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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第4章 炎と結晶
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第132話 幸せの風来る


 ーー 翌日


 12:30



 その日は普通に学校に来ていて、昼休み時間中に俺とカズが廊下に出ると、泣きながら廊下を走って行く佐渡の姿があった。

 その佐渡の髪はハサミか何かでめちゃくちゃにされてて、制服までボロボロな状態だ。


「おいカズ、今のって……」


「……佐渡だ」


「なんか、ボロボロじゃなかったか?」


 佐渡が走って来た方に顔を向けると、そこには笑いながらハサミを持ってる女子連中が目に入って俺は確信した。


「まさかアイツら?!」


「憲明、俺の鞄 持って来てくれ。俺は佐渡が行った方へ先に行く」


「わかった!」


 教室に一回戻り、頼まれた鞄を持って俺はカズを追いかけると、カズは女子トイレの前で腕を組んで仁王立ちしてるじゃありませんか。


 いやいやいや、そんな風に立ってると出るに出れねえだろ……。


 俺はそう思って軽く注意すると、カズは「あっ……」って感じで気づいたのか、その場から離れた。

 その後すぐに別の女子が出てきたからカズが話を聞くと、どうやら佐渡はトイレに入って泣いているって話を聞き、近くにいた他の女子にどうにか連れ出してくれと頼み込むと、その女子はどうにかこうにか連れ出して来てくれた。

 その佐渡の髪が見るも無惨な状態になっている。

 カズはそんな佐渡の手を取り、保健室へ連れて行くと何があったのか事情を聞く事が出来た。


「成る程、だからお前は()()()()()のか」


 そう言われると佐渡は号泣し、話を聞くに聞けなくなっちまった。


「まっ、それは自業自得だろ」


「おいカズ、そんな言い方は無いだろ」


「あ? 事実だろうが?」


 そうだけどよぉ……、こんな状態を見ちまったらそんなこと言えねえよ。


 佐渡がどうしてボロボロになっているのかと言うと、それはカズが佐渡に軽くキレた事が原因らしく。その件で他の女子数人に嫌われて、カズやヤッさんを怒らせたって事で周りから虐めを受ける事になっちまったんだと。

 確かに自業自得かも知れねえけど、それ以前にカズは虐め事態が嫌いだ。だから佐渡に対する態度とは裏腹に、かなりその女子共に怒りが込み上がっていた。


「おい佐渡、取り敢えずお前の友達か誰かに体操服を教室から持って来てもらう様に電話しろ」


 カズがそう伝えると佐渡はポケットからスマホを取り出し、誰かに電話して体操服を頼んだ。



 ……それから数分後、慌てた様子で佐渡の友達(ダチ)が保健室に飛び込んで来ると、体操服を佐渡に渡し、カズは今すぐ着替えろと伝えて着替えさせた。


「んじゃ、始めるとするか」


 カズが何をしようとしているのか察しがついている。

 まずはタオルとゴミ袋を用意し、次にカズは鞄の中から2種類のハサミとクシ、そしてタオルを取り出す。

 タオルは佐渡の首に巻き、その上から頭が出るくらいの大きさの穴を切ったゴミ袋を被せる。


「今からお前の髪を綺麗にする。この長さでなにかリクエストはあるか?」


「お、お任せします」


 ヤッさんの事があったにも関わらず、カズは佐渡に優しかった。


「憲明、時間はどれだけ残ってる?」


「後20分ってとこかな? お前なら余裕だろ?」


「そうだな、余裕だな。佐渡、俺が今から綺麗にしてやるから周りの連中を驚かしてやろうぜ」


「は、はい!」


 カズは手慣れた感じで佐渡の髪をどんどんカットして行くかと思えば、変なところで急に失速し、慎重(しんちょう)に髪の長さを微調整しながらカットする。

 それでも十分 速い。

 佐渡の友達(ダチ)は目を大きく見開きながら驚いてるし、その様子をジッと見ている。

 俺はなにをしていたのかって言うと、ジュースを買ってきてそれを飲み、カズにはコーラを買ってきていたんだ。


「お前、これでよかったろ?」


「ん、サンキュー、そこに置いといてくれ」


「あいよ」


 コーラの蓋を開けて、カズの邪魔にならない様に置く。

 カズは(せわ)しなく動き回りながら髪をカットしつつ、俺が買ってきたコーラに手を伸ばすと普通に飲んだりしている。

 そしてカズは佐渡の前に来ると両頬をそっと優しく触り、角度を変えたりしながら髪型がおかしく無いかと真剣な目で見る。


 うん、近くありませんか? 美羽に見られたら怒られますよ~。


「どうした、心配か?」


「そ、そんな、夜城君を信じてるから別に」


 佐渡はもう少し近くまで顔を近づければ、そのままキスが出来るんじゃなかろかと考えでもしてんだろ。

 顔が赤くなって目がトロンとなっていやがった。


 くそっ、マジで俺もモテたい。


「お前、このまま俺にキスとかされたいって思ってるだろ」


 そっちかぁ……。


 図星だったのか、佐渡の顔が益々赤くなっていくじゃありませんか。


「して欲しけりゃしてやる。ただ俺の心はお前が知る美羽だけのもんだからな?」


 コラコラ、やめなさいって。


 そう言って意地悪そうな笑みを見せ。佐渡の唇を親指でそっとなぞりながら「なに期待してんだ? 俺がそう簡単にすると思うなよ? キスする相手を間違えんな」と言ってしない。


 ま~た悪い癖が出やがったよ。


 佐渡の友達(ダチ)はその光景を見て、軽く興奮していた。


「よし、髪はこれで完了だ。後は仕上げに」


 仕上げにと、カズは佐渡のメイクを始める。

 そんな道具をどうしてカズが持っているのかと言うと、理由は美羽のメイクをする事があるからだ。

 美羽はMIYA(ミーヤ)として世界的に有名な歌手であり、そのMIYA(ミーヤ)の時にしているVメイクを教えたのはカズだったりする。

 そしてそのメイクを完了させたカズが、俺と佐渡の友達(ダチ)に見せると感想を聞いてきた。


「どうだ?」


「お〜! 良いじゃん、流石だなカズ」


「ずっと見てたけど、本当に本人?! って思えるくらい綺麗!」


 そう言われて、佐渡は嬉しそうに微笑んだ。



 昼休みの時間が終わる頃、カズの手で綺麗になった佐渡が廊下を歩く。

 佐渡を見た男共は「あれ誰?! 可愛い!」と言って驚くし、それが佐渡だと知ると更に驚愕した顔になる。

 女子達も、一目見て佐渡だと気づいたみたいだけど、いったい何があったのか驚いていやがった。

 そんな佐渡の前にはカズと俺がいる。

 周りの連中はカズが何かしたと気づくが、ヤッさんとの件があるのにどうしてそうなっているのか不思議そうな顔をしていた。

 そのまま佐渡は教室に入り、自分の席に座ると、佐渡の髪を切った女子共が佐渡に詰め寄った。


「アンタ、佐渡さん? マジで? アンタ髪切ったの? 昼休みだって言うのに、よくそんな時間あったわね?」


「つーかなにメイクしちゃってんの? それで夜城君に振り向いて貰おうって思っちゃってんの?」


「アンタに振り向く訳 無いじゃん? アタシらですら見向きもされないのにさ?」


 んなもん当たり前だろ。誰がテメェらみたいな腐った女に振り向くって言うんだよ?


 そう言ってやりたかったけど、俺はあえて黙っていた。

 だってそうだろ? 俺がいるってことは、俺よりも黙ってねえめっちゃ怖い奴がいるってことなんだからよ。

 それで佐渡も黙って耐えていると。


「邪魔だどけ」


 カズは睨みながらそんな女子共を軽く蹴散らして立ち塞がった。

 しかもとんでもない睨みを効かしながら……な。


「ようテメェら、随分と佐渡を可愛がってるみてえじゃん?」


 次に佐渡の机の上に座ると足を組んで更に睨む。


「どうだ? 綺麗になっただろ? テメェらが佐渡の髪を切ったから俺がコイツの髪を綺麗にカットしてやって、メイクもしてやったんだ。なんか感想を言ったらどうだ? あ?」


 そう言ってやるなよ。女子共の顔が凍りついてて、お前の顔をまともに見られない状態になってるんだからよ。


「なんか言えよ、あ゛? ……佐渡、お前まだどんな髪になったかまだ知らねえだろ? これで見てみ」


 カズが鏡を佐渡に渡してやって、自分がどんな髪型でどんなメイクをされたのか見ると。


「これが……、私?」


「そうだ、お前だ。気に入ってくれたか?」


 佐渡は鏡に写る自分自身を見て驚いていた。


「落ち着きがあって清潔感のある耳かけショートにカットしてみた。メイクはちょっと大人っぽいメイクで仕上げてある。後でメイクの仕方を教えてやるよ」


 うん、めちゃくちゃ可愛くなったぞ佐渡。


「あ、ありがとう夜城君!」


「ふんっ、どういたしまてだよ。この礼は後で返してもらうからな?」


「お、お礼?」


 お礼を後で返せって言っても、佐渡はどう返せば良いのか解らなそうに頭を悩まし始めた。


「今度コーラを2本、お前の(おご)りな」


 おっ、カズにしては優しいじゃん?


 そう言って机から降りると、今度は佐渡に軽く微笑んだ。


「……うん!」


「クククッ、んじゃな。おい、そこどけ、邪魔なんだよテメェら」


 最後にもう一度、カズは佐渡にいちゃもんをつけていた女子共をすご味を利かせて睨んで蹴散らし、俺達は教室に戻ることにした。


「んじゃな佐渡。なにかあれば()()()()()()()()?」


 俺も最後に、トドメの一撃を放ってやった。

 それを聞いた女子連中はもう、二度と佐渡に手を出さなくなる。

 もし下手に手を出す様なことをすれば、確実に学校に居られなくなる恐れがあるからな。

 カズは勿論、俺も(いじ)めとか大嫌いだからよ。んなことしようもんなら絶対学校にいられなくしてやるからな。

 そんな光景を教室の入り口で一樹、沙耶、ヤッさんの3人が黙って見ていた事に、俺達2人は全然気づいていなかったからビックリしちまった。


「お前らいたのかよ……」


「んふふ。な~に2人して面白いことしてたのかな~?」


 ニヤニヤしながら沙耶が俺に言ってきたけど。佐渡を見た時点で気づいてるだろうし、絶対ワザと言ってきてるってのがバレバレだ。

 一樹も意地悪そうに、「なにがあったのかな~?」なんて俺に聞きながら、とりあえず教室に戻ろうとすると、佐渡が廊下に出てきてヤッさんを呼び止めた。


「その……、この間は嫌な思いをさせてしまって本当に御免なさい!」


 なんだよ、ちゃんと謝れるんじゃん。


 佐渡がヤッさんに深々と頭を下げて誤ると。


「なにかあれば憲明やカズだけじゃなく、僕達にも言ってね」


 そう言ってヤッさんが微笑んだ。


「……うん」


「それじゃ」


「待って!」


 また佐渡がヤッさんを止めると、今度はポケットからスマホを出し、恥ずかしそうにモジモジしながらスマホで顔を隠した。


 あんれ~?


「その……、連絡先、交換しない?」


「……うん! しよう!」


 マジですか……。


 ヤッさんと佐渡が目の前で連絡先を交換して、お互いどこか恥ずかしそうにしていると、昼休みが終わるベルが鳴った。


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