第138話 炎と結晶4
ゼオルクに住む人達は、ゴジュラスとアリスの間に子供が出来た事を知っている。
卵を生んだと聞いた人達皆が喜び、後は無事に卵から孵る事を楽しみにしていた。
でも、産み落とされた卵はたった一つだけしか無事じゃなかった事を知り、心から残念に思ってたけど、そのたった一つだけの卵が無事だと知って安堵していた。
そこから産まれてくる子供はゴジュラスとアリスが育てて、必然的にカズのパートナーになるだろうって誰もがそう思っていたに違いない。
でもそこに、俺が必死に懇願した事を知った人達が、俺にその子供を託たくすに値するのか。カズ達だけじゃ無く、自分達も見極めたいと思って集まったんだと思う。
だって、ゴジュラスとアリスの子供は銀月の時とは全然違うんだからよ。
さて、そんな俺がカズ達から信頼を勝ち取らなきゃならねえんだけど、それともうひとつ、俺はゼオルクに住む人達皆にも認めてもらわなきゃならない。
だから、ここで男を見せなきゃならねえよなって感じた。
じゃなきゃ、ゴジュラスとアリスに申し訳無いし。不甲斐ないところを見せて結局駄目でしたってなれば、それこそ俺はカズの顔に泥を塗ることになる。
……それは絶対したくなかった。
「どちらも動かないな」
「あぁ、それだけどちらも真剣なんだ。仕方ないだろ」
「だがゴジュラスとアリスの子供は特別だ。例え彼でも、そう簡単に託して欲しくないな」
雨の音に混じって俺達を見に来ている人達の話し声が自然と聞こえる。
やっぱスゲェな。カズのパートナーってだけで皆が皆、ゴジュラス達を認めてる風に感じる。
だからこそ、俺だってこのまま諦めたくねえ。
それにどうして皆がそう話すのか、それには理由があった。
ゴジュラスがまだ"ティラノサウルス・レックス"の頃、初めはその姿に誰もが恐怖を感じた。
でも街の人達はカズのパートナーだって知ると、徐々にその恐怖は薄れ、お互いに挨拶し合うくらい仲良くなっていたんだ。
ゴジュラスはカズに言われて、街中の治安を守る為に巡回をしたりしていた。だからそんな環境でお互い挨拶とかしてさ、その仲はどんどん深まって、誰もが頼れる存在になっていたんだ。
そんなゴジュラスが時々アリスと一緒に散歩をしたりする仲睦まじい姿を見て、誰もが笑顔になって、時間があれば小さい子供達の良い遊び相手にもなってたらしい。
本当に見た目とは裏腹に、ゴジュラスは誰にでも優しく。そして誰からも愛される人気者になっていった。
そんな2匹の間に産まれてくる子供はカズの半分暴走で出来たようなもんだけどよ。
その時にカズは数種類のDNAを用意すると"創造"や"変換"とかの能力を駆使し、アリスを妊娠させ。そこから新たな種を生み出そうとした。
だからこそ、どんな子供が産まれてくるのか皆興味を持ち始め、それは次第に愛に変わった。
だからこそ特別な存在なんだ。
そしてゴジュラスが進化して喋れるようになると、俺達全員は勿論、街の人達全員が驚く事を教えてくれた。
<私はアリスを一目見た時から惚れてしまっていた>
……つまり、ゴジュラスはアリスに出会った瞬間に一目惚れして。求婚するために檻を壊そうと暴れたらしい……。
そんな話を聞いた時は思わず笑ったな。だから、街の人達も余計このゴジュラスを心から愛しいと感じたんだろ。
……雨が激しくなる中、そんなゴジュラスと俺は睨みあいをやめて。
……第2ラウンドを開始した。
「うおおおおおおおおっ!!」
<ハァアアアアアアアッ!!>
お互い同時に雄叫びを上げ、走り出す。
俺はフレイムバードを鞘に収めたままゴジュラスに攻撃。ゴジュラスは両手でガードをするけど、俺は鞘をゴジュラスの腕に上手いこと引っ掛けて、回転しながら剣を抜くとゴジュラスの右脇腹に叩き込んだ。
「おるああああああ!!」
でもゴジュラスの皮膚はヒスイとは比べ物にならないくらい分厚く。しかも硬い為に火花を散らせながら嫌な音を響かせるだけだった。
「ちっ!」
やっぱ硬えな!
そんな時。ゴジュラスは渾身の力を込めた拳を俺に叩き込もうとしたから、フレイムバードでガードしたけどその一撃はめちゃくちゃ重く、ガードし切れずに剣が手からすり抜けた。
やばっ!
ゴジュラスはそれを見逃さなかった。
そのまま回転して、強力な尻尾で俺を殴るとそのまま数十メートルも離れた壁に激突して破壊。
街の人達が急いでその場から離れると、ゴジュラスが一瞬で空高くジャンプして、音速の速さで俺を踏み潰す攻撃を繰り出す。
その音速は雨を含んだ空気の輪を幾つも作り、そこから生まれる威力は多くの客席を巻き込み、軽いクレーターが出来た程だ。
「ガッ……アッ……」
その時、俺は軽く意識が飛びかけた。
でも意識をなんとか保たせる事が出来たのは、負けたくなかったからだ。
ゴジュラスは俺を踏み潰した足をどかすと頭を鷲掴みして、そのまま頭を地面に叩きつけられた。
<ハアァァルルルッ……>
や……べぇって……、マジ……で……。
その瞬間俺の目に。一樹、ヤッさん、沙耶の3人がパートナーと一緒に黙って観ているのが見えた。
いや、黙ってじゃねぇ。ゴジュラスの迫力に息を飲んで黙っまっちまったんだ。
〈ワンッ!〉
そこにクロが鎖を伸ばして、ゴジュラスの両肩に生えた禍々しくて大きな翼みたいな形をした結晶体に巻き付けると、そこからどうにか引き離そうと動いてくれていた。
〈ガルルルルッ!〉
<今のお前の力で私を引き離す事は難しいだろう>
確かにその通りだ。いくら引っ張っても、クロの力でじゃゴジュラスはビクともしない。
そこにカノンも蔓を伸ばしてクロと一緒に引っ張ってくれる。けど、それでも動かない。
<憲明よ。意識はあるか? この程度であるならばお前に我が子を託す事は出来んな>
その言葉に俺は目を開けた。
「……誰が……なんだって?」
<ハアァァァァ……>
ゴジュラスは俺に意識があったのが嬉しいのか微笑むけど、その微笑みがめっちゃくちゃ怖かった。
<それはよかった。これで終わりかと心配したぞ>
「……へっ! んなわけ……ねえだろ。……それだけの力をいきなり出されてビックリしてたんだよっ! と」
俺は負けじと微笑み返すけど、正直その場から起き上がるだけでも体がかなり痛くてキツかった。
するとゴジュラスはその場から離れて、訓練場の中心に歩いて行く。
中心まで行くと、ゴジュラスは俺の方に体を向き直して挑発してきた。
<さあ来い、私の力はこんなものでは無いぞ>
「へっ、だろうな……。あぁ痛っ。だってお前、まだ手え抜いてるもんな?」
俺は首に手を当て、首を動かしながらその場から離れてゴジュラスの所に進む。
肩とか関節がズレていないか確認して、飛んでいったフレイムバードを拾う。
「それに、お前の攻撃はどっちかっつうと恐竜だった時の攻撃だろ? 今度は見せてくれるんだよな? 今のお前を」
するとゴジュラスはニヤッとした表情を見せた。
<ならば見せてやろう。だが私が何故、この様な姿に進化をしたのか先に教えるとしようか>
「カズが力を与えたんだろ?」
<違う。それは違うぞ憲明。私は私で研究していたのだ。彼の方のパートナーとして相応しいのは何なのかを。お前も見た筈だ、彼の方が解き放った最高の力を>
「最高の力?」
<"暴虐の星">
それを聞いた瞬間、背中がゾワッとして強烈な悪寒を感じた。
それは前に一度、カズが放った事がある正に究極とも呼べる大魔法の名だったから。
<思い出したか? ならば解る筈だ>
「何を言いたいのか……、解んねえな」
その技は最悪であり、余りにも理不尽な力だ。
ありとあらゆる物を破壊して飲み込む暴虐の星、アトゥロス・ノヴァ。その正体を簡単に説明するなら"ブラックホール"だ。
そんな恐ろしい魔法に対抗出来る力を俺は知らない……。
<本当に解らんか? ならば教えよう。あれだけの力を使うには、何が必要なのか私は研究した。同時に、それだけの力を制御する為には、いったい何が必要なのかも考えた>
「…………おい、お前まさか?」
<答えは目の前に存在していた。それは我が主人だよ。では、主人はどうやってあれだけの破壊力を生み出す事が出来た? ここから先はもう、言わなくても解るな?>
あぁ解る……。解りたくなくてもわかっちまう……。
ゴジュラスの説明を聞いて、一瞬で体中の血の気が引いた。
「マジで言ってんのかよ? アレがどれだけ危険な技か分かってて言ってんのかよ?!」
<分かっているさ。だからこそ、その力に相応しい進化をしたのだ>
俺は全て理解した。
つまりゴジュラスはカズみたいに、暴虐の星を作り出す事が出来るって事だ……。
<私は自我を失った主人の瘴気によって死にかけた。だが逆にチャンスだとも思えた。瘴気をこの身に取り込み、進化する為の糧にしたのだよ。理想を追い求めるのであれば、私はどんな手を使ってでも主人の為に進化したかったのだ>
「そしてお前は進化の過程でそれに相応しい能力も得たって訳か……」
<その通りだ。故に今の私は、"超戦闘生物"として! これからも努力を惜しみはしない! グォアアアアアア!!>
するとゴジュラスは雄叫びを上げ、全身から禍々しいオーラを解き放った。




