第177話 ハロウィンナイト1
昼間はカズの家でパーティー。そして本番の夜になると、俺達はゼオルクの街に出た。
19:00
ー ゼオルク ー
夜の7時になると、ゼオルクの街にいる色んな人達も仮装してパレードが始まった。
「こっちの人達ってハロウィン知ってるのか?」
「数年前からな。皆色んなモンスターの仮装したり、向こうと一緒で奇抜な格好をした祭りになってる。美羽は去年と一昨年は来れなかったが、それまでは一緒に楽しんでたな」
「うん、凄く久しぶりだからなんか嬉しい」
思えば確かに不思議だったなって思える。カズの言動とかじゃなく、美羽の言動がな。
初めて魔道書を買いに行った時なんてまるでそこに自分の事を忘れるなみたいに、女同士の喧嘩に混ざろうとするし、不自然な言動があったりした。
「皆、やっぱり火の鳥の仮装が多いね」
「そうだな」
「火の鳥?」
美羽とカズの会話に出た火の鳥が気になる。
「話してなかったな。ここゼオルクは「大いなる鳥の大地」って呼ばれてるってのは前に話したよな? その、大いなる鳥ってのが火の鳥、つまり"フェニックス"なんだ」
「フェニックスって、あの?! でもそれがどう関係してんだよ?」
「ここで雨が降ってる事がほぼ無い事に気がついてるかどうか知らねえが、そのフェニックスの影響もあってここの土地は殆ど雨が降らない。だが、ここら一帯の植物が枯れないってのも、そのフェニックスの影響があるからだ。ましてやその恩恵もあって、他と違って危険なモンスターが近づかないってのもある」
「んじゃめっちゃいい場所なんじゃねえか」
「だろ? ここにはフェニックスの羽根が幾つも地面深くに埋められているからな」
「だから"ゼオルク"って呼ばれる街になったのか」
「ここは何処よりも恵まれた土地だ。必要な時に雨が降り、必要以上に雨が降らない。そうして緑溢れる豊かな土地となった。だから皆ハロウィンを知って、その恩恵に感謝の願いも込めた祭りを始めた。火の鳥フェニックスは"不死鳥"とも呼ばれるモンスターで、この世に一体しか存在しないモンスター。だがそのフェニックスが今何処にいるのか、不死鳥と呼ばれてるが本当に不死なのかどうかさえ誰も知らねえし、生きてるのかすら不明ってこともあって幻の存在だと言われている」
「んじゃ見たことがある人はいねえのか?」
「いない。たんなる言い伝え、伝説、作り話、そう見えただけで本当はそうじゃない別のモンスター、だから本物を見た奴は誰一人として見たことが無いらしい」
「……前世のお前は知ってるんじゃねえのか?」
そんな気がした俺はそう言うと、皆の視線がカズに集まって黙り。静かに夜空を見上げて微笑んだ。
「……勿論、よく知ってる」
「んじゃ、マジでフェニックスは実在すんのか?!」
微笑みに少し影が落ちると、カズはフェニックスの事を話してくれた。
フェニックスは燃えるような美しい姿をしていて、前世のカズとはかなり仲が良かったらしい。性格は優しくて、怒るとめちゃくちゃ怖いけど皆から愛されている存在。
だけど……、前世のカズと仲違いしたことでお互い縁を切った……。
「アイツと縁を切りたく無かった……、でも前世の俺はお前らが聞いたように、ありとあらゆる世界を支配しようと暴走を始めた。それをすぐ側で見ていたアイツは俺に怒って、側からいなくなっちまった……」
そうか……、それだけ仲がよかったらそんなカズを見て……、ツラかったんだろうな……。
「だがそんな俺が……、今呼んだら来て顔を見せてくれるのか?」
「カズ?」
すると身体中が不思議な温もりに包み込まれた。
「お前の事だ、ずっと見ていたんじゃねえのか?」
そう言ってカズは夜空を見上げた。
「まだ間に合う……、話せばきっと解り合える、そう思ってるだろ」
段々と不思議な温もりは強くなると、地面から暖かい魔力が溢れて光始めた。
「だったら来いよ。数千万年ぶりに、兄妹として話をしようじゃねえか」
「はあ?! 兄妹?!」
その瞬間、空から光の柱が降りて周囲の音が搔き消され、1人の少女がゆっくりとカズの前に降りて来る。
誰だあれ?! カズが言ってた兄妹なのか?!
ピンクがかった長い金髪がキラキラと煌めく、可愛くて綺麗な少女が降りると、光の柱が細くなって消えた。
「久しぶりだな」
「……はい、お兄様」
お兄様……、ってことは妹?!
「元気そうだ」
「はい……、お兄様も……、元気そうでなによりです……」
すると少女はツラそうな顔で目から涙が零れた。
「お前らに紹介してやる。コイツは俺の妹の"エルピス"。またの名が、"フェニックス"」
「「 え~~!! 」」
「皆さん初めまして、エルピスと申します」
当然、全員驚きました。
でもミルクとイリスは黙ったまま、カズを挟むようにしてエルピスを警戒している。
「そう警戒すんな、ミルク、イリス。エルピスが護衛無しで来たんだから敬意を示したらどうだ? お前らにとっても姉なんだぞ? あ?」
「も、申し訳ありません……!」
「ゴメンなさい……!」
珍しくカズがそう言って2人を睨んで怒るから、2人とも怯えた表情になった。
「仕方無き事です。私がこうして来たんですから警戒して当然かと」
「だが俺が呼んだんだぞ? それに応えてくれたお前に敬意を示さねえでどうするよ。……だからお前は甘いんだよ昔から」
「ふふっ、お兄様にそう言われるの、本当に懐かしいですね」
今まで泣いていたエルピスが笑顔を見せて、涙を拭こうとすると、カズがすっと指を出して残ってる涙の雫を取り払ってハンカチを手渡した。
「ここで立ち話もなんだ。周りが見てるし何処か落ち着いて話せる場所に移動すっぞ」
カズにそう言われて俺達はついて行き、パレードが見れるカフェに移動した。
そこには俺達チーム"夜空"は勿論、テオとリリア、レイナ達や御子神のおっんさんや柳さん、ミラさん、マークのおっさんにバニラ、他にリヒトやジャオル、ライラのメンバーも揃い。ミラさんの部下の人達と柳さんの部下の人達とか周りを警戒してくれていた。
「突然呼んで悪かったな」
「いえ、私もお兄様ときちんとお話をしたかったので丁度良かったかと」
「……エルピス。まずは単刀直入に言っておくぞ?」
「はい」
「今の俺はお前の知る冥竜・アルガドゥクスであってそうじゃない」
「……? それは……、どう言うことでしょうか? お兄様は冥竜・アルガドゥクスであり、そうじゃないと言うのは?」
そこでカズは最初から話し、エルピスはどうしてカズの魂と冥竜の魂が別れたのか、不思議に感じていた。
「ゼスト達がやったとは到底思えません」
「と言うと?」
「ゼストやパンドラでしたらそんな回りくどいやり方はしない筈です」
「確かに、それは俺も思う。んじゃ誰がやったと思う? 最初はお前が何処かのタイミングでやったんじゃねえかって思った。あるいは俺の感情が引き金になって分裂したかだ」
「ですがそれで分裂する筈が無いのはお兄様も御存じかと……。ですが、お兄様が一度死ぬことで分裂したお兄様が目覚める。と言うことは理解致しました。戦争がまた……、始まると言うことも……」
「お前としてはどうしたい? 俺を封印したいか?」
なっ?! それは絶対に許さねえぞカズ!
「正直に申しますと……、はい、お兄様を封印してでも世界を護りたいと思っております」
「ふざけんな!」
そう言って席から立つと、それをイリスが尻尾で俺を拘束した。
「い、イリス!」
「黙って兄様達の話を聞けよ。これは……、神と神が話し合いをしてんだ、誰だろうと邪魔させねえぞ」
神と、神……? ……カズが冥竜王であり、神でもあるってのは聞いた。でもエルピスは……あっ。
そこで俺は思い出した。ニアちゃん達の葬儀の時に名前が出てたことを。
「まさか……、この世界の神様なのか?!」
「この世界……、それはあっているようであっていないようなものです」
「憲明……、後で教えてやるから今は黙ってろ」
「……約束、だからな?」
それからカズとエルピスは話を続けた。
どうして魂が別れたのか、それは誰かの意図的な事なのか、これからどうするのかを。
「俺は俺であり続ける限り、戦争をするつもりは無い。だが、時々顔を出すもう一人の俺がミルクやイリス、ゼスト達に指示を出してるのは紛れもない事実であり、世界をあるべき姿に戻したがっている」
「ミルクとイリスは結局のところ、どちらの味方なんですか?」
「どっちもだ」
「と、言いますと?」
「この2人は俺の命令は絶対。もう一人の俺の命令も絶対。命令されたからには完遂するまでやり遂げる。だからと言って俺がもう一人の俺の命令を聞くなって言っても、それは出来ない。何故ならそれはある種の呪いでもあるんだからな」
「成る程……。では、その呪いを解けば」
「あぁ、ミルクとイリスは本当の意味で、自由を手に入れる事が出来る」
呪いを解けば、自由に……。
「だがそう簡単な事じゃねえぞ? その呪いはどんな魔法でもその効果を打ち消す力を持ってる。だからミルクとイリスを、殺すか呪いをどうにかしない限り、お前達の前に敵として何度も立ちはだかることになる」
そ、そんな……。
「その呪いは俺やもう一人の俺ですら解くことが出来ない強力なものだ。2人を無力化したきゃせいぜいどう呪いを解けばいいか考えるか、倒しかたを考えるんだな」
「やはり……、2人は……」
「憲明達には話してある。2人は凶星十三星座すら踏み込めなかった高みに上り、ゼストとパンドラに匹敵する力を手に入れてる」
「……厄介極まりないですね」
そう言ってエルピスは頭を抱えて溜め息をついた。
「凶星十三星座ですら厄介ですのに、ゼストとパンドラがいてミルクとイリス……。正直言って勝てる見込みが全然ありません……」
「だからだ」
「はい?」
「だから今の俺は、ミルクとイリスにも手伝ってもらいながらここにいる憲明達を、もっと強くしようとしてんのさ」
そう言って微笑むけど、悪い顔になってるからな? お前……。




