第140話 炎と結晶6
答えはずっと出されていたんだ。
暴虐の星は超重力で生み出される最強の技。その技をゴジュラスが使える様にって、今の姿に進化した。
だから暴虐の星を放てる様になったって事は、必然的にゴジュラスは重力を操る能力を持ってるって事だ。
だとしても、ゴジュラスのバトルフィールドの能力については確信が持てなかった。
<私の失敗だな。話さなければもっと悩んでもらったのだが>
「ついでに言うなら、お前のバトルフィールドはただの重力結界じゃなく、無重力と重力がめちゃくちゃに混ざった結界。そうだろ?」
そう、ゴジュラスのバトルフィールドの能力は重力がめちゃくちゃ複雑に混ざった結界。
だから俺の体が重くなったり、軽くなったりしたんだ。
そして、その重力を操って攻撃を無効化。
無効化って言うけど、中身はそう単純じゃねえし、重力が複雑に混ざったって事も単純じゃない。
重力が働く方向性が全く違うんだ。
真下に向かって働く重力。横に向かって働く重力。上に向かって働く重力。そう言った重力が複雑に、バラバラな状態で維持されている。
そう言った重力を使って俺の攻撃をほとんど流されちまっていたんだ……。
<そこまで理解できたかのか。……そこまで頭が回るなら、何故 勉学に使わない?>
「うぐっ?!」
その言葉は流石に俺の心にクリーンヒットして、その場に倒れた。
<ハハハハハハハッ! お前は本当に面白い奴だよ憲明! お前のそう言う所が好ましくもある!>
「うるへえぇ、痛いところを突いてきやがってこのヤロオォ……」
言われたくなかった……、流石にそれは無いぜゴジュラスって思いながら、俺は泣いた……。
そんな中、俺の目にカズが静かに立ち上がる姿が入った。
「部屋に戻る」
「え? でもまだ終わってないよ?」
「空気で解るさ。周りを見てみろ、ゴジュラスだけでなく見に来た連中が皆んな笑ってるだろ? アイツは嘘偽りを口にする様な奴じゃねえ。アイツは昔から周りを味方にする魅力を持ってるから、自然と憲明を認めちまってんのさ」
「そっか。それなら私も一緒に戻る。行くよステラ、アクア、銀月。 (良かったね、ノリちゃん)
ゴジュラスもカズ達が動いた気配を感じ取ったのか、そっちに軽く視線を向ける。
<(申し訳ありません、私はこの男を信じようと思います)>
「(お前の好きにすりゃいいさ)」
お互い軽く目でなにかを語ったんだろ。カズは微笑むと、美羽と一緒その場からいなくなって、ゴジュラスはまた俺に視線を戻す。
<いつまでもメソメソするな憲明。いい加減、私も疲れたから終わりにしよう>
「ひっぐ、そ、そうだな、悪い」
<鼻水を拭け鼻水を>
「ん……」
そう言われて袖で鼻水を拭いたら。
<どこで鼻を拭いているのだお前は! 汚いでは無いか!>
「あっ、そうか」
……怒られた。
でも既に拭いた後だし。
するとその事で街の人達が盛大に笑った。
……なんかハズい。
<はぁ……、まったく……、では気を取り直し、これで最後にしよう>
頭を抱えて困った奴だと思ってそうな顔から一変。ゴジュラスの両肩にある白くて綺麗な小さい花弁状の結晶が、紫色に明滅を繰り返し始める。
<結晶華だ>
「それで? どうケリをつけるって?」
<簡単な話しだ。私が今からする攻撃を見事 塞いでみよ。なあに、それなりに手加減するとも>
「おありがてぇこって」
正直、舐められてるのは十分理解している。でも今はそれがとてもありがたかった。
すると結晶華って教えてくれた結晶が肩から抜けると宙に浮き、ゴジュラスの周りを浮遊しながら高密度のエネルギーが集まり始めた。
<行くぞ! "死面葬渦"!>
結晶華から放たれる高密度のエネルギーは赤黒い色を帯びていて。四つのエネルギーがひとつになるとまるで渦の様にして放たれた。
お前が手加減してくれなかったらきっと俺は死んでるだろうな。
俺はフレイムバードを鞘に収めて、抜刀の構えを取った。
集中しろ、あの攻撃をどう防ぐかを……。いや、防ぐんじゃなく、ぶった斬る!
どうすればぶった斬れるのか考えるよりも、俺は自然とフレイムバードの鞘の中に、高密度のエネルギーを集めた。
まだだ!
どうしてそんなことを思い付いたのか説明出来ねえけど。まだ溜まりきっていないと思った俺は後ろへ大きく跳んで距離を稼ぎ、更に力を溜める。
そして、ゴジュラスの"死面葬渦"が目前に迫って来た時。
「うおおおおるああああああああ!!」
その場で時計回りに回転しながら剣を上段から抜き放った。
「いっっけええええええ!!」
鞘の中で溜め込んだ炎のエネルギーを爆発させた事で、その威力は通常よりも倍以上の威力になった。
その放たれた斬撃は炎の鳥みたいになって死面葬渦を真っ二つにぶった斬ると、そのままゴジュラス目掛けて飛んで行って左の顔を縦に切り裂いた。
<……>
それでもゴジュラスは微動だにしなかった。
「……へへっ、どう……だ?」
そこで力を使い果たした俺は前のめりに倒れそうになって、フレイムバードを地面に突き刺して片膝を地面に付けた状態で項垂れたけど、なんとか気を失わなかった。
<……見事だ! 見事の一言しか出てこないぞ憲明!>
「……っへへ」
<お前は私に力を示した! 約束通り! 私とアリスの子をお前に託す! 異論のある者はいるだろうか?!>
そう言ってゴジュラスは集まった街の人達に顔を向けると。皆、大きな拍手をしながら笑顔で。
「無い!」「無いよ~!」
「無いに決まってる!」「んだんだ!」
「よくやった憲明!」
<だ、そうだ。我らの子を頼んだぞ? 憲明>
「……あぁ、ありが……と……」
〈ワンッ!〉
喜びも束の間、俺はその言葉を聞いた瞬間に気を失って倒れた……。
……その後どうなったのかって言うと。
カノンとソラも駆け寄って来てくれて、3匹でどうにか俺をカノンの背中に乗せると。
<ん? どうした?>
クロ達はその場で頭を下げたんだとか。
<はははっ、良いから早く連れて行って休ませてやると良い>
〈ワンッ〉
<ふふふっ。皆もわざわざこんな天気の中、共に託すに値するか見極めて頂き、心から感謝を!>
ゴジュラスが集まった人達に対し、深々と頭を下げてお礼の言葉を口にすると、皆はそんなゴジュラスにも大きな拍手を送った。
<感謝を>
ゴジュラスは今一度 頭を下げて、拍手の中その場から離れて行った。ーー
ーー <ゴジュラスside>
疲れたな……。
訓練場から建物内に入った所で、私は疲れてその場に倒れた。
暫くの間、その場で体を休ませようとしていると、そこへとある人物が私の側へやって来る事に気がつかなかった。
「お疲れ様でした。肩をお貸ししましょうか?」
……誰だ?
そう思って目を開けると、そこには長い銀髪の美しい少女が背中を丸めてしゃがみ、私の顔を見ながら微笑んでいるじゃないか。
<……どうして、お前がここにいる?>
その少女を見た私は少し驚いた。
「仕事が早く終わったので帰って来たんです」
<いつ、帰って来ていた?>
「ふふふっ、アナタとあの人が勝負を始める前に帰って来てました」
<……そうか>
何故ならその少女は、とある仕事で暫くの間、離れていたのだから。
私はよろめきながらもなんとか立ち上がると、その少女は横に立って私を支えてくれた。
<いつ見ても、お前の毛並みは美しいな……>
「ふふふっ、そう言ってもらえると嬉しいんですが、奥さんに聞かれたら怒られますよ?」
<ははっ、そんなことで、彼女が怒る筈ないだろ>
「ふふふっ、言ってみただけですよ」
私はその少女に支えられながらその場を後にし、ゲート付近まで一緒に歩く。
「それでは私はこの辺で」
<なんだ? 一緒に帰らないのか?>
「残念ながら、次の仕事もありますので」
<そうか。仕事が一段落したら、またクロ達と遊んでやってくれ>
「ふふふっ、そうですね。ここ暫く顔を見ていませんからね」
そう話し、彼女は手を振って次の仕事へと向かって行った。
<忙しい奴だ……>
少女の姿は勿論、気配が完全に消えるまで私はその場に立ち。1人ゲートを潜って主人と褄が待つ部屋へ戻ることにした。




