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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第1章 終わりの始まり
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第16話 捕獲<和也side>


「数が多過ぎるな」


「お前さんの予想は当たっていたが、まさかここまで数が多いとは予想外だったな」


 俺とミコさんは、ワームの多さに頭を抱えていた。


「恐らく廃工場内にいたほとんどの生き物が奴等に喰われていたのでしょう」


 柳さんはそう推測し、このままだと予想を遥かに超える被害が出ただろうと口にする。


 確かにその通りだな。


「それにしても数が多いだろぅ。いったいどうやってここまで数を増やせたんだ?」


 俺達3人は、それでもどうしてここまで多いのかを話し合っていた。


「ちなみに奴等に目はあるのか?」


 ミコさんがふと、疑問に思った事を聞いてきた。


「いや、そこまで確認していない」


「では音でしょうか?」


 柳さんは音を頼りにワームが行動しているのではと考える。


「だったら侵入した直後、御堂班が閃光弾を使った時に反応があった筈だ」


「んじゃ死体の中にいたから反応が解らなかったんじゃねえのか?」


 ミコさんは死体の中にいたから気づかなかった。あるいは、音がデカすぎて逆に隠れたんじゃないかと考える。


「……一度捕まえて見るか」


 俺のその言葉に、周りは何言ってんだとばかりの顔になった。


 めんどくせぇ……。


「正気の沙汰とは思えない行動ですよ?」


「あぁ、柳さんの言う通りだ」


 2人は馬鹿な事をするなと言いたいんだろ。

 ろくにこのワームの情報が無いのに、下手に捕まえたらどうなるか分からない危険性があるから、それはやめろと?


「だが時として、その生物を捕獲して見ないことにはなんの情報も得られない時もある。今は火炎放射器で体を焼くか、コアを破壊しない限り倒す事が出来ない。あるいは骸で全てを凍らせ、粉砕するかだ。奴等の弱点をもっと知る必要がある」


「だがなぁ……」


「また鬼頭さんに怒られて、喧嘩になりますよ?」


 まぁきっとそうなるかも信ねえけど……。


「あぁ……、メンドクセーなぁったく。……やっぱちょっと行ってくる」


「ちょっと待てオイ!」


 しかし俺は既に動いていて、その後ろでミコさんが無線で俺が動いたことを知らせている。

 それでも構わず前を進んで行くと、目の前に朱莉さんと刹那達がいた。


「ちょっカズ?! ねえなんで来てんのよ?! アンタはまだ待機しててって言ったじゃない!


「1匹捕まえに来た」


「はあ?! 1匹捕まえにって……、なんでそうなるのよ! アンタ、アレを捕まえようって事がどれだけ危険な事か解ってんの?!」


「無謀」


「そう! 刹那の言う通り無謀よ!」


 俺は朱莉さんと刹那の2人に睨まれながら怒られた。


 チッ、うっせぇな。


 朱莉さんは両手を組み。歯を剥き出しにして怒っている。刹那はあいも変わらず無表情だが、目が怒っている。


「うっせぇな、捕まえて調べて見ないことには奴等の生態が分かんねえし、何が弱点かも分かんねえだろ?」


 いちいちめんどくせえ……。捕まえたほうが手っ取り早いだろうが。


「だからって来る? フツー……」


 アンタ本当に馬鹿なの? って言いたげな顔で朱莉さんは顔を前に出し、口元を引き攣らせて驚愕してる。


 ……まぁ、この人を安心させてやるか。


「安心しろよ、ヘマはしねえ」


「アンタのその自信が怖いわ」


「同感」


 朱莉さんは手を顔に当て、もう片方の手を腰にやりながら項垂れる。

 刹那は相変わらず無表情だ。


「まあ見てろ」


 俺はそこでまたタバコを口に(くわ)え、オイルを足したジッポライターで火をつける。

 そして奥へと歩いて行くと、丁度良い感じに中型ワームが3匹、俺に向かってくる。


「んじゃま、取り敢えず1匹捕まえるか」


 3匹中2匹はその場で撃破し、もう1匹は捕まえ、そのまま俺達は一度外に出ることにした。


 ……数分後。


 俺が捕まえたのは4メートルはある中型ワームで、そいつを引きずりながら、朱莉さんが率いる班と一緒に戻った。

 すると俺が捕まえて来たワームを見て、ミコさん達は軽くパニックになった。


「な?! お前本当に捕まえて来やがったのか?!」


「………」


 柳さんは片手で眼鏡をクイッと上げたまま、白目を向いている。どうやら立ったまま気絶したらしい。


 なんでアンタは気絶するんだよ?


「お、おい! 柳さん?! 柳!」


「ハッ! 御子……神班長? ……どうやら私は悪い夢を見ていたようですね」


 ミコさんの顔を見て、どこかホッとした顔で柳さんは気を取り戻した。

 しかし……。


「いや、夢じゃねえよ」


 そう言ってミコさんが親指で後ろにいる俺を指すと、ワームを引きずって戻ってきた俺を見た。


「なっ……あ……」


 声にならない声で、信じられない物を見るかのように動揺する。


「まったく。柳さんの気持ち、よおく分かるわ。アンタ非常識過ぎなのよカズ」


 誰が非常識だ誰が。


 そして俺はまた朱莉さんに怒られることになる。


 なんで俺が怒られなきゃなんねえんだ?


 そんな俺の様子を見ていた憲明達は驚いて声が出ない。

 それもそうだよな、目の前で見た事も聞いた事もないモンスターをたった数分で捕まえ、それを連れて戻って来たんだからよ。


「どうだ? 擦り傷も無ければ服まで綺麗だろ?」


 それを見てか、いったいどうやって捕まえたのかと徐々に興味が湧いた表情を向ける。


「なあカズ! どうやって捕まえたんだよ?!」


 憲明は興奮してどの様に捕まえたのか俺に聞いてきた。


「あ? ……普通に?」


「だからその普通が分かんねえから聞いてんだろうが!」


 憲明は目をギュッと閉じ、天を仰ぐ。


 何言ってんのお前? 普通って言ったら普通なんだよ。


「まあ取り敢えず()()()()()()()


「は?」

「え?」


「あ? なんだよその気が抜けた顔はよ」


 憲明や美羽達5人とミコさん達刑事は、コイツ何言ってんの? と言った顔で(ほう)ける。


 んだよ、テイムしたって言ってんだろうが。


 それを見た朱莉さんやその部下達は皆、そりゃそう言う顔になるよなと言いたげだ。


 なんか、失礼じゃね?


 柳さんは柳さんで、今度は素晴らしいと称賛を口にする。


「テイムって、あのテイムか?」


 一樹がなんだか少し興奮気味に言ってくるが、テイムって言えばあのテイムしかねえだろうが。


「あ? それ以外に何があるって言うんだ?」


「え、あ、いや……」


「あぁ?」


「あ、だから、その、あは、あはは、あははははははは!」


 一樹は笑うことで逃げた。


「いやしかしお前凄えな。それ、さっきから話を聞く分じゃかなり危険なモンスターなんだろ? それをお前、テイムって。いったいどうやったんだ?」


 憲明が聞いてくるから俺は説明した。

 朱莉さんと合流した後、中型ワームが3匹来たから、俺は臆する事なく3匹の内、2匹のコアを普通に素手で抜き取って撃破。残りの1匹も俺目掛けて襲って来た所を喉元を鷲掴みにし、そのまま壁に叩きつけた後、今度は重圧(プレッシャー)を叩きつける。俺に恐怖を感じたこのワームは逃げる事を選択しようとしたが、鷲掴みにされたままだった為に逃げるに逃げれず、そのままここに引きずられて来たと話した。

 な? 簡単だろ?


「な、なあカズ、それってまだテイムしてねえんじゃねえか?」


「……マジか」


 憲明の言葉に、俺は目を見開いて思わず驚いた。


 テイムじゃない? だったら。


「んじゃこの場でちゃんとテイムするか。見た目はキショいがなかなか面白い奴だから気に入った」


 ……つーか普通にテイムの仕方を忘れてただけなんだけど、それは黙っておくか。


 俺が軽く微笑むと、ワームは更に抵抗しようともがく。

 憲明達は俺の微笑みを見て、悪魔だと小声で言い始める。


 誰が悪魔だ馬鹿が。


 俺はもう片方の手で、ワームの頭に触れて魔力を集める。そして俺の手から淡い光が出る。

 そこで朱莉さんが憲明達に説明をしてくれた。


「あれがテイムよ。最初、ああやって自分の魔力を相手の魔力の波長に合わせるの。その後は自分の魔力を相手に感じさせるの。カズの場合……ほら、見て」


 俺の魔力の光が段々と黒く染まる。


「あれがあの子の魔力の色。魔力の色と言うのは人それぞれなんだけどね。あの子の場合、特殊過ぎるのよ」


 するとどんどん禍々しく、赤黒い色のエネルギーが放出する。

 魔力の色は人それぞれで俺の場合は赤黒い。


「禍々しくて怖いでしょ」


「正直怖え……」


 憲明は正直に感想を口にした。


 そんなに怖いか?


「ふふっ、私もよ。あれでも凄く抑えてる方よ」


「え?」


「あの子の魔力量はデタラメ過ぎなのよ。だからああやってテイムしようとしても、相手が死んでしまうの」


「なにそれ〜、コワっ!」


 沙耶は両手を口に持って行き、怖がった。


「つーか魔力って……。魔法を使えるってことか?」


 一樹は魔力と言うワードに反応し、朱莉さんに質問する。


「良いところに気がついわね。勿論、魔法も使えるわ」


「スッゲェ……」


 その事に一樹は目を輝かせ、まじまじと俺がしようとしてることを見る。

 なんか気持ち悪いからあんま見んなよと言てえ。


「さて、これでテイム完了っと。久々だからちと緊張したな」


 暴れていたのが嘘のようにワームは大人しくなり、俺に顔を向ける。


「今からお前は俺の新しい家族(ファミリー)だ。宜しくな」


 言葉が理解出来ているのかさておき、ワームは甲高い声で返事をするかの様に鳴く。


〈ギ! ギギ!〉


 ちょっとキモいが、俺の言葉が解るなら可愛く見えてくる。


「さて、名前をなんてつけよう? ん〜……、そうだ、今日からお前の名は、"ギル"だ」


 ギルと名付けられたのがよっぽど嬉しかったのか、ギルはまた甲高い声で鳴く。

 その後、俺は持って帰って来た他のワームの死体を見る事にした。


「実際に見ると面白いな」


「なにが?」


 そこに朱莉さんが近寄る。


「見てみろよここ。目が無いと思ってたが、良く見ると頭の中に目が6個ある。恐らく体が半透明だから目が中にあっても幾らか見えてるんだろ。つまり視力が弱いから光に強いと見た。口の中は螺旋状に歯がビッシリとあるのが確認できる。その先は食道……。これは胃袋か? なかなか面白いな」


 俺と朱莉さんはそのままワームの死体を調べる。そこへミコさんや柳さん達も加わり、どういった体の構造をしているのか調べながら意見を交換しあう。


「なんか、凄いね」


「凄すぎだろ……」


 そう言いながらも、憲明達もそこへ加わり、俺達がどんな事を話しているかを聞きに来た。


「つまり、何故このワームには銃弾がほぼ効かないのかはそれの為ですか」


 俺と柳さんは何故、このワームにアサルトライフル等の銃撃があまり効かないのか。何故、火炎放射器による攻撃が有効なのかを話し合う。

 この特殊個体のワームの皮膚は薄いが頑丈で弾力がある。そしてその体液等は強力な酸で出来ている。その為、銃弾を食らってもあまり致命傷にはならず、その中で銃弾を少しづつ溶かしてしまっていた。


 まぁ話を聞いた通りだからそこまで驚きはしねえけどよ。


 そしてその皮膚は再生能力があり、瞬時に治してしまう程の治癒力を持つ。

 だが火炎放射器でその体を焼かれてしまえばひとたまりもないんだろ。

 俺はそのワームのコアを抜き取った時に感じた事を混ぜながら、体がどうなっているのかを次々と調べた。


「それにしても和也氏、手は大丈夫なんですか? 素手でコアを抜き取ったのでしょう?」


 柳さんの心配はもっともだ。

 体液が強力な酸で出来ているのなら無事では済まない筈だからな。

 でも俺の手は無傷で、しかも袖すら溶けていない。

 それを見た柳さんは俺に恐怖を感じたのか。


「相変わらずの化け物ぶりですね、和也氏」


 最早笑うしか無いのか、柳さんはそう言って笑う。

 でもその笑い顔は誰が見ても黙ってしまう程だった。何故なら柳さんの顔は恐怖に染められていた状態で、なんとか笑顔を作っていたにすぎない。

 でも俺は悪い気はしなかった。


「ククッ、それは俺を褒めてんのかよ? 柳さん」


「褒める以前の問題ですよ、まったく」


 柳さんは俺の化け物ぶりに呆れ、困ってしまったんだろ。


 化け物上等だよ、クククッ。


「さて、分析は十分だろ。犬神と御堂達の様子はどうだ?」


 廃工場からは相変わらず派手な音が聞こえて来る。恐らく倒すにしても倒しきれず、今だ戦っている。それも不利な状態で。

 すると後ろから、美羽が口を挟んできた。


「ねえ、視力が弱いなら音に敏感なのかな?」


 確かにそうかもしんねえが、閃光弾を使った時になんの効果が無かった。

 ……いや、まてよ? もしかして音に反応するかもしんねえが、さっきのはまだ幼体だからビビって動かなかっただけなのか? 試してみるか。


 俺はもう一度、犬神や御堂達に閃光弾を使えと伝える。

 閃光弾から発せられる音量はアサルトライフルや手榴弾よりも強烈だ。もしそうであるならそれで中心に追い込めると判断した。

 伝えられた犬神と御堂達はすぐさま閃光弾を使う。すると、予想通りに中型ワーム達は強烈な音に驚き、苦しみながら後退し始めたと連絡が来た。


 ってことはそうなのか。幼体だからビビって動かなかっただけかクソッ。

 美羽が言わなけりゃ、改めて考えることをしなかったな。


「でかした美羽。確かにワームは音に敏感だ。それを忘れてたぜ」


「えへへ、力になれて良かった」


 よっぽど褒められたのが嬉しかったのか、美羽は俺をチラチラと視線をやりながら照れる。


 ……あっ、そうだ。


「んじゃ、お前にもうひと働きして貰うか。それでお前らがここに来たのをチャラにしてやる」


 すると美羽の顔がより明るくなる。

 憲明達も美羽のお陰でこの後に控える、俺の説教タイムが無くなると思い、顔を明るくする。


「それで? 私は何をすればいいの?」


「歌え」


「え?」


「歌え。閃光弾は無限にある訳じゃねえんだ。それにお前が歌えばより、部下達の士気が上がる。同時にお前の歌で奴等を追い込む。簡単だろ?」


「……わかった! リクエストある?」


「はっ、んじゃアレにするか。その前に、お前ら今の会話聴いてたな? 誰か無線インカム外して音量を最大にして前に出せ」


 今使ってるインカムは俺が手を加えて調整した物。それの音量を最大にし、美羽の声を超音波として奴らにおもいっきり聞かせてやれば、逆にビビって後退する筈だと考えた。

 そして、それに犬神と御堂から準備完了だって返ってきた。


「んじゃ、アレで行くか」


 俺はスマホを取り出し、音楽をカラオケにして流す。

 その曲は"KIZU"、美羽がデビューすることになった俺が作った曲だ。

 静かなイントロから始まり、そこから激しい音楽へと移り変わる。そして美羽が歌い出した。

 美羽にとって(もっと)も思い出深い事を曲にしてくれと頼まれ、俺に我儘(わがまま)を言って美羽なりの言葉などを取り入れた曲だ。

 正直、この曲が一番苦労したな。

 だから俺にしても一番思い出がある為に、今回KIZUを選んだ。

 美羽に気持ちよく歌ってほしいと言うのもあるが、俺自信、久しぶりに聴きたかった。


「それじゃ、私達はまた中に戻るわ」


 朱莉さんは笑顔になって部下を連れ、中へと戻る。その中には刹那もいた。


 その後、作戦は成功した。


 ワーム達は音に反応して逃げて行き。組員達は1匹も逃す訳にもいかない為、散らばってワーム達を中心に追い込んでいく。

 そして、美羽が外で歌っているからか士気が更に高まるのを感じる。


『こちら犬神。ワーム達を中心に追い込み完了しました』


『こちら御堂。こっちも万事上手くいきましたぜ』


『こちら鬼頭。こちらも完了したわ。これより最終段階に移行、1匹残らず特殊個体のワーム掃討作戦を実行する。各班、火炎放射器用意』


『こちら犬神。準備完了』


『こちら御堂。へへっ、何時でもいけますぜ(あね)さん』


『了解。……放て』


 その瞬間、中心となる工場内は火の海に包まれる。

 3方向同時に火炎放射器による掃討作戦によって、中心に逃げて行ったワーム達は音と火で逃げ場を失い、炎によって焼かれる。

 予想よりも時間がかかったものの、これで無事に終われると、誰もが思っていた。


 この時までは。



遂にあの男が動き、簡単に捕獲。

キショいと言っておきながら面白いからテイムするのもどうかと思いますが、これもまた新たな出会いでもあるわけなんですね。

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