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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第4章 炎と結晶
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第143話 最凶海鮮づくし


 20:20



「待たせて悪かった、飯にしようぜ」


 夕飯の準備を整のえてくれたカズに大水槽前ホールに集められると、その大水槽前ホールは短期間でかなり豪華に模様替えされていた。


 なんじゃこりゃ~……。


 プールを兼任している巨大な水槽前には、4人掛けの高級ソファやレジンテーブルと呼ばれる青を基調とした大変美しいテーブルが置かれているじゃありませんか。

 ソファは2つ向かい合わせに置き、その間にレジンテーブルを1つ置く様にしてあって、他にもっと高級そうなソファが大水槽をバックにして置かれてあるし、丸いレジンテーブルが1つ置かれている。


 ……カズの事だからきっとこのレジンテーブルを作ったんだろうな。


 そんな大水槽前ホールの空間にはさまざまな観葉植物が置かれていて。何故か簡素(かんそ)なギルドが存在していた。


「いつの間にここにギルドが?」


 カズに聞くと、そこからひょっこりと可愛らしい猫耳の少女が顔を出すじゃありませんか。


「今日からここ、"ギルド夜城邸支部"を任されることになった、キャットピープルの"リーズ"ですニャ、宜しくニャ」


「よ、宜しく」


 ん? 夜城邸支部?


 するとリーズって猫耳少女が、どうして此処にギルド支部が置かれたのか説明してくれた。

 置かれた理由は簡単で、誰もがそれを納得する事が出来た。

 その理由は。カズがギルドに顔を出す度に誰もが怯えてしまい、仕事を受注する者がいなくなってしまう事がある為。ギルドはそれをどうするか検討した結果、ここに出張ギルドを置く事を決定。

 らしい……。


 なんか普通に納得出来ちまう……。


 そして、ここに出張ギルドを置く事で、他の冒険者やハンター達が来る事になるともリーズは話した。


「他のハンターとか冒険者も来るの?」


「はいニャ!」


 美羽が質問すると、リーズは元気よく返事をする。


「此処はゼオルクや他のギルドよりも、レベルの高い人達が来る事になる特別な場所になるニャ!」


「特別な?」


「特別は特別ニャ! つまり、此処は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ニャ!」


 ほうほう、なるほどね。


 リーズが更に何か説明してくれようとすると、そこをカズが止めた。

 止めた理由はこれから夕食だからだ。

 リーズは「そうだったニャ! 後で説明するニャ」と言って、簡素(かんそ)なギルドへ戻り、色々と何やら片付けをしたりしながらボードを出して準備をし始めたから、そこをカズは組員の人達に手伝ってやれと言ってリーズの手伝いをさせる事にした。

 んで、申し訳ない気持ちもありつつ。俺達がソファに座ると数人の組員の人達が何かを運んで来てくれて、「ごゆっくりと」言うとその場からいなくなり。テーブルの上に運ばれて来た物を見て、俺達全員は(よだれ)(こぼ)しながら目を輝かせた。


「やっぱそう来たかよ?!」


「早く食べよ?! ね?!」


 美羽もそれを早く食べたくて食べたくて仕方ないって感じで、そんな俺達の視線がカズに向けられる。

 しかしカズは僅かに微笑むと、何を運んで来たかあえて説明して焦らしてきやがった。


「今夜の夕飯は()()()()()にしてみた。天然真鯛を姿造りにし、刺身の盛り合わせは真鯛、マグロの赤身と中トロ、ヒラメ、カンパチ、伊勢海老、甘海老、アジだ」


 うん、マジで見事だよ。だから早く食わせてほしい!


 カズは部屋から出た後。知り合いの魚屋に電話して、様々な物をなんとか用意してもらったんだとか。そしてカズはその腕前をフルに活かして、俺達の目の前に並べられた物を用意してくれた。

 天然真鯛を使用した姿造りの他に、あらゆるネタを豪華に乗せた和也特製()()海鮮丼。エビや鯛等のアラを使用して作られた()()味噌汁。アワビ、サザエの2種類だけで構成された貝の刺身とか。俺達にしたらどれもが最強では無く、()()でしかない。


「なあ! は、早く食わせてくれ、カズ」


「まぁそう慌てんなよクククッ」


「じ、焦らさないでくれ……、腹がぁ……」


「クククッ、んじゃ、頂きます」


「「頂きます!!」」


 そしてようやく飯にありつけた俺達は、美味しいと言いながら横に広がる巨大水槽でありプールの中を見ながら食べた。

 ……マジで美味かった。

 するとそんな水槽の中を、モササウルスのアクアが優雅(ゆうが)に泳いでいて。美羽の真横まで来ると欲しそうな顔で見つめるじゃありませんか。


「………」

〈………〉


「欲しい?」


 そう聞くとアクアは物凄い速さで海面まで上昇して、空中を泳いで美羽の所までやって来た。

 美羽はそんなアクアに「慌てないの」と言いながら、一緒になって食べる。


「しっかし、かなりデカくなったんじゃね?」


 俺はアクアの体が大きくなっている事が嬉しかった。

 産まれた時は予想よりかなり小さかったのに、今じゃ倍になってんだ。


「だって毎日新鮮なお肉をお腹いっぱいになるまであげてるもん。ね~? アクア?」


 美羽なりにカズに色々と相談をしたりして、毎日新鮮な肉を与えている。その肉はゼオルクの街にある肉屋と契約していて、毎日美羽自信が仕入れている。

 肉は"シカ"、"ブタ"、"ウシ"、中には爬虫類や鳥類の肉まである。

 ちなみに、シカ、ブタ、ウシはこっちの世界から向こうに家畜として運ばれた動物を飼育して、繁殖させたりしているから、ゼオルク産として取り引きされている。

 ほんと、よくそんなシステムまで作ったなって思う。

 だからそう言った肉類は夜城邸の食卓にも乗るし、ゴジュラス達肉食モンスター達の食事として消費されたりしている。


「どんな生き物でもそうだ。赤ん坊の頃はとにかく毎日腹一杯まで食わせる」


 そう言ってカズも、アクアにマグロの刺身を与える。


「その結果、ここまでデカくなったか。そう言えば、"バウ"はどうしてるんだ?」


 バウって言うのは、美羽がテイムした大型の両生類型モンスターの事だ。

 実は日本原産の"オオサンショウウオ"が異世界に迷い込んで、そこでモンスター化してしまった生物。

 バウは専門機関から完全にモンスター化していると報告を受けて、カズが"エタリスカウルス"って新たな種族名を付けた。


「今は向こうの川にいるのは知ってるでしょ? そこを棲家にして街に近づくモンスター達を牽制(けんせい)してる」


「ふ〜ん……。ちなみにお前さ。ちゃんとバウのステータスとかって確認してんのか?」


 そう質問すると、美羽の手が止まった。


「して……ないや……」


 お前……、自分のモンスターのステータスくらい確認しとけよ……。


 まっ、実に美羽らしいなって思うけどよ、大切なパートナーなんだから、バウのステータスを知らないのはちゃっと宜しく無いんじゃないかと俺は言うと。美羽は少し落ち込んだ顔で謝った。


「まさかノリちゃんに指摘されるなんて……」


「残念でした。俺はちゃんと把握してま〜す」


「くっうぅぅ……」


 悔しそうな顔で睨んでくると。アクアと銀月は美羽が虐められていると思ったのか、俺に対して頭突きや噛み付きとかしてきて。「俺が何かしたかよお!」と叫びながら逃げ回ったりしながら賑やかな食事の時間が終わって行った。



 …… その後。


 いつの間にか大水槽前に置かれているグランドピアノにカズは座り、【ジムノペディ】って曲を弾く。

 俺達は食後のデザートを食べながら、ゆったりとしたその曲に聴き惚れていた。


「なんかこの曲いいよな」


 だけど美羽だけはそうでも無いらしく、少し曇った表情で【ジムノペディ】とはどんな曲なのか話してくれた。


「この曲はね、「ゆっくりと苦しみを込めて」、「ゆっくりと悲しさを込めて」、「ゆっくりと厳粛(げんしゅく)に」って意味が込められた曲なの」


「マジかよ、んじゃこの曲ってめっちゃ辛い曲になるじゃねえか」


「うん。でも良い曲なのは間違い無いよ。だからこう言った場所で弾かれているのを聴くと、凄く良い雰囲気になっちゃう」


「あぁ、だからか」


 例え悲しげな音楽でも良い。音楽に良し悪しなんてどうでも良い。

 だって、そんなの俺には解らねえもん。

 その音楽が好きか嫌いかなんて人それぞれで良いし。ただカズが奏でる音楽が何故か何時も、妙に心地良く感じられるんだ。

 それは俺だけが思っている訳じゃなくて、そこにいる誰もがそう思っていた。


「でもカズがピアノを弾いてるのなんて久しぶりに見た」


「俺は一度も見た事ねえな」


 美羽が見た事あるのは曲を作っている時だろ。他の皆んなは誰も見たことも無ければ聞いたことなんて、今まで一度たりとも無い。

 そんなカズはピアノを弾き終わった後、美羽の隣に座りに戻って来た。


「なあカズ、この子供の名前を考える為にもう一度 確認してえんだけどよ。色と性別はさっき話してた通りなんだよな?」


「色は黒色。性別はさっき話した通り、(オス)が産まれてくる可能性が高い」


 それを聞いて軽く頷く俺は。夕飯が終わってデザートも食べた後、卵を抱えて魔力を注いでいた。

 そこでカズがちゃんと教えた通りにやってるのかって確かめる為に俺の手に触れると、きちんと一定の魔力を注いでいることが出来てるのか、安心した様に微笑んでくれた。


「教えた通りに出来ていてるな」


 そう褒められたからなんか嬉しくてつい、「ふへへっ」って照れ笑いをしちまった。

 そして俺は産まれてくる子供の名前を真剣に考えた。


「ちなみに今のうちに言っとくが、安直(あんちょく)な名前はやめろよ?」


安直(あんちょく)?」


「例えば黒いからって"シャドー"とか付けんなよ?」


「うっ……」


 実は考えてたりした……。

 その時の俺は名前をどうしうかってくらいしか頭になかったから、ある事をすっかり忘れてしまっていた。

 それは部屋に来た時、親父さんと何を話していたのかについてだ。

 その場にいた美羽、桜ちゃん、志穂ちゃんの3人は何も話さないし、ましてやカズが教えてくれるかどうかなんて解らねえ。

 俺はその事をすっかり忘れてたんだ。


「カズ、名前はお前が考えてくれ……」


 結局俺は、カズに頼って名付け親になってもらう事にした。


「"ノワール"」


「ノワール?」


「フランス語で黒を意味する。俺は産まれて来たらノワールって名前を付けてやろうと考えてたんだ」


「ノワール……、良いじゃねえか。バーゲストのクロと、最強のハイブリッド恐竜・ノワールで、ブラックコンビだな!」


 その発言で、皆に何言ってんだコイツって顔されたけど……、何も言われなかった……。


 でもそのノワールとクロのコンビはこの後。

 "最凶コンビ"として周りから恐れられて、俺にとって頼れる存在になるんだけどまだ先の話しになる。


「早く産まれて来い、ノワール」


 そこに、リーズが「そろそろ説明してもいいかニャ?」と言ってやって来た。

 話しによると。此処、夜城邸の大水槽前ホールを新たなギルド支部にして、そこの運営をギルドと夜城組が取り仕切るんだとか。

 ギルド夜城邸支部は俺達チーム"夜空"の拠点なのは勿論。マークのおっさんが率いるチーム"マッドマックス"も此処にやって来る事になっているらしい。

 他にも各ギルドで検討して、ギルド本部で許可を出された人やチームだけが此処に来る許可証を発行して貰うことが出来るだと。


 なんか凄いことになってる気がするな……。


 そうなった経緯は、さっきリーズが説明したカズの件の他に、ついでたから許された者のみが入れる、超高級なギルド支部を作ってしまおうとなったと話した。


 いやいやいや、なんかおかしくね?


 そういった経緯もあって、大水槽前ホールは前よりも高級な雰囲気になったらしい……。

 奥にはお洒落なBARカウターまで作られてるし、様々な種類の酒が並べられている。

 実はその前にグランドピアノが置かれている。

 ……どちらかと言うと、初めからどこぞの高級リゾートですか? って感覚がしてたけど。まさかこうなるとは誰も予想もしていなかったから、説明を聞いて唖然(あぜん)とするばかりだ。

 更に、カズが俺達の為に用意した娯楽施設は拡張されてて。そこに用意されている景品が、より種類や数が増えてもいる。

 景品の中には此処でしか手に入る事が出来ない、貴重な武器やアイテムまで並んでいる。

 極め付けに。いつの間にかマークのおっさん達の手によって、最大25人なら宿泊する事が出来る様に、地下宿泊施設を作り上げていたって聞いて、愕然とした……。

 その事について流石のカズも初耳だったらしく。顔を引き攣らせて固まっていた。


「せめて俺にも教えてくれても良かったじゃねえか親父……」


 ……うん、だよね。



 ノワール誕生まで。

 残り17日。


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