第141話 不自然
……それから数時間後。
18:21
「うっ……、ここは?」
「あっ、やっと起きた〜」
「沙耶?」
目を覚ますとそこは近くの診察所らしく、俺はそこに運ばれていたらしい。
ベットの横には沙耶と一樹、ヤッさんの3人が呆れた様子で俺を見ていたけど、軽く微笑んでいくれてもいた。
そこにはクロ、ソラ、カノンもいる。
「心配かけて悪いな」
「ホントだよ。でも良かったね〜、ゴジュラスに認められて」
沙耶のその言葉を聞いて、徐々にその嬉しさが込み上がってきて顔が自然と笑顔になると沙耶が。
「……キモッ」
……その時の俺の笑顔がキモかったみたいだ。
「まあでも分からなくないから良いじゃないか。それにしてもまさかカズ達を認めさせるなんて、正直凄いよ憲明」
ヤッさんは歯を剥き出しにしながら一緒にその喜びを共感してくれる。
「でもまだ産まれて来るのって時間掛かるんだろ? お前、それまでちゃんと卵の世話出来るのかよ?」
一樹も喜んでいる様な笑顔を見せるけど、俺がちゃんと世話出来るのか不安がっていた。
「それは大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ? まさか……産まれて来るまでアリスに面倒を見させる気か?」
「ちげーよ! そうじゃねーよ! カズに聞いた事があんだけどよ。カズはあの卵をただ温めるだけでじゃ産まれてこないって言ってたんだ」
「ん? どう言う意味だ?」
そこで俺は一樹達に説明を始めた。
カズはゴジュラスの精子を取り、それをアリスの卵子と一緒にする時、他にも色々な動物のDNAを掛け合わせた事は勿論だけどカズが能力を使用した事は皆が知ってる。
その時、卵が無事に生まれる事が出来たら早くそこから産まれて来る様に、細胞を活性化させて短期間で子供が出来るようにしたって、実は聞いていた。
つまり、3ヶ月掛かって産まれて来るのを、1ヶ月以内に産まれて来るようにカズはしちまったんだ。
その方法って言うのが魔力。魔力を与える事で卵内部の細胞は活性分裂のスピードを早め、肉体を作り上げるらしい。
それを説明したら、3人共ドン引きしていた……。
まっ、そうなるよな。
「ま、まぁ、アイツだからこそ出来る芸当だよな……」
「カズってチート過ぎるからね〜……」
「うん……カズに不可能は無いからね……」
「「は〜〜…」」
そして3人共、盛大にため息を吐いた。
「ましてやカズってあの八岐大蛇でもある訳だし〜? 神からも恐れられる存在だもんね~?」
その時、俺は沙耶が口にした言葉にどこか違和感を覚えた。
「神からも恐れられてる?」
「え? あっ……」
「まあ当然っちゃ当然だよな。なんせ"三大魔獣"の"地獄"として世界中から怖がられてる存在なんだしよ。それにカズの親父さんも他とは別格な存在だって言ってたし」
そこで一樹は親父さんから聞いた事を思い出すと、八岐大蛇の強さを見て、あれなら神からも恐れられてる存在でもあるよなと続けた。
「確かにそうだよな。あれでまだ完全体じゃねえ訳だし。神様達からして見ても八岐大蛇は恐怖だよな」
俺は第二形態になった時の八岐大蛇から感じた恐怖をまだ覚えてる……。
そして完全体になった時の恐怖はそれ以上だと思うと、二度と目を覚ましてほしく無いと心の底から願った。
「取り敢えずそろそろ行こう。カズ達が待ってるよ?」
ヤッさんにそう言われて、俺はベットから降りると「それもそうだな」と応え、診療所を後にした。
18:50
ーー 夜城邸 ーー
「遅かったな」
俺達4人がカズの部屋に行くと、そこに親父さんの姿があって。俺達を見て真っ先に声を掛けたきてくれた。
「あっ、どもっす」
「和也から話しは聞いてる。大事に育ててやれよ?」
「はい! 勿論っス!」
そう応えると親父さんは微笑んで、俺の肩を何回か叩くと部屋を後にしようとした。
でも俺はその時、そんな微笑みの裏にどこか悲しさを感じ取って、親父さんを呼び止めた。
「なんか、あったんすか?」
「ん? いや、特に何も無いが、どうした?」
おかしい……変だ……。いつもの親父さんじゃない。
「なんかどこか悲しそうな顔してたんで、なんかあったのかなって……」
「そうか? 俺はいつもと変わらない気がするが?」
そう言って微笑むけど……。
それこそがおかしかった……。
俺は知ってる。親父さんは確かに優しいけど、怒るととんでもないくらい怖い事を。
普段の親父さんなら「んなことある訳ねえだろ」って軽く怒ってただろうし。
でもそうじゃなかった……。
かと言って下手に問い詰める様な事なんて出来ないから、「んじゃ俺の勘違いですね」って笑うしかなかった……。
「すんません、多分、疲れたからそう思ったのかも」
「かもな。まっ、今夜はゆっくり体を休ませろ。どうせこのまま泊まって行くんだろ?」
「あっ、バレました? はははっ」
「……まっ、ゆっくりしていけ」
「あざっす!」
そして親父さんが部屋からいなくなって、俺はカズに何があったのか聞きたかったけど、それもやめた。
部屋には既に桜ちゃんと志穂さんの2人もいて、普段と変わらない笑顔を向けてくれている。
考え過ぎかもな。
「よかったね、憲明君」
「あざっす、桜先輩」
「もう、なんで先輩呼びするかなぁ」
「いや、なんか癖ででちゃって」
桜ちゃん的には昔みたいに、ちゃん付けで呼ばれて欲しかったんだな。
「なら私は?」
「んなもん、志穂先輩って呼ぶしかないでしょ」
「なんか仲間はずれされてる気分だから私もちゃんで良いわよ、ちゃんで」
……マジっすか。
そこで俺は思いきって悪ふざけしてみた。
「志穂にゃん」
そう呼んだ瞬間。志穂さんは無表情のまま強烈な蹴りで俺の……、俺の大事な大事な息子を、おもいっきり蹴り上げた……。
「ほっ?! おおぉぉ……」
なんで……いつもここばかり……。
「私、そんな可愛らしくて呼ばれるの嫌 ーー」
「志穂にゃん」
「っ!!」
唐突に、カズが志穂さんに対して「志穂にゃん」と呼ぶと、志穂さんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにカズを睨んだ。
「どうした志穂にゃん? 顔が真っ赤だぞ?」
とっ……ても意地悪な笑顔ですね……。
「うっ、うるさいうるさいうるさいうるっさーい!」
志穂さんは怒り、カズを何度も叩くけど効果は今ひとつの様だ。
「う〜……、なんでアンタまで言うのよ」
「あ? 可愛いじゃねえか。なあ? 美羽にゃん?」
「にゃん、にゃん、にゃ〜に〜?」
コラコラ……。
美羽は美羽でそう応えると、ソファに座っているカズの所まで行って、足を膝枕にして下から見上げるようにして甘えだすじゃありませんか。
カズはそんな美羽の顎や首を優しく撫でると、美羽は満面の笑顔で喜んだ。
すると志穂さんはその時、失敗したと思ったのか。羞恥心を捨てて美羽みたいに甘えれば同じ事をしてくれたかも知れないって顔になったけど、もう遅い。
多分その光景と失敗によって、精神的ダメージを負ったに違いない。
うん、効果は抜群だったようだ。
と言っても、俺も志穂さん同様……、既に瀕死の状態なんだけどな……。
そこへ、自分も呼んでくれないかなと期待の眼差しを向ける少女が1人いた。
それは桜ちゃんだ。
「(ドキドキ。ドキドキ)」
「…………さ、サーにゃん」
「にゃ〜〜ん!」
カズが言った瞬間、桜ちゃんは喜び一杯の顔でカズにダイブしようと態勢を整えた。
「ふしゃああああ!」
だがしかし、それを美羽が阻む。
美羽は猫みたいに威嚇すると桜ちゃんは気圧されちまって、しょんぼりとしながらその場から離れた。
か、可哀想……。
「いくら桜ちゃんでもダメでえす!」
「美羽ちゃんのケチぃ……」
カズの部屋の中はそんなやりとで楽しげな空気に包まれた。
でも……、それがかえって不気味でもあったんだ。
そんな空気の輪に一樹、沙耶、ヤッさんの3人も入って一緒に笑っているけど、俺は嫌な予感って言うか、とにかく変な違和感しかなくてなかなかそんな輪に入れなかった。
後でカズに何があったか聞くか……。
カズだけじゃなく、美羽、桜ちゃん、志穂さん。もとい志穂ちゃんも何かを隠してる様に見えた。
そう思ってると。
「よぅ憲明、こっち来いよ」
「ん? おぉ……」
カズに手招きされて行ってみると。
「取り敢えず座れ」
俺はなんだろうと思いながらカズの真向かい側に座った。
「どした?」
「どしたじゃねえだろ?」
「ん?」
そこにゴジュラスがアリスと一緒にジャングルの中から現れ、こっちに来ると。
その手には、大切そうに1つの卵を抱えられていた。
<憲明、我らの子、宜しく頼むぞ?>
そこでどうして呼ばれたのか俺は理解した。
ゴジュラスとアリスは晴れ晴れとした顔を浮かべ、カズはテーブルの上に置物を置く為の小さな座布団を置く。そこにゴジュラスは卵をそっと優しく乗せた。
その卵を持とうと手を出すけど、俺は余りの嬉しさに手が震えて、なかなか触る事が出来なかった。
「なんだ? 緊張してんのか?」
カズに言われ、俺は何も言わなかったけど感激で顔が自然とほころんでいくのが自分でも解った。
「ククッ、なんか言えよお前」
「よっぽど嬉しいんだよ」
「ったく、しゃあねえ奴だな」
カズと美羽は肩を寄せ合いながら、俺の顔を見て嬉しそうに2人が笑う。
その2人のすぐ後ろに桜ちゃんと志穂ちゃんが並んで立ち。志穂ちゃんは溜め息を吐くけど、目を細めて微笑んでくれた。
桜ちゃんも、「よかったね」って言ってくれて、満面の笑みを浮かべてくれている。
一樹は俺の横に座ると、「やったな!」と言って肩を組んで一緒に卵を眺め。沙耶は俺の肩に両手を乗せて、「お〜スゲ〜!」って言いながら何度も飛び跳ねるし、一緒に喜んでくれた。
ヤッさんはなんだか俺の真後ろでガッツポーズをして、「ウオーーー!」って、なんか叫びながら一緒に喜んでるし。
「な、名前。名前どんなのが良いかな?」
「雄か雌、どっちなのかまだ解んねえが今のうちに考えておいてやれ」
「そ、そうだよな? ははは……。あ〜! マジで最高なんですけど?! メッチャ嬉しいんですけど?!」
「喜んで貰えて何よりだよコノヤローが」
俺は雄が産まれてきてくれた方が良いなって思った。




