろ>
そう言って、竜の姿になったカズは自分で牙を3本抜いた。
<あっ、そうだ……。後は甲殻と鱗、逆鱗と爪を幾つか取っておくか>
「自分の体だからってやりすぎだ馬鹿!」
思わず俺がそうツッコミを入れると、カズがキョトンとした顔から急に笑いだした。
<悪い悪い、直ぐ再生するから別に平気なんだが……、まぁ、周りからしたら自傷行為だって思われちまうよな>
「ホントだぜ。いくらなんでもやり過ぎだっつうの」
<クククククッ、まさかお前にそんなことを言われるなんてな。んじゃエルピス、悪いが手伝ってくれるか?>
「は、はい」
呼ばれてエルピスが甲殻とか鱗の剥ぎ取りを手伝い、爪も幾つか切ったりした。
<取りあえず材料はこれだけありゃ良いだろ。後は美羽の"彼岸花"の強化に、牙だけじゃなく、爪と鱗なんかも使うとするか>
それを聞いて、なんかとてつもない短剣が産まれそうな気がした。
「あっカズ。良かったらカズの素材を使って、僕専用の大盾を造って貰っても良いかな? 勿論お金は払うよ」
ヤッさんがそう言うと、カズは<金なんて要らねえよ>って言って、タダで造ってくれることになって羨ましかった。
<他に誰か俺の素材で強化、製作して欲しいって奴がいれば、限定で後2人位ならやってやっても良いぜ?>
その瞬間、美羽とヤッさん意外の全員が手を挙げた。
<おいおい憲明、お前はエルピスの素材で更に強化するんだからそれで満足しとけアホ>
「アホって言うなアホって!」
だから俺、美羽、ヤッさん。この3人意外でクジを引いて、当たった奴が作るか強化される流れになる。
まっ、確かに俺の場合、カズの妹で不死鳥って呼ばれるエルピスの羽で強化されるんだから大満足だぜ。
そしてこの後、その武器がとんでも無くエグい物になる事をまだ、俺達は知らなかった。




