第12話 暗闇<御堂side>
俺の班は食堂を抜け、二手に分かれた暗い通路に入っていた。
「オメェ等、ちゃんと暗視ゴーグルは着けてるよな?」
その質問に、全員が「はい」と返事を返す。
「こっからは二手に分かれる。出来るだけ物音を出さないよう各自ハンドサインしろ、いいな」
班を二つに分け、更に奥へと進む。
途中途中にある各部屋を開けると、その中を隈無く調べる。
調べていると、俺はとある部屋である事に気が付き、姉さんと兄貴に連絡を入れた。
「こちら御堂。今、慎重に各部屋を調べています。そんでちょっと気になった事があるんですが」
『こちら鬼頭。どうしたの?』
「それが、今いる部屋で異様な匂いが立ち込めてるんです」
『こちら犬神。異様な匂いだと?』
「はい。何かが腐った様な、何とも言えん匂いです」
『こちら鬼頭。その匂いの発生源はわかる?』
「いえ、全然分からんのです」
『他に異常は?』
「今のところありません」
『こちら犬神。その匂いはどの部屋からもするのか?』
「いえ、今いる部屋だけです」
『今もそこにいるのか?』
「はい、います」
そこへ、急に若から無線が入った。
『御堂、そこから静かに部屋を出ろ』
静かに?
それを聴いて、俺はハンドサインで部下達に部屋を出る様に促す。
「今出ました若」
いったいなんだ? ……まさか。
『ドアはちゃんと閉めてあるか?』
「は、はい」
『よし、全員無事だな?』
その言葉にいきなり緊張が高まる。
やっぱりなんか違和感を感じたんですね?!
「わ、若」
『異臭の他に何か変な音とか聞いてないか?』
それを聞いた俺は部下達を見る。しかし、部下達全員がその質問に首を横に振る。
「今のところ誰も聞いてないようです」
『そうか、ならいいんだ。閃光弾は持ってるか?』
「はい、勿論です」
『ならそれを一回、その部屋に投げ込め』
「了解しました」
俺は先程指示された事を部下にやらせる。
閃光弾を下手に扱えば目を失明しかねない。その為、慎重に扱わなければならない。それに閃光弾が発光する際、強烈な音が鳴り響く。だから投げた際は速やかにドアを閉める必要がある。
準備ができた部下は何時でも開けていいとでも言ってるかの様に、頭をコクリと頷く。俺も頷き、2歩後ろに下がると、部下はそっとドアを開けてから閃光弾のピンを抜き、閃光弾を床に転がした。
数秒後、激しい光と破裂音が鳴り響く。
「若、この後はどうするんで?」
『閃光弾を使った後でも妙な音はしないか?』
「確認してみます」
俺は恐る恐るドアを開け、中からなにか音がしないか耳を澄ませる。しかし、何も音がしない。
「異常ないかと」
『んじゃその部屋の中だけライトの使用を許可する。それでその部屋の中をもう一度良く調べて見てくれ』
「了解しました」
俺達は部屋に入ると暗視ゴーグルを外し、ライトを使ってもう一度部屋の中を隈無く調べる。どうやらそこは古い机や椅子等が置かれた部屋みたいだ。
天井にはなんの異常も見当たらない。しかし、部下の1人が妙な物を発見した。
それは大量のネズミの死体。死体は腹を食い破られ、頭が無くなり腐っていた。
「こちら御堂、匂いの原因が判明しました。原因は大量のネズミの死体です。それも腹を食い破られ、頭が無い状態の。死んでだいぶたつのかわかりませんが腐ってます」
『こちら和也。それは普通に腐ってる臭いなのか?』
「はい、たぶん」
『たぶん? たぶんってどう言う事だ?』
「いえそれが、ただ腐ってるって言うよりなんか、溶かされた感じの腐りかたをしてまして」
『なに?』
その後、若は何かを考えているのか黙り込んでしまった。
俺達にしてみればほんの数分でも、緊張のせいで長い時間が流れているのではと錯覚してしまう。
そして、やっと若から連絡が来た時には皆、思わず安堵したのだが、その連絡は俺達にとってまた地獄の様な時間を与えるのだった。
若はその死体が気になるらしく、今からそっちに行くと言い出した。しかし、それを姉さんが許さなかった。暫くしていくと2人は無線を介して喧嘩を始めてしまった。
こ、こんな時にやめて欲しいです……。
若にしてみれば自分が行った方が早いからと言っているのだが、姉さんは時間がかかってでも他の人が行ってそれを回収し、若の元へ持って行った方がいいと言う。
あの、正直どっちでもいいから早く決めてもらえませんかね?
そこで御子神が取り敢えず2人とも落ち着けと言うが、黙ってろと2人に言われ、今度は御子神もその喧嘩に乱入する形となってしまった。
き、貴様……! 余計なことをしやがって!
俺はついに呆れてしまい、ネズミの死体をひとつ持って、若の元へ行けと部下に話す。
部下は嫌そうな顔をするが、ネズミの尻尾を持ち、ちぎれない様に持ち上げて若の元へと戻って行った。
すまん頼む! そしていい加減、喧嘩をやめてもらっちゃ頂けませんか?
「ああ、あのぉ宜しいですか? 今、部下にネズミの死体をそちらに持っていかせましたので、それで良かったですか?」
俺のその言葉に若達が急に黙り込む。
あぁ、なんか火に油を更に注いだか? 俺?
だが実際はそうじゃなかった。若達は俺の言葉に、その手があったかと思い、喧嘩で疲れてしまい黙ってしまった様だった。
『こちら和也。うん、すまない御堂、それで良いよ』
ふぅ……、解っていただけてよかった。
「んじゃ俺達は先に進んだ方がいいですかね?」
『いや、申し訳ないがもう暫くそこで待機していて欲しい。それで、念には念をでその死体をどうにか処分したいんだが』
「なら爆弾をセットして、時間が来たら吹き飛ばせるようにしときますかい?」
『それよりもなんとか燃やせないか?』
「燃やす? んじゃ火炎放射器で燃やしときますかい?」
俺の言葉に、後ろで火炎放射器を装備した部下がやっと出番かと言わんばかりの顔で目を輝かしているのが見えた気がする。
『どうすっかなぁそのまま放置しても、伝染病の元になっちまうし。だから申し訳ないんだけど、もう少し検討するから暫く時間をくれないか?』
俺は他の部下や自衛官達の顔を見回すと、皆、良いよと言ってるのかコクリと頷く。それを見て俺は若に了解したと伝え、皆をその場に暫く休ませる事にした。
しかし、若はその死体を気にしていたので、俺はなにかあったら対処出来るように、火炎放射器を持った部下を真ん中にして、その死体を警戒しながら交代で休む事にした。
念には念をだ。
それを聞いた姉さんや兄貴も、それぞれ若が気になったネズミの死体を調べ終わるまで待つ事にし、交代で休む事となった。
さて、ついに始まりました、ワーム特殊個体討伐作戦。
暗闇に蠢く脅威に対し、和也はどう動くのか。
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