第142話 凶悪遺伝子
ゴジュラスとアリスに認めてもらうことが出来て、卵を託されたから俺にとってこの日は本当に最高の1日になった。
するとそんな俺を見てるカズが優しげに微笑んでくれた。
「憲明、早速その卵にお前の魔力を注いでやれ」
「あっ! この間 言ってたやつか!」
カズは前に言っていた。
魔力を注ぐ事で孵化する期間が短くなるって。
それは魔力によって細胞が活性化状態になるからなんだとか。
「あぁ。だから早く孵化する為にも、お前の魔力でその卵を育ててやれ。お前なら1ヶ月程で産まれてくるだろ」
「もし、お前だったらどれだけ早い?」
「俺なら2週間だな。本来、恐竜の卵が孵化する明確な期間は解らねえ。だが恐竜に似ている鳥類と爬虫類の中間だと考えられてはいる」
「湿度や温度は?」
「安心しろ。俺がここで管理してやるよ」
「お前に管理してもられると安心だな!」
それからどうやって卵を管理するのかを聞いた後、俺は早速カズからどの様にして魔力を注げば良いのかをレクチャーしてもらった
「でも大丈夫なのか? 本当なら結構な時間が必要だろ?」
「そこが俺だ。前もって俺の能力を使い。そうする事で細胞の活性化を促す様にしてある。俺は俺にしか出来ねえ裏技を使ってんだ、失敗はしねえよ」
「んじゃ寿命とかどうなんだ? 急成長させて卵から孵らせるんだ、寿命が短かったりとかしねえか?」
「安心しろ。んな事 気にしなくてもお前より長生きする」
それはそれでなんだかな……。
でも、長生きすると聞いて俺は安心して喜んだ。
「もうひとつ聞いても良いか?」
「ん?」
「この卵の中にいる子供……、ゴジュラスとアリスの子供に、他にも何種類かDNAを組み込んでたよな? なんのDNAか教えてくれないか?」
「良いぜ? 教えてやる」
いったいカズがどんなDNAを組み込んだのかを聞くと……。
"ホタルイカ"。"コウモリ"。"ジャガー"。"カメレオン"。"アメジストパイソン"。"クロコダイル"。"ブラックツリーモニター"。
と言った動物のDNAを組み込んだんだとか……。
「お前、どうやってジャガーなんかのDNAを手に入れたんだよ」
「知り合いにとある動物園の園長がいるから、頼んで貰った事がある」
「……なるほどね」
本当なら「なるほどね」とか言ってる場合じゃねえんだけど、カズだったらありえるからな……。
「それとあともう一種。ちょっと面白いDNAを組み込んである」
「もう一種?」
するとそこでカズは悪い笑みになったから、俺は嫌な予感で背中が寒くなった。
「"ジナファル"ってモンスターだ」
ジナファル。
ジナファルってのは、とある山岳地帯にしか生息していないモンスターで、その見た目はオオカミとリスを合わせた様な体長1メートルの小型モンスターなんだとか。
普段はリスみたいに木の上で生活をしているけど、その性質は獰猛な肉食獣モンスターで、集団で大型草食モンスターを襲う事もあるらしい。
俺はジナファルがどんなモンスターなのか説明を聞いて、げんなりとした顔になったけど、なんでそんなモンスターのDNAを組み込んだのか取り敢えず聞いてみる事にした。
「そのジナファルってモンスターのDNAを組み込んだ理由はなんなんだよ?」
「ジャガーとジナファルのDNAを組み込んだ事で、これから孵化するその子供は超立体軌道的な動きを得意とする事が出来ると考えたからだ。"立体軌道"のスキルは俺も持ってる。だが、そいつは天然の動きでパルクールやアクロバット、トリッキングと呼ばれる動きに近い動きが出来る。スキルとして獲得するんじゃなく、天然にだ」
俺はアクロバットは勿論、トリッキングがどんな動きなのかを知っているから、素直に理解する事が出来た。
トリッキングがなんなのか説明すると。 マーシャルアーツを下地に、宙返りやテコンドー、カポエイラとか様々な分野の技術を組み合わせたエクストリームスポーツ・パフォーマンスで。 競技としては複数人で交互に技を組み合わせた演舞をして、独創性や美しさ、難易度を競う。 代表的な技の例として、 540キックやコークスクリューとかがある。
ちなみに、カズや美羽はそれにとても近い動きをしている。
「なんか……、エゲツないな……」
流石に俺はまだ産まれてこない子供にそんな能力が備わっていると思うと。怖い反面、とても頼れる存在になると胸を躍らせた。
「でもどうだ? なかなか頼りになりそうなハイブリッド恐竜が産まれてきそうだと思わねえか?」
「だろうな。ましてやお前が力を与えてんだ、そりゃ恐ろしいのが産まれて来るだろうな」
するとカズは笑った。
「俺は特にそこまで能力を与えちゃいねえよ。俺が与えたのは2つ。"伸爪"と"砂粒操作"だ」
「ん? 伸爪? 砂粒?」
「伸爪は爪を自在に伸び縮みさせる事が出来る能力だ」
「なんだそれ? 爪が伸びるだけかよ?」
「バーカ、爪を自在に伸ばすんだぞ? それだけで攻撃間隔を狂わせられる」
あっ、確かに。
その説明は俺だけじゃなく、全員が一斉に目を見開いて理解した。
だって理由は簡単だ。近距離戦闘を得意とするなら、遠距離からの攻撃に対して不利になり、遠距離攻撃が有利になる。だけど、対抗手段があれば話は別だ。
つまり、伸爪能力があればそんなもの関係無しに攻撃が出来る。そうする事で相手を混乱させられる事が出来るとカズは言っているのと同じだ。
相手に適正距離の感覚を狂わせる。
それだけで十分、本当に怖いって思えてならなかった。
「まっ、その為には魔力が必要だ。魔力量に応じて爪を伸ばす事が出来るから、魔力量が増える様に育てるのも手だな。精々長くてもそこまで伸びねえかも知んねえがな」
「いや、それでもある程度の距離なら攻撃可能なんだろ? それはそれで不意な攻撃が出来ていいじゃん」
「そう言ってもらえるなら与えて良かったぜ」
「んで? 砂粒操作ってのは?」
「砂粒操作ってのは、つまり砂を自由自在に操る能力の事だ」
「自由自在に?! ま〜たとんでもスキルじゃねえか!」
そう言いつつも、俺は砂を自由自在に操れる能力と知って、カズみたいな悪い顔で微笑んでいたと思う。
「気づいたか?」
「当たりめえだろ? 砂を自由自在に操れるって事は、剣にも盾にもする事が出来るんだろ?」
そして、他にも応用がきく。
「その通りだ。どうだ? まさに最強のハイブリッドだろ?」
「ああ、最強だなあオイ。マジで凄えよ」
そう言って俺達は2人して悪い顔になると、笑いながら卵へ視線を向けた。
その後、一度だけカズが実際にどう魔力を流せば良いのか見せてくれた。
やりかたは、卵を両手で優しく抱え込んでから、優しく魔力を注ぐ。簡単なようで、実はかなり繊細でこれがまた結構難しかった。
「落としたら割れるから注意は必要だが、それなりに頑丈だから安心しろ」
「おう……」
「俺の属性は"闇"と"無"の2つ。だから今、右手から闇を、左手から無の属性を注いでいる状態だ」
「どれだけ注げば良い?」
「可能な限りだ。俺とお前とじゃ魔力量が断然違う。だから俺はお前より長く注ぐ事が出来る。それも優しく、丁寧にな」
「やっぱ結構難しそうだな……」
「まっ取り敢えずこんなもんだ。実際に今やってみろ。俺がサポートしてやる」
そう言われ、俺はカズがやってたみたいに卵を両手で優しく抱えると、その上からカズが手を重ねてきた。
「な、なんか恥ずかしいじゃねえか」
「いいから黙って集中しろボケ。ほら、魔力をちょっとずつでいいから手に集中させろ」
「お、おう」
恥ずかしがったのがなんか申し訳ないって気持ちになった。
だって、カズは俺に真剣に教えてくれようとしてるんだ。
そんな俺達を見て一樹と沙耶がニヤニヤしてたけど、カズの真剣な眼差しや美羽や桜ちゃん、そして志穂ちゃんとヤッさんも真剣になって見ていたからか、そんな自分達が間違ってましたと小声で謝罪すると、改めて真剣になってその様子を見始めた。
「もう少し魔力量を上げて良いぞ」
「こ、こうか?」
「上げ過ぎだ。それよりもうちょっとだけ少なめに」
「りょ、了解」
「よし、良いぞ、そのまま魔力を注げ。このままの状態を出来るだけ保て、良いな? 今の状態を体に覚えさせろ」
「わかった」
難しいぃ……。魔力を上げすぎても下げすぎても駄目だなんて……。
「長ければ長い程いい。最低でも1日に3回は1時間程そうしてやれ」
「つまり、1日3時間……」
マジかぁ……、結構しんどいぞ……。
「それでもまだ少ねえほうだ。俺ならそんな状態をもっと長くキープしていられる。そうする事で細胞は活性するんだからよ。ただし、1日と休む事は許されねえぞ? 1日でも休めば卵は死ぬ」
「死?!」
「当たり前だろ、それだけ繊細でもあるんだからよ。一度動き始めた細胞が急に動かなくなれば死ぬ」
「マジか……」
そこまで責任重大だとは気がついていなかった俺は、一気に冷や汗が流れ出た。
「まあ安心しろ、俺がここで管理してやるんだ。お前が疲れてヤバイ時は俺がやってやる」
「いや、そうならない様に俺は頑張る」
これは俺の責任だ。カズとゴジュラス達から託されたこの命を、俺が責任もって守らないと!
「そうか、まっ頑張れ。そう言えば、お前って火属性だからもしかしたら雄が産まれてくるかもな」
「なんでそう思うんだ?」
だってそうだろ? 普通、どっちの性別で産まれてくるかなんて解りゃしないんだからよ。
でもカズは違う。
カズは……、大の爬虫類好きなんだ。
つまり恐竜だって爬虫類と一緒。
それに、カズは色々な爬虫類を飼育してて、ブリードもしている。
ブリードがなにかって説明すると、「繁殖させる」と言った意味でよく使われている言葉らしく。
ワニやカメ、1部のトカゲは温度を低めと高めにすると雌が産まれてくると研究が発表されているらしい。
雄はその中間の温度だとか。
だけど、トカゲは研究例が少なく、ハッキリとはされていないらしく、温度が高いと逆に雄が産まれ、低いと雌になるらしい。
卵を孵す時、その微妙な温度差で雄と雌が決まるんだと。
ちなみにこの説明はカズの受け売りだ。
ゴジュラスとアリスは爬虫類でも恐竜だ。ワニ、カメ、トカゲ、どの分類で考えて良いのか頭を悩ます。だけどカズはきっと雄として産まれてくるかも知れないって口にした事から、トカゲ感覚でそう考えて口にしたんだと思う。
そう言った事をカズに説明された後、俺は火属性だから温度が数℃高くなっているからとも言われた。
うん、そりゃ願ったり叶ったりだな!
「それなら好都合だ! ……ちなみにどんな色で生まれてくる様に、お前は力を使ったんだ? やっぱ黒ベースか?」
「そうだな、基本的には黒い奴が産まれてくるように考えてってのもあるし、そうなる様に力を使ったってのもある」
なんか周りが徐々に黒々としてきてんな……。
けどそう思っても周りには黒色じゃないモンスターが存在しているんだけどな。
カノン、トッカー、ピノ、ジーク、アクア、銀月っているから全部が全部、黒じゃない。
「でもなんでホタルイカのDNAを使ったんだ? ホタルイカって確か、珍しいイカだろ? どこだっけ? 1番有名な場所って」
「北陸 富山だな。富山県では名産品として有名だ」
「富山って言うと確か日本海だったよな? あっちの海で獲れる海産物って美味えよな……」
考えるだけで涎が垂れちまう……。
するとカズはニヤリと微笑んだ。
「そう言えばまだ夕飯食ってねえな……」
「「?!」」
この時、全員悟った。
この流れはきっと美味い海産物が食えるかも知れないと。
するとカズは手を離して部屋を出て行く。
戻って来たのはそれから1時間後だった。




