第164話 ミルクとイリス
「ミルクの話が正しければ、カズが死んだ瞬間に世界が終わる……、そう言うことか?」
御子神のおっさんが聞くと。
「私が間違ったことを言ってると思いますか?」
冗談だって言って欲しい気分だ……。
「ですが貴方の言った通りになります。ですから、私達姉妹はどちらでも構わないのです」
「ふざけんなよ?」
「はい?」
「ふざけんじゃねえって言ってんだよ!」
俺は怒鳴った。そんなの、絶対に許したくないからよ。
「お前らはそれで良いのかよ! カズの心が冥竜に支配されるって言ってんのと一緒なんだぞ! それでよく平気でいられるよなお前!」
「ですから先程から ーー」
「今のカズが好きだからお前らは兄ちゃんとして慕ってんじゃねえのかよ!」
その時、一瞬だったけどミルクの目が僅かに変わった気がした。
「にぃにはにぃにです。他に代わりなどいません。先程にぃにが仰っておられたではありませんか、にぃには冥竜であり冥竜はにぃにだと。元々1つの魂が何らかの事情で2つに別れてしまい、今この様な状況になっていると」
「あぁ聞いたよ」
「ならば解る筈では? その2つに別れた魂がもう一度1つになった時、にぃには本当のにぃにに戻れるのです」
「だからそれが間違ってるって言ってんじゃねえか!」
「……ねえミルク、ノリちゃん達にもっと解りやすく説明しないと駄目だよ」
そこで今までカズに慰められていた美羽が話を割った。
「カズと一緒。ミルクも説明不足だからノリちゃん達に伝わらないんだよ」
「……申し訳ありません」
嘘だろ? ミルクが美羽に謝った?!
「私も人の事言えないけど。もう1つ大事な事を伝えてなかったから」
「それ……、なんなんだよ?」
「ミルクとイリスが今の姿になったのはカズとサーちゃんとの時がきっかけだって話したよね? その時、2人が進化出来たのはカズと冥竜の魂が1つだったから進化する事が出来たの」
「……は?」
「だからミルクとイリスはもう一度、本来のカズに戻って欲しいから凶星十三星座に協力したの」
なに……言ってんだお前?
「だからミルクが言ってるのは正しいんだけど。今のこの状況でそんなことをしたらカズは確実に冥竜王として目覚め、……世界に終焉が訪れる」
俺はそれを聞いて何も言えなくなっていた……。
ミルク達はカズを、本来のカズに戻してやりたいから動いている……。
確かに……、カズが変わっちまったのはその時からだ……。
サーちゃんはそれを聞いて膝から崩れるようにして倒れそうになると、それをヤッさんと佐渡が助けた。
……あの頃のカズが、本当のカズなのかよ……。
「それでいいんだよね? ミルク?」
「はい。御手数御掛けして申し訳ありません、ねぇね」
ねぇね……か……。
「なぁ美羽……、お前はどうするんだ? お前も凶星十三星座の味方につくのかよ?」
俺は思わず聞いた……。
きっと美羽のことだからそうなったらカズの味方になって、俺達とは敵対関係になるかも知れないのに。
「私は……ノリちゃんの気持ちも分かるよ? でもミルク達の気持ちも分かるの。」
……やっぱり。
「でも私はこの世界を終わらせたくない。だから皆と一緒に抗いたい」
「美羽……」
「私はカズが好き。でも昔のカズも好きだし今のカズも好き……。だからどうにか争わない方法がないか私は探したい」
「「!!」」
その時、俺達はもう1つの道があることに気づいた。
美羽の言う通り、他に別の解決策があるかも知れないって。
「ゴメン……ミルク……。もしかしたら私はアナタ達の敵になるかも知れない……。でもこれだけは忘れないで。私はカズやアナタ達が嫌いで敵になるんじゃなくて、好きだからこそ止めたくて戦うかも知れないって事を」
「ねぇねの気持ちはよく理解しております。……それにねぇねの言うことも一利ありますから。でもその時は全力で迎え撃ちますので覚悟はしておいてください」
「……うん」
するとミルクはどこかに行こうとしたから、「どこに行くんだ?」って聞くと。
「? ここは私の家でもあるのですからここで何をしようと私の勝手ですが?」
「……ん?」
「話はこれで終わったと思いますので、これから娯楽施設で私も遊ぼうと思いまして。なにか?」
「あ……はい」
そうだった……、ここ……、ミルク達の家なんだっけ……。
それでミルクは娯楽施設のスロットコーナーへ遊びに向かって、俺はもう一度状況を整理しようと思った。
すると。
「いくら考えたって今は頭に血が上ってるから無理に考える必要ねえよ」
カズにそう言われた。
「アナタの為に皆で考えようとしてるのよ?」
ミラさんが軽く怒るけど、今のカズは何言っても無駄っだってことは解ってる。
解ってるから俺は、一旦その話を止めにして、せっかく新しい仲間が出来たんだから歓迎会でも開こうって言った。
それから暫くして、カズは豪華な料理を用意してくれたけど……、空気が重かった……。
「いつまで暗い顔してやがる。それにお前が言い出したことなんだから楽しくしねえでどうすんだ? あ? ミコさん、アンタもだしミラママだってそうだ。せっかく用意した飯が不味くなるじゃねえか。……料理ってのは楽しい気分にしてくれる。それが誰であれ、同じテーブル、同じ空間にいるなら、飯を食ってる時ぐらい暗い顔にならねえで楽しく食うからこそ楽しんで悪いことを忘れちまえばいいじゃねえか。違うか? 俺にしてみれゃ同じ釜の飯を食う奴は皆家族だって思ってる。じゃなきゃ一緒になんか食うか?」
カズがそう言うと、なんか、笑いそうになった。
「そうだよな……、お前は昔からそうだったよな……」
「だろ? 昔から俺はそうだろ? だったら食えよ」
「あぁ、いただきます!」
そうだよ、何一つ変わる事は無いんだ。
ただカズが冥竜になるかならないかの違いだ。
冥竜になったところで、もう1つの解決策を見つけて和解すれば良いだけの話じゃねえか。
クソッ……、ほんと……、お前の作った飯はマジでウメェよ!
そんな食卓にミルクも座って食べてたけど、俺達はもう、そんなことを気にしないで食べて。その日はそれぞれの家に帰ることにした。
澤崎と岩美の2人は遠いところから来てるってこともあって、ホテルを予約していたから御子神のおっさん達が送った。
次の日。
俺達はカズに呼ばれて行くとそこに、今度はイリスが帰って来ていた。
「よう、話は全部兄様から聞いたぜ? まさかアンタらがこんなに早くしっちまうなんて思いもしなかったぜ」
まるで美羽みたいなんだけど、美羽とはちょっと違う感じがするボーイッシュな少女で、パンクロックな格好をしている。
それに、メチャクチャ長い青と黒の尻尾。
やっぱりカズの血を分け与えられたからなのか、イリスも人形みたいなんだけど……、マジでどちゃくそ可愛過ぎた!
「あ? なに見てんだよ?」
ミルクが天使に例えるなら、イリスは悪魔かな?
「きっとイリスが可愛いって思って見とれてるんだよ」
ちょっ! 美羽さん?!
「アッハハハハハ! なんだよそれ! ……ククッ、マジで言ってんのかよ美羽姉~!」
まってくれ……、ミルクとは違う可愛さだからマジでまってくれ……。
「俺に惚れても無駄だぜ? 俺は兄様一筋だからよぉ」
ちょっとまてっ! まとう! 落ち着け俺! なんでこんなに心臓が強く脈打ってんだよオイッ?!
「黙ってて悪かったな。でもここでは停戦にしとこうぜ、な? ここは俺達の家だ。それにアンタらだって兄様から部屋を貰ってる。つまりは俺とアンタらは家族も同然。だろ? だったらもし俺達と敵対したとしてもよ。ここは不可侵条約で停戦エリアって事にしとこうぜ? な? 凶星十三星座の連中にはここは何があっても手を出すなって俺からも言っておくしよ」
なんか……、ミルクと違って話しが通じる気がするのは俺だけか?
ミルクは頑固。イリスは柔軟。
イリスがそんな態度だったから、ミルクと話していた時の重い空気が一気に軽くなる感じがした。
「まっ、俺は最初、アンタらも殺しちまっても良いんじゃねえかって思ったんだけどよ。ベヘモスが妙にアンタらの肩を持つし気に入ってたからよ、生かしとこうって方針になってる。だからベヘモスにどこかで会ったら、礼を言っとくんだな」
そっか……、Bが……。
「まっ、俺も久し振りに帰ってきたらなんだか家が凄いことになってるしよ。俺も少し遊んでから寝るとすっかな」
そう言ってイリスがスロットコーナーに行くと、そこにはもうミルクが遊んでいて、メダルボックスを10箱抱えていた……。
いつから遊んでたんだよコイツ?!
それを見て俺達全員はどっと疲れた……。
あれ……? そう言えば俺……、ミルクに俺の……。
俺はミルクに、それは大事な大事なモノをおもいっきり噛みつかれて、イリスに顔面尻尾ビンタをされたことを思い出して顔がメチャクチャ熱くなった……。
 




