第163話 確信
美羽の話を聞いて、俺達は泣きながら黙って聞いた……。
話を聞いて、俺は俺自身を許せなかった。
ずっと近くにいたのに、解っていた筈なのに、俺はカズの力になんにもなれてなかった……。
カズは話終わって泣いてる美羽を優しく抱き締めながら慰めて。「悪かったな」って謝る。
そりゃ、誰だって言えねえよな?
異世界の存在を知る前にそんなことを言われても。俺はきっと信じなかっただろうし、なんにもしてやれなかったと思う。
「カズ……、美羽の話は全部真実で良いんだな?」
「……あぁ」
御子神のおっさんが確認すると、カズは弱々しく返事を返した……。
「ミルクとイリスか……、厄介極まりない存在だな」
「そうね……。まさか凶星十三星座すら脅える相手だなんて……ね」
ミラさんが、困った、疲れた、そんな感情がごちゃ混ぜになったような顔で項垂れると、煙草を吸い始めた。
「んで? これはあまり聞きたかねえ話だが。カズがカズじゃなくなることがあるってのは、どういう事だ?」
それは、俺も聞きたくねえけど知りたかった……。
きっと話からして、そうとしか思えねえから……。
「カズの中には……。……冥竜の魂が眠ってる」
美羽の口からそう聞いた瞬間、俺達全員、やっぱりってなった。
「でもカズはカズだよ……。凶星十三星座はカズを殺して、冥竜……アルガドゥクスの魂を解放してから復活させるつもりでいる」
「なっ?!」
ふざっ……けんな……。なんだよ……それ?!
「それは誰から聞いたの?」
ミラさんが質問すると、今度はカズが口を開いた。
「それは俺が持ってる冥竜の記憶から得た情報だ」
「……」
誰も、何も言えなかった……。
「美羽はこう言ってるが、俺は冥竜であり。冥竜は俺だ」
「それは……どう言う……?」
「俺達は元々、1つの魂だった。だがその魂が、誰かの力で2つに分けられ、人格を持った」
二重人格ってやつか!
「それを誰がやったのか、もしくは何時から仕組まれた事なのか俺にも解らねえ。ただ、もう1人の俺は俺以上の憎悪を抱えてる。だから美羽はそんな俺を心配して、それをどうにか抑えられるように側にいてくれるんだ。だから美羽をあまり攻めないでくれ……。悪いのは……、全部俺なんだからよ……」
攻めるなんてそんなこと出来る訳ねえだろ!
「カズ! だったらお前がどうにかすれば凶星十三星座は止まるんだろ?! だったらどうにか出来ねえのかよ?!」
一樹がそう言うと、カズは弱々しく首を横に降った。
「出来ることならとっくにやってるさ。それに……、俺の自我が日に日に弱くなっていってる……。それが何を意味してるか……、解ってくれるよな?」
それこそ冗談じゃねえよ! それは! カズが冥竜の人格に飲み込まれるって事なんだよな?!
「カズ……、俺達に出来ることがあるならなんだって良いから言ってくれ……、頼む……」
逆に俺はカズにお願いした。
カズを守りたい、助けたい、俺達に出来ることがあるならなんだってしてやりたかった。
今なら分かる……、美羽がどんな気持ちでカズの隣に必死になって立とうとしていたのか全部。
「俺と冥竜の魂が1つだったなら状況は最悪な方にいかなかったんだが。今の冥竜と俺は完全に分離してる。今こうしてる間にも冥竜が、殺す、全部殺す、皆殺しにする、全てを破壊する、全てを破壊して1からやり直すって叫んでいやがる」
どうして……、なんでそこまで憎むんだよ……。
「凶星十三星座は冥竜の指示で動いている。だからミルクとイリスもそんな状態になってる俺の指示で動いた」
「だったらその命令を撤回したら、ミルクとイリスはこっちの味方になるんじゃ?!」
「だったら本人に聞くと良い」
そう言ってカズは座ってるソファの横に目をやると……、そこに綺麗な白銀色のボルゾイがいつの間にか座ってて、アクアが泳ぐ水槽を眺めていた。
ミルク?!
俺はその瞬間、強烈な恐怖を感じた。
そこには今の今までなにもいなかったし、何かが移動した気配もしなかった。
それなのにミルクがそこにいる。
自然と俺達の体が震えていた。魔力や存在感を放ってるって訳じゃねえのに、ミルクを見た瞬間、一気に恐怖が混み上がってきた。
<にぃにが作ったこの景色、本当に何時見ても美しいですね>
「「っ!!」」
ただ何気なくミルクがそう言っただけだって言うのに、恐怖感が更に増した。
<皆さんとこうして話すのは初めてですね>
ヤバいとかそんな次元じゃねぇ……、そもそも本当にそこにいるのかすら解らねぇ……。
それなのに、"天獄"の"イソラ"とはまた違う異質差で……。気配そのものが感じられない……。
そうか……、ミラさんはこの異質に気づいたのか!
そのミルクはただジッと水槽を眺めてるだけでこっちに振り向くこともなければ微動だにしなかった。
「ミルク、その姿のじゃなく人の姿になったらどうだ」
<それもそうですね>
カズの言葉にミルクは微笑んで、光に包まれると人の姿になっていく。その身体にカズの"闇の衣"みたいな黒い霧が包むと、俺達が着てる様なスーツ姿になった。
「この姿をまさか皆さんにお見せする機会が訪れるとは、思ってもいませんでした」
綺麗だった……。
可愛いけど……、それよりもとにかく美人で美しかった……。
それ以上、どう表現したら良いのか解らない……。
白銀に輝く腰まである長い髪。可愛らしく垂れた耳。長く美しい白銀の尾。
どこをどう見ても美しかった……。
「それで、私に聞きたいことはなんですか?」
微笑みすら可愛くて……、見惚れて……。何を質問したら良いのかすら忘れる……。
「ミルクの可愛さに見惚れてる場合か?」
カズにそう言われても、その美しさに抗えなくて言葉が出ない。
でもそこで、御子神のおっさんが我に返って質問する。
「なるほどな……、俺でも解るくれえの悪寒がしやがる……。なぁミルク。こうしてカズが隠してた事がこの場にいる連中にバレたんだ。今この場でカズが命令を撤回したら、お前達は俺達の味方になるのか?」
そう聞くと、ミルクはゆっくりと御子神のおっさんのほうに身体を向けた。
「それは出来ません」
表情1つ変えず、ずっと微笑んでるミルクに俺は少しずつ、また恐怖を感じ始めた。
「そりゃなんでなのか聞いても?」
「それはもう、次の段階に進んでいるからです」
「次の、段階?」
「はい。にぃにが命令を撤回したとしても。既に凶星十三星座は動いてしまっています。ですので、最早止める術は御座いません」
「そのにぃにがこっち側に着いてもか?!」
「はい」
まったく表情を変えやしない……。
それに、カズが味方になっても、ミルク達は止まろうとはしなかった。
「んじゃオメェさんはカズを裏切るってことか?!」
「それは違います」
「どう違うって言うんだ!」
「私達姉妹がにぃにの敵になることは絶対にあり得ません。それは保証します。それに、にぃにはいずれ冥竜として目覚めるんですよ?」
「だからそれは!」
「解っていないようですね」
段々とその美しさが逆に気持ち悪くなってくる。
綺麗だから? 可愛いから?
……違う! そんなじゃねえ! まるで精巧に作られた人形みてえに表情を崩さないくらい自信に満ち溢れてるからだ!
「凶星十三星座が計画していたものの1つは、にぃにを一度殺すこと」
「そうだよ! お前らの大事な兄ちゃんが殺されるんだぞ!」
「ですから、貴女方の概念で図らないで下さい」
その瞬間、俺達全員呼吸が出来ねえくらいの重圧が肩にのし掛かった。
「彼らのやり方は別に間違ってません。何故なら、にぃにを一度殺し、冥竜の魂ともう一度1つにするためです。そうすればにぃには冥竜王として目覚めるんですよ。解りますか? にぃにが死んで冥竜が目を覚ますのではなく、にぃにが死ぬことによってにぃには冥竜として目を覚ますんです」
「おい……、ちょっとまて……、それじゃカズは……」
ようやく理解した俺は動揺した。それは皆も同じだ。
「はい、理解が早くて助かります」
「だから俺が死んだ瞬間。……ゲームオーバーって事だ」
そんなのって……、ありかよ……。




