第153話 教皇アンネハイム
「全世界の首相にテレビ電話を繋いでください」
その日、バチカンではローマ教皇がどうすべきなのかを話す為、全世界の首相にテレビ中継を繋いでくれと頼んだ。
教皇の名は、アンネハイム。
アンネハイム教皇は急いでテレビ中継を用意してもらうと、各国首相陣と顔を合わせて会談を始めた。
「家永首相。今、日本の様子はどうですか?」
家永首相は日本の現総理大臣だ。
「結論を申しますと、最早隠蔽は出来ない状況にあります」
「やはりそうですか……。……どうやら決断すべき時が来た様ですね…」
教皇が一度目をつむると、各国首相は今から重大な事を言われると思い、緊張が走った。
「各国首相の皆さん。この世界に生きる、全ての人々に真実を伝える事に致しましょう」
教皇は異世界の存在を認め、その異世界に住まう多くの種族が皆、こちら側と友好的である事を伝えようと話した。
同時に。
教皇は現在、世界の敵である者達が闇で蠢いている事実も話そうと首相陣に伝える。
それは凶星十三星座達の事だ。
彼らが和也達と接触した後。遂に本性を現した事実を教皇は報告で聞いている。
その和也こそが、彼らが探し求め、復活させたがっていた最強最悪の王。"冥竜王・アルガドゥクス"の生まれ変わりだという事も教皇は知っている。
しかし、復活させるには和也1人では不可能だと言う事を知っていた。
「大統領。例の遺体は大丈夫ですね?」
質問されたのは現アメリカ大統領のジョン・セルビン。
セルビン大統領は教皇に対し、「御安心下さい」と言い、問題とされている遺体に関して応えた。
「我々は絶対にアレが見つからない様に情報操作をして来ました。それに厳重に封印しております。アレが例え蘇ったとしても、決して出る事は不可能です」
そう言ってセルビン大統領は満面の笑みを見せる。がーー
アンネハイム教皇は違った。
教皇は渋い顔でまた目をつむると、どこか重々しい雰囲気でセルビン大統領に警告を伝える。
「セルビン大統領。決して彼らを侮ってはいけません。いずれ彼らに見つかる危険性が非常に高い」
「そんな事はありません。例の場所は厳重に警備しております。復活したてなのであればどうにか通常兵器で迎撃は可能な筈です」
その自信はどこから来るのだろうと、教皇は頭を抱えた。
「私は今しがた言った筈ですよ? 決して彼らを侮ってはいけないと。それに厳重に封印していると言いましても、彼が本当に目覚めた場合、その封印は意味を成しません。あの王は最強最悪にして最凶最厄。ありとあらゆる命の天敵なのです。その力は絶対。絶を冠する竜王であり神の力は我々がいくら抵抗しようとも、なんら意味を成しません」
「では、対策としてもっと兵力の増強を」
「ですから、無意味なのです」
口調を強め、アンネハイム教皇はセルビン大統領に苦言を呈した。
「それに今は凶星十三星座が大人しくしているとしても、いずれ力を取り戻した後、確実に王が眠る場所を突き止めてやって来るでしょう。下手に増強すれば尚のことです」
そう言われ、セルビン大統領の顔が徐々に赤くなって行く。
「今一度言います。冥竜王とその配下である凶星十三星座の力を甘く見てはいけません。先日 報告を受けたバルメイアの消滅。その程度……、凶星十三星座なら簡単に出来てしまうのです。そして冥竜王ともなればまた話は変わってきます。あの王がその気になれば、想像以上の被害となります。貴方方はあの王がどんな存在か聞いている筈です。核兵器等もってのほか。使用すれば逆にあの王の逆鱗に触れ、全てが滅びる事になりかねませんよ?」
改めて聞いた各首相は顔を真っ青にし、恐怖で体が小刻みに震え始めた。
「かつて……、王を止めるべく多くの命が奪われました。犠牲となった命は数知れず……。そんな王をやっと止めることが出来たのが5人の勇者と2人の冥王。そしてあの方の力でようやく……、ようやく封印する事が出来たのです……。しかし、王の魂だけは封印する事が出来ず、何度も生まれ変わりが現れました。ですが、何故か凶星十三星座は復活する事なく、今まで眠りについていたのが不思議です」
教皇はそれがどうしても引っかかっていた。
何度も生まれ変わりが現れていたのだから、その時に復活してもいい筈なのに。
その理由が謎だらけで理解出来ずにいた。
「とにかく、表立った行動は控えて下さい。それと、日本に出現した門に関してなのですが。どこに繋がってるのか検討はつきましたか?」
「え~それなのですが、向こうから空挺騎士団なる者が2名、こちら側に来たと報告を受けております。しかし、確実な安全性を考えまして、自衛隊よりも我が国が誇る最強チーム、"夜空"に調査依頼を出しまして。現在調査をしている最中であります」
「夜空をですか?。……そうですか、分かりました。その空挺騎士団ですが。それは確か、向こうの学園都市と呼ばれる場所を守護する者達で構成された部隊と聞き及んでおります。それだったら特に問題は無さそうですね」
教皇は少し何かを悩んだ後、各首相達にとある事を提案する。
それを聞いた首相達は驚いたものの、向こうの世界を少しでも知って貰うためにも良いアイディアかも知れないと思い。その提案は賛成され、その為に行動することになる。
「では、今回の会談はこれで終了と致します。後日、日を改めて皆さんで集まり。この件に関してより吟味すると致しましょう。このような緊急の呼び出しに応じて頂き、誠にありがとう御座います」
アンネハイム教皇は頭を下げ、各首相に御礼の言葉を送ってテレビ電話による会談は一旦終了した。
その後、アンネハイム教皇は皆で改めて集まり、会談するための準備をすることにした。
そんな時、何も無い天井からピンクがかった金色の羽が舞い落ちていきた。
「おぉ! お久し振りに御座います」
天井を見上げた教皇は、突然現れた人物に対してかしこまった。
「貴女様とこうして御会いできるのはいつぶりに御座いましょう」
「お久し振りですね。アンネハイム教皇。私がここに来たのは他でもありません」
「分かっております。兄上様の事で御座いますね?」
「ええ、その通りです」
アンネハイム教皇の前に現れたのは、まるで女神と思える程の美しい女性。
ピンクがかった金色の、艶やかで美しい長い髪。透き通った白い肌、青く美しい目。そしてその背には、6枚の美しい羽が生えている。
どれをとってもこの世の者とは思えない美しい女性が降り立った。
教皇に付き添っていた者達にしてみれば、その女性はまるで光だ。誰もがその女性に見惚れてしまい、言葉を失ってしまう。
「なかなか顔を出せず、申し訳ありません」
「滅相も御座いません。我々にとって貴女様は神なのですから」
「そう言われましても、私自身、神だとは思ってはいないのですが」
女性は少しだけ困ったような表情を浮かべ、神であることを否定する。
「それで。兄は今、どうしてますか?」
「正直言いまして、大変大人しいと思われます。それが反って不気味でなりませぬ」
「そうですか……」
「ひとつ、御伺いしても宜しいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「何故、今になって凶星十三星座が動き出したのか私には理解出来ないのです。王はこれまでに何度か生まれ変わっております……。なのにどうして今の時代になって復活し、動き出したのでしょうか? ……かつて、人類は手を出してはいけない禁忌に触れ、この世界は何度も滅びました。……しかし、それなのに彼らは動かなかった……。何故なのでしょうか?」
「空白の時代……ですね? ……それは私にも解りません。私と致しましては、このまま兄をそっと見守っていたいと言うのが本音なのですが……」
「貴女様の御気持ちは十分理解出来ます。しかし、正直申しますと、兄上様はあの冥竜王なのです。彼らが復活した今、最早 戦いは避けられないのではないかと危惧しております」
「貴方方の心配はよく分かります。既に"地獄"が目覚めてしまっていることですし。いずれは兄と再び相見える時が来るでしょう……。覚悟は出来ております」
女性は少し、怖い表情で言葉強くそう告げると、アンネハイム教皇達は悲しそうな表情となってそれから先が何も言えなくなった。
「(御二人がこうして対立するのは……、見たくないものだ……)」
「そんな顔をしないで下さい」
「 !! 」
女性はアンネハイム教皇が何を思っていたのか、その表情で解ってしまった。
「……申し訳ありません。ですが、私と致しましてはやはり……、貴女様方の対立するお姿を見たくないのです……」
「貴方は昔から本当に優しいですね」
「ッ! 勿体無き御言葉に御座います」
女性の美しい微笑みを見て、アンネハイム教皇は自然と涙を流す。
アンネハイム教皇は知っている。
本当は、この女性と冥竜王が、とても仲の良い兄妹だった事実を……。
そして……。
どうしてその2人が殺し合う事になったのか……。
教皇になった時、その全ての事実を知らされた。
しかし今。一部の司教達もその事実を告げられている。
2人の、とても哀しい真実を。
そして世界は大きな変革を迎える事になる。
10月1日
その日、日本政府は現れた門の先がどんな世界なのか、時間をかけて説明した。
同じ頃、世界中がその事実を発表し、大きな混乱が巻き起こる事となる。
だが同時に人々は目を輝かし、歓喜した。
漫画やアニメの世界でしかなかった異世界が存在し、魔法やモンスターが実在する。
そしてその世界に眠る資源に関してあらゆる企業が注目し。政府に対して異世界への訪問許可を取るべく、動き出していた。
だが、政府はそんなこと正直どうでも良かった。
資源は確かにいくらでも眠っている。
だからどうした? と言った感覚になっていた。
理由は簡単だ。資源が取れるからと言って、それを取っても世界が滅亡するかも知れない問題があるからだ。
冥竜王・アルガドゥクスが完全覚醒でもすれば、資源どころの騒ぎではなくなる。
しかし、その冥竜王と和解する事が出来るのであればこの上無い。
王の配下である凶星十三星座は、世界をあるべき形に戻したがっている。
それはこの世界を人間達から取り戻し、再び自分達の世界を1から創り直そうとしているからだ。
必要となるのは王の力。
その為ならなんでもする極めて危険な者達。
そうなる前に、少しでも戦力を増やしたいと思った各首相陣は話し合った。
そしてもうひとつ問題がある。
人の手による世界の滅亡。
その為に異世界への移民計画はあるものの、一向に進展が無い。
その移民計画をどう進めたらいいか悩んでいた。
しかし、アンネハイム教皇が提案した事を先ずは実行しようと。とある事を全世界に対して話した。
「基準を満たした者のみ、異世界の学園都市入学を検討している」
 




