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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第5章 崩壊する日常
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第167話 それは初めての


 10月13日



「よう、今暇か?」


「ん? 暇っちゃ暇……かな?」


 その日、岩美と澤崎は一度実家に帰って荷物をまとめてこっちに来るってことで、その2人以外の全員が集まった朝。突然イリスが俺にそう聞いてきた。


「どうしたんだ?」


「ちょっと買い物に付き合え」


「な、なんでそんな恥ずかしそうなんだよ」


「はぁ?! ざけんな! なんで俺がそんな顔しなきゃならねえんだよ?! とりあえず約束守れ! 今から行くぞ!」


「くっ! くるひいくるひい!」


 イリスに尻尾で首を絞められながら俺はそのまま買い物に付き合うことになった。


「ちょ! 外出る前に尻尾隠せよ!」


 どうしてそうなったのかって言うと。この間、俺が熱を出した時にイリスと約束したからだ。



 夜に目を覚ました俺は暗い部屋の天井を見てると、ベッドの横にイリスが座って雑誌を見ていた。


「まだ、いてくれたのかよ?」


「お、おぉ……」


「ほんと、マジでありがとな」


 イリスは俺に背を向けて座ってるから顔は見れなかったけど、俺は嬉しかった。


「熱、もう平気か?」


「あぁ、お陰でだいぶ体も楽になったぜ」


「そっか」


 ……あれ? なんか反応がおかしくね?


「とりあえず、今日はそのまま寝てろよ」


「でも目が覚めたしなぁ」


「……目が覚めたからなんだよ」


 ……やっぱりなんかおとなしくね?


「んじゃ俺がまた寝るまで話し相手になってくれよ」


 俺はこの時、イリスの性格だったら、うるせえ! さっさと寝ろ! って言うと思った。


「……俺でいいなら」


 …………はい?!


 正直驚いた。まさかイリスが素直にそんなこと言ってくれるなんて思ってなかったから。


「……なに話していいか、全然わかんねえけど」


 俺もなに聞いたらいいか全然解らなかった。

 だから、これまでどんな事をしてきたのかを聞いた。


「……聞いてるかどうか知らねえけど。俺は今まで、兄様(にいさま)に頼まれた仕事をしてきた。その仕事は(ほとん)ど殺しだ。どっかの大企業の御偉いさん。未だ未解決事件になってる容疑者。裏組織。兄様(にいさま)(あだ)なす奴全部を俺は殺してきた」


「……」


「どいつもこいつも腐った連中ばかりだったぜ。だから殺されて当然だし殺して当然。他には、街に出て見回りとかしてたな。覚えてるか? 前にどっかの女が寄生(パラサイト)タイプのワームに食い殺された事件」


「覚えてる。だって、美羽のステラと初めて会った事件でもあるし」


「あの時、俺はアンタの後ろにいたんだぜ?」


「……あっ! んじゃあの時、誰かに電話してたのって!」


「そっ、俺だよ、クククッ」


 そんな話を寝るまでイリスから聞いた。

 正直言って怖かったさ、イリスは敵なんだ、敵になっちまったんだ……。

 ……でも、俺はイリスと話して解ったことがある。

 本当はめちゃくちゃ優しい奴なんだ。言動はどっちかって言うとカズみたいだけど、イリスもカズみたいに良い奴なんだ。

 優しいし、良い奴、……それにめちゃくちゃ可愛い。

 そんなことを考えてると、あることに気がついた。


 ……そっか、俺……そうだったのか……。

 でも……何で俺が……。


「なぁ、今度、俺の買い物に付き合ってくれねえか?」


「買い物? 別に良いぜ? お前の頼みなら聞かないわけにはいかねえからな」


「クククッ、約束したからな?」


 そんな訳でその後、俺は寝た。


「おい早く、こっちだ」


 そして買い物をしに出掛けることになった。


「おっ! あったあった!」


 イリスのお目当ては。


「おい見ろよこれ!」


 イリスが手に取ったのは厚底靴。

 しかも、かなりゴツい感じのやつだった。


「お前、それ履くの?」


「だったらなんだよ?」


「それじゃなくてこっちの方が可愛いだろ、こっちにしろよ」


 そう言うと、イリスが顔を赤くして俺を睨んだ。


「誰が可愛いのが良いって言ったよ」


「俺はそっちの方が似合うと思っただけだよ……」


 くそ……、マジでなんでコイツに……。


「……わかった」


 え?!


 そう言ってイリスは俺が選んだ厚底靴を買うことを決断して買った。


「あの人、ほら、テレビに出てた」

 「彼女とデートかな?」

「実際に見ると結構カッコよくない?」


 周りからそんな声が聞こえてきて、俺はやっちまったって思った。

 ただでさえ今、異世界のことや俺達のことで世間を騒がしてるのに、普通に買い物しに出てるんだ、そうなるのも当然だよな。


「またせなた」


「お、おぉ」


「ん?」


 イリスも周りが俺達を見てることに気がついたのか、少しピリッとした雰囲気になった。


「悪い。俺のせいでイリスまでなんか言われちまってるけど気にすんな」


「別に俺は気にしねえよ。それよりも」


 するとイリスは俺の手を取って走り出した。


「俺がお前になにか選んでやるよ」


 選ぶって何を?!


 人混みを器用に避けながら、俺の手を掴んだまま離さない。


「お!」


 何かを見つけたのか止まると、そこはシルバーアクセサリーのショップだった。


「あれ? ここって確か、カズがたま~に買いに来る店じゃね?」


「そうなのか?!」


 なんでお前が知らねえんだよ……。


 そう思いながらイリスと店の中に入った。


「へ~、結構いいのがあるじゃん」


 やっぱ兄妹だな、カズが好きそうなアクセサリーを気に入っていやがる。


「なあ! これくれ!」


 しかも即買い?!


 イリスが買ったのは狼と炎を合わせたデザインのネックレスだった。


「箱に入れますか?」


「いや、コイツにやるからいらない」


 ……へ?


「ほら、つけてやるよ」


「ちょっ! まっ!」


 言われるがままネックレスを首につけようとしてくれた時、イリスの顔がまた近くなったから顔が熱くなったけど、ジッと見つめちまった。


「よし……。うん、良いじゃん。大事にしろよな? 失くしたらぶっ殺す」


「……わかった」


 ……勿論大事にするよ。


 そう思いつつ、その瞬間のイリスの笑顔が最高に可愛かったから確信に変わった。


「次、どこに行くよ?」


「あっ、その前にまってくれ、俺も見たいのが出来た」


「ん?」


 俺はピアスコーナーを見て、これだなって思った物をてにとって買った。


「ピアス? でも穴なんて全然開けてねえじゃん」


「お前にだよ」


「……うえっ?!」


 はぁ……、可愛すぎなんだよお前……。


「だだだだって!」


「うるせえなお前も、黙ってつけろ」


 そう言って俺はイリスの左耳に触れた。


「ふぁ!」


 あっヤバい。


 めちゃくちゃ可愛い反応するから、いざつけようとしたら緊張で手が震えそうになる。だけどここでやらなきゃ俺は何時まで経っても前に進めやしない、そう思ってどうにか平常心を保った。


 ……よく見たら、イリスの耳って俺達となんら変わらないんだな。


 イリスの耳にはいくつかピアスがついてる。その内の1つ、耳たぶにつけてるリングピアスを外してから買ったピアスを丁寧につけることが出来た。


「ほら、こっちのピアスの方がよくね?」


 俺は棚にあった鏡を持ってイリス自信を見せた。


「どうだ?」


「ぁっ……、ありが……とう」


 ふっグッ!!


 それは、超強烈な右フックが俺の心臓を貫かんばかりの超破壊力を秘めたはにかんだ笑顔だった。


「俺も大事にするよ」


「お、おう」


 俺が選んだのはペンデュラム型のピアス。

 ちょっと大きかったかなって思ったけど、別にそこまで気にする程じゃなかった。

 髪の下から揺れるそのペンデュラムのピアスが、イリスに似合ってると思ったから選んで買ったんだけど。


「へへっ」


 思ってた以上に気に入ってくれて俺は嬉しかった。


「今度はどこ行くんだ?」


「そうだなぁ……。あっ、クレープっての食ってみたい!」


 クレープか。確か近くにクレープ屋があったな。


 正直、まさかそんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。

 俺は……、()()()()()()()()()()()()()()()……。

 今まで何度もオオトカゲのイリスとは会ったり遊んだり、噛みつかれたり、怒られたりした。

 これまで何度も可愛い女子とか見てきたけど、そんな感情を持ったのはたぶん初めてだと思う。

 それなのに、人の姿をしたイリスと会ったばかりだから俺は確信が持てないでモヤモヤしてたけど、こうして一緒に買い物に出て分かった。

 俺は今のイリスを見た瞬間から惚れちまってたんだって。

 それが分かるとなんだかスッキリした。



 それから俺達2人はクレープを食べたり、服を見たりして買い物を楽しんで、夜城邸に戻ったら夕方になっていた。


「随分遅かったな」


「お、おぉカズ……、気づいたらこんな時間になっちまってた。悪い」


「いや、逆にありがとな」


「ん? どうしたんだ?」


 妙にカズの顔が悲しそうにしていたから気になった。

 カズだけじゃなく、美羽もそうだし。


「なにかあったのか?」


「さっきまで稲垣さんが来てた」


「な?!」


 カズの曼蛇(マンダ)を使って、東京湾にゲートを作らせた元自衛隊陸将。

 その元陸将の稲垣さんがどうして来たのか俺は驚いた。


「話は全員集まってからだ。今、ミラママとミコさんが皆を集めようと連絡し始めたところだ」


 そう聞いて、イリスの顔から笑顔が消えた。




ーー

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