第174話 プロローグ
それは遥か昔の昼下がり。
「お邪魔します」
「ようこそ。今、とても良い紅茶を淹れたところだよ」
「とても良い薫りですね」
綺麗な黒髪のうら若き美しい女性と、夜を彷彿とした黒髪と瞳を持つ好青年が、美しい庭園を見つめながら紅茶を楽しむその場は、他に誰もいない2人だけの空間。
邪魔をするような者は誰1人として近付かなかった。
「こうして貴方と過ごす時間は、私にとって幸せな時間です」
「私もそれは一緒だよ。昔はよく喧嘩をしていたと言うのにね」
「ふふふっ、そうですね。よく貴方に泣かされましたね」
「それは言わないでほしいな」
幼少の頃から仲の良い2人だが、今よりもっと喧嘩が多く、必ず誰かが間を割って2人の喧嘩は止められていた。
しかし、そんな過去もその2人にとってはとても大切な思い出。それがあったからこそ、2人はお互いを意識し始めたとも言える。
「式の日取りは何時になさいますか?」
「そうだね……、私としては1年後の今頃にしようかと考えている」
「それは何故です?」
「それは、君の好きな花が咲き乱れる時期だからさ」
「まぁ、それを考えてですか? それは嬉しいです」
「今の情勢で式を挙げるのは早計だと思うからね」
「そうですね。でも、貴方と2人でならなんとか出来そうな気がしてなりません」
そう話し、2人の唇が重なりあう。
2人にとって全てが色鮮やかに見え、全てが美しく見えている。
2人の幸せは全ての者達にとっても幸せであり、願い。
故に、2人の関係を知っている者達全てから祝福されている。
それは全ての命から。
2人の祝福を願わない者等、誰1人としていなかった。幸せで満ち溢れ、誰も邪魔など出来ない。
しかし本来の2人であれば、お互いが牽制し合う者同士の筈なのだ。
だが2人は幼き日の交流会で出逢い、共に引かれ合った。
どちらかが遊びに行くことを繰り返すことで、その思いは日に日に強くなり。そうしてようやく2人は完全に結ばれるその時が近付こうとしていた。
「子供は何人が良いですか?」
「そうだね、私は何人いても良いから、100人いてもいいかな」
「まぁ! それじゃぁ頑張りませんとね」
するとそこに小さなトカゲが数匹、2人の前に顔を出した。
「ねぇ、私達の祝福を祈って、この子達に私達の力を与えません?」
「それは良いね」
2人は手を重ねてかざし、そこにいた数匹のトカゲに力を与えると眩い光に包み込まれ、姿形が変わる。
大変美しい虹色に輝く蝶の様な大きな羽、それに比べて体が小さいが尻尾が長い竜へと。
「とても可愛らしく進化しましたね」
「そうだね。君の力のお陰か、とても美しくもあるよ」
「まぁ、それではどのような名前に致します?」
「私と君の力を与えた初めての存在なのだから、"妖精竜"、"フェアリー・ドラゴン"と言うのはどうだろうか?」
「素敵な名前ですね」
その日、"妖精竜"と呼ばれる可愛らしく、大変美しい存在がこの世に初めて誕生した瞬間だった。
「どうか私達の未来が幸せでありますように」
「私達の種族が未来永劫、繁栄し続けるように願いを込めて」
2人の願い、幸せを願っているかの様に、フェアリー・ドラゴン達は2人の周りを飛び回り、2人はまた唇を重ねる。
「愛してますよ、アルガ」
「私も愛しているよ、フィーラ」
それから1年後……。
ー 全てを滅ぼせ ー
……悲劇は訪れた。
美しかった国は滅亡し、ありとあらゆる世界が恐怖と絶望の闇に覆われた。
ー 我らが主の大敵に裁きの鉄槌を ー
王の逆鱗に触れし大敵に裁きを降すため、王を崇拝する多くの種族達は立ち上がると進軍を開始した。
ー 我らが主の悲しみを思い知れ ー
その悲しみは更なる悲しみを広げていく。
ー 我らが主の怒りをその身に刻め ー
その怒りに呼応し、結ばれる筈だった種族達もまた、彼らに続いた。
ー 主の安寧を踏みにじりし憎き彼奴等を根絶やしに ー
最早その怒りは誰にも止められやしなかった。
ー 生きとし生けるもの全てを滅ぼせ ー
その世界は怒りに包み込まれ、とても酷い大戦となると、彼らの怒りを買ってしまった世界が殆ど滅ぶことになった。
ー 生き残りを探しだし、見つけ次第殺せ ー
彼らは決して逃がしはしない。全滅させるまで何処までも追い続けた。
ー 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ ー
その異常なまでの怒りと執念に他種族は怯え、彼らに生き残りを差し出して命乞いをする者達もいた。
ー 匿っていた者も許しはしない ー
だが例外は無かった。
匿っていた者全て、彼らにとって等しく敵だと認識されて命が奪われた。
ー 蹂躙せよ、我らが主の為に根絶やしにせよ ー
ー 全てを破壊せよ ー
皆さんこんにちは、もしくはこんばんは。
新章スタートです。
この章は比較的大人しい感じの章だと思います。
勿論、中には残虐な内容も含まれておりますが、今回はなんと言っても「成長と進化」がメインとなります。
それはどう言う事なのかと申しますと、そのまんまなのですからなんとも言えません。
知りたければ読んでください、ブックマークしてください、そして御自身の目で確かめるのが宜しいかと。
あんまり書きますと面白く無くなりますのでこの辺で。
それではこの続きもお楽しみください。
いいね、感想、☆☆☆☆☆、ブックマーク、お待ちしております(圧)




