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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第4章 炎と結晶
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第130話 静かな眠り


 その日、俺達はルーナファーレが咲き乱れる群生地に来ていた。


「時の()(かご)に今は眠り」


 ここで……、カズは冒険者仲間やハンター仲間……、そしてニアちゃんを埋葬した……。


「疲れた心、魂を癒されよ」


 そしてここに来た理由はもう一つある。


(なんじ)らの魂が癒された時、いずれどこかで新たな生命を(さず)かりて、目覚めるその日を待ち望む」


 カズと、ニアちゃんとの間に出来た赤ちゃんを埋葬するためだ。


「我々は(なんじ)らを決して忘れはすまい」


 カズは亡くなった赤ちゃんに名前をつけることにした。

 男の子か女の子か全然解らない。だから、どちらにも似合う名前を考えて。


「今日、(なんじ)らの元に、共に眠る者をどうか、道を迷わぬように手を繋いであげてもらいたい」


 子供の名前は"(ゆう)"。

 それを聞いた瞬間、俺達は泣いた。


 (かたき)はカズが取ってくれたぜ? だから安心して悠と一緒に眠ってくれ、ニアちゃん……。


()()()()様、どうか彼らの魂が迷いませぬ様に、彼らの魂を御導き下さいませ」


 エルピス? エルピスってなんだ? 神様のことか?


 そう思ったけど聞ける雰囲気じゃねえ。

 とりあえずそれで司祭風の人の口上が終わり、俺達は静かに見送る事が出来た。

 ……だけど。

 エルピスって名前が出た時、一瞬だけどカズの雰囲気に違和感を俺は覚えた。


 ……今は触れないでおくか。


 気のせいだったのかもしんねえし、これでようやくニアちゃんと悠、そして仲間だった皆を見送る事が出来たんだし。静かにしておいてやりたかったんだ……。

 カズの側には美羽が寄り添ってるし、親父さんや先生達だっている。

 ましてやゴジュラス達の姿もそこにあった。

 ……でも。


 ……結局、アイツらは戻ってこなかったな……。

 なにしてんだよ……、早く戻ってこいよ、(ムクロ)、B……。


 Bは解る。

 Bは俺に、「ゼストに呼ばれたから行ってくる」って俺に伝えて、ルシファーとダーク・スターと一緒に出掛けていった。

 だからBは解るんだ。でもなんで(ムクロ)がいなくなった? (ムクロ)の奴がどこに行ったのかなんて解らねえままだし、カズはどこに行ったのか何も聞かない。


 ……(ムクロ)。今日、ニアちゃんと悠を最後まで見送ったぞ。

 早く戻ってきて顔を見せてやれよ……。んで……、お前も墓参りしろよバカ野郎……。


「憲明、後でお前だけギルドに来てくれねえか?」


「ん? あぁ、了解」


 俺はマークのおっさんに呼ばれて、後でギルドに顔を出すことにして。カズ達は静かに夜城邸に戻っていった。

 葬式にはマークのおっさんは勿論、ネイガルさんとか他にも沢山の人達が集まってくれた。

 その中には自衛隊の人達もいたけど、稲垣陸将の姿は何故か見えなかった。


 街に戻ると俺はギルドに顔を出した。

 だけど、職員の人や冒険者、ハンターの人達が誰1人いなくて静かだ。


 ……そうだよな、今日は誰もそんな気分じゃねえよな。


 そう思いながら俺は1人、イスに腰掛けた。


 ウルガさんもいない、職員の人もいない、冒険者とハンターもいない、カズ達も……いない。


 そう思ってると。


<クゥン?>


「悪い。そうだよな……。お前達もいるよな」


 そこにはクロ、ソラ、カノンが一緒にいてくれている。

 俺は1人じゃなかった。1人に変わりねえかもしんねえけど、クロ達だっているんだ。それがなんだか無性に嬉しくて、涙が出そうになっちまった。


「なんだ、もう来ていたのか」


 すると突然扉が開けられて、マークのおっさんが入ってきた。

 他には誰もいない、マークのおっさんただ1人だけ。


「すまねえな」


「別にいいよ。それで? なにか大事な話でもあんのか?」


 そう聞くと、マークのおっさんは黙ったまま静かにテーブルを挟んでイスに座った。

 その顔は真剣そのもので、どこかつらそうにも思えた。


「……今からする話は誰にも話さないでくれるか?」


「勿論」


 それから数秒間、マークのおっさんは黙ったままだったけど。重たい口が開いた瞬間、俺は俺の中で覚悟していた事を聞かされて正直驚いた……。

 その話は本当に、マジで重たい……。

 同時に聞きたくもなかった話まで聞かされ、俺はどうしていいか訳が解らなくなっていた。


「クソッ……たれぇ……。なんで……、なんで今そんな話を俺にしたんだよ……!」


「お前だけには話しておきたかったからだ……」


「ざけんな……!」


 俺はテーブルを蹴り飛ばし、マークのおっさんの胸ぐらを掴み上げた。


「すまん……」


「すまんじゃねえよ! これがもし! カズの耳に入ったらどうなるか解ってんのかアンタ!」


「間違いなく、俺は()()()()な」


 いっそ殴ってやろうかって拳を握ったけど、……俺は殴れなかった。


「だからこそ、お前さんにだけは打ち明けたかった」


「俺じゃなくても他にもっと話せる人がいるだろうが……! クソッ!」


 掴んでいた手を離し、俺はまたイスに座ってマークのおっさんを睨んだ。


「ゼッ……ッテーに誰にも話すなよ? 俺は聞かなかったことにするし、なにか聞かれたら"堕天竜"の件で話をしてたってことにする」


「わかった」


 クソッ! それがマジ話なら絶対にカズがブチギレるとかそんなレベルじゃなくなる! 下手すりゃまた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が目覚めちまう!

 なんでそんな爆弾を今俺に話すんだよこのおっさん!


 正直言って、その時の記憶を消したかった。

 でも俺はその時の話を心んなかに仕舞って、蓋をして、絶対誰にも言わないことにした。

 俺じゃなくても、誰だろうと、その話を知ったら絶対にマークのおっさんは死ぬ。確実に死ぬ。


「はぁ……、なんか生きた心地しねえのは気のせいか?」


「すまんな……」


 謝られても俺は困るんですけどね!


 ホント……、マジで謝るくらいなら話すなよって感じだ。

 でもマークのおっさんは俺を信じて話してくれたんだ。それに俺はマークのおっさんがどんな人かってのも知ってる。憎みたくても憎めねえんだ。


「貸しひとつだからな?」


「ん。それならその貸しを、出来るだけ早くお前に返さないとな」


「はっきり言ってマジでその貸しはデケェからな……」


 俺はマークのおっさんが好きだ。だからもしもの時は助けてやりたいってのもある。

 もし、カズにバレてでもしたその時は、俺はマークのおっさんの為にも土下座でもなんでもして一緒に謝ってやるさ。


 するとその時、俺のスマホが鳴った。


「誰だ?」


 着信は……、まさかのカズだった……。


「カ、カズだ……!」


「?!」


 マークのおっさんは、「もしかし話が聞かれたのか?!」ってあわてふためき、俺は今出ようかどうしような悩んだけど。


「あ、カズ? どうした?」


 悩んだ結果、俺は思いきって電話に出た。


『あ? なんか慌ててないか? なにかしてたのかよ?』


「あっ、別に? 全然大したことしてねえけど?」


 あっ、あはっ、あははははっ……、どうしよう……。


『あぁ実はな、ちょっと知らせておこうかと思ってな』


「ん~? なにおかな?」


 ヤバイ! もしかし今からマークのおっさんを殺しに行くって言うんじゃねえだうな?!


 そう思ってると、マークのおっさんは慌ててるのか、落ち着かない様子でオドオドとこっちを見ている。

 だけど、カズが言った言葉に俺は逆に驚くことになった。


『いや実はよ。なんかアリスの様子がおかしいかったんだけどよ。どうやら今から卵を産むみたいだ』


 …………なんですと?

 アリスが……、卵を産む?

 はい? それは……あれですか? 最強のハイブリッド恐竜を産み出すために、カズが軽く暴走して手を加えた例の件ですよね?

 

「マジか?」


『あぁ、マジだ』


「今からそっちに戻ります!」


『あいよ』


 そうして俺はマークのおっさんよりも、アリスの卵が早く見たかったから走って戻ることにした。


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