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嘘で失う信頼と真実で得る信頼


朝一番、某会社3階会議室の空気は最悪だ。


今日と言う今日は許せねぇ。ねこ婆が怒りをくちにする。

とりあえず、本人に確認してからだわ。姉さんは冷静である。

それにしても「嘘のような話し」で、驚くわ?

おれ自身も、気持ちが落ち着かない。


会社には「寺島」という、70歳になったばかりの社員がいる。

前職は、製造会社に30年ほど勤め、定年退職をしたようだ。

役職も「部長」というポジションで、活躍していたらしい。

部下も多く、会社の「柱的存在」の、男であったとも聞いている。


妻とは離婚をしており、子供もふたり居るようだ。

でも事情があって、家族とは何年も前から会ってもいないらしい。

離婚の原因は「性格が合わない」からだと面接の時に話していた。


妻は性格がキツイので、優しい性格の私には耐えられませんでした。

と、身上を話していたが、聞いてもいない事をよくしゃべる男である。


妻には退職金と、一戸建ての家を渡し、自分は「からだひとつ」で、

家を出たという。

農業もやっていた事から、田んぼも多く所有しており、その土地も

妻や子供に譲り、米などを刈る「コンバイン」数台もあったようだ。


「コンバイン」は1台、数千万で購入したものだと自慢げに話していた。


とにかく、話す必要がないことまで、次から次へと語りだす男である。

この「寺島」が入社してから6年が過ぎた今日。

ついに、この男に「天罰」が下るのである。



殺気立つ会議室に「寺島」が、のほほんとした顔で入ってきた。

「何で呼ばれたのだろう?」ではなく、

「バレちゃったかな」という顔が、一瞬見えたのを見逃さない。

こいつは「黒」だな。おれは確信する。

寺島が会議室に入ると突然、変な臭いがした。


臭いなぁ。おまえ風呂に入ってねえのか?

ねこ婆が既にキレている。

寺島は寺島で「4日前に入りましたよ」と、普通にこたえる。

姉さんは「シャツくらい入れろ!だらしない」と注意するのだが、

寺島は必ず「にやっ」と、笑みを浮かべるから気色悪いやつだ。


何だかわからないが、誰かに怒られたり注意されるたびに笑うのだ。

だからみんなが「笑ってんのか!」と、必ず怒り出すのだが、

「笑ってませんよ‼」と大声をだしながら「にやっ」とするから怖い。

常に人を小馬鹿にするような態度をする、かっぷくの良い男である。


とりあえず、そこに座れよ。と、おれが指示をする。

寺島を囲うようにし、正面の机には姉さん。

右隣の机には、ねこ婆。

左隣の机には、おれである。

まるで法廷のような会議室になっていた。


姉さんが、寺島に一言切り出した。

今日ここに呼ばれたのは、何でかわかる?

寺島は首をかしげながら「一切、覚えがありません」と言う。

まだ何も聞いていないのに「覚えがありません」と来たもんだ。

普通なら「わかりません」とか「何かありましたか?」だろう。

まして「噓つき」の特徴は必ず「絶対」とか「一切」

と、くちにするものである。

この言葉を強調する人間はまず「嘘つき」であると言えるだろう。


あんたしか居ないんだよ!。ねこ婆は睨みながら机を叩き出す。

寺島は「取ってませんよ」と、反射的に言い返すからバカである。

「取ってませんよ」って、まだ何も説明していないぞ。

まるで、検察官並みの突っ込みで寺島を攻めるねこ婆は凄い。


姉さんが寺島に向かって冷静に語り始めた。

あのね。昨日、私の知り合いが会社に来て

「姉さんに渡してください」と言って、お菓子を5個持って来たよね。

その時にお菓子を預かったのが、あなたでしょ。

でも今日になったら、そのお菓子が3個しかないのよ。


姉さんは冷静だが、顔つきは怒りに満ちているのが伝わってくる。

どうも昨日の夕方、姉さんの知り合いが会社を訪ねて来たようだ。

姉さんは帰宅し、会社に居たのは寺島ひとりであったことから、

その来客の対応を寺島がしている。

「姉さんに」とお菓子を置き、寺島が預かったらしい。

今日になり姉さんもその報告を受けた事で、お礼の連絡を入れたところ、

その知り合いから「5個しかなくてごめんね」と言われたが、

寺島から預かった袋には、3個しか入っていなかったのである。


寺島は「一切、袋は空けてませんし、中身も知りません」と言う。

ここでの寺島は「窃盗?」「食い逃げ?」どちらかの容疑が、

かかっているのである。

正に、こども裁判みたいなのだが、姉さんにとったら大事なことだ。

予約待ちで頼んであった、貴重な「高級お菓子」である。


もう、こいつの腹の中で(プカプカ)浮いてるわ。ねこ婆が言う。

ねこ婆は100%の自信で、寺島を疑っているが、実際はみんな同じである。

だが、さすがに70歳にもなって、そんなことしないだろう。と言う

気持ちが多少あるおれは、お菓子を持って来た人の勘違いである可能性も

考えていた。


「本当に知らないんだな」と、おれは寺島を弁護する。

「絶対に知りません」預かったまま姉さんの机に置きましたから。と言う。


寺島には「前科」があった。

会社には、社員が両替え出来る小さな金庫が据え置かれている。

この金庫は、姉さんが毎日チェックをして管理をおこなっているものだ。

ところが、時々お金が合わないことがある。

寺島が関わった日に限り、合わないのだ。

金額にしたら、500円~2千円程度が足りなくなるようだ。

多い時では、1万円だ。

姉さんはその度、寺島に確認している。


「絶対取ってません」「一切いじってません」と言うのだが、

実際、両替えを頼んだ人間に聞くと「寺島」です。と、口を揃える。

両替えを寺島に頼んだ当事者を連れて行くと、「確かに両替えはしました」

と言うから、メチャクチャである。

さっきまでは「一切いじってません」と言っていた事も忘れてしまう。

とにかく、返しなさい。と、姉さんは毎回言うらしいが、その度にポケットから

足りない分の金額だけが出て来るらしい。

過去には、寺島も開き直り「だったら調べてください」

と、居直ったこともあるらしい。でも、

お言葉に甘えて身体検査をしたら、靴下の中から2千円が出て来たという。

バカで呆れるしかない。


「あれっ」と靴下から出て来た2千円を見つめ、嘘の組み立てを考える寺島も

ここでは嘘が思いつかないで沈黙し、両替え金を盗んだことを認めたという。

その後も、寺島のポケットからは足りない分のお金がぴったり出て来るようだ。


たぶん、盗む気で盗んでいるのではなく、両替えをする際に預かったお金を

ポケットに入れてしまい、金庫に戻すのを忘れてしまうのでは?とも考えた。

姉さんは、預かったお金を靴下に入れるバカがいるか?と当然の事を言う。

そういうバカも居るかもよ。と、おれの弁護もアホでしかない。


ある日の朝、会社に行くと姉さんが、寺島に「500円足りない」と言っていた。

寺島は決まったポケットから、すんなり500円を出して、姉さんに渡している。

これが噂の「寺島ポケットか」と思うおれ。

「本当にお前が取ったんか」と、おれも怒鳴るが、「絶対取ってません」と言う。

取ってないものを何でお前が出すんだ。と言えば、

おれしか居なかったので・・・。と、妙な正義感ぶりを見せて来るから腹が立つ。

仕方がないからおれが出します。みたいな態度で取った金を戻すのだ。


この時も、散々言い訳をしながら最後には「ジュースを買いたくて」と500円を

盗んだ事を認めている。

「絶対取ってません」の居直りは何なのか?

「嘘つき」は、とにかく、最後の最後のまでしらを切るもんだ。

絶対的な証拠が出るまではとぼける。

それまでのやりとりが面倒で仕方ないのである。


別に、お金がないわけではない。給料はあるし、2か月に1回の年金もある男だ。

数千万の「コンバイン」を、数台も購入しているようだし、不思議な男である。


その他にも「金を貸してくれ」

と、社員に泣きつく事が陰で行われていた事実も聞くようになった。

「妻と離婚をするのにお金がいる」

「結婚をするからお金がいる」

という、さまざまな理由で、社員からお金を借りているようだ。

もちろん、返済はしない。

この件についても、詳しく聞く必要がある。



会議室の3階では、ねこ婆が寺島の顔に水をぶっかけた。

「ふざけんじゃないよ」怒鳴り散らしてもいる。


あまりに寺島がお菓子を盗んだ事を認めない事から、

姉さんも知り合いに連絡して、本当に5個だった?

の、確認をしている。

知り合いも5個だと言い続ける。

こんなやり取りを見ているにも関わらず、寺島は認めなかったのだが、

ねこ婆が、1階に降りてゴミ箱を持って来た事で状況が変わったのだ。


おれの前に置かれたゴミ箱。

もし、寺島がお菓子を盗み食いをしていれば、

この中にお菓子のくず紙が残っているのではないか?

と、ねこ婆が言うのだ。


ゴミ箱の中は、色々なものでぐちゃぐちゃであったことから、

寺島自身にゴミ箱の中身を、ひとつひとつ出すよう指示をした。


寺島は躊躇なく、ゴミ箱からゴミを拾い出していく。

すべてのゴミが出し終わって、寺島は「何もないですよ」と言った。

出したゴミを寺島は早々に戻し始めていく。

例え盗み食いしたにしても、こんなところに証拠を残すようなバカは

いないだろうとおれが思った瞬間に、ねこ婆が寺島に水をぶっかけたのだ。


もう一度、ゴミ箱の物を全部出してみろ!ねこ婆が言う。

寺島は平然とした顔つきで、もう一度ゴミ箱の中身を外に広げた。


姉さんもおれも何が起きたのか、わからない状態である。

ねこ婆の怒りは頂点となり、

寺島本人は、危機に追い込まれたのである。



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