第104話 ジョブチェンジ
「やっぱ大盾使いの基本スタイルはやっぱランスになるかな。ヤッさん的にどうだ?」
カズは2種類の槍も用意して、ヤッさんに見せる。
ひとつは一樹が持っているような槍。その槍は東洋風の槍の形状で、主に"ジャベリン"と呼ばれる。
もうひとつは西欧風の槍で、こちらは"ランス"と呼ばれている。
ヤッさんはどちらが良いか吟味した後、決断した。
「カズ、どっちかと言うと片手剣か棍棒にしようかと思うんだけどどうかな?」
ほほう?
「成る程、それはそれで面白いな。今持ってくるからまた待ってろ」
本人の希望もあり、カズは自分の工房に走って行く。
その工房は今だにどこにあるのか俺達は知らない。
……それから30分後。
「またせたな」
次に持って来たのはまだ試作段階の武器らしく、それでもカズが持って来た2種類の武器と3種類の大盾を見たヤッさんは目を輝かせた。
「むちゃカッコいい!」
「まだ試作中だが実戦レベルで使える物だ。今まで気づかなかったが、ヤッさんはたっぱがあるから大盾を使ったタンクには向いてるな。俺の見る目もまだまだだな」
カズはそう言いながら苦笑いすると、持って来た大盾をヤッさんに持たせる。
ヤッさんは昔から野球をしてきたからか、俺達よりも身長があって、結構ガタイも良い。
そのヤッさんは水をイメージして造られたと思うような、青色の大盾を持つと、ハンマーを持っていた時よりも何一つ違和感無くしっくりくる。
「ヤバイ、なんかヤッさんが急にカッコよく見えて来た」
「そ、そう? エヘヘ」
俺が褒めると、ヤッさんは照れ笑いを見せながらどの大盾にしようか考える。
大盾はヤッさんが今持っている青い大盾と、赤い炎をイメージされた大盾。そして銀色で光の角度によって虹色に見える大盾の三つ。
「今ヤッさんが持ってるのは"アクアシールド"って名前で水属性の大盾になる。材料は魔鉱石は勿論。主に水性モンスターの素材を使用し、見た目通り水をイメージして加工してある。んでその大盾を持っていれば水属性の魔法を使う事が出来る。こっちは"フレイムシールド"って大盾だ。材料は火属性のモンスターを素材にし、炎をイメージした大盾。こっちは火属性の魔法を使う事が出来る。三つ目は"ゴーレムシールド"。これはここにある大盾の中でも特殊な大盾だ。材料は名前の通り"ゴーレム"ってモンスターの素材をフルに活かした大盾で、そいつの身体は半分以上が魔鉱石で出来ている」
へ~、俺としてはヤッさんにゴーレムシールドが似合うかな?
「だから他の大盾に比べてかなり重量があって扱いにくく、無属性の大盾だから魔法攻撃は出来ない。だがその分、そいつを持ってれば防御力強化の付与が掛かるし、下手な魔法攻撃なら防ぐ前に霧散させちまう効果を持っている。どうだヤッさん。どれか気に入ったのがあれば持って行け」
そこで美羽が疑問を投げた。
「魔法って魔導書で覚えるか、それで自分の属性が開花して使用する。あるいは魔道具を使用しないと魔法は使えないんじゃないの?」
その質問にカズは懇切丁寧に説明を始めた。
「確かに美羽の言う通りだ。でもそれとは関係無く魔法を使用する事が出来る。それが属性を持った武具や武器だ。ただ武具や武器を加工するだけではそれらのスキルは付与されない。ではどうやって属性スキルが使えるようになるのか? それは特定の素材を使って加工する時、職人が魔力を注ぎながら一つ一つ丁寧に加工するからだ。しかしただ魔力を注ぐだけでも駄目だ。それには"武器錬金"ってスキルは必要だし、"魔道具作成"ってスキルも必要になってくる。他にもあるが俺の場合は"変換"ってスキルがあるから造る事が出来る」
「出たよ変換……」
久しぶりに聞いて、俺達はげんなりとした顔になった。
「だからそういった武具や武器は魔道具と一緒だからな。買うとなったらかなり高額になる。だって、使用制限なんてほとんど無いんだからな。ただ忘れちゃならねえのがその武具や武器で使用出来る魔法しか使えねえって事だ。より強力な魔法を使用したいって言うなら、そう言った物を更に強化するしか無い。まっ、その材料を集めるにしてもその難易度が高くなってくるけどな」
ヤッさんはカズの話を聞いて、大盾から思わず手を離してしまって、危うく傷物にしてしまいそうなくらい動揺している。
「まあそうだが気にせず貰ってくれヤッさん」
「あ、ありがとうカズ! それじゃこれを貰うよ!」
ヤッさんが選んだのはゴーレムシールド。
ふふっ、わかってるじゃねえかヤッさん。
「んじゃ次は武器だな。どれが良い? それによって武器を用意するぞ?」
武器はヤッさんが言っていた片手剣と棍棒の2種類。
「なんなら片手で扱える斧もあるがそっちも持ってくるぞ?」
そう言われ。ヤッさんは取り敢えずその斧も見せてほしいと頼むと、カズはそそくさと工房から片手用の斧を持って来る。
それは斧、なんだけど、片手剣と斧を合わせた様なちょっと不思議な形状の刃になってる。
「実際、大盾を装備した状態で武器を持って構えてみろよ」
基本的に大盾を装備するならランスとかだろ。
でも、ヤッさんが大盾を装備して、あえて片手剣や斧を装備してみると、それはそれでカッコよかった。
「ヤッさん……、棍棒とかよりも片手剣か斧にしろよ。なんか普通にそっちの方がカッコいいって」
俺の言葉に、全員が頷いた。
「片手剣は扱い易いけど、なんか斧の方が片手剣より力が入りやすいし持ち手部分が手に馴染みやすい。うん……、僕、斧にするよ」
「確かに片手剣の持ち手より、斧の方が持ちやすいし手に馴染む。了解した。んじゃ最終段階と行こうぜ」
ニヤリと微笑むカズが、また他の斧を持ってくる。
スタンダードな形のまさに斧といったタイプ。投げてもよしなちょっと柄が曲がったタイプ。最後はヤッさんが手に持ってるタイプの三つ。
ここは迷う事なく、片手剣と合わせた様なタイプをヤッさんは選んだ。
「んじゃ、いっちょ実戦と行く前に今のヤッさんがどれだけ強くなってるのか、ステータスプレートを見せてくれ」
「あっ、うん」
カズに頼まれ、ヤッさんは自分のステータスプレートをポケットから出す。
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山本 玲司 16歳 (男)
種族名 ヒューマン
Lv.42 ランクD
体力700(+500) 魔力120
攻撃200 防御550(+350)
耐性300 敏捷150
運95
スキル
肉体強化 岩魔法 挑発 体力増加 防御力増加 気配感知 (防御力強化) (耐久強化)
ユニークスキル
不動
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「なんか面白いスキルを手に入れてんなヤッさん」
久しぶりにヤッさんのステータスプレートを見たけど、攻撃よりも護る事に特化したステータスになっている事が面白い。
「うん。それにこのカッコの中の数字って何?」
美羽はステータスの数字の横にあるカッコの中の数字がなんなのかがいまいち解っていない。
「そこにプラスってなってるだろ? つまりステータス補正が掛かってるって事だ。スキルに増加って書いてあるのがあるだろ? それが理由だ」
「成る程!」
カズに教えてもらった事で美羽だけじゃなく、他の皆んなも理解する事が出来た。
「それにユニークスキルの"不動"か。それは大盾使いにとって最高のスキルだ。しかしまさかこんなふう成長してるなんて驚きだ。最初はそうでもなかったからハンマーを薦めたが、まさしく大盾使いに特化したステータスだ。ヤッさんが大盾使いとしてもっと成長すれば、チーム"夜空"として最高の組み合わせになるぞ」
カズはヤッさんの成長ぶりに驚きつつも、心から喜んでいる。
その後、俺達全員はお互いにステータスプレートを見せ合い、改めて自分達が成長できている事に驚きつつも喜びあった。
美羽は敏捷がかなり上がっているのと、新たに"双剣術"のスキルが追加されている。
俺は全体的にステータスが上がり、火属性のスキルを多く手に入れていたけど、なんか知らない所で何時の間にか"大剣術"のスキルを手に入れていた。
沙耶は"弓撃術"と"投擲術"、そして"風魔法強化"のスキルを手に入れている。
一樹は"槍術"の他に"風魔法"のスキルを手に入れていた。
「全体的に見てようやくってとこだな」
カズはそう言いつつも、顔が結構喜んでいる。
「さっき言った不動ってスキルだが、それは実際にその目で確かめた方が手っ取り早い。ヤッさん、ヤッさんはそのスキルがどんなものなのかもう解ってんだろ? それをコイツらに見せてやれ。って訳で場所を移動するとしようぜ」
ヤッさんのユニークスキル"不動"。それがどんなスキルなのかを実際に見た方が早いと言われ、俺達はゼオルクの街に行く事になると思った。
けどその前に、一樹もなにかカズに話したい様子だった。
「どうしたよ?」
「いや実はさ。俺はなんで槍なのかなってずっと疑問に思ってんだ。なんかまだ慣れないって言うかさ……」
「………」
カズ的に槍が似合うと思ったから一樹に持たせてるんだよな? それに、一樹のステータスプレートには槍術ってスキルがあるし。
「一樹、俺は別にお前が槍が似合うからって理由で持たせてる訳じゃねえ」
「んじゃなんでだよ?」
「その理由はまた今度だ。その理由が知りたきゃ、もっと槍を上手く使いこなしてみろ。そうすりゃその答えを教えてやる」
「……わかった」
一樹はまだ不服そうだけど、何か理由があるからなんだな。
カズにはカズで考えがあって、一樹にどうして槍を持たせているのか、その答えは暫くしてから判明することになる。
それから俺達が向かった先はゼオルクじゃなく…… 。
「さあご覧下さい! この充実した施設を!」
そこで再びマークのおっさんが説明を始めた。
「なんと言う事でしょう! あのゲストハウスの下にこんな空間があるではないですか!」
そこはカズが俺達の為に用意したゲストハウスの地下だった。
「この階のフロアではお互いの力を存分に試し合う事が出来る特別仕様の訓練場を設備! 故に! 魔法を使用してもなんの心配はいりません! ただし、和也さんは出来るだけ控えて下さい。壊れてしまう可能性が極めて高いので」
ですよねぇ……。
「そしてこの階にはそれ以外にも皆さんが楽しんで頂けるように、様々な娯楽施設を御用意致しました!」
「「おおぉ……」」
そこには小規模と言う言葉でじゃ生易しい、ある意味カジノと言っても過言じゃ無い娯楽施設が存在していた。
「ここではブラックジャックやポーカーが出来るトランプゲーム台は勿論、スロット、ビリヤード、ダーツと言った様々なゲームが楽しめる事が出来る娯楽施設となっております」
「「おおぉ!」」
「しかも……? ただゲームを楽しむだけで無く、ゲームに勝ってコインやチップと言った得点を多く獲得する事によって様々な景品と交換する事が出来るのです。景品は週に一度、日曜日の夜0時に交換されますので、それまでに欲しい景品がありましたら是非御挑戦下さいませ」
「「おおぉ!!」」
ガラスで出来たカウンターの中と、後ろの棚には既に様々な物が並べられている。
回復薬、ぬいぐるみ、アクセサリーと色々な物が用意されているけど、中でも厳重に鍵を掛けられ、今回の目玉商品として魔導書が棚の中央に置かれている。
「そしてこの娯楽施設の先にはモササウルスのアクアが泳ぐあの巨大水槽前へと通じており、現在その巨大水槽の中には和也さんの手によって、様々な海水魚や色彩豊かな色とりどりの珊瑚礁が新たに導入されました。ですので疲れた時はその巨大水槽の前でゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
「「おお!!!」」
久しぶりに見た水槽の中はある意味、オーストラリアのグレート・バリア・リーフの様で美しい海を連想する程の光景が広がっている。
珊瑚礁は勿論、多種多様な小魚が泳ぎ回り。中には小さなサメやウミガメが、アクアと一緒に泳いでいる。
ある意味リゾート施設だ。
「あれ? ウミガメって絶滅危惧種だから飼育出来ないんじゃなかったっけ?」
美羽にそうツッコまれ、カズとマークのおっさんはニッコリ笑顔で沈黙した。
「ねえ?」
「よせ美羽。あんまり突っ込んだ事を言うな……。カズの事だからきっとまた誰かを脅して許可を無理矢理取って来たに違いない……」
「あぁ……」
俺は美羽の肩に手を乗せて、顔を俯かせた。
カズのことだから絶対にやりかねない。そう思った美羽もそれ以上、何も言う事はなかった……。
「オッホン……。そして更に更に! ゲストハウスの下のフロアには! 直接ゲートへと行ける通路を繋げております! さ・ら・に・! ここ夜城邸で収容されている凶悪モンスター専用の地下収容施設へも行けるエレベーターも御用意させて頂きました!」
「「……は?」」
「ん?」
「「……はい?」」
「……んん?」
さらりととんでも無いことを口にした事で、一気にその場の空気が静まり返った。
「凶悪モンスターが収容されてる? どう言う意味だよカズ?」
俺の質問に、カズは面倒臭そうな顔で説明をしてくれた。
「ウチの地下には凶悪モンスターが多数収容されてる。その数およそ百体。そのほとんどがゲートを潜ってこっちに来た奴らだ。討伐しても良いんだがよ。ここに収容されてるほとんどのモンスターがかなりレアなモンスターばかりだから、討伐するのが勿体ねえって事で此処で隔離されている」
「「(えぇぇ……)」」
まさか此処で、凶悪なモンスター達が隔離されている事実を知って、どれだけ凶悪でレアなモンスターなのか少し不安な気持ちになったのは言うまでもない……。
「まっ、それは後回しだ。それよりまずはヤッさんの大盾使いとしての実戦を早く見てみたい。そうだなぁ、おい憲明、美羽。お前ら2人でヤッさんの相手をしろ」
「な?!」
「え?!」
カズは不敵な笑みを浮かべたまま、俺と美羽の2人がかりでヤッさんの相手をしろと伝える。
だって、正直言ってヤッさんはチーム夜空の中で1番弱い。カズを例外として、逆に俺と美羽の2人はチーム夜空の中でも一二を争う程までの実力者に成長しているって自負してる。
そんな俺達が相手をすれば、確実にヤッさんをボコボコにしちまうのは目に見えている。それにも関わらずカズは早くしろと促した。




