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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第5章 崩壊する日常
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第147話 虎トラ寅<美羽side>


 その日はカズとノリちゃん達がヴェロキラプトルのアリス達と一緒にツーリングをしに出掛けていて居ないから。私は女子だけのパーティーで討伐クエストに出掛けることにした。

 パーティーメンバーは私と沙耶、サーちゃんと志穂ちゃんの4人。


「沙耶!」


「はいよ〜!」


 志穂ちゃんがモンスターに狙われて攻撃されそうになったのを見て。私は沙耶に援護して貰うために声をかけると風の矢を3本放った。


〈ゲギャ?!〉


 3本の風の矢は見事モンスターの頭に命中して、その場に倒れる。


「大丈夫ですか?」


 私は他に周りにいたモンスターを倒してから、腰が抜けて動けないでいる志穂ちゃんに駆けて行って手を差し伸べた。


「だ、大丈夫」


「危ない時はちゃんと逃げないと危ないですよ?」


「うん……、ゴメン」


 来ている場所は22万ヘクタールもある"ペロミア大湿原"。

 そのとんでもなく広大な湿原地帯に私達は来ていた。

 討伐対象となるモンスターは。


「美羽。そっちに"ペルトフログ"5匹いったよ〜」


「うん、分かった!」


 ペルトフログ。初めてここに来た頃。私達は5人で1匹を相手にしていたカエル型の小型モンスター。

 志穂ちゃんはそんなペルトフログの群れにボコボコにされちゃっていた。


「うわ〜……、泥だらけ……」


「志穂ちゃん足下気をつけてくださいね」


 手をとって起き上がらせると。そこにまた5匹のペルトフログが来たから私は倒した。


「ふうぅ、これで何匹目かな?」


「ざっと25〜」


「うえぇ、まだ25かぁ」


 最初の頃を知る人からして見れば、かなり成長したかなって思える。

 どうしてペルトフログ討伐をしているのかだけど。それはペルトフログが大量発生して、近隣の村や大湿原の生態系に悪影響が出る恐れがあるからそれの調査と討伐をするために受注したの。


 【ペルトフログ120匹の討伐】


 それが今回のクエスト。

 それにこれはサーちゃんと志穂ちゃんの為で、あえて私達は最初の相手として選んだ。

 私と沙耶も、最初の頃の相手はやっぱりペルトフログだったし。


「でもなんでこんなに大量発生してんだろ?」


「さ〜? もしかしたら卵から(かえ)って大量発生してんのかも?」


 私と沙耶はそう話して、一緒に首を(ひね)って考えた。


「それに私達が初めて見た時より凶暴になってない?」


「うん、そうかも〜。なんかやたら攻撃的になってるね〜」


 何が原因で大量発生して、どうして攻撃的になっているのか全然解らない。

 もしかしたらペロミア大湿原で何か異変が起こっていて、今回の討伐クエストになったのかも知れない。


「取り敢えず、今のうちに片足切っておこうよ」


「うん……、それが良いかも」


 沙耶は木の上から私達3人の援護をしつつ、周りを警戒していたけど。その目に焦りの色が浮かんでいた。


「……どうしたの?」


 私は沙耶の目を見て、何か危険が迫っていると感じた。


「あ〜……、これはヤバいかな〜……。ヤバいね〜……。取り敢えず……、一旦 退避い!!」


 沙耶が逃げた。

 私は嫌な予感がして、志穂ちゃんとサーちゃんを沼地から出して、一緒にその場から急いで逃げようとした瞬間、巨大なモンスターが水飛沫(みずしぶき)を上げて姿を現した。


 "ディラルボア"?!


 それは体長約20メートルのヘビ型モンスター。

 だけど様子がおかしかった。


「うっわ〜……、もしかして……、アレが元凶だったりして?」


 20メートルはあるディラルボアの首を、巨大なトラ型モンスターが噛み付いて暴れていた。


「アレ……なに……?」


「わかんない……」


 流石に私達2人でも、そのトラ型モンスターを初めて見るから名前が解らない。

 そこで、"鑑定"スキルでそのモンスターがなんなのかを見てみると。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 種族名. ブレードタイガー ((オス)

 Lv.72   Aランク

 体力960   魔力420

 攻撃1100   防御350

 耐性300   敏捷620

 運80

 スキル

  敏捷強化 切味強化 嗅覚強化

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「え、Aランク……」


「……ディラルボアは〜?」


「……Bランク」


「ヤバいじゃん……」


 そのトラ型モンスターは見た目こそ普通のトラに近いけど、まるでクマの様な体格をしていて。両手と尻尾の先に、大きな剣の様な物がひとつずつ生えている。

 体長は約5メートル、尻尾の先に生えている剣を含めると7メートル。


「私達。今のランクってどれだけだっけ〜……?」


「Dランク。に、この間 昇格したばかり……」


 そこで私達2人はお互いに顔を見合わせていると。ディラルボアを仕留めたブレードタイガーの顔がゆっくりとこっちに向けられた……。

 その殺気を含んだ視線に汗を掻き。顔を引きつらせながら微笑んで……。


「「逃げよう」」


 同時にそう言って、私はサーちゃんの手を。沙耶は志穂ちゃんの手を取ってその場から急いで逃げることにした。


「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい〜~!!」


「なんであんなのが此処にいんのよもうっ!!」


〈グルアアアアアア!!〉


「「ひ〜〜〜!!」」


 泣きながら逃げるけど、その後ろをブレードタイガーが私達4人を獲物って認識したのか追いかけてくる。


「こっち来ないで〜!!」


「美羽! アンタの"未来視"でどうにかなんないの〜?!」


「無理言わないでよ!! 流石に戦っても負けちゃうよ〜!!」


 そう言いながらお互いサーちゃんと志穂ちゃんを引っ張る。

 でもそこでサーちゃんが苦しそうになって、足元がおぼつかなくなると石につまづいて転んだ。


「サーちゃん!!」


〈グルアアアアアア!!〉


「クッ! 沙耶! やるよ!」


「……ったく! 仕方ないな〜! ガルちゃん!」


 沙耶はカズが作った特急呪物並みの武器。"ガル"をブレードタイガーの顔面目掛けて投げた。

 本来はモーニングスターって言われる、鉄球に鎖が繋がった武器だったんだけど。ある日、カズがそれを魔改造して獣の様な頭蓋骨をした悪魔の鉄球へと作り変えた武器。


「ボム!!」


 沙耶がそう叫ぶと、ガルは強烈な爆発を引き起こす。


〈グアルッ?!〉


 間一髪、沙耶はサーちゃんを助けることが出来た。


「サーちゃん! 今のうちに離れて!」


「うん!」


 今度は私がブレードタイガーの真下に潜り込んで。お腹から"飛龍脚(ワイバーン)"って名付けた蹴り技を、おもいっきり叩き込む。


〈グルハッ?!〉


 流石のブレードタイガーでも、毎日カズに鍛えられている私の蹴り技は強烈らしく、巨体が徐々に宙に舞い上がった。


「はっあぁぁぁ!!」


 最後はサマーソルトキックで決め、ブレードタイガーはひっくり返って倒れた。


「重すぎて中途半端になっちゃったけど……。倒せたのかな?」


 すると、ブレードタイガーは目を大きく開けると唸りながら起き上がった。


「嘘ぉぉ……」


〈グルアアアアアア!!〉


「美羽ちゃん危ない!!」


 サーちゃんに言われた次の瞬間、とっさに腰を曲げると頭があった場所にブレードタイガーの手に生えてる剣が通っていくのが見えた。


 あ、危なかったよ~!


 そして今度はサーちゃんが攻撃を仕掛けた。

 その動きはまるで流水の如く。

 呼吸を整え。ブレードタイガーの攻撃を弾くんじゃ無く、受け流し。そこへ強力なカウンター攻撃をブレードタイガーの横顔に叩き込む。


〈グルッ?! グアルッ!〉


 けどそのままブレードタイガーは横薙ぎに尻尾の剣を振るい。サーちゃんは剣の付け根を両手で鷲掴みするとそのまま上に、側転する様にして避けた。


「ふう……、カッちゃんの動きに比べたら全然遅いね?」


 いやだからってそんなニコやかな顔で言わないでよ……。


「ここで私もばんかいするんだから!」


 そこに志穂ちゃんは自分だけ何も出来ないままなのは嫌だったのか。剣を抜くとブレードタイガーを刺しに走った。

 そこへちょうど志穂ちゃんに振り向こうとしたブレードタイガーの右目に、剣が突き刺さった。


<グルアッ?!>


 けどその事でブレードタイガーは怒り。頭を振って志穂ちゃんと剣を振り払う。


「きゃっ!」


 地面に叩き付けられた志穂ちゃんは転げ回り。なんとか剣を地面に突き刺してやっとの思いで立ち上がろうとしたけど、その目の前には大きな手を振り上げているブレードタイガーの姿があった。


「(あっ、私 死んだかも?)」


 死なせない!


 私は走った。

 誰も死なせたくない、そう強い想いを持って。

 だからその場にどうにか割り込むと双剣でガードした。


「美羽ちゃん……!」


「大丈夫ですか? 志穂ちゃん?」


「……うん!」


「よかったあ」


 その時、私はようやくサーちゃんが言ってた事が解った。

 それはどうしてカズより全然遅いって言っていたのか。

 答えはもうそこにあったのに、私はAランクのモンスターだって事や、情報が無い相手に戸惑ってそこまで考えられなくなってたのが恥ずかしい。

 だってカズはもっと速いし……。


「カズより全然弱い」


 私は力を込めてブレードタイガーの手を振り払うと。


「"桜花乱舞(おうからんぶ)"」


 新技(しんわざ)披露(ひろう)した。

 それは"桜花舞(おうかまい)"を強化した(わざ)で。花弁(はなびら)が舞うが(ごと)く。次々と双剣で切り刻む(わざ)


〈グルアァッ?!〉


 "未来視"。


 ブレードタイガーの攻撃が全て手に取るように解る。

 どこに頭を持っていけば最小限に避けられるのか。どうすれば簡単に相手の(ふところ)に飛び込みながら全ての攻撃をかわせるのか。


 全部、見えてるよ?


「沙耶」


「はいよ〜! んじゃ私達も新技(しんわざ)ブチかましてあげようよ! ガル!」


〈グギャ!〉


「"爆裂の(エクスプロージョン・)(レイン)"!!」


 それはある意味、カズと一緒で凶悪な(わざ)だと思う。

 何故ならガル自体による打撃攻撃と、当たった瞬間に大爆発する二重攻撃が、雨の如くブレードタイガーを何度も何度も連続して攻撃するからだもん。


〈グッ?! グルギャッ?!〉


「あっははははははは!! そらそらそら〜!! もっとやっちゃえガルちゃ〜ん!!」


 ……恐怖でしか無いなぁ……。


 流石に私達はドン引きしながらその場から離れて見た……。

 ……ブレードタイガーがなんか可哀想って思うのって、変だったかな……?


「カズが作ってくれたこのガルちゃんを舐めんなよ〜?!!」


 いったいどれだけの攻撃が雨の(ごと)く叩き込まれたんだろ。

 20、30、……40発ってところでその攻撃は終わって。ガルに蓄積(ちくせき)されていた魔力残高が残り(わず)かになってたと思う。

 それだけの高威力だったからさ。

 だから、流石のAランク・モンスターでもタダでは済まされない。

 ブレードタイガーの両手に生えていた剣が、根元から折れて飛んでいるし、体はもうボロボロ。

 それでもまだブレードタイガーは生きていた。


「げっ、やっぱAランクは伊達じゃ無いか〜」


 やっぱりさっきの(わざ)蓄積(ちくせき)されていた魔力が(ほとん)ど無いみたいで、沙耶自身の魔力と体力まで使ったのか限界らしく、息を荒くして疲れてる様子だった。

 それでもブレードタイガーはまだ生きている。

 けれど、お陰で瀕死の状態に近いのが解る。


「美羽……、後、任せて良い~……?」


「うん、任せて」


 ブレードタイガーは最後まで戦うと言ってる様な強い目を私に向けている。


〈……グルルルッ〉


 凄いなぁ……、アナタとは違った形で出逢いたかったなぁ……。


「……」

<……>


 目を見れば解るって言ったら変に思われるかも知れないけど。

 この時、私とブレードタイガーはお互い、何を思っているのか理解し合えた気がした。

 お互いの距離は3メートル。

 私は再び"未来視"を発動するのと同時に、ブレードタイガーは体制を低くして走り出す。


 ……"影の道(シャドー・ロード)"。

 

 お互い一瞬の交差をしあい、ブレードタイガーは私が立っていた場所。私はブレードタイガーがいた場所にお互い立った。

 ブレードタイガーが背中越しに私の背中を静かに見ていたことに気づいたけど、満足したのか地響きを立てながら倒れる。


「お〜、さっすが美羽。最後のはカッコよかったよ〜!」


「うん。ありがとう」


 私は沙耶とハイタッチした後。息を引き取ったブレードタイガーの元に行った。


「アナタは最後まで誇り高かったね。凄くカッコよかったよ……」


 その顔は本当に満足そうに、微笑みを浮かべたまま永遠の眠りについていた。


「取り敢えず、今日はこれで街に帰りましょう。このモンスター……、この子の亡骸を持って帰って、ギルドに報告しないと」


「うん、そうだね〜」


 沙耶は賛成してくれたけど。


「サーちゃん達も、今日はこの辺にして帰りましょ」


「そうだね。美羽ちゃん達の言う通り、一度帰ろっか」


「でも、アンタ達2人でも知らないモンスターを、よく倒せるわね……。普通、自分達よりも強かったら逃げない?」


 まっ、まぁそうなんですけどねぇ……。


 志穂ちゃんにそう言われたけど。サーちゃんはあのカズにすら勝てる人だし。それに私と沙耶の2人は毎日のようにカズにシゴかれてるし……。

 だから、普通じゃ無いんだろうけど普通に出来て当然な気がして来ちゃうんだよね……。


 アナタもこれからカズの、地獄のシゴきを経験すれば分かりますよ……。はは……。


 それから時間をかけてゼオルクの街に到着したら、周りから驚かれた。



 14:15


 ーー ギルド夜城邸支部 ーー



「リーズちゃん、この子見てもらって良い?」


「はいニャ〜、ニャッ?!」


 私達がブレードタイガーの死体を持って帰って来たことで、リーズちゃんは驚愕した。


「ブッ、ブレードタイガー?!」


「あっ、やっぱり知ってるんだ」


「当たり前ニャ! そのモンスターはAランクのモンスターニャ! そのモンスターどうしたんだニャ?!」


「あはは、実は……」


 そこで何があったのか詳しい経緯(けいい)を話すと、リーズちゃんは困惑と驚愕で頭が混乱しそうになっていた。


 なんか……、ごめんなさい……。


「さ、流石はあの、"黒竜"の異名を持つ和也さんのチーム……。ブレードタイガーを倒すのに、数十人は必要なのに……」


 あぁ……、そうなんだぁ……。


「取り敢えず報酬は出しますニャ。こののブレードタイガーの死体は引き取るニャ? それとも全部 売るニャ?」


 私は全部引き取ると答えた。

 だって、自分達の装備を強化する為だし。それになんだかそうした方が、このブレードタイガーの魂が報われる様な気がしてならなかった。

 きっとこのブレードタイガーは強者を探し求めていたのかも知れない。

 強者と戦い。そこで命尽き果てるならば本望だって。

 だから最後はどこか満足そうな顔で息を引き取ったんだと思う。


「カズが帰ってきたら、強化とか頼んでみよっと」


 その時にはもう、サーちゃんと志穂ちゃんは既に疲労困憊(ひろうこんぱい)だったのか、ソファに座って寝てるし。

 沙耶はピノとジークの元へ走って行って、既にいない。

 私は1人、BARカウンターへ行くと。そこにいた組員の人にオレンジジュースを貰って、大水槽の中を遊んでいるアクアと銀月を眺めながらどんな装備を作って貰うか考えた。


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