第161話 浮上し始めた疑惑
学園祭が終わって、全員でカズの部屋に集まった。
流石に初めてカズの部屋に来た岩美、里崎、佐渡はその空間を見て口をポカーンと開けて固まる。
俺達は昔から来てるし、なんならジャングルになる前の部屋も知ってる。だから部屋が徐々にジャングルになっていく過程を見てきたから、そこまで驚きはしないけど。それでもジャングルはやり過ぎる気もする。
でも、そのお陰で俺達のパートナーも伸び伸びと暮らしているんだから文句なんて言えやしない。
「お前らのパートナーも適当に遊ばせておけ」
「「は、はい……」」
そしてそこから先にある、例の大水槽前ホールに到着すると。そのゴージャスな空間に言葉を失った。
「ネイガル、来てたのか」
「お邪魔しております和也様。あっ、私にビールの御代わりを」
もう飲んでるし。
「他の連中もいるな?」
そこには御子神のおっさん達警察。柳さん達公安。ミラさん達軍人も待っていた。
「話した通り。今回選抜された3人だ」
「ん、了解だ」
「公安のほうでも彼らのリストを早急に作成し、各所に手配しておきましょう」
「たのんます柳さん」
各所に手配って言うのは、たぶん転校手続きやら引っ越しの手続きとかだと思う。
「え……、え? ここ、本当にや、夜城君の部屋?」
「うん、そうだよ?」
佐渡が顔を引きつらせながら質問すると、それをヤッさんがニッコリと微笑んで答えた。
「おかしいよ……、絶対おかしいって……。何この豪華な空間! あり得ないって!」
うん、俺達もこの空間見てそう思ったぞ。
だからそう思った俺達全員はニッコリと佐渡に微笑んだ。
もう、カズには常識とか、あり得ないとか関係無いんだもんよ。ははっ……。
「マーク達はまだ戻ってねえの?」
カズがマークのおっさん達の事を聞くと。
「あぁ、マーク達ならまだだ。俺が手配した警官と見回りに出掛けてるが、もうそろそろ戻ってくるだろ」
「了解だ。だが相手はあの稲垣さんだ。恐らく向こう側にもう行ってる筈だから警戒するなら凶星十三星座だ」
その瞬間。空間全体にビリッとした緊張が走った。
「あの時俺達も会ったベヘモスってのは、やっぱり裏切ったのか?」
「それは気が速すぎるってもんだぜおっさん」
御子神のおっさんがそう言ったから、俺は思わず口調を強くしちまった。
「だが憲明。ベヘモスは刹那の邪魔をしに来たって言うじゃねえか。考えてもみろ、そんなことをしてきたって事はだ、裏切ったって事だ。違うか?」
「でもそれは!」
「大人になろうぜ憲明。お前らはもう、ただの学生でじゃいられねえ立場にいるってことを理解しろ」
「くっ……」
俺達がなんの話をしてるのか、新たにここに来た3人は知らない。
稲垣陸将の裏切り。Bの裏切り。凶星十三星座って組織が裏で動き始めたって事をまだ知らない。
その事実はもう時期、……全世界に知れ渡る事実。
だけどその前にどうにか和解したいって気持ちが俺の中にあった。
「カズ。骸の姿もずっと見てねえが、ゼオルクにいるのか?」
「……さぁな。アイツは自由気ままな奴だから。どっかで遊んでんだろ」
「……本当か? 本当にそうなのか?」
その瞬間。御子神のおっさんの目が刑事になった。
「なに言いてえんだ?」
「お前、なにか隠してるよな? しかも、それは俺達にすら言えねえヤバい事を」
「あ?」
やめてくれおっさん。それ以上は、それ以上は言わないでくれ……。
俺は薄々感づいていたことがあった。でもそれを聞いたら、カズは絶対にキレる。だから聞きたくても聞けないし、なにより、俺達はそれを聞きたくもなかった。
「骸は凶星十三星座なんだろ?」
おっさん……。
「……」
その瞬間、カズは黙ると懐からブラックデビルって煙草を取り出して吸い始めた。
「それにまだ隠し事があるよな?」
「……」
「カズ……、情報ってのは大切だ。情報があるからこそ、得られる物もありゃ得られねえもんもある。……おいカズ。オメェ、ミル ーー」
「その辺で止めておきなさい。Mr.御子神」
御子神のおっさんが何かを言うおうとしたところで、ミラさんが遮って止めた。
「この子に何を聞いても、黙ってしまったらそれ以上何も喋らないわ」
「しかしMiss.ミランダ。俺達は知らなければならない理由がある筈だ」
「それでもよ。それに、この子が黙ってるってことは、それは肯定を意味する」
確かにその通りだ。カズの黙りは、肯定を意味している。だから質問しても黙ってるってことは、それはその通りってことになっちまう……。
だから……、頼むから聞かないでくれ……。
俺は怖かった……。俺だけじゃなく、俺達全員が。
御子神のおっさんが何を聞こうとしてるのかなんて薄々気づいてるさそりゃ。
だから、それを何も言わないカズもそうだけど。その事実を改めて知ってしまうと、怖くてたまらなかった……。
「カズ。オメェはそれで良いのか?」
「……」
「俺はここに来るのは今日で3回目だ。それでも、気づかねえとでも思ったか? 刑事を舐めんなよ?」
空気が重い……。新しい仲間が出来たって言うのに、そりゃねえよおっさん。なんでよりによって今、そんなこと聞くんだよ……。
「カズ。実を言うと私も少し気になっていた事があるのよ」
そこでまさかミラさんまでカズに何かを聞こうとしたから。もう……、誰もが止められなくなった……。
さっきは止めてくれたのに……、なんでだよミラさん。
下手に俺達がカズのフォローをしたところで、なんの解決にもならない。
相手はプロの警察と軍人。
俺達がいくらフォローしてでも、簡単に看破されるのがオチだ……。
「ねぇ。ミルクとイリスはどうしたのかしら?」
「……」
やっぱり……、その名前が出やがったか。
「不自然にも程があるんじゃなくって?」
「……」
「アナタ……、いつからあの2匹を動かしていたの?」
「ミラさん、その辺に ーー」
「Sharap! アナタは黙ってなさい美羽!」
物凄い睨みをするミラさんに、流石の美羽ですら黙った……。
「私はあの2匹を見た時から異常な違和感を覚えたわ。そもそも、あの2匹は頭が良すぎる。……凶星十三星座のルシファー、そしてダークスターがあの2匹を前にしてどうなっていたか知ってるかしら?」
それは、俺達も知らねえ……。
「脅えていたのよ、あの2匹に対して。あの凶星十三星座が。それが何を意味してるか、解らないとでも?」
「確かに……、私とシーちゃんの2人で前の戦争の時。ミルクちゃんとイリスちゃんと一緒にいる時に、なんか、なんて言って良いんだろ……。脅えていたように見えたかも……」
サーちゃんまでそんな事を言うと、益々それが確信に近付きつつあった。
「アナタ……、ミルクとイリスに……、"進化"のスキルを与えてるわね?」
「……」
「自衛隊からの報告にこんなのがあったわ。腰まである長い銀髪の、大変美しい獣人の少女が首都バルメイアを一撃で滅ぼしたんじゃないかって話を……」
一撃で……、バルメイアの首都を滅ぼした?!
「アナタは怒りに任せ……、ミルクに首都バルメイアを滅ぼせと命じた。……違う?」
「……」
「おいカズ! それは本当なのかよ?!」
俺は思わず聞いた。
それでも、カズは黙ったままだった。
「美羽。オメェさん……、知ってたな?」
今度はおっさんがそう聞くと。美羽は下唇を咬みながら俯いて、肩を震わせた。
「知ってたんだな? 知ってて黙ってたのか!」
「やめてくれおっさん! 美羽にだってなにか言えない事情があったんだよ!」
「俺は黙ってろって言った筈だぞ憲明?」
そう御子神のおっさんに睨まれた。
「……いつから知ってたんだ? ミルクとイリスってのが、いつからそれだけの力を持ってたのかは知らねえのか?」
「……」
「オメェは憲明達とは違って、カズとはもっと長い時間を一緒にいたよな? だったらそれ以前に知ってたんじゃねえのか?」
「……」
「答えろ美羽。……答えろっ!」
庇いたいのに、庇えられないって無力感で、俺達は泣きそうになった……。
そして……、美羽は苦しそうに重々しく口を開くと、知ってる事を全て話した……。
本当に……、本当に知りたくもなかった話しも全て……。




