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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第1章 終わりの始まり
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第10話 闇を狩りし者達<和也side>


 夜城邸から十数台の黒いバンや車が次々と出て行く。

 その先頭には黒い大型バイクに(また)がった()()()()が走る。

 俺はそのすぐ後ろ、黒塗りにされたレクサスの後部座席に座り、運転するのは御堂、そして助手席には犬神がいる。

 骸はそれから数台後ろの超大型トラックの荷台の中。

 その異様な車の列に、行き交う人々は唖然としていたのが車の中から見て解る。


「んで? 場所は特定出来てんの?」


 俺の質問に、助手席に乗っている犬神が応えた。


「はい、その場所には既に先遣隊(せんけんたい)を向かわせてあります」


「んじゃ確実にいる訳だ」


「はい、先遣隊の報告によりますと、その数はおよそ百を超えているかと」


「百越えねぇ……」


「かなりの規模かと」


「んで? どんなタイプかちゃんと把握してあんの?」


「はい、過去の例と比較し、先遣隊からの情報を考えるに、"寄生(パラサイト)"タイプで間違い無いかと」


「まぁた面倒なのが出たもんだねぇ」


 そう言って俺は面倒臭そうな顔で外をまた眺める。

 外には多くの人々が歩き。その人、一人一人にはそれぞれの生活がある。

 俺はそんな人々を眺めた。


「そうですね、確かに厄介です。過去にそれとは知らずにいた為、多くの命を奪われてしまい、悲惨な事になってますからね」


 犬神は表情を全く変えず、前を向いて喋る。


「だがその時、確実に殲滅したんじゃねえの? 生き残りがいたとしてもその期間が長すぎる。どっかで冬眠でもしてたか? あるいはどこぞのホームレスにでも寄生して生きながらえたか? どっちにしろ百ってのはそう考えると少ないな。やっぱりどっかからかこちら側に来たんだろ」


「そうかも知れませんね。もしかしたら別の種ってことも考えられるそうですから」


「ふ〜ん……」


 俺は窓を少し開けた後、(おもむろ)に、胸ポケットから黒いタバコを取り出して火を付ける。

 銘柄は"ブラック・デビル"。火を付けると、甘い独特の匂いが車内に広がって行く。

 俺がタバコを吸いながら外を眺めていると、犬神や御堂がバックミラー越しに写る俺の顔を見て、何かに気づいたみたいだ。

 犬神達はそれなりの()()を持ってきている。だから今回は過去の様な事は無いと考えている、それは俺も知っていた。だが……、俺はどこか納得できていないと言いたげな顔をしていたようだ。


 何故なら情報が少なすぎる。


 御堂も過去に、その寄生(パラサイト)タイプの殲滅作戦に参加していた為に、今回は抜かり無いと思っているようだ。だが俺の顔を見た瞬間、冷や汗を流し始めた。それは犬神も一緒だった。顔には出さないが、内心、気が気では無いみたいだな。

 自分で言うのもなんだが、俺の推測は良く当たる。過去、そのお陰で何度も助けてきたからな。

 だからこそこの2人が俺の顔を見て、自分達の推測が間違っているかも知れないと感じ始めていたようだ。


「どうか……、なさったんですか?」


 犬神は意を決してそう切り出してきた。


「ん? ん〜……。なぁ、今回の寄生(パラサイト)タイプはどんな形態してるか報告は聞いてるのか?」


 その質問に犬神は、過去のタイプと類似していると告げるが、俺はそれでも納得出来ねえ。


「ただ、やはり別種なのか亜種なのか不明ですが、体色が水色で、若干透けていると報告を聞いております」


 ……なに?


 それを聞いて、俺はその目をゆっくりと犬神に向けた。

 それをバックミラー越しで見ていた御堂はヤバイと思ったのか、それが顔に出ている。


「なぁ……、()()()()にはそのタイプが存在している事って知られているのか? 確認は取ったのか?」


 その言葉が何を意味しているのか疑問に思った犬神だったが。次第にその意味が分かるや否や、ポケットからスマホを出して何処かに電話をかけた。


「私だ。向こう側には今回の寄生(パラサイト)タイプの存在は知られているのか大至急調べてくれ」


 俺は目を細める。そして、自分でも解る程に歪んだ微笑みへと変わる。

 犬神と御堂はそんな俺の顔を見て、背筋が凍る様な表情を浮かべた。周りからは俺のその顔を、"氷の微笑み"と呼ばれている。



 22:00



 集合場所となるのは例の寄生(パラサイト)タイプが潜んでいる廃工場跡地。

 そこは小さいネジを作っていた所にしては敷地面積がかなり広く、そして大きな工場だった。


 隠れるにはうってつけの場所だな。


 その集合場所にはどうやら警視庁からも数人が来ていた。他には見知った顔の公安が5人と自衛隊員が15名、各自武器の点検しているようだった。


 さて、めんどくせえ相手だけどさっさと片付けちまうか。ーー



 ーー <御子神side>


「来たぞお前ら」


 俺の言葉に、おやっさんや村中達、そして公安の連中と自衛隊員達が道路の先の方へと顔を向ける。


「世界中で最も恐れられている、日本が誇る最強の裏軍隊のお出ましだ」


 朱莉を先頭に、次々と駐車場に車が入って来る。

 その内の一代を運転していた御堂が車から降りると、直様(すぐさま)後ろのドアを開け。どこかで見覚えのある奴が顔を出した。するとそこへ朱莉が側へと行き、そいつと共に俺達の元へと近付いてくる。


 んん? どっかで見た顔だが、思い出せねえ……。


 そんな連中を見て、俺みたいに連中を知っている者はあまり動揺しないが、知らない連中の間に動揺が走ったのが解る。


 さて、取り敢えず紹介してやるか。


()()()()()()()()()()()()()。夜城組組長の右腕であり、組長代理の鬼頭朱莉。夜城組本部長、犬神司。舎弟頭、御堂浩。錚々(そうそう)たる顔ぶれだな、ははっ。つうか昨日、現場に朱莉が来ていただろうが。何で今になって動揺するんだお前ら」


 そう言って俺は紹介をすると、他の刑事達の顔が一気に青ざめていた。


「いやだって御子神さん、昨日は正直それどころじゃ無い、酷い現場だったんですよ?! しかもわざわざそんな現場にヤクザが来るなんて誰が想像するんですか?!」


 そう言って1人の刑事は歯を小刻みに鳴らして震えていやがる。

 無理も無い。連中に手を出せば、相手が誰であろうと確実に、文字通り終わるからだ。


「待たせたわね」


「おう……ん?」


 朱莉が挨拶をし、俺が返事をすると。朱莉の横に立つ1人のガキに気がついた。


「ん〜? やっぱオメェ……どっかで……」


 やっぱどっかで見た顔だ。でもどこでた?


「久しぶり、()()()()


 その呼ばれ方に俺は一瞬で思い出した、それが憲明や美羽達と一緒にいたカズだと言う事に。


「なんでオメーがここに?!」


 いやちょっとまて! 雰囲気が昔と全然違うじゃねえか!


「なんでって、この子はウチの組長の息子。夜城和也だからよ」


「は〜?!」


 俺は大きく口を開け、今にも顎が外れるんじゃないかと言う位に驚いた。

 いやマジでだ……。


「いやいやいや、そんなに驚かなくても良いだろ」


 驚くに決まってんだろ!


 取り敢えずその後、朱莉が改めてカズが何故ここにいるのかを軽く説明して、俺達を黙らせた。


「ったくぅ……、まさかあのカズが夜城組の(せがれ)だったなんてよぉ」


 こりゃ参ったぜまったくよ。


 俺は後頭部をガシガシと掻いて、思わず苦虫を噛んだみてえな顔をしちまった。


「人生どこで出会いがあるか、分かったもんじゃないよな、ミコさん」


「だ〜からその呼び方すんなって言ったの覚えてねえのか? 下手すりゃあ()()()()と間違われるっつうのっ!」


「あ? ミコさんはミコさんだろうが?」


 俺はまた、頭をガリガリと掻きむしりながら「あ〜〜〜っ!!」と言って嘆いても、コイツにはちっとも伝わりゃしねえ!

 その直後の事だ、超大型トラックの荷台の扉が開かれると、中から凄まじい冷気が(あふ)れ出し、辺り一面に広がりやがった。


「寒っ!」


 いや! 寒いってもんじゃねえぞ! 周囲一帯を一瞬にして冷凍庫みてえな空気にしちまいやがった!


「奴ら、何を持ってきたんだ?!」


 俺と一緒に来た他の刑事達はその寒さに耐え切れない様子で体を震わせていやがる。しかし、夜城組の構成員は微動だにせず、黙ってそれが出て来るのを待っていた。

 公安や自衛隊は軽く体を震わせていた。だが、それは寒いからなんかじゃねぇ、恐怖で体を震わせながらそれが出て来るのを黙って見ていたのさ。


 そいつは凶悪な姿をした怪物だった。


〈ハアァァァァァ…ルルルッ〉


 口から冷たい息を放出しながらゆっくりと出て来る。

 その体の周りは冷たい冷気を(まと)っているからなのか、空気がキラキラと光っている。

 その余あまりの恐ろしさに、村中はいきなり叫んだ。


「な……なんだコイツ。なんなんだよコイツゥ!!」


 村中の叫びでその怪物は瞳孔を細くさせ、大きな咆哮(ほうこう)を村中に向かって吠えた。


〈グルルアアアアアアアアアアアア!!〉


 おいおいマジかよ?! なんだよこの化け物はよお!


 俺も心の底ではそう叫んださ。あぁ叫んだとも。

 だってそうだろ? こんな身の毛もよだつのは産まれて始めての経験なんだからよ。

 過去に、コイツとは違う化け物を目にする機会があったが、コイツは別格だ。

 それにその咆哮は大気を揺るがし、俺達全員に恐怖を与えやがった。


「骸、その辺にしといてやれ」


〈グルアッ〉


 カズがそう言いながら骸と呼ぶ怪物の体を軽く叩く。するとどうだ、今まで殺気立っていた骸は大人しくなり、その場に寝そべったと思うと、そこにカズは骸の体に背を預けて座りやがった。


「おいおいおい、まあたとんでも無いヤツを連れて来たもんだなおい」


 俺は瞳孔をこれでもかと言わんばかりに開き、苦笑いしながら冷や汗が額から流れるが分かった。


「あら? アンタ初めてだっけ?」


 朱莉はキョトンとした顔で俺に聞いた。


「初めてだよ悪いか?」


 体が小刻みに震える。流石の俺でも、この骸に恐怖を抱いた。


「別に?」


「しっかし、まさかお前らがこんな怪物をペットにしてたなんてな。まるっきし恐竜じゃねえかアレ」


 その言葉にカズが反応し、俺を軽く睨んで言った。


「ミコさん、コイツはペットなんかじゃねぇ、俺の家族(ファミリー)だ。コイツを馬鹿にする事は俺が絶対に許さねえぞ?」


「す、すまんカズ」


 俺は慌ててカズに頭を下げた。それを見たカズは黙ってそれを受け入れてくれた。

 骸なんかより、正直俺は、カズのほうにビビっちまった。


「それにしても凄いヤツを連れて来たな……」


 そこで朱莉が改めて骸を紹介してくれた。


「名前は骸。ウチの切り札よ。その正体は今だに把握されていない未知の巨大生物。確かにまるで恐竜の様だけど、アレはそんな生優しい存在なんかじゃ無いわ。正にモンスター……いえ、怪獣ね。昔話したでしょ? アフリカに行って連れ帰った白いワニがいるって。それを連れ帰って来たのがあの子で、その白いワニがあの骸よ」


 ……はァ? いやいやいや、流石にそりゃおかしいだろ! こんな化け物みてえな奴を、連れ帰ってきただァ?!


 内心そう思って言ってやりたかったが。


「マジかお前……」


 ……それだけしか言えなかった。


「しかもああ見えて動きは俊敏(しゅんびん)。カズの話によると、体内で超低温の冷気を生成。生成された冷気は口や体から放出。本気になったら体全体を瞬時に氷で覆うことも出来るわ。そしてそれは口からも吐き出されるし、あらゆる物を凍らせてしまう。正直言って、あの子の家族になってくれてよかったわ。もし、敵に回す様な事になれば……。アナタにも想像出来るでしょ?」


 なんちゅうとんでもない情報を口にしやがるんだよ……。


 骸を敵に回した時のことを想像し、俺はその恐怖でまた身震いした。


「お前らでも無理か?」


「……正直、無理な話ね」


 そんなとんでもない怪物を(なつ)かせたカズもカズだぜ。その得体の知れ無さに、畏怖を感じずにはいられねえ。


「なぁ、もしかして憲明や美羽達はその事知ってるのか?」


 すると朱莉はビックリした。


「なんであの子達を知ってるの?!」


「いや、いつだったかお前と行った時に俺はアイツらと知り合ったろ? それにアイツらはカズのダチだ。ましてやお前もアイツらと親しかったじゃないか。んで今日、久しぶりにあの店に行ったらアイツらがいてよ」


「はあぁ……」


 朱莉は頭を抱えて大きく溜息をついた。


「なんだよいきなり溜息なんかしやがって」


「別に……。そうね……、確かにあの子達は骸の存在を知っているわ。それも骸が来た時からね。でもあの子達は骸がそんな未知の生物で、とんでもないモンスターだって事は知らないわ。だから黙ってなさいよ?」


「俺が言う訳無いだろ?! だがその骸の存在を政府は知ってるのか?」


「知ってるわ、とっくの昔にね」


 チッ! やっぱお(かみ)も絡んでやがったか。


「なんで教えてくれなかったんだよ?」


「言える訳無いでしょ? そんな事。それに骸は以前、極秘で自衛隊と富士演習場で合同演習をしてるの。その力は私達では手が余る程、圧倒的だったわ。だから政府は密かに、どうにか骸を封印出来ないか検討したみたい」


「ほおぅ? だが、こうしてその骸がいるって事は」


 当然、そんなこと出来る様な存在じゃねえんだろうな。


「えぇ。封印は断念してくれたわ。なんせ骸は、私達が何を話しているのか理解している。それに、カズの言う事しか(ほとん)ど聴かない。ましてやその合同演習の時に見せた力によって、あらゆる兵器が通用しなかった。正にその力は怪獣よ怪獣」


「マジで言ってんのかお前?」


 よ、予想の斜め上を軽く行きやがった……。


 俺は朱莉の話しに目を剥き、口の隅を引き攣らせていると。


「だったらそこにいる自衛官に聞いてみなさい」


 そう言って朱莉はカズと骸の元に行っちまった。

 カズはカズで、犬神が用意した缶コーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。


 アイツ、堂々と俺達の前でタバコを吸いやがって……。まったく……。


「よう、ちと聞きてえ事があんだけどよう」


 俺はそんなカズを尻目に、近くにいた自衛官に声を掛け。実際に骸がどれ程のものなのか聞いてみた。

 すると、自衛官はたちまち歯を鳴らす程に怯え始めたのを見て、俺は朱莉の話を信じた。


 なんちゅう化け物を側に置いてんだアイツ。正気とは思えねえぞ。


 だがこの時、俺はその骸の本当の恐ろしさをまだ知らなかった。そしてそれはカズに対してでも言える事だった。


第10話はいかがだったでしょうか。

次回から和也sideが多くなりますが、それは和也が重要なキーマンでもあるからなんですね。

さて、シリアスな展開へと軽く突入するわけですが、ここまで如何だったでしょうか。

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