第15話 あの子を全線に出したくないから<朱莉side>
いきなり現れた刹那により、たったナイフ2本で中型ワームが撃破されて行く。
当然、組員や自衛隊員は唖然としながらその光景を目にしていた。
「さすがね、刹那」
でも私は微笑んだ。
「相変わらずスゴいですね、ウチのお嬢は」
組員の1人がそう言って称賛の言葉を口にする。
「なんせあの子は一応、カズの妹ですもの。それに師匠が師匠よ?」
「ですよねぇ」
「それにしてもナイフだけでああも容易く倒すとは驚きですけどね」
中型ワームの大きさは訳4~5メートル。刹那は身長160センチも無い。そんな刹那がナイフ2本で、確実に心臓と思われる赤いコアを破壊することでワームを仕留める。
撃破されたワームの体から、組員達が慎重に、破壊されたコアを取り除いていく。
けど、そのコアを取り出すにも一苦労ね。
ワームの血液とも思える体液にちょっと触れただけで激痛が走り、服に付着すればそこから少しの範囲が溶けてしまう。
幸いなのは金属だとあまり溶かされない事だけね。
「まるでエイリアンみたいな奴ですね。しっかしぃ、本来モンスターの体には青紫色の魔石が入ってますけど。なんでコイツ等にはないんですかね? 代わりにこの赤いコアが結晶なんですかね?」
組員はなんとか慎重にコアを取り出しながら私に話しかける。
「それを調べるにも、出来るだけ回収するわよ。もし、それがこのワーム達のコアであり魔結晶なのであれば、その働きに応じてカズから報酬を貰えるはずよ?」
魔石、または魔結晶と呼ばれるそれは、私達にとってもかなりありがたい物。
その為に、出来るだけ壊さないようにしていたのだけど、刹那は容赦なく破壊する。
しかし、破壊されてもある程度の大きさがあれば、石はまだ使えそうだと私は判断し、集めさせていた。
……でも。
「刹那、もう少し慎重に倒してくれると助かるわ」
「それは無理」
「何故?」
「私より、皆んなの方が酷いから」
うっ……、そう言われると何も反論できないじゃない……。
廃工場内からは今もなお爆発音が連続して聞こえてくるし、もはや石の事など気にせずに攻撃をしているのか、確かに酷い……。
でも、そうでもしないと確かにワームは倒せないのも事実。火炎放射器を使ってその体を燃やし尽くすか、コアを破壊しない限り、ワームを倒せないでいる。
あるいはその両方。骸の様に、氷で凍らせてから粉々に粉砕するかね。
と、その間に刹那はどこからともなくモーニングスターを出してワームを攻撃し、トドメに日本刀でコアを破壊。
……お願いだから建物の柱とかを壊さないでね?
刹那が使うモーニングスターは、フレイル型と呼ばれる種類に入るけど、その鎖はとても長く、それを簡単に操る。
「ふん」
<ギッ?! ……>
…………。
モーニングスターで簡単に頭を潰すのは良いけど、ワームから飛び散る体液が溶けやすい物に付着すると、瞬時に溶けていく。
「うわー! お嬢! 危ないですって!」
「ヤバい! 服が溶け始めたー!」
お願いだから周りに迷惑かけないで……!
「……避けないのが悪い」
無理言わないであげて!
「ふん」
「お嬢! 柱! 柱を壊さないようにしてください!」
「下手に壊したら倒壊して俺達全員生き埋めになりますって!」
倒壊すると言われ、ようやくそこで刹那はモーニングスターを使うのを止める。
「いったいどこの誰だよ……、お嬢にモーニングスターを渡したのは……」
「それはやっぱり決まってんだろ……」
「……そうだよな、若しかいねえよな……」
そう……、刹那にモーニングスターを渡した犯人はカズしかいない……。
組員達はげっそりした顔でそれ以上、何も言わなくなった……。
「しかし厄介ねコイツ等。私ですらこんな事初めてよ。どうにかコアだけ取れないものかしら……」
私は両手を組み、刹那に倒された中型ワームの亡骸を見た。
「コアだけを抜き取ることなんて、無理。……あっ」
「あっ」
私と刹那はある事を思い出し、互いに目を合わせる。
「そんな芸当をやってのける方をワタシは知ってる」
「奇遇ね、私もよ」
それは1番敵に回したくない相手。
「……先輩なら、普通にやってのけるかも」
「そうね。確かにあの子だったら普通どころか簡単にやってのけそうね……」
組長は別として、骸が夜城組の切り札だって言っても、カズはそんな骸よりもっと恐ろしい存在……。
カズがその気になれば、ここにいるワームをたった1人で殲滅しかねない……。
考えただけで背筋が寒くなるわね。
皆、カズの見た目に騙される事が多いけど、一度カズに捕まれば逃げる事が叶わない。
頭を鷲掴みされれば簡単に握り潰し、その握力から生み出される引っ掻きは簡単に肉を引きちぎり、とある装備をすれば更に凶悪な力が生み出されることになる。
ましてや、あの子がその気になればきっと、あの化け物を呼び覚ます。
だからこそ私はなるべくあの子の力を頼らずに、どうにか仕事を片付けたいって気持ちだった。
だって、本当の切り札を簡単に出したくないし、あの子の能力を知られたくなかったから
あの子の能力は危険過ぎる……。
でも、そんなあの子ですら勝てなかったのがいるんだけど。
「先輩が出た時のこと、考えてる?」
刹那には、私が何を考えてるかお見通しって訳ね。
「そうね、心配だわ」
「だから、あまり出てきてほしくない?」
「その通りよ。あの子が出てきて、万が一にも奴らに嗅ぎ付けられでもしたら、それこそ悲惨な運命が待ってるかも知れないんですもの」
「……」
今、奴らにあの子の存在を知られるわけにはいかない。
あの子を絶対に奪わせるもんですか!
「それは分かる。でも、先輩は向こうで暴れる事が多い」
そうだった……。もしかしたらもう、監視されてるかも知れない。
「今度注意するように言っておくわ」
「それに、もし、ワームの親玉が出れば、絶対に先輩は動く」
「……そうよね」
でもそれは、出来るだけやり過ぎなければ良いだけって思いたいのだけど、それは叶いそうにない。
だからこそ、出来るだけこっちで制御する必要がある。
最も警戒しなければならない連中に、嗅ぎ付けられないように……。
そして、地獄を目覚めさせない為にも……。
「……大丈夫」
「ん? なにが?」
「先輩は、そう簡単に"地獄"を目覚めさせない」
…………ほんと、なんでもお見通しね。
「だったら私達だけでなるべく殲滅するわよ」
「了解」
「「応!」」
「こちら鬼頭、犬神、御堂、あなた達も分かってるわよね? あの子を出したくなければ、私達だけで終わらせるわよ」
『こちら御堂、了解です姉さん!』
『こちら犬神、了解です』
さぁ、私達で殲滅してあげるから、じゃんじゃん出てらっしゃいワーム達!
暗器使いの刹那みたいに、懐にモーニングスターを隠し持ってみたいもんです。
どうも皆様、Yassieです。
"暗器"と言ったら皆様は何を思い浮かべますか?
拳銃? ナイフ? 日本刀? 僕みたいにモーニングスター? それともクナイや鉄扇でしょうか?
何を隠し持っているんだろうと思うと、なんだか怖いですねwww
さて、今回は如何だったでしょうか?
感想、ブックマーク、いいね、⭐、良かったら下さい。って言うか下さい!!www