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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第4章 炎と結晶
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第125話 蛇の目


 ーー 翌日



 カズが久しぶりに学校に現れた事で、周りの生徒達はざわめき立った。


「夜城だ」


「ヤバイのがついに来た!」


「クソッ! また女子達が騒ぎ始めるぞ!」


「でも前に龍巳先輩にフラれたから大人しくなったって聴いたぞ?」


 なんて話ている。

 女子はと言うと。


「ヤバイよヤバイよ! やっぱりカッコいいよ!」


「龍巳先輩にフラれたんだからアタックしようかな、私」


「待って! 抜け駆けするつもり?!」


「でも何股されても私、許せる……」


 ……こっちはこっちで好きな事を言って騒いでいやがった。

 俺達が校門まで来るとそこへ1台の車が停まり、運転席から俺も知ってる顔の男性が降りて来ると、カズと挨拶を交わした。


「久しぶりですね、"浩二(こうじ)"さん」


「お久しぶりです」


 その人の名前は"藤山(ふじやま) 浩二(こうじ)"って人で、42歳になるスーツ姿の男性だ。


「お変わり無い様で何よりです。話は()()()から聴いております」


「はは、まぁそうなりましたよ」


「今後もお嬢様の事、どうか宜しく御願い致します。和也さん」


「相変わらず硬いって浩二さん」


 そんな会話をしつつ、浩二さんが後ろのドアを開けると桜ちゃんが満面の笑みで降りた。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


「うん、行ってきます。おはよう、カッちゃん」


「おはよう、サーちゃん」


「憲明君もおはよっ」


「おざっす!」


 浩二さんは昔から桜ちゃんの親父さんの秘書をしてるから、同時に俺達の事もよく知ってくれてる人でもあるんだけど。その浩二さんが久しぶりにカズと桜ちゃんが笑顔で挨拶を交わすのを見て、思わず泣きそうになりながら一礼するとその場から立ち去った。


「おい、どうなってんだ?」


「龍巳さんと夜城が……、一緒に笑ってるぞ?」


 カズと桜ちゃんが笑顔で挨拶してる光景を目にして、周りの連中がまるで信じられ無い光景を目にしているとばかりに驚いた。


 ははっ……、そりゃそうなるよな。


 だってカズは桜ちゃんから出来るだけ距離を置いていたし、昔この2人に何があったのか知る奴らが噂を広めちまったから、実は2人は両想いだったことを知っている。

 しかも、この2人の関係はお互いに相反する家庭だから引き離されちまった事も知ってる。

 そしてカズは裏で桜ちゃんを守っていると噂が立って、桜ちゃんはそんなカズを諦めきれないでいるってのも囁かれていた。

 そんな2人がこの間、学校のグラウンドで喧嘩をして、桜ちゃんがカズを盛大にフったって噂も広まっていた。

 そして今日、その2人が学校の校門で笑顔で挨拶すると、話をしながら玄関口に進む。

 だからその事に周りの連中は、いったい何が起きたんだと理解出来ないでいた。


「あの後、ソラちゃんはどれだけ出来る様になったの?」


「いや実はそれなんだけどよ。アイツ、めっちゃスゲーんだよ。夜の9時過ぎには完璧に分解と組み立てを完全にマスターしやがった」


「マジか?!」


「凄いなあソラちゃん。私もやっぱり何かテイムしよっかなあ」


 うん、せっかくだから桜ちゃんもテイムしたほうが良いと思う。


「だったらもっと強くなってサーちゃんに相応しいモンスターをテイムした方が良い」


「だな。だったらお前がなにかオススメ出来るモンスターを見つけてやれよ」


「そうだな、それもいいな」


 周りからしてみれば、なにかゲームの話をしてると思う内容だったと思う。

 するとそこに。


「はいはい朝からイチャつかないで下さいね〜」


 美羽が2人の間を割ると、カズの腕を掴んで腕を組んだ。


「あっ御免なさい。その、そんなつもりじゃ……」


「ふふっ、冗談ですって」


 美羽が現れた事で周りは更にどよめいた。


「なんだ、今来たのか?」


「うん、でも午後は撮影がある」


 午後から撮影か。そしたら今日は来れねえのか。


「なんだ、じゃあ今日は来れねえのかよ?」


「ゴメン。明日は昼間仕事で学校には来れないけど、夜はスケジュールが空いてるから行く」


「分かった」


 カズと美羽の仲睦まじい光景を目にして、周りの連中は血の涙を流しているのをこの2人は気づかない……。


「あっははは……。 (2人が付き合ってる事、そう言えば周りに知られてるんだっけ)」


 ただ1人、桜ちゃんは苦笑いを浮かべていたけどな。


 そしてそんな朝から目立っちまったけど、昼にはもっと目立つ事になっちまう。



 12:15



 俺達は学校の学食へ行く為に廊下を歩いていると、目の前にヤッさんをフった佐渡がいた。

 それを見たヤッさんは思わず顔を背けちまったけど、カズは堂々とした態度で突き進む。


「胸を張れ、ヤッさん」


 だから俺はそう言って、思い切って胸を張って前を向いてもらった。


「俺達がついてるだろ? だからそんな暗い顔すんなよヤッさん」


 俺やカズ、そして一樹がいる。ましてや、「心配無いって〜」って笑顔で声をかける沙耶だっている。

 美羽は撮影の為に早退して居ねえけど、その場には桜ちゃんと志穂さんの2人までいるんだ。

 だからそんな俺達を見て、周りの連中が次々と道を開けていくと。


「何見てんだ? あ?」


 佐渡がチラチラとこっちを見ていたからカズが睨んだ。


「え? あの、その……」


 佐渡は顔を真っ赤にして、カズと話せる最大のチャンスが訪れた事に喜びつつ、何を話したら良いか頭の中が真っ白になっていたに違いない。

 だが残念なことにこっちはそんなつもりじゃねえんだよなぁ……。


「あ? さっきから俺を見てたよな? 何か言いたい事があれば言えよ。俺達はこれから飯を食いに行くんだ。さっさと言えよ」


「えっと、その……、私 ーー」


 勇気を振り絞って佐渡が何かを言いかけた時。


「時間切れだ。お前のせいで時間を無駄にしちまった」


 眉を八の字にしたしかめっ面で、まるで見下してる様にしてカズがそう言い放つと。


「どけ、邪魔だクソブス」


 佐渡を軽く払い除ける様にして押し、そのまま軽く睨むと学食へ足を向けた。


 本当に言いやがった……。


 俺は本当にクソブスと言った事に驚いたけど、ヤッさんはどこか申し訳無さそうに佐渡の前を通り過ぎて行く。

 けど、その佐渡はヤッさんの手を掴んで呼び止めた。


「ねぇ、まさか夜城君と仲が良いの? もしかしてこの間の事で怒ってるから夜城君にあんな事を言わせたの? ねえゴメンって、だから私も夜城君と仲良くしたいからなんとかしてくんない?」


「……は?」


 この時のヤッさんは佐渡に対して怒りが込み上げていた。


「なんでそん ーー」


「アンタ何様?」


 だけどヤッさんよりも早く、志穂さんが佐渡に対して怒りをぶつける事になった。


「話を聞きたく無くても耳に入って来たから言わせてもらうけど、アンタ玲司に対して失礼なんじゃないの? ましてやカズに対してもそう。なに? カズと仲良くしたいなら正面から本人に言えば? それにカズに言わせたって? はっ、言わせたのはどっち? アンタなんじゃないの?」


 志穂さんは腕を組んで佐渡を睨む形で言い放った。

 その志穂さんが一歩前に出れば佐渡は一歩後退(あとずさ)り、徐々に顔を曇らせると(うつむ)いていく。


「ねえ聞いてる? 聞いてるなら返事したら?」


「聞いて……」


「はい? 聞こえないんですけど?」


「ご、御免なさ ーー」


「はあ? 謝る相手が違うんじゃないの? 謝るなら玲司にきちんと謝ったら? あんなんで謝ってるって言える? 言えないよねえ? アンタ何様? もしかして自分が女神様かなんかだと勘違いしてる痛い子な訳? ねえ? なんで玲司に対して上から目線で話しかけてんの? おかしいよねえ? それによくフった相手に話しかけられるよねえ? なんでえ? それにカズの事が好きならその周りに誰がいるかって事ぐらい知ってないとおかしいんじゃない? カズ以外は眼中にありませんかあ? そんなんでよくカズの事が好きだとか言えるよねえ? もしかして頭悪い? それともその目は飾り物ですかあ?」


 いやいやいや! アナタも人のこと言えないんじゃないんすか?!


 俺は志穂さんを敵に回すとどれだけめんどくさいのか、つくづく思いしった。

 一方で、志穂さんに色々と言われている佐渡は既に泣いちまっている。佐渡の近くには友達(ダチ)が2人いるけど、その2人は何も出来ずにただ怯えているだけだった。


「ねえ玲司」


「はっはい!」


 志穂さんに呼ばれ、ヤッさんはビクリとはねる様にしてその場で姿勢を正しながら返事すると、志穂さんの視線がそんなヤッさんに向く。


「アンタ、こんな女のどこがよかったのよ? 顔はイマイチ、メイクもダメダメ、ハッキリ言ってこんなドブスを好きになる要素なんて無いじゃん」


「そ、そう言われましても……」


 な、なんか矛先が変わった気がする……。


「こんな女より、アンタにはもっとふさわしい女が現れる筈だからその時まで待ってなさいよ」


「は、はい!」


「そうそう、言っておくけどさぁ」


 次に、志穂さんはまた佐渡に視線を戻すと。


「アンタ知らない様だから教えてあげるけど、カズは美羽と付き合ってんの。でも美羽と別れたとしても、私はカズと寄りを戻そうと思ってるからね? それに知ってる? 私は一応、カズの元カノ。だからアンタみたいな女が近づこうとしても、無駄」


 それには勿論、桜ちゃんと沙耶の2人が反応した。


「シーちゃん、私の事、忘れてない?」


「そうですよ〜? 私は美羽と付き合っていようとも、私は常にその横を狙ってるんですよ〜?」


 さ、桜ちゃんの笑顔がどこか怖い……。


 沙耶は沙耶で両頬を膨らませ、腰に手を当てながら志穂さんを睨むし。


「別に忘れてなんかいないわよ……」


 いや、絶対忘れてたでしょ……。


「まっ、そう言う事だから、私達がいる限りカズに近づこうなんておこがましいのよ。わかった?」


「……はい」


「わかった?!」


「はいっ!」


 もう限界が来ていたんだろ。佐渡は泣きながらその場から逃げる様にして去って行き、その後ろを友達(ダチ)2人が追いかけた。


「ひどい女だな、お前」


「はあ? どこが?」


 カズはそう言うけど、その顔は笑っている。

 志穂さんはそう言われながらも、笑顔に戻ってヤッさんの肩を叩き、一緒に学食へ向かう事にした。


「無駄な時間を使っちまったな」


「まっ、別に良いんじゃねえの?」


 俺にはカズが時間を無駄にした様には思えない。

 だって、カズがヤッさんの為に時間を使ったと思えるからな。

 そうして廊下を歩いていると、ガラの悪い男数人が教室から出て来て。その内の1人がカズの存在に気づかずにぶつかった。そいつはカズと同じ身長だけどかなり太ってて、体重は軽く100キロを超えているように見える。


「ってえなあ、どこ見て歩っ?!」


 ぶつかった奴はカズに文句を言おうとしたけど、カズは間髪入れずにおもいっきり前蹴りで蹴り飛ばした。


 おいおい! こんなところで問題になるような事すんなよ?!


 そいつは前に倒れると顔面を打ち、数メートルも廊下を滑った。


「痛えのはこっちだよボケが。ちゃんと前見て歩かねえテメェが悪いんだろ? なぁ?」


「や、夜城……」


 蹴られた奴は腹と鼻を抑え、カズだと知ると全身を震わせながら恐怖を感じていた様子だ。

 他の仲間連中は教室の壁に張り付き、そっちも震えていやがる。


「あ? なんだ? なんか俺に文句あんのか? テメェら全員、……()()()()()?」


 ヤバい!!


 俺は咄嗟に動いた。

 カズから溢れ出る殺気が流石にヤバイと気づいたからな。俺はカズの前に出ると笑顔を浮かべ、両手で抑える様にして止めに入るとカズの顔を見た。


 止めに入って正解だなこりゃ……。

 (わず)かだけど八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の気配を感じる……。それに目が……。


 この場に美羽がいればこんな事は無かったかも知れねえけど、それでも美羽がいないからこそ俺が止めないとって思えた。


「どけ憲明」


「まぁそう怒んなよ、な?」


 そんなカズに俺は小声で、「()()が出てるぞ」と伝えた。

 カズの目は左目だけが赤いオッドアイ。その目は昔から(わず)かに光っている様な目をしていて、動く度に光の軌跡(きせき)棚引(たなび)かせていた。

 それは誰もが知ってる事なんだけど、今のカズの左目は異様だって言える。

 理由はいつもより光ってるし、瞳が蛇そのものになっているからだ。


「カズ、取り敢えずそろそろ学食に行こうぜ。な?」


「……ちっ」


 周りにいる連中はカズの異様な雰囲気に飲まれ、怯えた顔で動けないでいる。


「ほら行くぞカズ」


「わあったよ」


 それでカズはポケットに手を突っ込み、廊下の真ん中を歩き出したんだけど、まだその左目からは赤い光が棚引(たなび)いている。

 そんなカズを見た女子達は歯を鳴らし、涙目で怯えて震える。


 まぁ……、普通に考えても目から赤い光の軌跡(きせき)棚引(たなび)かせる奴なんていやしないからな……。


 だからカズの左目は義眼だって疑う奴が前にいたけど、それを疑って正面から見たそいつは怯え、それ以来近づこうともしなくなった事がある。


「ったくよぉ、どいつもこいつもイライラさせやがってよぉ」


「カズ〜、そんなに怒ってたらシワシワのお爺ちゃんになっちゃうよ〜?」


「うるせえよ」


 沙耶はなんとかこの嫌な雰囲気を無くしたいと思ってか、あえて笑いながらそんな事を言った。

 それを察した桜ちゃんと志穂さんの2人も、どうしたらカズをなだめられるか考えてる様に見えたけど、上手く思いつかないのか黙ったままだ。

 だからそこで俺は言った。


「おいカズ、そんなに怒ってたら美羽にチクるぞ?」


「おまっ?!」


 どうやら効果は絶大のようだ。


「なんだ? そんなに美羽に怒られたくねえのかよ?」


「あ、当たり前だろ! ……美羽には絶対に言うな」


 ほほう?


 カズは顔を赤く染め、両手で俺の胸ぐらを掴んで言うけど、俺は顔を背けて口笛を吹いた。


「頼むから言うなよ?」


 頼むと言っても凶悪な笑顔ですよ? 無理に笑顔を作ってるのがバレバレですよ?


「さ〜て、どうしよっかな〜?」


「クッ…ゥッ、な、何が望みなのかなぁ? ノ〜リ〜ア〜キ〜ク〜ン?」


 ぎゃ、逆に怖すぎる。


 俺は何が望みなのかと聞かれて少し迷ったものの、美羽に言わない代わりにある事を頼んだ。

 すると。


「お前、正気か?」


「嫌なら言うぞ?」


「ゥグッ?! ……ちっ、分かった、帰ったら用意してやる」


「さすが心の友、話が分かるね〜」


 俺はカズにとある事を条件に、美羽に言わないと約束した。


 あっそう言えば。戦争が終わって直ぐ、カズが捕まっちまったからすっかり忘れてた……。

 今夜行ったら、ちゃんとカズとニアちゃんの子供の埋葬をどうするか聞かないとな……。

 

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