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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第3章 蠢きだす闇
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第103話 イソラ


「カズ、それはヤバ過ぎる。親父さん達じゃなくてもそれを今すぐ封印か何かした方が良いと俺は思う。つーかなんでそんなもん造った?!」


 俺は必死に忠告するけど、カズには届か無い……。


「まあ安心しろ。封印しなくてもコイツは俺だからこそなんの影響も出ない、言わば俺の守り神的な存在だ。憲明、お前の気持ちは分かるさ、それは俺を想ってそう言ってくれたんだ。でも逆に大丈夫なんだよ」


「なにが大丈夫なもんか! 実際、お前はアレがなんだったのか全然教えてくれねえじゃねえか」


 するとカズはまた俺達に、どうして堕天竜(だてんりゅう)と名前を付けたのかもう少し考えて、その答えに辿り着けと言う。


 んなもん解る訳がねえだろ!


 俺はどうして解ってくれないのか頭を抱えると、カズは俺に、再び堕天竜(だてんりゅう)を持てと差し出した。


「憲明、答えが知りたいなら直接()()()()()


「はぁ?!」


 俺は嫌だった。またあんな恐ろしいのを目にする事を心の底から拒否反応をしていた。

 思い出すだけで体はその恐怖で震え、再び汗が全身から噴き出る。


「安心しろ。奴が少しでもお前の前に姿を見せたのなら、さっきみたいな事はもう起こらねえよ」


 そう言われ、俺は軽く睨みつけるけど、カズは不敵な笑みを崩さない。

 そして意を決して再び堕天竜(だてんりゅう)を受け取った。


「…………ん?」


 カズの言う通り、何も起こらなければなんの違和感も無い。


「カズの言った通り何にも起き……ッ?!」


()()()()? 視えているなら話を聞くと良い」


 俺がそれを目にした時、息を呑む程の恐怖が再び襲った。

 ゴシック系の黒い服を着た、長い白髪をハーフツインテールにした天使、又は悪魔とも思える青黒い翼を持つ少女がカズの後ろから首に手を回し、俺を……ジッと見ている……。

 その周りには黒い羽がまるで雨のように降り、床に落ちると水面に出来る波紋の様なものを残して消える。

 その見た目はとても可愛く、この世のものとは思えないくらい綺麗だ……。でも! 俺はその少女に対して底知れない恐怖の感情が湧き上がっていた。

 特に右目……。

 暗闇の中で見た、あの禍々しいまでの目がそこにはあった。

 その少女は、美羽達には全く視えていない。


「だ、誰だお前?!」


「ンフフフッ、ンフフフフフッ」


 俺の質問に、少女は無垢な笑みを見せて笑う。その声もとても可愛らしく、天使の声に思えてならない。それでも俺はその美しい声にですら恐怖を駆り立てられていた。


「ンフフフッ、初めまして。私は堕天竜(だてんりゅう)。こうしてアナタとお話が出来るのはアナタが私を持っているからよ」


「お、お前が、堕天竜(だてんりゅう)?!」


「そうよ。さっきは驚かせてしまって御免なさい。私を持って良いのはこの人だけだから、ちょっと驚かせようと思ったの。でも、この人がアナタにまた持たせたって事は、それだけこの人がアナタを気に入っているって事だし、この人がそれを許可するなら少しはお話しても良いと思ったの。聞きたい事があれば教えてあげるわ」


 そう言いつつ、少女の姿をした堕天竜(だてんりゅう)は狂気に満ちた笑みを浮かべている。


 ヤバイ! コイツはマジでヤバイ! 存在自体が間違ってるっ!!


 俺はまた直感した。

 するとまた、恐怖に満ちた顔になった堕天竜(だてんりゅう)の少女は「そんなに怖がらなくていいよ」と言って笑う。


「私ね、元々は天界に住んでいたの。天界ってわかる? 神や天使が暮らす世界のことよ?」


「し、知ってる……。んじゃ、なにか? お前はそこから来たって言うのか?」


「そう、その天界はとても良い所よ。でも私はその天界から堕ちて堕天したの」


 元々は天使だったのか?!


「な、なんでそんな良い所から堕ちたんだ?」


 すると堕天竜(だてんりゅう)の少女はまた狂気に満ちた笑みを浮かべて、その理由を話した。


「いいわ、話してあげる。それはね? ()()()()()使()()()()()()()()()()


「ッ?!!」


 簡単にそう言われた俺は、その時になってようやく理解する事が出来た。

 目の前にいる奴に、どうして言い知れぬ恐怖を感じるのか。それは目の前にいる奴自体が、純粋な悪だと感じたからだ。

 だから本能的にこの堕天竜(だてんりゅう)を危険だと感じていた。


「だって良い所過ぎて何もかもがつまらなかったんですもの。あれをしてはいけません、これもしてはいけませんって、とても窮屈な生活をさせられていたの。だから私はある日、内緒で下界に降りて遊んだの。でもそれが見つかってしまった私は天使達に捕まり、天界へと連れ戻され、もっと狭い場所にずっと閉じ込められてしまっていたの。こんな所から早く出て、また外で自由に遊びたい。そう思った私は監視していた天使の隙を見て、その天使を思わず食べてしまったの、ンフフフフッ」


 そんな……理由で……。


「私は縛っていた鎖を外し、どうにか外に出た私はその時気づいたわ。あぁ、さっき食べてしまった天使はなんて美味しかったんだろうって」


 舌なめずりしながらそう話す堕天竜(だてんりゅう)に、俺はマジで気味が悪かった。


「だから私を捕まえに来た多くの天使を食べた。それに私と同じ天界竜達が私を捕まえに来たからそっちも返り討ちにして食べてみたの。美味しかったわ、この世にはこんなに美味しい物があるんだと知った私はそれから天使や仲間を襲い、その肉を美味しく頂いたわ。そしたら神々が怒り、私を殺しにやって来た」


 いや、普通そうなってもおかしくねえだろ……。


「なんとか命からがら逃げ延びた私はそのまま堕天して、堕天竜(だてんりゅう)となった。それでも神々とは少しは戦えたのよ? あっそうだ、まだ私の名前を教えていなかったわよね? 私の名前は、"イソラ"。イソラって呼んでね。ンフフフフッ、宜しくね、()()()()()()のお友達さん」


 正直宜しくしたくねえよ。


「多くの天使を食べたからなのか、私の体に異変が起きたわ。それがこの姿。角と尻尾が見たいのなら見せてあげても良いわよ?」


「いや、遠慮する……」


「ンフフフッ、でも久しぶりだわ。この人以外の人とこうしてお話をするのわ」


 そう話すイソラは本当に純粋無垢な笑顔を見せて喜ぶ。喜んでるんだけど、イソラから発せられるおぞましい気配は今だにおさまらねえ……。


「教えてくれ、カズとはどうやって出会ったんだ?」


「この人との出会い? この人と出会ったのは今から遥か昔にまで遡ることになるのだけど、ンフフフッ、いいわ、教えてあげる。この人とは ーー」


「その辺でやめとけ」


 タバコの火を消して、カズが突然話に割り込んだ。


「誰がそこまで答えて良いって言った? それ以上の話はするな」


「ンフフフッ、だって。それじゃ私はそろそろ戻るわ。機会があればまた会いましょ? ()()()()()()さん」


「片割れ?」


 そこでイソラはまるで霧のようにその姿を消すと、カズは黙って俺の手から堕天竜(だてんりゅう)を取った。


「なぁカズ、最後のってどういう意味なんだ?」


「んなもん俺も知らねえよ。んで? 奴を見てどう思った?」


「……正直、俺としてはマジでヤバイって思った。アレはヤバイってカズ、危険過ぎる!」


 俺は真面目にイソラは危険だと言った。でも、カズにしてみればなんら危険ではないからなのか余裕の笑みを見せる。

 美羽達にしてみれば堕天竜(だてんりゅう)の核であるイソラの姿どころか声を聞いていない為に、話の内容を理解する事が出来ないでいる。

 と思っていたけど、俺とカズ以外にもう1人、イソラが視えていた奴がいた。


「おう和也、憲明の言いてえことはこの俺でもよく分かるぜ? その太刀、堕天竜(だてんりゅう)の核になってるっつうイソラがどれだけ危険な存在かオメエはちゃんと分かってんのか?」


 まさかのマークのおっさんだった。意外な人物のその発言に、その場にいる全員が思わず目を丸くして驚いた。


「マーク、視えてたのか? しかも声まで聞こえていたのか?」


 勿論カズも驚いて質問する。


「俺ぁ昔からそう言った得体の知れねえもんをよく見てる方だからな。モンスターの中にはゴーストタイプはいる。だが他の連中には視えねえ奴を俺には視えていたからな」


 ってことは、マークのおっさんには霊感があるってことか? ゴーストタイプのモンスターじゃなく、怨霊や悪霊と言った霊を視る事が出来るのか?

 だとしたら、もしこちら側の世界で霊能者として修行をすれば、強力な霊能者として有名になっていたかもしれねえな。


「俺ぁこれまで色んなもんを見てきた。お前らが思ってるよりもっと酷い戦場は勿論、醜い権力争いも見てきた。そんなかには呪いを使った暗殺やらなんやらも目にしてきた訳だがよ。和也、オメエには影響を与えていねえかもしんねえが周りには少なからず影響を与えるだろうよ。しかもオメエ、そいつは多くの天使を食って仲間のドラゴンすら食った事で強大な力を得たドラゴンだって言うじゃねえか。考えてみろや。天使って奴ぁ天界の使者だ。一人一人が俺達とは違って力が強い奴もいれば魔力にたけた奴だっている……。まっ、あの冥竜王や側近の凶星十三星座(ゾディアック)にしてみれば大した事はねえかも知れねえがよ。それでもその冥竜王達と長い間争っていた連中であり、俺達人間よりも遥かに強い連中だ。そんな連中やドラゴン達が束になっても逆に返り討ちにするような奴だ、正直言って俺はそれをなるべく早く手放す事を薦めるぜ?」


 マークのおっさんの表情からはどこか鬼気迫るものを感じられた。

 そしてその時、異変は起きた。


「そんな事を言っても、この人が私を手放す訳が無いわ」


 再びイソラが出てきたんだ。

 マークのおっさんは俺と一緒で、全身の鳥肌が一気に逆立つと同時に強烈な寒気を背後に感じたらしい。

 そのマークのおっさんの背後から、イソラが顔の直ぐ真横に顔を近づけていた。


「珍しい人もいるのね、私を持つでも無く直接視える人がいるなんて。ちゃんと霊体になってるのに」


「いつの間に出て来やがった?」


 マークのおっさんは汗を流しながらすぐ横に顔を出すイソラを横目で睨んだ。

 俺も、いきなり現れたイソラを睨んだ。


「ンフフフッ、私は好きな時に好きなように出入りする事が出来るのよ」


「本人を目の前にして言うのもなんだがよ、オメエさんは存在しちゃいけねえタイプだぜ?」


 マークのおっさんは確実に恐怖を感じているだろうけど、臆する事なく正直に言い放った。


「あら、それなら曼蛇(マンダ)はどうなのかしら? 私なんかよりよっぽど曼蛇(マンダ)の方が恐ろしい存在じゃないのかしら?」


「そいつぁそうだろうよ。なんせ曼蛇(マンダ)はあの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の魂の一部が宿っているんだからよ。それに八岐大蛇(ヤマタノオロチ)ってのはその存在自体がそもそも地獄となんら変わらねえ、あの冥竜王に次ぐ最強最悪と呼ばれた大魔獣の一体だからな」


 マジか……。


「だがオメエさんは元々は天界竜から堕天したドラゴン。しかも多くの天使や同胞を食った事でより強大な力を得た存在だ。そいつぁつまり、あの凶星十三星座(ゾディアック)であるルシファー達と同じ存在って事になるよな?」


 それを黙って聴いていた俺達はその言葉に息を呑んだ。

 ルシファーは元々全天使達の長で、そのルシファーは神々と対立することで今では堕天し、魔王の1人として凶星十三星座(ゾディアック)のナンバーズになっている。


「つまりだ。オマエさんはその凶星十三星座(ゾディアック)に匹敵するかも知れねえ力を持っていながら和也の側にいるって事だ。そのオマエさんはこれからどんどん強くなるんだろ? って事はいずれ凶星十三星座(ゾディアック)と肩を並べるかそれを上回る存在になる。何が問題なのかはこっからだ。そうなれば堕天したオマエさんの存在をいずれは天使や神々にバレるかも知んねえ。俺が何を言いたいか、理解できるか?」


 俺達はマークのおっさんの話しにハッとした。だけど、カズは黙って話に耳を傾けているだけだ。


「つまり、下手をしたら和也は世界の敵として目を付けられるって事だ。オメエそん時はどうするつもりだ? 神々と殺りあうつもりでいるのか?」


 マークのおっさんは真剣にカズを心配して言ってくれているのがヒシヒシと伝わってくる。

 でもカズは大股開きになり、眉を八の字にしたしかめっ面で下からマークのおっさんを睨むと口を開いた。


「マークの言いたい事は分かる、だがそれを俺は聞くつもりは無い。マークならどうして俺がそう言うか分かってるだろ? だから来るなら来いって俺は思ってる」


 するとカズとマークのおっさんが黙ったまま暫く睨み合い。根負けしたのかマークのおっさんは深く溜息を吐くと「わかったわかった」と言って両手を上げて諦めた。


「本当にオメエって奴は昔から頑固だな、ったく。まっ、俺も人の事を言えた義理じゃねえからよ、オメエの気持ちはよく分かる。おい嬢ちゃん、イソラって言ったか? もし和也を裏切るような真似をしてみろ。そん時は絶対にこの俺が黙っちゃいねえからな?」


 マークのおっさんは真横に顔を出しているイソラに顔を向け、正面からそう言い放った。


「フフフッ、それは有り得ないわ。だって私がこの人を裏切る事は絶対に無いんですもの。でも約束してあげる。私はこの人の剣としてこれからもずっと守るわ。ンフフフッ、ンフフフフフッ……」


 そしてイソラはまた霧のように消えた。


「ったく、オメエはどうして毎度毎度厄介な奴にこうも好かれるのかねえ?」


「知らねえよって言いてえとこだが、コイツに関しては何にも言えねえな。俺はコイツを見つけるのに相当苦労したからな」


「何時何処で見つけた?」


「それは流石に言えねえよ。……ひとつだけ言えるとするなら、コイツは朽ちた魔剣としてとある場所で眠っていた。俺はコイツを起こし、屈服させる事に成功したから今はこうして俺の剣としてここにいる」


 するとマークのおっさんは天を仰ぐ様にして背もたれに体を預け、また深い溜息を吐く。


「なんかどっと疲れたぜ」


「しかしまさかマークが視える側だったなんてな」


 本題から脱線したものの、その後はヤッさんの武器について話し合いが再び行われると、新たな事実が浮上してきた。

 ヤッさんは新しいスキルとして"防御力増加"や"挑発"を手に入れていて、それを知ったカズはだったらと言う事で、何の変哲も無い普通の大盾を用意した。


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