第162話 疑惑は確信に<美羽side>
小さい頃、崖から落ちたその日。私は一度死んだ。
……それなのにどうして生きてるのか。不思議としか思えなかった。
だって私は確実に死んでいたから……。即死だった……。
お父さんですら助けにこれないくらいの崖に落ちたんだから、子供の私が助かる筈、無いんだもん……。
私はその時、横たわる私自身を見ていたのを覚えてる。首がパックリ切れてて、大量の血が溢れ出ている自分を。
……でもそこに、カズが泥だらけになりながら降りてきて、私は思った……。
あぁ……、このまま死んじゃうんだ。死んだら皆のこと忘れちゃうのかな。
そう思っても、不思議と悲しいって感情が無かった。
でも……。
「死んだらダメだよ美羽ちゃん!」
カズが私のために泣いてくれてる……。嬉しいな……。
そしたら……、体が段々と暖かくなっていく感覚になって、私はそこで初めて、カズの力を目にすることになった。
切れた首が元に戻っていく……。折れた手足が治ってく……。でも、首だけは完全に治す事が出来なくて、カズは応急処置をしてくれると私をおんぶして、崖を登り始めた。
それが嬉しくて。私は私の体に戻っていって、意識を失った……。
カズは不思議な力を持ってる。でも、それは知ってはいけないと思って、これまでずっと黙ってた。
それで息を吹き返す事が出来たけど。私は代わりに声を失った。
でも、それもカズが治してくれた。
カズの家でいつの間にか寝ちゃってると、そこでカズは優しく私の喉に手を当てて、また、暖かい温もりを感じて少し目が覚めた。
「ん? 起きた? 大丈夫だから心配しないで寝てていいよ」
「……うん」
その時、久しぶりに聞いた自分の声に驚いたけど私はそのまま寝た。
嬉しかった……。全部、カズのお陰で私は生き返って、そして声まで取り戻せた事に。
その時にはもう……、私はカズが好きになっていた。
それから一生懸命声を出す練習をして。カズは私のために曲まで作ってくれた。
だから頑張れた。
でもカズにはサーちゃんがいる。
好きだけど……、好きだからこそ諦めなきゃならないのかなって思ったこともあるよ……。
でも、今はそのカズと付き合う事が出来てる。それがどれだけ嬉しくて、幸せなことか……。
だから私はカズの秘密を知っても、誰にも話すつもりはなかった。
異世界の存在も、ノリちゃん達よりだいぶ前から知ってた。
だからいつかカズの隣に立ちたいって思って、カズに頼んである人を紹介して貰ったこともある。
大変だったよ? 皆にバレず、一生懸命騙し通すのが。
魔結晶で魔力を手に入れたのは、ノリちゃん達と一緒であの時が初めてだったけどね。
だから私は小さい頃からずっと、カズとよく異世界のゼオルクに遊びに行ってた。
ノリちゃん達も行くことにった時。入る前に犬神さんと御堂さんが私を知らない、初めて顔を見たってことにしてくれって街の人達に根回しまでしてくれた。
それに、小さい頃からカズと一緒に行ってたんだから、自然とカズの動きを見て覚えられるようになった。
ノリちゃんが私の動きを見て、まるでカズみたいだ、カズの影が見えるって言った時は凄く嬉しかった。
だってそうでしょ? 私はカズの横に、一緒に立ちたかったんだから。
でもモンスターとか生態とかそう言ったことは全然解らなかった。
私が行っていたのはあくまでもゼオルクの街の中だけ。そこから先の外には一度も出たことが無かった。
テオとリリアと会ったのも、ノリちゃん達と一緒であの日が始めてだよ。
ただ、私がいないところでカズどんどん強くなっていくのは知ってた。
知ってたけど、怖くて何も聞こうともしなかった……。
でも中学生になった頃にスカウトされたことで、歌手デビューすることになってからなかなか行けなくなった。
それでも時間がある時はよく行ってたのを覚えてるよ。
私が仕事で忙しい時、カズがおじさんと骸達と強力なモンスターを討伐したって話しも聞いた。
そんな私がゼオルクに行ってることを知っていたのは、犬神さんと御堂さん達組員の人達と街の人達だけで、おじさんや先生、自衛隊の人達は誰も知らない。いつもカズが私を隠してゲートを潜っていたからね……。
でもたぶん……、おじさん達の事だから絶対にバレてたと思うけど。何も言ってこなかった……。
……ミルクとイリスが"進化"の力を手に入れたのは……。カズとサーちゃんとの仲に亀裂が入ったあの事件の後だったよ。
覚えてる? サーちゃんが倒れて入院したって聞いて、お見舞いに行ったあの日だよ。
「なにするつもり?」
「……」
「カズ!」
その日、何があったのか知らなかった。
ただボロボロになったカズを見つけて、私がここまで連れ帰って来た後に、力を与えたの。
私が止めるのを無視して目の前で。
そして、ただの動物だったミルクとイリスが獣人に進化した……。
最初、それを目の前でされた時は怖かった……。もしかしたら誰かにバレるんじゃって事も考えた。
それからミルクとイリスはカズから言葉を教えて貰ったし、どんどん強くなっていったよ。皆が思ってるよりも想像以上に……。
彼女達の使命はカズを守ること。
邪魔をする者がいれば、容赦無く全てを捩じ伏せる。
全てはカズの為に。
ミルクはにぃに。イリスは兄様って呼んで、カズを主人じゃなく、兄として慕ってる。
そんな彼女達はカズの命令で、これまで沢山の人達を暗殺したり、裏組織に潜入して情報を入手したりしていた。
刹那ちゃんが夜城組の暗殺者なら、彼女達はカズ直属の部下であり、妹。
彼女達がどうやって進化したのか……。その答えはカズの血。
カズの血を分け与えられ、彼女達は絶大な力を手にしながら進化した。だからカズにとって彼女達は血の繋がった兄妹。
私達がどれだけ頑張ってもさ、彼女達の足元にも及ばないだけの実力を持っているの。
そんな彼女達は時折、私が仕事で忙しい時に隠れて顔を出したりもしてくれた。
「よう遊びに来たぜ?」
「ちょっと! 誰かに見られてないよね?!」
「おいおい、俺達を誰だと思ってんだよ美羽の姉貴」
イリスに初めてそう言って貰った時。嬉しくて泣きそうになったのも覚えてる……。
普段、ミルクは犬の姿。イリスはオオトカゲの姿で私達を近くから見守ってくれてた。
だから、本当はとても優しい子達なの……。
正直に言うけど。
ゴジュラス達が束になっても勝てないよ?
それを知ってるのは私だけ、カズと私だけの秘密。
<改めて自己紹介を。私の名前はゴジュラスと申します>
「宜しくお願いしますね、ゴジュラス」
「俺からも宜しくな~」
その力を知ってるのはゴジュラスだけじゃないよ。ノリちゃんとか、皆のパートナー全てがミルクとイリスがどんな存在かも知ってるよ?
彼女達がどれだけ強いのか……、全部。
だから凶星十三星座は彼女達の言葉に従う。
戦ったって、彼女達2人に勝てる見込みが無いんだからね。
だからこそ、ゼオルクの街に来た時にルシファー達は彼女達にかしずいた、そして知ってしまったの。
カズが、……バルメイアの首都を滅ぼさせたことを……。
「お願いだから正気に戻って!」
「バルメイアですが、予定を変更して私が行って参りますにぃに」
「ミルク?!」
それでミルクが動いた……。
その時のカズはカズじゃなかった。
そしてもう一つ。
おじさんの推察通り……。骸も凶星十三星座の1人でそのNo.はⅤ。
本当の名前は知らない……。それは本当だからね?
それを知ったのはつい最近。
私も驚いちゃった。だって、あの骸がナンバーズの1人だなんて思いもしなかったから……。
だからノリちゃん達皆は、今まで知らずに凶星十三星座の骸とずっと……。一緒に遊んできた。一緒に食事した。一緒に笑いあった。一緒に泣いたりもした。一緒に怒ったこともあった。一緒に寝た。一緒に出掛けた。一緒に悩んだ。一緒に考えた。一緒に慰めあった。一緒に努力した。一緒に後悔した。一緒に喜びあった。一緒に……、過ごしてきた……。
……止められると思う? ……話し合えると思う? ……戦える覚悟はある? ……私には無理だよ。
骸も彼女達と一緒で、カズに仇なす者全てをその力で薙ぎ払う。
力を解放すればSSランク?
……違うよ?
骸の力はそんなに可愛いもんじゃないよ?
でも、それ以上に強いのがミルクとイリス。
彼女達は凶星十三星座とは別格の力を持ってる。
戦おうだなんて思うほうがそもそもの間違いなんだよ。
でも……、アイツのせいで……。あのマーセルって人のせいで全てが狂い始めた! 崩壊しちゃった!
カズはニアさんを大切にしてた! それなのにあのマーセルはカズからニアさんを奪ったどころか悠の命まで奪った!
そのせいでカズがどれだけ苦しんだか分かる?
カズの心は憎しみと怒りに染まって……。そのせいでカズはカズじゃなくなった!
分かる? アンタ達がどれだけカズの側にいた時間があってでも……。カズの心がどれだけ壊れていたか……、分かる?
せめてもの救いはBちゃんだった……。
ニアさんが死んだ後、Bちゃんがいてくれなきゃ……、今頃カズはもっと酷くなってたと思うよ? だからそんなBちゃんだから私は許せた……。任せられた……。
でも! だからこそ私は思いきって告白した!
カズが好きだから!
カズをカズのままにしておく為に!
でもそれを彼らが許さなかった……。
だからこそ…………。
彼が目覚め始めた。
ほんの小さなきっかけはサーちゃんの時。そして……、ニアさんが死んだ事で崩れ始めた……。
だから昔よりも彼が顔を出す事が多くなった。
最終的に……、悠の存在を知ってしまった事が原因に繋がった……。
カズの心がそこまで追い込まれてしまったから……、時々だけだったのが……、今じゃ半分彼が顔を覗かせる時があるの……。
そしてそれを守るために、目覚めさせる為に凶星十三星座が本格的に動き出した。
全ては……、自分達の王の為に。
全ては……、自分達の王の願いの為に。
全ては……、自分達の王の敵を全て滅ぼす為に。




