第112話 暴走する天災
親父さんはどうして八岐大蛇の形態変化が早いのか、その疑問を俺達に伝えてくれた。
「成る程……、そう言うことか! どおりでおかしいと思った! 奴は7体のモンスターに祝福を与えただけで無く。自分自身の力を取り戻す為に利用したのか!」
でもその説明に俺達の頭はついていけないでいる。
つまりそれはいったいどう言うことなのか、そもそも8つの頭と8つの尾があった時が第一形態で、ついさっきまでの姿が第二形態だったんじゃと聞こうとするけど、それよりも親父さんの言葉が早かった。
「死にたくなければ今すぐここから離れろ!! 今の八岐大蛇に和也の意思は無い!!」
俺達は困惑しながら、今は親父さんの指示に従うしか無いと思って、急いでその場から離れようとした時、八岐大蛇の瞳孔が煌々と赤く光り、再び大咆哮を天に向けて吠えると、天と地が悲鳴を上げている様に空は音を立てながら唸り、大地は地震で大きく揺れた事で誰も立っていられなくなった。
すると、八岐大蛇の周囲から黒い瘴気が発生し始めると、未だ感じたことの無い、圧倒的な威圧感に恐怖した。
「絶対にアレには触るな!!」
「「はい!!」」
なんとか立ち上がってそこから逃げる為、俺達は街へ向かって必死に走り出した。
その時はなんとなくだったんだけど、俺がチラッと後ろを見ると。八岐大蛇の直ぐ近くにゴジュラスが1匹、取り残されているのが目に飛び込んで来た。
「ヤバイ! ゴジュラスが逃げ遅れてる!」
足を止めると美羽達も足を止めて、ゴジュラスに向かって逃げるように叫んだ。
「何してんだよゴジュラス!! 早くそこから離れて逃げろ!!」
ゴジュラスが俺達の呼び声に気づくと、こっちに顔を向ける。
でもゴジュラスは逃げるどころか、逆に八岐大蛇の方に向かって歩き出した。
「ゴジュラス?!」
瘴気は既にゴジュラスを取り囲み、逃げるにしてももう遅い。
ゴジュラスはカズのパートナーになった恐竜であり、モンスター。そのゴジュラスは八岐大蛇の中にカズがいる事に気がついていたからなんだろ。瘴気の中を進んで行き、目の前に八岐大蛇の巨大な前足が見えると、その前足に頭を擦り付けながら寂しそうな声で鳴いた。
ダメだ……、ダメだダメだダメだ!
「そこから逃げろゴジュラス!!」
でも……、その光景は瘴気で見えなくなり。その直後、もがき苦しむゴジュラスの泣き叫ぶ声が耳に届いた。
「ご……、ゴジュラス? おい……、おいゴジュラス!!」
俺は苦しんでるゴジュラスを助けに行こうとしたけど、それを親父さんが俺の胸ぐらを掴んで止められた。
「馬鹿が!! 行ってどうなる?!」
「でも親父さん!! あそこにゴジュラスが!!」
「アホが!! あの瘴気がどんなものかテメーは聞いてんだろ!! ゴジュラスには悪いがここは逃げるしか無えんだよ!!」
「でもよ親父さんッ……、親父さん!!」
親父さんはそれ以上何も言わず、俺の胸ぐらを掴んだまま走り出した。
「おじさん。カズ……、どうなっちゃうの?」
美羽は心配そうな顔で尋ねるけど、親父さんは何も言わないまま、走り続ける。
ーーー
その頃、特地第一駐屯基地では八岐大蛇に対して攻撃準備がされようとしていた。
その指示を誰が出した訳でも無い。ただ自衛隊員達は【第零種非常事態宣言】に則って動いていた。
【第零種非常事態宣言】
それは、S級ランクやSS級ランクのモンスター達とは違い、八岐大蛇を含んだ三大魔獣に対する特別法案。
だが実は、現在その存在を認められている三大魔獣は2体。
1体は日本で厳重に封印されていた八岐大蛇。2体めはシチリア島の下で封印されているが、3体めが未だにどこに封印されているか不明だ。
しかし、その3体めは"天界"で厳重に封印されているとまことしやかな噂があり、その詳細な記録が全く無い。
そんな三大魔獣が眠る国にのみ作られた法案だ。
ここでその法案の内容を一部抜粋する。
[・"地獄"が復活した際。自衛隊は身命を賭して対処し。また、殉職する事を覚悟すべし。]
"地獄"とは勿論、八岐大蛇の事であり。命を捧げよと言ってる様なものだ。
[・"地獄"を再び封印するまで、自衛隊は"地獄"に対して総力を上げ、無許可の無条件攻撃を許すものとする。]
無許可の無条件攻撃。つまり、上からの指示を待たずとも、攻撃準備が出来次第、どんな事があろうと即座に攻撃せよといった命令になる。
[・自衛隊は速やかに夜城一族を呼び。"地獄"が封印されるまで心身を賭すべし。]
夜城一族。勿論それは守行や和也達の事を指す。
[・"地獄"は他の三大魔獣。"天獄"、"羅獄"の比では無い事を心せよ。]
それは八岐大蛇が他に封印されている三大魔獣より、遥かに強大である事を意味している。
このような内容が【第零種非常事態宣言】に書かれており、全ての自衛隊員達はそれを把握している。
それは何時なんどきに八岐大蛇が復活するか解らないからでもある。
その八岐大蛇は厳重に監視され、その封印は護られ続けてきた。
その管理を任されていたのが夜城組だ。
表舞台ではヤクザとして裏社会を牛耳る巨大組織だが、裏舞台では日本に現れたモンスターの対処を一任され、八岐大蛇を封印し続けてきた。
ちなみに世界で1番有名な陰陽師として"土御門家"の名が挙げられる。
土御門家はあの"安倍晴明"の子孫であり。代々他の陰陽師一族を支配してきた一族だ。
しかし、"夜城一族"こそが真の支配者であり。その存在を隠す為に土御門家がその時は表舞台で活躍をする事となった。
その夜城一族は現在二つに分かれ。本家はヤクザとして表舞台に立ち。分家は八岐大蛇の封印を護るようになっていた。
その分家はとある山の麓で小さな集落を作り、そこで静かに暮らしながら封印を護り続けていた。
そしてその事から自衛隊員達は早急に攻撃準備を整えていた。
だがそんな時。とある人物が全自衛隊に対して攻撃をするなと、命令を下す。
稲垣陸将だ。
稲垣陸将の言葉に、隊員達の心のどこかでは死にたくないと言う気持ちがあったからか。皆、八岐大蛇に対して攻撃する事に躊躇いがしょうじる。
ましてやその八岐大蛇を復活させてしまった原因を知らない訳でもない。
特に特殊作戦群は尚更だ。彼らは自衛隊の中でも許された者しか入る事が出来ず、夜城組で血反吐を吐く様な更に厳しい訓練を乗り越えてようやく特殊作戦群として認められた部隊。
それに今の特殊作戦群は過去最高を誇るとされている。それは守行が頭首として、夜城組組長を主命してからであり、化け物と恐れられる和也がいたからこそ彼らも世界屈指の化け物部隊と恐れられている。
言わば育ての親であり、家族も同然。
故に……、彼らは手に持っていた武器を捨て、和也の意思が戻るのを心の底から願った。
だがそれでも。
「うわあああああああああ!!」
中には八岐大蛇を止める為にその使命を護らんとする者もいる。
「せ、戦車大隊の一部で八岐大蛇に対して砲撃がされたとの事です!!」
特地第一駐屯基地内の司令室に、戦車大隊の一部で砲撃が開始された事を受け、蜂の巣を突いたかの様に隊員達は慌て出した。
【第零種非常事態宣言】は例え稲垣陸将の命令と言えど、それを無視して攻撃する事が許可されている。
故に、それがきっかけとなって次々と隊員達は八岐大蛇に対し、戦車やミサイルによる攻撃を始めた。
その中には巻き込まれたくないとその場から逃げ出す隊員が多くいる。
「攻撃開始!! 攻ぎゃああああああ!!」
戦車大隊の第一戦車団隊長が叫びながら指示を出している途中。突然、隊長は爆炎に包まれると火だるまとなり、悲鳴を上げながら黒焦げとなる。
「ひいいいぃぃぃぃぃ!!」
それを真横で見ていた隊員は恐怖で悲鳴を上げ、その場から逃走。
だがその隊員も瞬時に爆炎に包まれ、黒焦げとなって絶命。
攻撃を仕掛けた者達に対し、八岐大蛇の殺戮が遂に始まってしまった瞬間だった。
「馬鹿だねぇ……、攻撃するなって言ったのに」
稲垣陸将は城壁の上で断末魔を上げながら死んでいく部下達を眺め、深いため息を吐く。
「【第零種非常事態宣言】なんてあっても無駄なのに。命を無駄に散らすなんて今どきなんの美学にもならないぞ?」
「陸将」
「ん?」
陸将と呼ばれ、後ろを振り向くとそこには数人の自衛隊員が立ち、隊員達は稲垣陸将に向かって敬礼をする。
「如何なさいますか?」
「……放っておいて良いよ。基本的にこちらから何もしなければ無害なのだから」
「はっ!」
「このまま八岐大蛇が大人しく和也に意識を返すのを待つ方が得策だ」
「しかし……、まさかここで八岐大蛇が復活するとは思ってもいませんでした」
隊員の1人は余程恐ろしいのだろう。顔は平静を装ってはいるが、体は小刻みに震えている。
「怖いかい?」
だが稲垣陸将には隠せていない。
隊員はしばらく沈黙していたが、「はい」と答えた。
「何も怖がる必要は無い。これはまだ始まったに過ぎないし、本当の地獄はまだ始まってすらいないんだからね」
そう言って稲垣陸将は隊員達に微笑みを見せた。
「我々の戦いはまだまだ先になる。それまでより多くの同志を集めよう」
「「はっ!」」
「と言っても、問題が山積みだ。皆でひとつひとつ片付けていこう。取り敢えず、目の前の問題をどうしたものか……」
その問題とは八岐大蛇の事だ。
稲垣陸将が何故、何のためにゼストと繋がっているのかは不明であり、何が目的なのかは定かではない。
そうしてる間にも、八岐大蛇に対する攻撃は徐々に激しさを増し。被害は目に見えて深刻な状況となっている。
八岐大蛇に攻撃をする者はそれが誰であろうと例外無く、灰燼と帰す。
それは八岐大蛇の能力の一つ。
"瞬炎"
八岐大蛇の目は強力な死の魔眼であり、その目に睨まれた者はなす術なく瞬時に爆炎でその身を焼かれる。
魔眼の力はそれだけでは無い、マーセルを捻じ曲げたのも魔眼による力だ……。
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