第171話 地下の怪物達
地下2階のB区画は、まさに収容所って感じになっていた。
Bランクのモンスターが隔離されてるってのもあるけど、ものものしい雰囲気が漂っている。
研究者みたいな人がちらほらいるし、完全武装した組員の人達が厳重に監視していた。
「そう簡単に出てこれるような場所じゃねえが、下手に刺激しないようにな。特にA区画はもっと厳重だ」
B区画、A区画、そこにいるいるモンスターはどれも希少性が高いものの、下手に異世界に戻す事が難しい奴らでもあるからここにいる。
高ランクのモンスターのほとんどが人や家畜を襲ったりして被害を出すから討伐クエストが出されたり、警戒しなきゃならねえって聞いてるけど。
そこにいたのはどれもこれも、"人喰い"。
人を好んで食うモンスター達だった。
「"マンティコア"、"デス・ローパー"、"ギガニフィス"、"ギルメトラ"、"ノーフェイス"。どいつもこいつも人喰いで危険な奴らだが数が少ない」
"マンティコア"
言わずと知れたモンスターだろ。
頭は人、体はライオン、尻尾は蠍。口の中は営利な牙が生えていていかにもって奴だ。
"デス・ローパー"
全体が毛みたいな細い触手に覆われていて、1つのデカイ目玉がある気色の悪いモンスター。
"ギガニフィス"
細長い口をしたワニみたいなモンスターだけど、手足がタコの触手みたいになっている巨大なモンスター。どちらかと言うと、肺魚って呼ばれる魚のヒレに近いかな? それにしても長いけど。
"ギルメトラ"
蝶みたいな羽を持ち、サメみたいな頭に目が無い。そして身体のあちこちから太い触手が10本ぐらい生えてるモンスターで、羽があるのに普通に空中を漂っている。
"ノーフェイス"
真っ白な身体に目や鼻、耳が無い人型モンスター。口は大きく裂けていて、凶悪な牙が揃っている。手の爪は長く鋭く、真っ赤に染まっていた。
もう……、明らかに外に出したら本当にヤバそうな連中だから冷や汗が流れた。
「俺としてはギガニフィスがお薦めだな。個人的に可愛い」
可愛いのかな?!
良くみれば、"プレデターX"って呼ばれてる"プリオサウルス"って古代生物になんか似ていた。
「コイツは人喰いで人間を好んで襲うモンスターだ。だが、手懐けちまえばかなり頼りになる筈だ。それに餌だってウシやブタを与えて馴れさせれば人を襲わなくなるしな。他のモンスターはなかなか他のもんを食ったりしてくれなくてなぁ。だからゼオルクや他の国で死刑を言い渡された奴を食わせてる」
なにさらっとエグいこと言いやがるんだよ!!
「まっ、コイツらみんな、俺に恐怖しておとなしくしてるけどな」
……確かに、カズに対して酷く怯えてる様に見えるな……。
特にマンティコアが……。
マンティコ……、マンティ……。
その瞬間、エグい角度からカズの蹴りが俺を襲った。
「テメェ、今良からぬこと考えようとしてただろ」
「ぐっ……ぐっふぁ……」
べ、別にそんな……そんなことは……。
「次は殺すぞ」
「……は……い……」
考えて無いのにどうしてそうなったんだかな……。
取りあえず、その次にA区画に降りる事にしたけど、降りるのに結構時間がかかった。
降りるとそこはもっと厳重な警備体制で、壁には自動機関銃があるし、監視カメラの数も多いし、監視してる組員の人達が多い。
なんか息がつまるし凄い場所だな。
「ここがA区画。ここにいる奴らも人喰いは勿論。下手に出したらSランクになるような連中がいる」
ってことはそれだけ強いモンスターなのか……。確かにそんな奴らなら厳重に監視しなきゃならねえよな。
「"バーサーク・センチビート"、"ゼルラグル"、"デーモンクロウ"ってのがいる」
どれも凶悪そうな顔してんな……。
特に……、"バーサーク・センチビート"、コイツはダメだろ……。
"バーサーク・センチビート"
体長30メートルを軽く越えるムカデ……。
まるでピッケルみたいな凶悪な足に、ノコギリ状のクワガタみたいな凶悪な牙と言うより顎を持ち、口の中も凶悪な牙が並んだ赤黒いモンスター。
……見てるだけで寒気する。
"ゼルラグル"
不定形型モンスターで、真っ赤な体に数本の触手。目が所々にあって、こっちも凶悪な口が何個かある約10メートルくらいのデカさ。
"デーモンクロウ"
見た目は真っ黒で、まんまカラスみたいなモンスター。でもそのデカさは約3メートルあるから、翼を広げたらもっとデカイと思う。
そして頭には悪魔みたいな角が2本生えている。
「さっき言ったように、こいつらをこのまま外に出したらSランクになっちまうようなモンスターだ。個体数が極めて少ない絶滅危惧種の割に、討伐難易度がかなり高いってこともあるし、超攻撃的だから下手に手を出せねえのもある」
「……カズ、このムカデ、いやバーサーク・センチビートだっけか? コイツ、俺に譲ってくれないか?!」
いきなり一樹がそう言い出したから俺達は驚いたけど、カズが理由を聞くと。
「……ダークスを進化させるのに食わせたい」
「……はぁ?!」
俺は勿論驚いた。
ダークスを進化させるのに、まさかAランクのバーサーク・センチビートを餌にするって言うんだからよ。
だってそうだろ? ダークスはそこまでランクが高くなってないのに、バーサーク・センチビートはAランクなんだ。与えるにしてもレベルやランクの差がありすぎて、逆に食い殺されちまう。
「お前、前に言ってたよな? ムカデとかヘラクレスとかあげて、ダークスを強くして進化させろって。だったらバーサーク・センチビートでもよくねえか?」
カズはジッとそう話す一樹を見て黙ってると、氷の微笑みになって笑い出した。
「クククククッ、クカカカカカカカッ、なるほど、なるほどなるほど、確かにそうだ。良いぜ? だったらこのバーサーク・センチビートをダークスにくれてやる。以前、ダークスが初めて俺に一撃入れたご褒美にな~」
凶悪な顔でそんな事を言うなよ、怖ぇーって!
「だが直接戦って食ったほうが進化するのに効率が良い。だがダークスとお前でじゃ恐らく返り討ちに合うだろうな。だったら、俺がダークスのサポートしてやる。後でコイツを外に出すからダークスを連れて俺が指定した場所に来い」
「分かった頼む!」
「ケケケケケケケケケッ! おもしれぇ奴がいたもんだ」
突然、聞き覚えの無い笑い声がして俺達は誰が笑ってんのか見回した。
「おい人間、そのバーサーク・センチビートって奴はお前が考えてるより凶悪なモンスターだぜ?」
「誰だ?!」
そう聞くと、その声の主は「こっちだよ」と言って、どこにいるのか教えてくれた。
そこに目をやると、頑丈な檻と言うより、牢屋みたいな場所にそいつはいた。
「ケケケッ、よ~ぅ人間」
猫?
右目の上から下まで縦に切られた傷痕を持つ、黒い猫の獣人が右手を鎖に繋がれた状態で座っていた。
「カズ、コイツは?」
「"ケット・シー"。猫の姿をした妖精だ」
いやケット・シーは知ってるけど、……まさか獣人っぽい姿をしてるなんて。
でもなんでそんなケット・シーがここに繋がられているんだ? そもそもケット・シーってそこまで凶暴なモンスターじゃなかったような?
「コイツがここにいるって事は、まっ、そう言うことだ」
「……おいまさか」
「コイツはれっきとした凶悪モンスターだ。ここに来るまで、いったいどれだけの人間、亜人の命を奪った分かりゃしない」
「ケケッ、でもよ~、ちゃんと反省したからいい加減こっから出してくれよぅ。な~? 旦那?」
ケット・シーが上へ視線を向けた先に、何かが動き始めた。
<そうよなぁ、ワシも早うここから出たいのぅ>
老人、そんな感じの声がして、俺はようやくそれがどんなモンスターなのか全体を知った。
馬鹿……デケぇ……。




