第115話 大蛇の願い<美羽side>
「風が気持ちいい〜!」
八岐大蛇の頭の上で両手を大きく広げ、私は気持ちのいい風を全身に浴びた。
すぐそばにはステラとアクアが宙を舞いながらついて来てる。
「アクアも生まれた時と比べて大きくなったし。そろそろ一緒に冒険に連れて行こうかな」
今のアクアはだいたい170センチに成長している。
モササウルスの赤ん坊は約2メートル程の大きさで産まれてきたとされていて、それを考えるとようやくと言った大きさになったなって思える。
成長すれば13メートルから15メートルになり。中には18メートルの化石が発見されているんだとか。
「ねぇカズ。ゴジュラスがなんか凄い姿に進化してたよね。やっぱりなんか手を加えてたりするの?」
そう聞いてもなんの反応が無い。
「思ったんだけどさ。カズが私達のパートナーに与えてくれた新しい能力って、"進化"なんでしょ?」
<……グウゥゥ>
それは肯定を表すのかな?
静かに唸ったあと、私は「やっぱり」と言って微笑んだ。
もし、間違いであればきっと別の反応があっただろうし。「やっぱり」と言えるのは、長い付き合いでお互いがどんか性格なのか把握しているからなんとなく解る気がする。
「ねぇカズ。赤ちゃんの事なんだけど……。本当は辛いよね……。私、見たかったな。カズとニアさんの赤ちゃん。私も悔しい……、なんでこうなったのか本当に悔しいよ……」
そお思えば思うほど、流れ出る涙を止めることが出来なくて、八岐大蛇に零れ落ちる。
八岐大蛇であるカズは唸る事も叫ぶ事もせず、ただ目を細め、海に向かって進み続けている。
「ねぇお願いカズ。私をずっとカズの側にいさせて。ニアさんと赤ちゃんの事は忘れてとは言わない、そんな必要はないから。だからーー」
〈俺はお前を愛してるよ〉
「……え?」
急にカズの声が聞こえてきて、私は驚いた。
〈だから側にいてくれ〉
「…………うんっ!」
カズのはっきりとした声が聞こえる。だからその言葉を聞いた私は喜ぶけど、……余計 涙が溢れ出す為に、顔がクシャクシャになっちゃった。
〈お前は生きろ〉
「うん、生きる」
〈こんな俺を好きになってくれてありがとう〉
「好き! 大好き! メチャクチャ大好き!」
〈俺もお前が大好きだ〉
ありがとう……、本当に……ありがとうカズ……。
周りに人がいたらビックリするくらい、私はその場で泣き崩れそうになったけど。幸いにも今はステラとアクア、そしてゴジュラスしかいない。
…………ん?
「……ねぇまって、なんでゴジュラスが空飛んでついてきているのぉ?」
鼻をすすりながらその存在にようやく気がついた私は、ゴジュラスになんでいるのか問いかけるけど。
<ガアァ?>
ゴジュラスはゴジュラスで、私が何を言っているのか解らないとばかりに、キョトンとした顔で見つめ返してくる……。
「来てるなら来てるって早く教えてよ。ビックリしたじゃん」
<ガ、ガアァ……>
誤ってるんだろうな。右手で後頭部を抑え、頭を何度も下げる。
「でもこうして改めてゴジュラスを見ると、まるで怪獣みたいだよね。ワニみたいな尻尾が細長くなって。体中にトゲみたいなウロコ? 皮膚? どっちか解んないけど、凄くカッコいいし」
そう言うとゴジュラスは照れた表情を見せるから、更に驚いた。
「なんか表情が豊かになったよね……。そうだ、"鑑定"で見てあげる」
羊皮紙を取り出し、"鑑定"スキルでゴジュラスのステータスを転写させて見ると。
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ゴジュラス 性別 (雄)
種族名 不明
Lv.88 Sランク
体力2200 魔力2200
攻撃1800 防御1500
耐性1000 敏捷800
運100
スキル
攻撃力強化 防御力強化 嗅覚強化 毒無効 麻痺無効 身体能力強化
ユニークスキル
暴君 闘争本能 戦闘力倍化 破壊者 結晶操作
アルティメットスキル
進化 重力支配
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……うん、やっちゃってるね。
「完・全に手を加えてない? あきらかに超戦闘特化型じゃん!」
でもカズは黙ったまま。
「ねえそれって肯定? 肯定だよね? 完全に肯定としか思えないんですけど? なにこれ? "攻撃力強化"と"防御力強化"は前からあったけど、"身体能力強化"? しかも"闘争本能"ってゴジュラスがより強くなるスキルでもあるよね? なのに"戦闘力倍化"? オマケに"破壊者"ってなんでも破壊する事が出来るスキルなんじゃないの? つまりゴジュラスのこのステータスが数倍どころか、数十倍。下手したら数百倍に跳ね上がるって事になるんじゃないんですか?」
そこまで言うと、なんか冷や汗をかいてるように見えてきた。
「その気になれば指先1つで相手を倒せるとか建物を破壊する事が出来るんだよね? アンタ……、ゴジュラスにケンシローにでもするつもり?!」
その名前を出してはいけない様な気がしたけど、とにかく私は怒った。
「北斗○烈拳なんてした日には街一つなくなりかねないじゃん! 「お前はもう、死んでいる」。ってゴジュラスに言わせたいの?!」
<オマエハ、モウ、死ンデイル>
「言ってんじゃないわよ!」
<アベシッ!>
ゴジュラスがそう言った瞬間、強烈な後ろ回し蹴りを思わず顔面にクリーンヒットさせちゃって、そのまま蹴り飛ばした。
「ん? 今、ゴジュラス喋った?」
<マ、マダ、上手ク、シャベレナイ、ケド>
「げ、言語学習能力?!」
そんなのステータスには無かったのに……。
「もしかして、進化した事で脳が大きくなり。知能がかなり上がったから?」
<ワ、ワカラナイ>
蹴られた箇所をさすりながら、ゴジュラス自身も喋れる様になった理由がまだ解っていないみたいだった。
「それってかなり凄い事だよ! これからもっと勉強すれば、私達と普通に会話が出来るんだから頑張って! 私も手伝うから!」
<ワカッタ>
怒りから一変。私は目を輝かしてゴジュラスに言葉を色々と教え。ものの短時間で素晴らしい成長を遂げてしまう。
マジでどうなってんだろ? 逆に凄い学習能力なんですけど?
するといつの間にか広大な海が目に飛び込んできた。
「綺麗な海だね」
八岐大蛇は綺麗な砂浜を通り抜けると、どんどん海の中に入って行く。
その巨体が完全に海の中に入る頃には、砂浜からかなり沖合の所まで来ちゃっていた。
〈ここで暫く眠らせてくれ〉
「うん……」
〈ゴジュラスとステラ。美羽とアクアを、俺が寝てる間、頼む〉
<お任せ下さい主人。このゴジュラスとステラで御守りする事を御約束致します>
〈あぁ……、頼……む〉
「お休み。ゆっくり休んでね」
そこで軽く優しい歌を歌い始めると、八岐大蛇は眠りについた。
<美羽、アクア。腹が減っただろ。私が今から魚を取ってくるから待っててくれ。ステラはその間2人を頼む>
<キュア>
ゴジュラスがステラにそう頼むと、単身 海に飛び込むと獲物となる魚を撮りに潜る。
「ほんと……、綺麗な海と空。……でも、カズの部屋にある大水槽の方が綺麗かも? んふふっ」
私はその場で寝転んで。
「大丈夫。アナタは1人じゃない。だから、ここからもう一度始めようよ。……アナタは、決して悪く、ないんだか……ら…………」
そこで私の意識は途切れて、眠ってしまった。
……どれだけの時間が経ったのか解らないけど。
意識が眠りから覚め始めると、波の音が聞こえてきた。
気づけばそこは海の上じゃなく浜辺。
そして、私が寝てるすぐ横にはカズが片膝を折って座り、タバコを吸って海を眺めていた。
「戻ったんだね」
「……心配かけて悪かった」
そう言ってカズは私の頭にそっと手を置いて謝ると、その手を私は両手で掴んで微笑んだ。
「八岐大蛇は?」
「今は俺の中で寝ている」
「封印……、じゃないんだね」
「俺がブチギレたせいでアイツを無理矢理起こしたからな。だから暴走する結果になっちまった」
「おじさん言ってた。マーセルって人を利用して、私達のパートナーに新しい能力を与えただけじゃなく、自分自身が早く第二形態になる為に利用したんだって」
「……親父の言う通りだ。確かにアイツは第二形態になる為に利用した。そのせいで俺の意識は抑え込められ、アイツは暴走するかたちになっちまった。……怖い思いをさせて本当に悪かった」
でもそれってさ、八岐大蛇なりにカズを想って暴走しちゃったんじゃないかな?
違うって言われたら嫌だし、黙っておこ。
「……でも今は大人しくしてるんでしょ?」
「そうだな、俺とアイツは一心同体も同じだ。だから今度また出て来たとしても、その時は絶対に怖い思いはさせねえし、被害が出るような事は無い筈だ」
ってことは……、やっぱりそうなんだろうな、きっと。
「うん、私はカズを信じる」
「……ありがとな」
寝そべっていた私は一度立ち上がり、カズの横に座り直すとその肩に頭を乗せる。
それから暫くの間、何も話す事なく、ただ黙って2人で海を眺めていると、アクアが海に入って遊び、ステラとゴジュラスはそんなアクアを見守っている。
「ゴジュラス、ちょっと良いか?」
呼ばれたゴジュラスは「はい」と返事をすると、カズの前までやって来た。
「お前の種族名を考えたんだ。せっかく進化した事だし、種族名が不明なら考えないとって思ってよ。だからお前の種族名を、"ティラノス・グラビティム"にしようと思う」
不明だった種族名を"ティラノス・グラビティム"にした事で、この世に新たな種が誕生した。
「それはどんな意味があるの?」
カズの事だから何かしらの意味があるんだろうなって思って、聞いてみると。
「ティラノスはそのままの名前を短くしただけだ。グラビティムはコイツの能力に関係している意味がある。"重力支配"ってスキルはあらゆる重力を文字通り支配し、操る能力だ。だからその意味を込めた名前にしようと思った」
「重力を操るとかって、それマジでヤバい能力だよ」
改めてそんな能力を与えたカズにドン引きするけど。
「それにしてもカズの方がよっぽど怖いけどね。カズの能力はチート級の中でも最上級のヤバさだから」
「……そう怒るなよ」
「いや? 別に怒ってないよ? ただ呆れてるだけです〜」
普段のカズなら例え付き合っていてでも、そんな私に対してイラッとしただろうけどバツが悪そうな表情で何も言い返さない。
だからってことじゃないんだけど、そんなカズを押し倒すとジッと見つめた。
「な、なんだ?」
「……でも好きだよ?」
私はカズの唇に自分の唇を重ね、暫くしてから再び座り直した。
「……獣」
「はぁ?! カズに言われたく無いんですけど?!」
両頬を軽く膨らませてカズを睨むけど、カズはプッと笑うと更に笑い始めた。
「なによ〜?」
「いや悪い、そんな顔されても可愛いからつい笑っちまった」
「ぅ〜む……、許す」
ヤバい、カズにそう言われるとなんか嬉しくて怒るに怒れなくなっちゃう……。
「はいはい、ありがとよ」
カズは微笑みながらジッと私を見つめるから、私も笑い出して2人は笑い合った。
「そうだ、ステラみたいにゴジュラスの名前も変えたりとかしないの?」
「そうだな。お前的にはどうだ? 今の名前が気に入っているならそれでも良いし、変えたいなら別のカッコいい名前を考えるが?」
そう聞かれたゴジュラスは。
<私は今の名を気に入っておりますのでこのままで良いかと>
立ち振る舞いはまだまだなんだけど、その言葉使いはとても丁寧で、短時間でよくここまで流暢になったもんだと私達は感心しつつ、カズは「わかった」と笑顔で応えた。
するとゴジュラスはその場で空に向かって咆哮を上げた。
その咆哮を聞くだけでも、今のゴジュラスがいったいどれだけ強いのか本能的に理解する事が出来た。
もし、敵に回そうものなら極めて危険だって解るくらいに。
そして、瞬時に私の中でヤバい奴ランキングの上位にゴジュラスの名が組み込まれた。
1位 カズと八岐大蛇、3位 骸、4位 ゴジュラス。
骸はこちらの世界で確認されている最強種の中でも最強とされているモンスター。それは私達が知るどの最強種達よりも1番ヤバいとされている。
その骸のステータスを実はこっそり見た事があるんだけど、そのステータスには全て不明になっていた。
他にもヤバい奴がいくらでもいるだろうけど。ゴジュラスはカズのモンスターであり、進化した事でこれからどんどん強くなれば、その時は他を簡単に圧倒するだろうって思えてならない。
極め付けはその能力。
以前、カズのステータスを見た事があるけど、それは恐らく見せろと言われると思って、前もって偽の情報をあえて作った物を見せられたんだと思う。
そうでなければ辻褄が合わない事が多すぎるから。
カズのステータスを"鑑定"で見る事が出来るだろうけど、誰だって隠したい事はあると思って、未だに見ていない。
そんな事を考えていると、遠くからヘリの音が聞こえ始めた。
「迎えが来たみたいだね」
「思ってたより早かったな」
私達は立ち上がり、ヘリが飛んで来る方向を見ると、そこにはヘリから身を乗り出して手を振っているノリちゃんが見えた。
「またあんな危ない事して……」
「落ちたら落ちたで置いていこうぜ」
すると。
「迎えに来たぞ〜!! このバ~カ!!」
「よし、乗って上昇した時に蹴り落とすか」
御愁傷様、ノリちゃん。
私は苦笑いしながらノリちゃんに合掌した。
「んじゃ、帰るか」
「うん、帰ろ」
ヘリが降りると、ノリちゃん、沙耶、一樹、ヤッさんの4人が笑顔で降りてきて、カズと私は手を繋いで皆の元へ歩きだした。
ゴジュラス、ステラ、アクアは宙を舞い。私達が乗るヘリの周りを飛びながら付いて来る。
そして。
「オフッ?! あああぁぁぁ〜〜……!!」
予定通りカズはノリちゃんを蹴り飛ばすと、悲鳴を上げながら落ちていった。
さて皆さん、お久しぶりです。
この物語をここまで読んで如何だったでしょうか?
ひとまずここでようやく一区切りって感じになりますが、物語はまだまだ続きます。
ここまでをひとくくりにするのであれば、【動き出した歯車編】って感じですね。
そして次回からは新たな章になり、物語は更に複雑になっていく予定となっております。
そうですねぇ……、それをひとくくりにするのであれば、【崩壊の始まり編】ってとこでしょうか。
それでは、また次回からの新章からもお楽しみ頂けますように、宜しくお願い申し上げます✨
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