癒し手になりまして
「こ、これは…!!」
勇者の出現で騒つく神殿の中、私が触れた球を見る神官さんの顔が明らかに焦っていた
は?何?そんなによわっちいの?
諦めていたはずなのに、神官さんの表情にこっちも焦る
「アン、君の属性は癒し手だ…」
神官さんの言葉に、ロディオの時のようにまた騒つき出した
癒し手?
何それ?そんな属性あったかしら?
キョトンとする私に駆け寄って来るロディオ
「すごいなアン!癒し手かぁー!!」
えーと?
1番すごい存在の勇者様にすごいと言われましたが?
「ね、ねぇロディ、癒し手って何?」
小声でロディオに問いかけると、アハハと笑いながら私の頭をガシガシ撫でた
いやいや、顔がいいけどその撫で方は頭が痛いからね
「とても貴重な属性だよっ!」
聖女や賢者はその時代に1人しか出ない。
前任が亡くなったり、力を失うと次の聖女が現れる
勇者はそれより稀で、魔王が復活した時に1人だけ現れる。ちなみに魔王の復活は100年単位らしい
一方私の癒し手とは、少ないけどいない事はないくらい、500人に1人くらいはいるそうだ
いや、貴重って言えば貴重なんだけど100年に1人の人に言われると、なんか微妙よね
なのに自分の事のように喜ぶロディオ
「アン良かったなー、癒し手は職に困らないんだぞー」
へぇーそうなんだ?
神官さんにレア属性の認定を受けた私とロディオは別室に呼ばれて説明を受けた
癒し手とは、字の如く癒す事ができるらしい
それなら聖女と同じじゃね?
と思うところだが、聖女は人間限定だし癒すどころか治癒させる力がある
その点癒し手は癒すだけ、状態を改善させる程度の力しかない
ただその力は人間に限らない
万物なんでも対象になるそうだ
痩せた土地を癒す事で農作物が良く育つようにもできるし、壊れた道具も癒す事でもう少し使える様になるらしい
道中に馬車が壊れたりすると癒し手がいるとすごく喜ばれる
つまり町医者くらいならなれるし、肥料やレッカー車にもなれると、その多様性の力に職に困る事はないと言われているのだ
どの程度癒せるかは個人差があるみたいだけど、ちょっと!これってめっちゃいいんじゃない?
この後の展開ではロディオは帝都へドナドナされて行く
訓練を受けて、パーティーを組んで、魔王を倒して戻るまで5年かかる
その間私は、ロディオが悪魔の言葉を囁こうとも聖女と浮気する男など待つ気はさらさらないし、たとえ聖女とこの村に戻っても私がもう村にいなきゃ良いんだ
見知らぬ土地で自立して1人で生きていくにはもってこいの能力じゃないの?
そうと解れば気が楽になった私はご機嫌でロディオと家路につくのだった
そんな私とは対照的にロディオの方がなんだか暗い顔して思い悩んでいるみたい?
まあ100年振りの勇者だし、これから先の5年は聖女とイチャイチャする未来があるとしてもきっと大変よね
「俺さ…帝都に行かなきゃいけないんだって」
うんうんそうね。
魔王を倒さなければ大変だものね…
内心はそんな相槌を打ちながらも、寂し気な顔を作るのは根っからの幼馴染み気質かしら?
「正直言うと行きたくないんだけどさ…」
まあまだ修行前だし、今までは普通の16歳の男の子だもん不安もあるわよね
「アンも来てくれるなら頑張れる…」
そうね私も一緒に……
って、おいっ!今なんて言った!?
「アンも癒し手なら一緒に行けると思うんだけど…」
いやいやいや!!
いかねーーよっ!?
何が悲しくて聖女とのラブラブ、イチャイチャをLiveで見なきゃならないの?
雨に濡れてる捨てたれた子犬の様な目をしてもダメだからっ!
この時は、
(私ではロディオの足手纏いになるから)とか、
(父さんと母さんが心配だから)
とかそれらしい事を言って何とか断ったけど、帝都へ旅立つ直前までロディオは諦めきれないのかなんだかんだと言ってくる
あれ?
ロディオってこんなキャラだっけ?
明るくて、正義感に溢れていて、剣の腕にも自信があったから清々しい顔して旅立ったわよね?
そして半泣きのアンにあの悪魔の言葉を言って笑うはず
なのに現実はロディオが半泣きで
「絶対迎えに戻るからぁー」
それを苦笑いで見送る私がいた