良い事を思いつきまして
ムンプスの潜伏期間は約18日~20日
とりあえず重病化した人は片っ端から癒したから、後は軽めの人と潜伏状態の人を気をつければなんとか落ち着くわね
その事をクロード様に伝えて、私は後1ヶ月の滞在をお願いした
「こちらはアンがいてくれると助かるけど、そんなに長期間かかるのかい?」
潜伏期間という概念が無いこの世界では、元気な人が実は病気を患っている事が理解し難いようだった
クロード様も今、潜伏期間の可能性があると言ったけど信じられないようだし…
「この病は恐ろしい後遺症を誘発する事もあるので、特に男性には深刻ですよ」
私の言葉に眉間に皺を寄せたクロード様がどんな後遺症か聞いて来たので、少し声のトーンを下げてコソッと教えてあげた
「子種が無くなっちゃうんです…」
正確には、たしか量が少なくなって不妊に繋がるってだけで無くなる訳じゃ無いんだけど、そんな詳細に説明するにはちょっと恥ずかしい
それでも(子種が無くなる)はかなりのパワーワードだったようで、是非好きなだけここに居てくれと懇願されるのだった
しかーし!
お医者様とおばあちゃんの癒し手さんもいるこの領地では意外と暇になっちゃいました
それならばアルコールを配りつつ、生まれ育った村しか知らないアンの為にトラビス領を社会科見学しましょう!
海や河の恵みがあるわけじゃなく、有効な山もないこの領地は貧乏領地とクリスお兄様は言ってたけど、帝都に近いわりに自然もあって良い所だけどなー
ほらここにもカエデの木がいっぱい…
ん?カエデって…
私は小走りに木の幹に駆け寄った
自分の記憶の中にある植物図鑑を思い出す
うーーん…
多分そうよね?
カエデの木からはあれが取れるのよ
(メープルシロップ)
正直、平民のアンになってから砂糖なんか見た事ない
多分甘味は貴重品に間違いない!
トラビス領の土はずいぶん痩せてるから農作物もあまり期待出来ないだろう
私が癒してもいいけど、ずっとここにいるわけじゃないから毎回癒すのはちょっと不可能だし、コレ…上手くいけばすごい名産になるんじゃない?
あっちの世界ではカナダの名産よ、国一つが潤うんだから領地の一つや二つ余裕でウハウハじゃない?
この時の私は目に¥マークが出てたかもしれない
それくらいの発案に駆け足でトラビス邸に戻ったのだった
問題はどうやって木の幹から樹液を取り出すかだなー
記憶を探ってもさすがにすぐは出てはこない
たしか昔テレビで見たのは幹に穴を開けてホース状の物を刺して置くと下の受け皿に溜まっていった感じだったかな?
よしよし、どちらにしてもクロード様に相談して実験だー!
結果的にはね、大成功よ!
この世界にホースとかストローのような形状も素材もなくて試行錯誤したけど細い竹のような木を縦に半分に割ってから中をくり抜く、流し素麺のスロープみたいなのを作って先を尖らせる
直接竹を斜めにカエデの幹にブッ刺せば、ゆっくり樹液が下に流れてくる仕組み
樹液が取れればこれを煮詰めるんだけど、メープルシロップみたいにトロミをつけるには40倍くらいまで煮詰める必要があるのね
せっかくとった樹液がちょこっとになっちゃうの
でも甘味に飢えたこの世界ならそこまで濃厚じゃなくてもいいんじゃない?
って思ってその半分、20倍くらいでやめた
メープルシロップ特有のあの茶色いトロミはないけど充分あまーーい!
その甘さにつられてクロード様も領民も一緒になって共同作業になり、大量な樹液の採取に成功、領民みんなに楽しんでもらえるくらいのメープルシロップもどきが出来たんだ
この作業は私が滞在してる1ヶ月間続いたのだった
この頃には私、前に読んだ図鑑の内容を思い出していたの
カエデから樹液が取れるのは冬から春にかけての大体1ヶ月くらいの期間しか取れないんだ
取れなくなったら開けた穴に木の枝を刺しておけば来年までには一体化して元に戻っているはず…
たまたまメープルシロップを思いついたのが樹液が取れる次期だったのは本当ラッキーだったわね
これからこの大量の樹液を加工すれば、売り物になるだろうし、トラビス領が少しでも潤えばいいな…
と、甘ーい紅茶に舌鼓を打ちながら思った…