第114話 迎えに行くから
完全体になったらどれだけ恐ろしいのか想像して、逆に笑けてくる。
親父さんと先生の2人はまだ余裕なのか、既に瘴気の中を進んでいて、その歩みを止めない。
俺はそこでもうひとつの事を思い出した。
それは、先生が封印されていた八岐大蛇を直接見た事があるって話をしている時の事。その時はさすがの先生でさえ、思い出しただけで全身の震えを止める事が出来ず、顔面蒼白のまま引き攣らせた顔を俺達に見せるような恐怖を体験している。
それを考えれば、今のこの状況はまだ可愛い方なんだなって思い、俺は今の恐怖を吹き飛ばす勢いで大きく叫んだ。
「カズ聞こえるか!! いい加減 目を覚ませよ!!」
俺の後に美羽達も1人、また1人と立ち、カズに対して目を覚ませって叫び続けると、親父さんは懐から長い数珠を取り出して叫んだ。
「天獄!!」
〈分かってるわ。"螺旋光波"〉
光り輝く螺旋の渦が八岐大蛇を包み、強烈な爆発が次々と始まる。
「暁の晩にて天地は返り、御霊の嘆きは三千世界へと還らん。……地獄の王よ、その怒りを鎮めて再び眠りにつけ。"天明魔封陣"!!」
親父さんは八岐大蛇を封印する為に呪文を唱えると、頭上と足元に強大な封印陣を展開。
それを、親父さんは両手で握りつぶす様にして力を入れ、封印陣を上下から押しつぶす形で八岐大蛇を封印しようと試みた。
「親父さん……」
「憲明、これがダメなら俺達の負けは決定的になる、その時は真っ先に逃げろ。……いいな?」
俺はその言葉に何も返す事が出来ず、ただただ黙ったまま再び封印される事を願った。
するとそんな中、美羽が必死に八岐大蛇を封印しようとしている親父さんや先生の横を通り過ぎて行き、それに気づいた俺は思わず止める為に叫んだ。
「なにしてんだ馬鹿!! 瘴気に触れたら即死するレベルの猛毒だって先生が言ってたろうが!!」
同時に、八岐大蛇を封印しようとしていた封印の陣が粉砕され、俺達は逃げる間も無く死ぬって思った。
だけど、そう思っていると美羽の口から出た言葉にみんな驚いた。
「少し、目が覚めた?」
立ち止まってそう言うとうっすらと微笑んでいる。
「目が覚めた?」、その言葉に驚きと希望が見えたのか、親父さんが俺達に向かってカズのことをもっと呼べって言われ、俺達は大きく頷くと再びカズを呼び始めた。
「カズ、聞こえるでしょ? みんな戻って来るのを望んでいるよ? ……カズが本当は心の底でニアさんの事でずっと怒っていて、ずっと悲しんでいた事は知ってる……。本当はその感情から逃げたくて私の想いを受け入れてくれたことも……。私はそれでもよかった……。でもだから、……ううん……」
何か言いかけようとしたけど美羽は頭を振ってやめ。笑顔になるとそっと八岐大蛇を見つめた。
「私は私なりの気持ちを伝えるね? 言葉よりも本気な、アナタへ送る歌で」
その瞬間どこからともなく色とりどりの花が舞い飛んできて、美羽は歌い始めた。
美羽は無自覚でとある能力を発動していたんだ。それは自由に使いこなす事が出来ていない、"歌魔法"ってスキルを。
〔 雨の中 アナタは優しく傘を差し出してくれた
怯える私をその手で優しく抱きしめて
あの日の漂うタバコの甘い香り 今でも忘れられない
アナタは近寄りがたい人 でも本当は寂しがり屋だって知ってる
どれだけ周りから怖がられていても アナタの目はいつも何かに怯えているようだったから 〕
カズの事を想っての歌か……。
美羽にしてみれば、カズが周りからどれだけ怖がられていても、その目は何かに怯えている様に写っていたみたいだった。
〔 アナタがいなければワタシは生きていけません
ワタシが与えられるのはそう多くはありません
でもアナタに対する愛だけは誰にも負けるつもりはありません
だからお願い ワタシを置いてどこにも行かないでください 〕
雨が徐々に弱くなると止み、大地を燃やす炎も穏やかに消えて行く。
すると、カズの意識が戻ったからなのか、7つの頭がゆっくりと美羽の方に向かう。
その目はもう、今まで殺気や恐怖を振り撒いていた目をしていない。まるで、光を取り戻したって感じの、穏やかな目で美羽を優しく見つめている。
〔 「おはよう」 「いってらっしゃい」 どうかワタシに言わせてください
……そして「お帰りなさい」 〕
美羽自身の切ない願いなんだろうな。その気持ちが伝わったからなのか、自然と八岐大蛇の目から涙がこぼれ落ち、一つの頭が美羽に近づくと優しく寄り添う。
美羽は両手を伸ばして巨大な頭を優しく包み込む様に抱きしめた後。その頭の上にジャンプし、その場で抱き締める様にして寝転んだ。
〔 一緒に横になって「おやすみ」を言いたい
けどワタシはいつも先に寝てしまう
でも気づいてる? アナタが寝た後 ひっそりとアナタの寝顔を見てること
アナタが悪夢にうなされるなら 悪夢にうなされないようにワタシが抱き締める
ずっとワタシがそばにいるから 〕
徐々に曇天の空が晴れてくると、その場に光が差し込み始めた。
もう、そこには恐怖は存在しねえ。
八岐大蛇は7つの頭を再び持ち上げると咆哮を上げ、胸の口から光り輝く幾つもの球体を放出し始めた。
「なんだ? アレ」
「奴に殺された自衛隊連中の魂だ」
俺の疑問に親父さんが教えてくれた。
「奴は死と再生を司る神でもある。"地獄"と呼ばれ恐れられちゃいるが、奴がいるからこそ自然の調和が成り立っている。だからこそ人々は奴を恐れ、別な意味で畏れうやまれる。その解放された魂の行き着く場所は……」
解放された魂はそれぞれの肉体に戻り、光に包まれると元の体へと戻っていく。
そして、死んだはずの人達がゆっくりと目を覚ました。
「まさに究極と呼べる力だ。こんな事が出来るのは神でも難しい力だ。それを奴は簡単にやってのける。それもこれも、最終的に美羽が和也の意識を戻してくれたおかげだ」
これが……、八岐大蛇の力……。
冗談じゃねえぞ!! だとしたらカズは!!
でも俺はそこで考えることやめた。
美羽は歌を歌い終わっても、未だに八岐大蛇の頭の上にいる。
そこで次に"KIZU"を歌い始めると、八岐大蛇は静かに目を閉じて聞き入り始める。
〈それじゃ私は戻るわね〉
そう聞こえてくると、音もなくゆっくりと天獄であるイソラが地上へと降り立っていた。
「悪かったな天獄、正直 助かった」
〈それはお互い様。それじゃ、また会いましょ、守行ちゃん〉
まるで元からそこには何も存在していなかったみてえに、イソラの姿がスッと消える。
「……あぁ、いずれ俺がお前を消すその時にな」
親父さんのその言葉が何を意味してるのか、俺には全然解らねえ。けど側にいた先生は、なんか解ってるみたいで、黙ったまま空を見上げていると。
「……恐らく今は大人しくしちゃいるがいずれはーー」
「理解してるわ、……きっと彼らは既に嗅ぎ付いているはず。その後どうなるかは全て……」
「……お前はどうするつもりでいる?」
「……それこそ愚問よ」
「……全部話すつもりか?」
「必要とあらば」
そこで親父さんとの会話が終わり、先生は黙って八岐大蛇に目を向けると、小さな声で一言、「お帰り」って言って微笑んだ。
全部話すってなんだ? それに、奴らってなんの事だ?
気づけば瘴気も晴れているから、俺達は瘴気に包まれたゴジュラスを探そうと走った。
頼むから無事でいてくれ!
そう思いながら走ってると、真上から大きな影が近づいて来る事に気がついた。
「敵か?!」
足をとめると、紫がかった黒く大きな何かが地響きを鳴らして俺達の目の前に落ちてきた。でも落ちてきた衝撃で巻き上げられた土埃で、それがなんなのか確認出来ない。
俺達は新手の敵がいつ仕掛けてきても良いように身構え様とすると、その気配が俺達の知っている気配に似ていた。
「……おい、この気配ってまさか……」
俺は気づいた。その気配がいったい誰のものなのか。だから緊張から喜びに変わり、俺はその気配に向かって名前を呼んだ。
「ゴジュラス!」
土埃を強靭な尾で薙ぎ払い、呼ばれたゴジュラスの姿が現れたけど、その姿は俺達の知ってる恐竜の姿をしていなかった。
前足は五本指の強靭な腕に変わり、後ろ足もより強靭な足に変わっている。
それだけじゃねえ。
頭は一回り小さくなってるし、胸の部分は赤く発光。全身には棘みたいな物が生えている。
極め付けは両肩だ。両肩にはツノ、あるいは翼みたいな形をした、赤みがかった大きな結晶が生えていて、その周りには蕾の様な小さな結晶が二つずつ生えていた。
恐竜と言うより、その姿はもう怪獣に近い。
「マジか……、なんだよお前その姿……」
言葉とは裏腹に、俺はその姿を見て目を輝かしていたと思う。
「まっ、無事だったんならいいや。戻ったんなら一緒にカズを迎えに行こうぜ」
<ガアァ!>
「なんか、進化した事で迫力が増したなお前……」
一樹はゴジュラスの返事に思わずビックリしたって顔をするけどよ。別にカッコ良く進化しただけで、ゴジュラスはゴジュラスなんだからそこまでいちいち気にしてられるかよ。
だから俺はそれよりも早く、そんなゴジュラスを連れて皆んなでカズでもある、八岐大蛇の元へと近づいた。
でも……、ゴジュラスは進化の能力を貰った事で、あの瘴気の中でどうにか生きる為にその能力が覚醒したのか? ……だとしたらクロやソラももしかしたら同じ進化の能力を貰っているかも?
そう考えるとどんな風に進化するのか楽しみになってきた俺は、自然と笑顔を隠しきれなくなっていた。
それは他の皆んなも同じで、"進化"の能力を貰っているかも知れないと思うと、嬉しくてたまらない。
アイツの事だからなんかありえそうなんだよなぁ……。前にそんな事を言ってたし。ヤッベェ……そう考えたら今からが楽しみになってきやがった。
そうこう思ってる内に八岐大蛇の近くまで来ると、その巨大さに改めて言葉を失う。
見上げていると、頭上からまだ歌が聞こえてくる。
カズが意識を取り戻した八岐大蛇は目を瞑り、美羽の歌声に耳を傾けている。
聞き入っている所を邪魔したく無いからあえて何も言わず、皆んなと視線を合わせると頷き、その場で歌が終わるのを黙って待つ事にした。
歌が終わったのはそれから間も無くだ。
「美羽!!」
呼ぶと、頭上から「な〜に〜?!」と返ってきた。
声からしてかなり上機嫌だってのがわかる。
「カズ!! 元に戻れそうか?!!」
「解んない!! 元に戻るのに暫くかかりそうな感じがする〜!!」
するとそこで八岐大蛇は活動を再開。
地響きをたてながら歩き出した。
「おいカズ!! 何処に行く気だよ?!!」
「多分!! 海へ行くんだと思う!!」
「海?」
そこにステラの分身体が来たから、俺達と美羽は"念話"で会話する事が出来る様になった。
「(なんとなくだけど、なんかそんな気がする)」
「(なんとなくかよ)」
「(だってカズの声が小さくて全然聴き取れないんだもん。ここにいたら邪魔になるから海へとしか)」
まっ、まぁ確かに、これだけデケェと流石にそうだよな……。
「(分かった。んじゃとりあえずお前はこっちに戻って来いよ。そのままだと逆にカズの邪魔になるだろ?)」
「(ん〜、それはそうだけど、カズが戻るまでこのままここに居ようかなって思ってるんだけどな……)」
ん~……、カズの邪魔になるかも知れねえけど、美羽が側にいれば暴走する事なく、無事に戻ってくる確率が高いかも知れないな……。
「(分かった。んじゃ親父さん達に話しておく)」
「(ありがとノリちゃん)」
「カズ!!」
俺はそこで大きな声で呼ぶと、八岐大蛇の動きが止まった。
「必ず迎えに行く!! 待ってろよ?!!」
その言葉に微かだけど、八岐大蛇の口角が上がるのを俺達は見逃さなかった。
「今、僅かだけど笑ったよね? ね?」
「僕にもそう見えた」
「さて、だったら俺達はアイツらを迎えに行く準備をしようぜ? なっ? 憲明」
3人が笑顔で俺に顔を向けるから、俺も笑顔で返す。
「ああっ! 俺達であの2人を迎えに行こうぜ」
八岐大蛇はゼオルクの街の横を素通りし、海に向かって進んで行く。
その八岐大蛇が通った後は何もかもが破壊されて行く。
だけどそれだけじゃ無い。
「ねぇ、見て」
沙耶は八岐大蛇によって戦場が焦土と化した大地に指を指すからそっちに視線を向けると。
そこには驚きの光景が広がりつつあった。
「死と再生を司り、自然の調和となる存在か。確かにこれを見たら納得しちまう」
俺は八岐大蛇がただ恐れられる存在だけじゃ無い事をこの時、ようやく実感した。
八岐大蛇が放った炎と瘴気で焦土となった大地から、新たな命が広がり始めていたからだ。
みずみずしい色をした草が生えると、後から立派な木が急成長し、ある程度 伸びたところで止まる。
季節外れの色々な花が咲き誇り。そこに虫や鳥が戻って来る。
どこからとも無くおとなしい小型のモンスター達まで花畑にやって来ると、そこで戯れ始める。
ついさっきまでここが戦場だったとは思えない程の美しい光景が新たに産まれた。
「親父さんの言う通り、八岐大蛇ってただの化け物とかじゃ無く、神様なんだな」
「それ、私も分かる〜……」
八岐大蛇が通って破壊した場所からそれまで以上の美しい命が誕生し、他にどう例えたら良いか、全然思いつかない。
その八岐大蛇に攻撃した事で一度殺された自衛隊員の人達も、その光景を目の当たりにして言葉を失い。許された事を心から感謝をしている感じがす?。
"恐れ"ではなく"畏れ"。
どちらも意味は一緒だ。
でも使い方でその意味合いが違って来る。
"恐れ"は恐怖を意味し、"畏れ"は尊敬を意味していたりする。
八岐大蛇は恐怖そのものだけど、同時にその存在は誰もが畏れる。
だから、八岐大蛇を敵に回すようなことをしたら絶対にしちゃいけない。
そう思えた。
ーー
その存在は神々ですら道を開ける程の存在。
八岐大蛇とは超自然であり、神。
そしてこれがきっかけで今まで裏で動いていた者達が動き出す事になる。
"凶星十三星座"や"邪竜教"は勿論。
その他にも様々な組織や団体が蠢き出す。
「さ〜てと、運命の歯車は動き出してしまったね。これからもっと忙しくなりそうだ。今回の事で日本政府だけで無く、世界そのものが次々と動き出す事になる。今よりもっと多くの同志を集めないとね」
「陸将。その事で有りますが、今回一度死んだ者であれば我々の同志になってくれるかと思われます」
「うん、確かにそうだね。……んじゃ、さっそく動いてもらっても良いかな?」
「「はっ!」」
「我ら黄龍隊はどこまでも陸将にお供致します」
「ありがとう。悪く思わないでくれよ? ……守行」
稲垣陸将もまたその内の1人なのだろう。
彼はいったい何が目的でゼストと繋がり、どんな目的があるのか解らない。
しかし、彼らがよからぬ事を企てている事は明白だ。
その稲垣陸将は不敵な笑みで眼下にいる守行を見つめると、部下と共に特地第一駐屯基地へと戻るのだった。
ーー
「憲明! よかった、やっぱり無事だったか!」
この時、稲垣陸将が何かを企てていることをまったく知らない俺達の元に、テオが満面の笑みを浮かべ走って来た。
「俺達がそう簡単に死ぬかよ。俺達にはチーム夜空のリーダーであり。ラスボス級の強い奴がついてんだぜ?」
「ら、ラスボス?」
ラスボスって意味を知らないテオが、困惑の表情を浮かべるから俺はどう説明したらいいか悩んだ。
「えっと……、つまりだな……」
「つまり魔王クラスって意味だ」
そこに一樹が助け舟を出してくれた。
「成る程! 魔王クラスか!」
「そ、そうだよ、魔王クラスなんだよ。あ、あは、あははは……」
と言っても、俺にしてみればそんな有名な魔王達がカズにこき使われたり、中には好意を抱いている奴がいるんだけどなと思い。改めてそんなカズが末恐ろしいなとも思った。
「それで? 和也は?」
苦笑いを浮かべていると、今度はリリアがやって来た。
「あっ、いや、その……」
そっかぁ、この2人、カズが八岐大蛇だって事を知らないのか……。
俺達はこの2人にどう説明をしたら良いのか頭を悩ませけど、2人だってカズの友達だし。隠してたら申し訳ないと思って話すと、予想通り2人は愕然としたまま固まった。
「まぁ……、そうなるよな……」
「まさか……、アレが伝説のヤマタノオロチだなんて……」
「私はてっきり太古から生き残った、未確認のヒュドラだと思っていたわ……」
それはそれでそんなのが存在していたら面白そうだなおい……。
「でも美羽は大丈夫なんだろうか? ヤマタノオロチの体表は遠くから見てでも相当な熱量を帯びていた様に感じたんだけど」
確かに八岐大蛇の体に雨が当たるたびに蒸発していた。
ましてや生きた火山だって親父さんは言っていた。
その事を美羽が気づかない筈が無いけど、おそらく美羽はカズの意識が戻った事で危険は無いと信じていたのかも知れない。
「海へ向かったのならリリアの所から近いかもな」
「リリアの所?」
「そうか、憲明達は知らないのか。リリアの国は海に面した国なんだ。だから和也が海に向かうのであれば、その近くを通る事になる」
「通る分には良いのだけど、下手をしたら私の父が討伐する為に別の軍を編成しかねないわね。そうなる前に、手を出さないように早く伝えないと」
うん、手を出したら確かにまずい。非常にまずい。
なんとかして早くそれを伝えてもらわないとな!




