第102話 堕天竜
「何度も言うが、剣には何種類かに分けられている。大剣は文字通りかなりデカい剣でありその分重い。両手剣は大剣より何割か小さくした剣であり、大剣よりも扱いやすくなる。片手剣は片手だけで十分に扱う事が出来るもっともポピュラーな剣。短剣は誰にでも扱える武器であり、暗殺系や隠密系の奴が好んで使っている事が多い。ナイフとか短剣は護身用として誰もが持っていたりもする。この様に剣には色々とある」
「成る程な。んじゃお前が持ってるそれは何に部類されるんだ? 普通に刀になるのか?」
俺が聞きたいのはカズの腰にある太刀の事だ。
「もうそれを抜かなくても解るんだけどよ。それ……、なんて言うかエゲツない雰囲気がダダ漏れなんだよ……」
するとカズは苦笑いを浮かべて「すまない」と謝った。
「コイツはこっちの世界と同じで向こうの世界でも太刀と呼ばれる部類の剣になる。"堕天竜"、それがコイツの名前になる。察しの通りコイツは危ない、だから八岐大蛇の皮を使った鞘に収めてる。刃先は竜の翼をイメージした形状。そして刃全体がノコギリの様になっている。そのノコギリ状の刃もひとつひとつが翼状の形だ。俺が造った武器の中でも最高傑作って言っても良い、それでもコイツはまだ完成には程遠い」
「おい、それでもまだ未完成ってどんだけだよお前。完成したらどうなるんだよ……」
「間違い無く俺が製作した中で最高傑作になるな。その為にはまだまだ材料が足りない。だから完成には程遠いんだ。……憲明、一度コイツを持ってみるか?」
「えっ……」
カズは腰ベルトから鎖を外し、堕天竜を差し出すとそれを俺は緊張しながら両手で受け取る。
その瞬間。俺は真っ暗な空間に1人ポツンと座った状態で動けなくなったかと思うと、ある違和感を感じた……。
自分の真後ろに、何か得体の知れないナニかが蠢いている気配がする……。
しかも一つや二つじゃねえ、とんでもない数のナニかがいやがる……。
そしてそれはゆっくりと、俺の体に纏わりついてくる。
「うっ、うっあっ……、あっ、はっっ……」
まともに息ができないでいると。どこからとも無く、耳元や周りから身の毛もよだつ、おぞましい唸り声や笑い声が聞こえて来る。動物なんかじゃねえ……、間違い無く人の声だ……。
するといつの間にか、目の前には両目が真っ暗な穴で全く正気を感じない、不気味な女の顔が現れたかと思うと、それは聞くに耐えない恐ろしい叫び声を上げて、更に色々な人々の顔が現れた事で恐怖が倍増した……。
「苦しい」「けひゃひゃひゃひゃ!」
「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえね」
「お前も闇に飲まれちまえよぉぉぉぉ」「助けてよぉぉ」 「お前だけずるい」「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
……た、助けてくれ……、誰か! 助けてくれ! カズ!!
そのおぞましさの余り、俺は顔を歪めて叫び、なんとか見ないようにしようとするけど体は一向に動けない。
そんな中俺は見た。いや……見ちまった。おぞましい顔達の向こうに誰かが立っているのを。
はっきりとそれが誰なのかは解らない。でも確かにそこに誰かがいる。
助けてくれ! たのっ……ッ!!
真っ黒な眼に赤い瞳の禍々しい右目を持つ、不気味な笑みを浮かべたナニかが俺を見ている。
その目を見た俺は死を悟った。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! あれは……ヤバイッ!!
「……ゃん! ……ちゃん! ノリちゃん!!」
「はっ?!」
俺を呼ぶ声で、俺はようやくあの暗闇から抜け出すことが出来た……。
さっきまでの不気味な顔、声、気配が全然……無い……。
「大丈夫?!」
俺を元の空間に戻してくれたのは美羽だった。
「顔が真っ青だよ?! 何があったの?! それに汗が酷いよ?!」
そう言われても……、アレをどう説明をしたら良いかまったく……解らない………。
解っているのは自分が生きているという事だけ。
そして、今まで俺が持っていた堕天竜は既にカズの手にあり、それを平気な顔でソファに座り、その横にに立て掛けた。
「ふっ、憲明、お前のその反応は正解だ」
何が正解なのか良く解らない俺は、そんな事を言うカズに対して思わず怒鳴った。
「何が正解だ!! なんなんだよそれは?! ヤバイなんてもんじゃねえぞ!!」
もう持っていないって言うのに、まだ体中から汗が滲み出る。はっきり言って俺は酷く怯えた。怯えながら、俺はカズの堕天竜を指差した。
「まあそう怒るな。それでもお前のその反応は正しいよ、憲明。んで? 見たんだろ?」
「なんだよアレ……、なんなんだよアレはよお!! 不気味を通り越して正直気持ち悪いよ!!」
本当に気持ち悪くて、その場で吐きそうな気分がずっと続いていた……。不気味とか、怖いとか、そんな次元なんてもんじゃねえ。はっきり言ってトラウマレベルの類いだった……。
それから暫くした後、俺はどうにか落ち着いた頃に何を見たのか美羽達に話し始めた。
上手く説明する事が出来なかったものの、美羽達は俺の尋常じゃない怯えに、堕天竜がどれだけ気持ちの悪い物なのか徐々に理解してくれた。
俺が見たものは恐らく……悪霊、又は怨霊かなにかだ………。
「憲明、お前が見たものは全て怨霊と呼ばれる類いの死霊達だ。その中でも1番ヤバイって思った奴こそ、この堕天竜の核となる存在だ」
おいまさか……、アレが……その核なのかよ……?
俺が見たのが堕天竜の核と聞き、それがどれだけ危険な存在なのか直感的に理解した。
「なぁカズ、教えてくれ……。アレも悪霊か何かなのか?」
俺は両手で顔を抑え、その時に見たモノを思い出す度に嫌な寒気が襲いながらも、その正体がなんなのか知りたかった。
「いや、アレは悪霊とか怨霊の類いなんかじゃねえ。なんで俺がコイツに堕天竜って名前を付けたのか、それを考えれば答えに辿り着く筈だ」
んなこと言われてもわかんねえよ……。
それだけを言って、カズは一度席を立つとキッチンからコーラを取り出し。再び座ると懐からタバコを出して吸い始めた。
「ちょっとカズ、サーちゃんがいるんだよ?」
その場には桜ちゃんと志穂さんの2人もいる。美羽は桜ちゃんもいるからタバコは控えろと言いたかった。
「あぁスマンつい」
「大丈夫。だから気にしないで吸っていいよ」
いや駄目だろ。
ましてやカズは俺達と同い年で未成年。だから本来ならタバコを吸っていい訳がねえ。それでも桜ちゃんは笑顔で気にするなと言って、カズは悪いなと言うと消そうとしたタバコを吸い始める。
「カズ、やっぱりその堕天竜も……、生きてるのか?」
その質問に、カズはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「沙耶のガル、それにお前のその曼蛇と一緒なんだろ? 先生に聞いたけどよ、それって"特級呪物"ってヤツになるんだろ?」
特級呪物ってのがなんなのか知りたくて、俺は時間がある時に調べていた。
それは呪われた物の中でも最上位に指定される物であり、決して人が触れてはいけない物、見てはいけない物を指す。
何故ならそれだけで人を簡単に呪い殺せてしまう程の強さを持ち、とんでもなく危険な存在とされているんだとか。
でも、目の前にいるカズはそんな物を簡単に造っちまう。
俺達はカズと特級呪物、どっちが1番危険な存在なのか混乱していた。
「まっ、確かに特級呪物に指定される様な代物だ。堕天竜は曼蛇同様に俺の最高傑作の一つ。だがよ。それでもこの堕天竜はまだまだ未完成って話したよな? ついでに言えばこの堕天竜のランクはAだ」
「それでもまだランクAかよ……、んじゃ完成したそん時はランクSSになるってか?」
っはは、んなバカな……。
「その通りだ、ランクAでありながらコイツの存在は特級呪物に指定される。コイツの恐ろしい所はな、俺に寄って来る悪霊や怨霊ってヤツを根こそぎ喰い尽くす。それを糧にどんどん強化していく。それだけじゃねえ、コイツで斬り殺した相手の魂すら喰い殺す」
おいおい……マジか……。
「つまりだ。俺が今欲しい材料が揃わなくてもな、コイツはどんどん成長して勝手に進化しちまうんだ。そこで材料が揃って更に強化をすれば、コイツは最強の武器となる。まさに最高傑作って言ってもいい程だろ?」
俺達は戦慄した。
それは、余りにも危険な存在となるから……。




